IDなしでのフライト

How To Fly Without ID – Looking Glass News via Feld Thoughts

国内線であってもIDの提示を要求されるのが通例だけど、それを無視したらどうなるかを実際に飛行機に乗って確かめたという記事。

結果としてはIDは無くても搭乗自体は問題ない。航空会社によって対応が違うものの法律上、IDの提示を強制することはできないためだ。連邦航空局の規制によればIDの提示をしない客は要注意とフラッグして荷物の検査をするだけだ。実際航空局も搭乗を拒否しないように航空会社に通達しているし、拒否された客から訴訟も発生しているそうだ。

この記事には面白いオチがある。

[…] airline personnel were deliberately and knowingly coercing people into showing government ID by saying “it’s the law.” […] the companies are simply tired of people selling their frequent-flyer tickets. The airlines wanted to stem this practice by checking everyone’s ID, but knew there would be BIG problems if they instituted this procedure as a private corporate policy. It was so much more convenient to say it was federal law and make the government the scapegoat. So this policy meets the airlines’ private financial goals, and the government’s goal of ever-increasing social control.

航空会社は、マイレージ特典の航空券転売を防ぐためIDをチェックするインセンティブがあり、法律で必要とされているというのが都合のいい言い訳になっているとのことだ。

この慣習はおそらく当分なくならないだろうし、日本でも導入される日は近そうだ。

書評:Brazen Careerist

本を読んだら時々書評をしようと思う。初回は、昨夜、未だに時差ぼけがあり眠くなかったので読んだこの本で:

Brazen Careerist: The New Rules for Success by Penelope Trunk

著者は著名ブロッガー。45個のキャリアについての助言を集めたものである。特徴は、現在18-40歳あたりのGen X / Yのみを対象としていることだ。新しい世代は、前世代(=ベビーブーマー)とは異なり、「自分に合う」仕事を見つけるまで転職を繰り返し、会社での成功よりも仕事と私生活のバランスを求める。社会から性差に基づく収入格差もなくなり、主婦という概念もなくなりつつある。

この状況下においては、旧来のキャリア上の問題、例えばどうやって同僚より早く出世するか、はあまり意味を持たない。そこで著者はこのような状況の変化を所与としたうえで、キャリアを中心にしたアドバイスをする。履歴書の書き方から、上司・セクハラの扱いかた、、メールの書き方に至るまで様々な分野に渡る。心理学などの研究が援用されている箇所(例:人々の幸福度は年収$40,000を越えると収入の影響をほとんど受けない)は特に面白い。

個々のアドバイスの内容自体は特に驚くようなものではないが逆にどれも合理的だ。上述したような新しい環境で仕事をしている人には実用的な情報だろう。もし、自分の業界がまだ「前世代」的であるなら、この本を読んで備えてみるのもいいだろう。内容も平易で、200ページもないので英語の勉強にもお勧めできる。

知らなかった単語:hobnob, brownnose

アメリカ反トラスト法メモ

ほぼ自分用メモ。当然IANALで。

アメリカの(連邦)反トラスト法(Antitrust Law)は主に三つの法律(Act)からなる。

  1. シャーマン法(Sherman Act): 1890年
  2. クレイトン法(Clayton Act):1914年
  3. 連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act):1914年

これに加えて細かいものが

  • ロビンソン・パットマン法(Robinson Patman Act):1936年
  • ハート・スコット・ロディノ法(Hart-Scott-Rodino Act):1976年

があるが両者ともクレイトン法に対する修正案である。前者は小規模小売店を価格差別から保護するもので主に連邦取引委員会(FTC)が執行し、後者は一定規模以上の合併に際しFTC及び司法省(DOJ)に通知する義務を定めるものだ。

基本となるのはシャーマン法第一条:

Every contract, combination in the form of trust or otherwise, or conspiracy, in restraint of trade or commerce among the several States, or with foreign nations, is declared to be illegal. […]

第一条は非常に曖昧で競争を阻害する行為が対象となるが、実質的にはコモンローを築く根拠としての役割を果たす。第二条:

Every person who shall monopolize, or attempt to monopolize, or combine or conspire with any other person or persons, to monopolize any part of the trade or commerce among the several States, or with foreign nations, shall be deemed guilty of a felony […]

第二条は市場支配力を有する企業がとる一方的な行動に適応され、略奪的価格付け(predatory pricing)や抱き合わせ販売(bundling)が対象となる。

クレイトン法はシャーマン法の曖昧さに対する不満から生まれたもので主な条項としては、競争を阻害する抱き合わせ販売及び排他取引を禁じる第三条:

It shall be unlawful for any person engaged in commerce, […], to lease or make a sale or contract for sale of goods, […], or fix a price charged therefor, or discount from, or rebate upon, such price, on the condition, agreement, or understanding that the lessee or purchaser thereof shall not use or deal in the goods, […] of a competitor or competitors […], where the effect […] may be to substantially lessen competition or tend to create a monopoly in any line of commerce.

及び水平・垂直合併を規制する第七条:

No person […] shall acquire the whole or any part of the assets of another person engaged also in commerce […] the effect of such acquisition may be substantially to lessen competition, or to tend to create a monopoly.

がある。

FTC法はクレイトン法と同年に成立し、新しい執行機関としてFTCを設立し、第五条において、

Unfair methods of competition in or affecting commerce, and unfair or deceptive acts or practices in or affecting commerce, are hereby declared unlawful.

