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NYCのカロリー表示法律

NYCで外食チェーンでのカロリー表示を義務付ける法律が施行された。

Calorie Postings Don’t Change Habits, Study Finds – NYTimes.com

しかし、予定通りとはいかないようだ。

About 28 percent of those who noticed them said the information had influenced their ordering, and 9 out of 10 of those said they had made healthier choices as a result.

28%の消費者はカロリー情報が注文に影響を与えたと答え、10人に9人はより健康的なメニューを頼んだと言っている。

But when the researchers checked receipts afterward, they found that people had, in fact, ordered slightly more calories than the typical customer had before the labeling law went into effect, in July 2008.

[…]

For customers in New York City, orders had a mean of 846 calories after the labeling law took effect. Before the law took effect, it was 825 calories. In Newark, customers ordered about 825 calories before and after.

しかし実際にレシートを集めてみるとなんと摂取カロリーが増えているということだ。もちろんカロリーが増えたこと自体は法案の効果がないことを意味しない。マクドナルドでの買い物内容には差がでなかったとしてもそこでの摂取カロリーを認識することで他の食事の内容が健康になる可能性はある。また長期的な影響はプラスかもしれない。

When asked if he had checked the calories, he said: “It’s just cheap, so I buy it. I’m looking for the cheapest meal I can.”

だが本当の問題は貧困にあるようだ。ファーストフードチェーンを訪れる客の多くは単に価格で食事を選んでいる。アメリカでは低所得者層やマイノリティの肥満率が有意に高い。栄養情報を有意義に使う知識があるのかも疑わしい。

チーズ中毒

昔からチーズが好物だ。今日もブログの記事を書きながらライデンとプロボローネをかじっていた。机にチーズを持ってくると持ってきただけ食べてしまう。いつものことなのであまり気にしていなかったが、よく考えれば何かおかしい。

チーズの主成分はたんぱく質と脂肪だ。しかし、チーズが欲しくなるときは別にたんぱく質や脂肪が欲しい時ではない。たんぱく質が欲しい時はローストビーフなんかが無性に食べたくなるし、脂肪の場合はアボカドなどが浮かんでくる(そもそも脂肪が急に食べたくなることはほとんどない;普通に生活していれば十分に摂取できるからだろう)。おそらく何か中毒性のある化学物質が含まれているのではないかと思い、ちょっと検索したらすぐに見つかった。

Breaking the Food Seduction

Cow’s milk—or the milk of any other species, for that matter—contains a protein called casein that breaks apart during digestion to release a whole host of opiates called casomorphins.

牛乳(ないし動物の乳一般)に含まれるカゼインたんぱくはカゾモルフィンというペプチドを代謝過程で生成する。カゾモルフィンはモルヒネ同様にオピオイド受容体をブロックする。

As milk is turned into cheese, most of its water, whey proteins, and lactose sugar are removed, leaving behind concentrated casein and fat.

ミルクをチーズにする過程で水分やホエイたんぱくを含む乳清が取り除かれるため、カゼインの含有率が高まる。

It appears that the opiates from mother’s milk produce a calming effect on the infant and, in fact, may be responsible for a good measure of the mother-infant bond. No, it’s not all lullabies and cooing. Psychological bonds always have a physical underpinning.

もちろんそのような物質が多くの動物の乳中に含まれるのには理由がある。麻薬的な効能を通じて母親と子供との関係を強化するわけだ。

Casomorphin from ChemgaPedia

Casomorphin from ChemgaPedia

カゼインの代謝ができない人はチーズにアレルギーを示すが、これはアルコールを代謝できない人がいるのと同じことだろう。遺伝的に中毒になりやすい人とそうでない人がいるということだ。

As milk is turned into cheese, most of its water, whey proteins, and lactose sugar are removed, leaving behind concentrated casein and fat.

生命保険の証券化

ウォールストリートの投資銀行が新たな金融商品の開発を行っている:

Back to Business – Wall Street Pursues Profit in Bundles of Life Insurance – Series – NYTimes.com

The bankers plan to buy “life settlements,” life insurance policies that ill and elderly people sell for cash — $400,000 for a $1 million policy, say, depending on the life expectancy of the insured person.

基本となるのは生命保険だ。現在生命保険に加入している人からその保険を買い受ける。

That is because policyholders often let their life insurance lapse before they die, for a variety of reasons — their children grow up and no longer need the financial protection, or the premiums become too expensive. When that happens, the insurer does not have to make a payout.

加入者の中には加入し続ける理由がなくなったり、保険料が高すぎたりで途中で解約を望む人がいるのに対し、

Insurance companies, they note, offer only a “cash surrender value,” typically at a small fraction of the death benefit, when a policyholder wants to cash out, even after paying large premiums for many years.

保険会社は途中解約者に非常に小さな金額しか支払わない。高齢や病気により死ぬ前にお金が必要なひとも該当する。それら途中解約を望む加入者は引き続き保険料を支払ってくれる人を求めている。買い取った人は加入者に一定の金額を支払った上で保険料を納め、元々の加入者が死亡した際に保険金を受け取る。早く死亡すれば利益が大きく、長生きすれば利益が小さくないし損失を出す金融商品だ。

Then they plan to “securitize” these policies, in Wall Street jargon, by packaging hundreds or thousands together into bonds.

投資銀行はこの商品にお得意の証券化を行う。複数の保険契約を合わせて債権として証券市場での売買を可能にする。

“These assets do not have risks that are difficult to estimate and they are not, for the most part, exposed to broader economic risks,” said Joshua Coval, a professor of finance at the Harvard Business School. “By pooling and tranching, you are not amplifying systemic risks in the underlying assets.”

