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Googleの市場支配力

ちょっと前に「タブレットと新聞業界 by Google」というエントリーでGoogleが広告市場で行使する市場支配力に触れた:

Googleが圧倒的なシェアを握る広告市場において、Googleはオークションの設計を通じて市場支配力を行使できる

この点は意外に理解されていないような気がするので、関連するリンクと共に紹介したい。

The University of Chicago Law School Faculty Blog: Google’s Search Auctions and Market Power

Google-Yahoo!やYahoo!-Microsoftの提携の際に問題となるのは検索市場の競争環境だ。検索自体は無料なので普通の意味での価格支配力は問題とならない。よって焦点となるのは検索結果に対する広告市場となる。ここでのGoogleの弁護は基本的に次のラインだ。

The Journal (Wallstreet Journal) has drunk the Google Kool-Aid on pricing in search markets: “search providers like Google and Bing also don’t determine ad prices, which are set through auctions.”

GoogleやBingのような検索エンジンは広告スペースをオークションで売却するので自分たちで価格を決めているわけではない(から価格支配力は問題にならない)という主張だ(ちなみにdrink the Kool-Aidというのは安易に他人の言う事を信じてしまうという意味だ)。

しかし、このことは検索エンジンと広告オークション市場が競争政策とは無縁であることを意味しない。ある商品のオークションが一つの場所でしか行われていないか、複数の場所で行われているかはその価格に影響を及ぼすということだ。例えば、入札者が一人でオークション主が一人なら全ての余剰を最低価格を通じて回収することも(理論的には)可能だ。ここでは三つほどの懸念が提示されている:

  1. 最低入札価格の設定
  2. 広告スロットの数の制限
  3. 他社(Ask.com & AOL)とのバンドリング

1,2は価格支配力を行使するためのチャンネルだ。オークション主は最低入札価格を挙げたり、スロットの数を減らすことで落札価格に影響を与えることができる。もちろん、独占それ自体は違法ではないのでこの事自体は問題とはならないが、オークション故に価格支配力はないというのは間違いとなる。よって検索エンジンの(水平的な)契約・合併に対して競争当局が関与する必要があるということだ。

Google-Yahoo Ad Deal is Bad for Online Advertising — HBS Working Knowledge

Google’s purchase of substantial advertising inventory from Yahoo would increase prices for many advertisers that currently buy ads from Yahoo.

こちらは、Google-Yahoo!の協定に反対する文章として書かれたものだが、両者の取り決めによる広告スポット価格の上昇を指摘している。ちなみに前者を書いたChicago Law SchoolのRandal Pickerも後者を書いたHBSのBenjamin EdelmanもGoogle-Yahoo!の件に関してMicrosoftにコンサルタントとして雇われていた。Yahoo!-Bingに関してどのような意見なのかも気になる(Googleとはシェアが違うということか)。

私もGoogleのサービスを数多く利用しているし、Googleの社会貢献は素晴らしいと思うが、それとこれとは別の話だ。

最も高価な検索キーワード

MediaPostに今最も高価な検索キーワードが紹介されている:

MediaPost Publications Report: Top Keyword Price Nears $100 Per Click 10/15/2009

先月の最も高いキーワードはGoogleとYahoo!で同じでなんとそれぞれ1クリック$99.44と$60.68となっている。そのキーワードとは、

The report released Wednesday pegs Mesothelioma as the highest-selling keyword in September.

Mesotheliomaだ。スペルチェッカーが文句を言うぐらいなので余り知られていない英単語かもしれないが、中皮腫のことだ。中皮腫はアスベスト被爆によって生じる(悪性)腫瘍で極めて生存率が低い。

As for the word “mesothelioma,” it seems lawyers have ramped up paid-search ads based on lawsuits related to the asbestos-causing lung cancer.

Mesotheliomaキーワードを購入しているのは主にアスベストを利用していた雇用者への訴訟を専門にしているローファームと考えられている。多くの人が利用するキーワードではないが、顧客を見つけるには極めて効果的な方法である。

CentMail

スパム対策の一つとして定期的に話題になるメールへ課金制度がまた一つ:

Will Users Donate a Penny Per Email to Fight Spam, Yahoo Wonders | Epicenter | Wired.com

The idea behind CentMail is that paying to send e-mail — even a single cent — differentiates a real e-mail from spam blasts, and thus, spam filters can be adjusted to let the stamped mail sail right through, according to a report from New Scientist.

仕組みとしては、メールを送る際に1¢の寄付を行い、寄付がなされたメールをホワイトリストするというもの。同様の仕組みは何度も提案されているが、今回は支払いが寄付に向かうという点が新しいようだ。

スパムの問題はそれほど複雑ではない。ダイレクトメール同様、広告にかかる費用が少ない。また他の重要な情報と混ざっているため、ユーザーがそれを選別する必要がありその時点で広告の目的は達成されてしまう。そして選別のための費用は広告主によって負担されない。しかもダイレクトメールと比べるとスパムは圧倒的に低コストである。これはスパムの量が膨大になるだけでなく、その平均的な質が非常に低いことを意味する。

スパム対策が難しいのはあるメールがスパムかどうかが分からないことだ。そのため対策の要は如何にして選別を行うかということになる。

一つには技術的解決法がある。これはベイズ統計を使ったスパムフィルターなどが該当する。スパムの目的は広告であるため、文章から広告がどうかを判断する。

それに対して今回のCentMailは経済的なインセンティブを用いてスパムか否かを送り主自身に表明させる。スパムと正当なメールとの違いは内容だけではない。一通のスパムの価値は極めて低く、有効であるために大量に送信する必要がある。CentMailはこの違いを利用する。一通1¢は普通のユーザーにとっては微々たる金額だが、スパム業者にとっては大きな額である。しかし強制的にメール送信に課金することはできないため、自主的に費用を払ってもらうスキームが必要となる。仮に業者が費用を払ったとしても、スパムの総数は減るしその質は上昇するわけだ。この方式を取る場合のキーは二つだ:

  1. 自主的な参加の促進
  2. 急速な普及

一点目は自明だ。正当な送信者がこのシステムを利用しない限り何も始まらない。初期段階においてスパム防止効果は限定的であり、支払いそれ自体に価値があることが望ましい。CentMailのポイントは支払いを寄付という形にすることでこの問題に対処していることである。

しかしもっとも難しいのは二点目である。一点目とも重なるが、このシステムは多くの正当なユーザーが参加していない限り有効に働かない。極端な話、ユーザーが一人であればメーラーの作成者はそれに対応する理由がないし、それ故に他のユーザーも参加する理由がない。当然スパムは以前通りにメールボックスに届くことになる。このシステムが動くためには、多くのユーザーに参加してもらうと同時にISP・メーラーなどの対応を迅速に行う必要がある。後者の課題については、

  • GMail, Yahoo! Mail, Hotmailなどのような単独で大きなシェアを持つ企業と提携するないし、彼らが始める(CentMailはYahoo!)。
  • オープンソースのソフトウェアに当該機能をコミットする(寄付が開発プロジェクトに向かうという趣旨であれば十分に現実的だと思われる)。

などが考えられる。ISPレベルでのフィルタリングも考えられるがネット中立性との兼ね合い上難しいかもしれない。