シャーマン法・クレイトン法において反競争的とされる行為を規制する権限をFTCに与えている。

DOJ、FTCは共に反トラスト法の執行機関であるがいくつかの違いがある:

  • DOJのみが刑事を扱う(シャーマン法違反のみが刑事罰の対象となる)。
  • FTCはよりFTC法に基づき若干広い範囲の行為を規制する。
  • FTCは衡平法上の救済(equitable relief)のみを行う。
  • FTCは内部に準司法的行政機関を持つ。

また日本と異なる点としてシャーマン法・クレイトン法違反により損害を受けた場合には、被害額の三倍(treble damages)の懲罰的賠償を請求できる。

アメリカの法律の原文はコーネル大学ロースクールから。

Netflixのスーパースター主義

最近各所で取り上げられている、NetflixのCEOが書いたコーポレートカルチャーについて書いたスライド。100枚以上あるが、日本の大企業に勤めているなら一読の価値有り。

Culture @ slideshare

いくつかの指針が挙げられているが、根底にあるのは(アメリカでは一般的にそうではあるが)徹底的なスーパースター主義である。

Great Workplace is Stunning Colleagues.

他に挙げられていることのほとんどは如何にスターを引き付け、効率的に働いてもらうかということに過ぎない(e.g. 時間的な裁量)。それは何故か。二つの根拠が示されている。

In procedural work, the best are 2x better than the average.
In creative work, the best are 10x better than the average, so huge premium on creating effective teams of the best.

創造性を要求する仕事においては、スターの相対的な価値が非常に高い。

Avoid Chaos as you grow with Ever More High Performance People – not with Rules.

企業が大規模になると複雑性が増すにも関わらず、大抵の場合、優秀な人材の割合は減っていく。これにより社内に混乱がもたらされる。多くの企業はこれに対してルールを用いて対処するが、これはさらに優秀な人材を減らす原因となる。この状態で、市場の変化(e.g. 技術進化)が起こると企業はそれに対応できない。スーパースター主義は代わりに、大規模になるにつれ有能な人材を増やすことで対処する。これが可能なのは一つめの根拠が成り立っていて、市場の変化が大きな場合となるだろう。

日本の企業文化はここに上げらている方針の正反対だといってもよい。もしこの方針が正しいなら(Netflixは非常に成功している)、日本企業がそのような市場でうまくやっていけないのも不思議はない。

アメリカ人は誰も指摘しないが、日本であれば、スーパースター主義は少数の企業ではうまくいっても社会全体では回らないという批判もあるかもしれない(実際にこのスライドにおいてもサラリーをもらっていない社員には適用されないと書かれている)。しかし、社会全体でどうであるかと、市場で生き残るかとは何の関係もない。社会的な対処が必要であるなら再配分政策などを利用すべきだろう。

ちなみに先進国ではドイツがもっとも日本に近い雇用慣習を持っている。

European Layoffs: Choosing Between the Young, the Weak and the Old

によれば、レイオフをする際、アングロサクソン系では業績の低い人、ゲルマン系では転職が可能であろう比較的業績の高い人や若い人、ラテン系では年金等の受給が可能な人を切る傾向があるそうだ。

アングロサクソン系で低業績の人を切る理由としては、

laying off the oldest, highest performers was a slap in the face to the successful employee and sent a bad signal to younger managers that the firm did not reward success.

業績のあるひとを解雇すると若い層に悪いシグナル(業績が評価されない)を送ってしまうとあり、ゲルマン系では逆に低業績の人を切らない理由として、

choosing a good performer decreases social discord since he will find employment easier.

他に職を探せる比較的優秀な人材を解雇することで、解雇があたえる不調和を緩和えきるとある。ともに業績を解雇する社員の選別基準としていて、他の社員への影響を考えているにも関わらず、全く異なる結果となっている。この違いは、影響を与える社員の想定が異なるためだろう。アングロサクソンでは将来成功する社員のモチベーションを考えているが、ゲルマン系ではリスク回避的な一般社員を想定している。ここでも雇用における根本的な考え方の違いが表れている。どちらがうまくいくかはどのような市場で競争が行われるかによってくるだろう。

Bill Me Later

Bill Me Laterを利用する顧客の平均購買価額は通常のクレジットカードを利用する顧客のそれに比べ有意に高いそうだ。Bill Me Laterというのはファイナンスオプションの一つで、基本的には支払いをずらす代わりに利子を払うというものだ。

Live From eTail: Alternative Payments Becoming Mainstream | PayPal, Bill Me Later, JTV.com.

Giving ballpark figures, Wolansky said Orvis’s average online order is about $150. But the average order for Orvis customers using Bill Me Later is $175. And those Bill Me Later customers who take the 90 days same-as-cash option spend more than twice that amount, just under $400.

Orvisはアウトドアアパレル関連の通販会社。この記事によると顧客全体の平均購入額$150に対し、Bill Me Laterを利用する顧客は平均$175消費する。さらにBill Me Laterの90日間以内に支払えば利子がかからない”the 90 days same-as-cash”オプションを利用する顧客にいったっては平均$400近くも使うそうだ。

“The 90 days same-as-cash”オプションを利用する人の平均がBill Me Later利用客の平均から大きく乖離しているのは、実際に90日以内に支払い(返済)する人が少なく、かつそのグループの支払額が非常に高いためだ。期日以内に支払う人の割合は1/4程度だと言われている。

ちなみに、90日以内に支払いがない場合には購入日に遡って利子が計算されるのが通例だ。その場合の利率は24%以上になる。