この商品は、保険計算でリスクを推定できるし、他の金融資産の価格変動と相関しないので魅力的なようだ。

In many ways, banks are seeking to replicate the model of subprime mortgage securities, which became popular after ratings agencies bestowed on them the comfort of a top-tier, triple-A rating. An individual mortgage to a home buyer with poor credit might have been considered risky, because of the possibility of default; but packaging lots of mortgages together limited risk, the theory went, because it was unlikely many would default at the same time.

While that idea was, in retrospect, badly flawed, Wall Street is convinced that it can solve the risk riddle with securitized life settlement policies.

しかし問題も多い。まず挙げられているのは、この手法が現在の不況をもたらしたサブプライムと同様の手法であることだ。

But even with a math whiz calculating every possibility, some risks may not be apparent until after the fact. How can a computer accurately predict what would happen if health reform passed, for example, and better care for a large number of Americans meant that people generally started living longer? Or if a magic-bullet cure for all types of cancer was developed?

またリスクが計算できるという前提も疑わしい。健康保険制度の改革やガンの治療法の発見などが起きれば生命保険を元にした商品の価格が暴落するのは間違いない。

それ以外には二点ほど大きな疑問がある。一つは、この商品の取引が市場の効率性を高めるがゆえに利益を生むわけではないことだ。利益が生まれる最も大きな理由は、前述の通り、生命保険の途中解約が経済的に不利であることだ。これは保険会社が保険の引き継ぎを想定していないことに起因する。もちろん計算に入れていないことをもって保険会社を批判するのは結構だが、単に保険会社から投資銀行にお金が移動しても社会的な余剰は増えない。また、保険会社側もこのような取引が一般化すれば保険料の増額に踏みきるだろう(保険契約の引き継ぎを完全に禁止するのは現実的でない;お金渡して本人に払わせれば継続できる)。引き継ぎによって最大の利益を得るのは身寄りのない高齢者や死期の近い病人であり、保険料の増額の影響を最も強く受けるだろう。

もう一つの問題はインセンティブだ。保険金殺人などというように、生命保険を赤の他人が購入することは潜在的な問題がある。ここで提案されている生命保険を用いた証券を購入した人々は元々の契約者が早く死亡することによって利益を得る。これがどう社会的に許容されるのかも興味深い。

パブリケーションバイアス

臨床試験におけるパブリケーションバイアスを回避しようという試みについて:

Anti-“publication bias” efforts not panning out for science – Ars Technica

Wikipediaによればパブリケーションバイアスとは、

Publication bias occurs when the publication of research results depends on their nature and direction.

研究結果の公表がその結果の性質や方向性に依存する場合生じるバイアスとされている。簡単に言えば、研究者はうまくいった研究のみを公表するインセンティブがあるし、ジャーナルなど出版側にとっても注目を引く研究を選ぶインセンティブがあるということだ。

このようなバイアスは、複数の研究結果を統計的に処理するメタアナリシスで特に問題になる。データの一部が除外されているためだ。統計学的にはトランケーションで処理できるだろうが、除外される基準が明確ではないので適切に対応するのは困難だ。

それに対し、Ars Technicaの記事で取り上げられている試みにおいては、インセンティブの仕組みを変えることでこの問題に対応しようとしている。

In 2005, medical journals forged a policy meant to ensure that a description of any clinical trial would be registered in public databases before it took place.

[…]

This provides a very strong incentive to register any trial. Nobody typically starts a trial they know is going to fail, and both researchers and drug companies have strong incentives to publish positive results—it makes sense to register everything in advance, simply to ensure the option of publication later.

仕組みはこうだ。ジャーナルに研究結果を公表するためには、臨床試験を行う前に公共のデータベースに登録することが要求される。事後(ex post)的には望ましい結果のみを公表するインセンティブがあっても、事前(ex ante)にはそのよな問題は生じない。しかし、そう簡単にはいかないようだ:

Of the 323 published trials that they identified, a full 89 (27 percent) hadn’t been registered at all, as far as the authors could tell. Another 39 had been registered, but had a result, termed a primary outcome, that was too vague.

[…]

In 46 cases, the trial was registered with a primary outcome that wasn’t the same as the one described in the publication.

実際には、登録されていない研究や登録されていても結果の記載が曖昧だったり当初の目的から外れている研究が相当数にのぼっている。この問題を解決するには二つの対応が必要だろう。

  • 何らかの方法で結果の正確な記録を強制する。
  • 登録を怠った研究の棄却。

一つ目は契約の履行を徹底することだ。臨床試験以前の登録で合意がとれても、研究が出版に値しないと分かった後には、正確な記録をするインセンティブはない。法的な契約を結んで記録を義務付けるか、正確な記録を行うまで同人物・グループからの新しい研究結果の出版を拒否するなど対応が必要だ。

二つ目はそもそも記録がなされていない研究結果への対応だ。このような研究が出版されるのには理由がある。それは、臨床試験以前に登録を怠っても、興味深い結果が出た場合にはジャーナルの側にそれを受け入れるインセンティブがあるためだ。研究者側はそれを見越した上で事前の登録を回避してしまう。この問題は出版側と研究側の契約では解決できない。登録はなされていないが重要な研究結果を出版するのは両者にメリットがあるためだ。政府の関与や出版社同士の取り決め・契約などが必要だろう。但し、その場合には政府に関する一般的な問題や業界での共謀の温床となる可能性に注意する必要がある。