グルーポンの満足度

急成長を続け、日本でも参入の相次ぐグルーポン系のビジネス。その一方で、長期的な展望への疑問もある。グルーポンを利用した企業はどう考えているのだろうか。

グルーポンを利用した企業を調査したペーパーが公開されている。360の企業にコンタクトし、150の企業から回答を得ている。内訳はレストランが32.7%、教育関係(語学や料理の教室など)が14%、サロンやスパが12.7%、ツアーが8%だ(産業によって回答率にシステマティックな差はあるだろうが、この内訳自体も興味深い)。

グルーポンが利益になったかどうかについて2/3の企業がなったと応える一方で、48社が利益にならなかったと答えている。その原因としてはクーポン以外の購入がなかった、リピートしなかった、チップが少なかったというようなことが挙げられている。グルーポンが主にプロモーションで使われていることを考えると、クーポンだけでは物足りない内容にして追加的・補完的な消費を狙ったり、リピートする動機を与えることが重要であることが分かる(日本ならチップはそもそもない)。

産業別で見るとレストランが特に否定的とされている。これはクーポンの内容が料理であるため追加消費が少なかったり、余程美味しいのでなければ次から正規料金でリピートしようとは思わないためだろう。飲食店でグルーポンを有効活用するなら、料理プラスお酒一杯をクーポンにして追加の注文を狙うといった工夫が必要かもしれない。もしくは結婚式などイベント利用がメインのお店で下見に利用しやすいようなクーポンにするのもいいかもしれない。

成功例としては、スパの82%はグルーポンが利益につながったと答えている。これには供給量が固定されていて季節変動があるなどイールドマネジメント面での効果が大きく、しかも(飲食店などにくらべ)他に有効なマーケティングチャンネルがないといった理由が考えられる。

このペーパー自体は、そもそも回答のあった企業という偏ったサンプルに基づいているし、相関関係と因果関係がぐちゃぐちゃっぽい統計分析なんかをしていて微妙だが(そもそも統計分析よりはケーススタディのほうが適切な分析対象にも思える)、データとしてはとても面白い。グルーポン系のビジネスをしている企業であれば自前の完全なデータを持っているのでもっと意味のある分析が可能だろう。どのサービスが競争を勝ち抜くかはそういった自社のデータの分析能力で決まるかもしれない

Amazonのユーザー参加

食べログが(悪い意味で)話題になったが、ユーザー参加型のサービス自体はこれからも伸びる一方だ。

What Motivates Amazons Hardcore Raters?

ユーザーレビューといえば老舗とも言えるのがAmazonだ。Amazonでは当初からユーザーが書評をアップロードする仕組みができている。この記事ではそのAmazonで大量のレビューを公開しているユーザーのプロフィールやモチベーションを紹介している。

And that explains why Amazon’s reviewer system is so successful. It’s built entirely on the back of the everyman. Cholette might call herself a fitness enthusiast, but she still spends most of her hours doing things the average Amazon shopper can relate to: working, commuting, being with family.

こういったレビューがAmazonにとって極めて重要であるのは明らかだ。一般読者による感想は、Amazonにとって費用がかからないと同時に、他のユーザーから見て分かりやすい視点で書かれている。

Under the new ranking system, Cholette places fourth because 93 percent of her comments have been chosen as helpful by readers. She also has more than 240 fan voters, or customers who frequently return to see what she has to say.

ランキングやファンといったシステムはレビューの書き手にやる気を与えるだけでなく、一般ユーザーが価値あるレビューワーを見つけるのを容易にする。役に立つレビューを見たいのなら、ランクが高いレビューワーを見ていったり、気になるユーザーがファンになっているレビューワーを探したりすればいいわけだ。

Publishers recognize the value in this system. Klausner, Grossman wrote back in 2006, receives an average of 50 free titles every week from publishers hoping to get her attention — and her review.

もちろんこのビジビリティーは何も一般ユーザーに対するものだけではない。レビューしてくれる人を探している出版社にとっても有用だ。Amazonのレビューワーランクで上位にくれば多くの出版社が評価コピーを送ってくる。

Artist representative and gallery owner Grady Harp, another twelve-year Amazon veteran, also receives galleys from new writers looking for an opinion on their work.

新人作家が意見を求めてくることもあるそうだ。

Harriet Klausner may not be a self-promotion robot for publishers, but it seems they are benefiting from the system. Send book to Beth Cholette, get review, sell more books. It’s a win-win-win, for publisher, for user and even for Cholette.

レビューワーは本をもらったり、仕事につなげたりできるし、出版社はレビューを書いてもらい本を売ることができる。ユーザーもそのレビューを参考にすることができる。こういった関係を作り出すことで、小売店たるAmazonは大きな価値を創造している。レビューはストックなので長年続けることで新規参入者にはない競争上のメリットになっている。

どうやって参加者全員に価値を提供し、コミュニティを創り上げていくのかを考えることは、「消費者」が情報発信能力を持つ(ないしこの場合持たせることができる)時代に重要なこととなっている

「ガラパゴス」は進化「論」の象徴

シャープが新しい電子書籍端末を「ガラパゴス」と名づけたニュース。スルーしようかと思ったらトンデモな続報が:

asahi.com(朝日新聞社):「ガラパゴス」で悪いか シャープ、年末に電子書籍端末 – 携帯電話 – デジタル

「ガラパゴス」は、日本の携帯電話市場が独自の高機能化で国際標準から外れたことを揶揄(やゆ)するのに使われてきた言葉だが、「変化に敏感に対応する進化の象徴」(岡田圭子・同社オンリーワン商品・デザイン本部長)としてあえて命名したという。欧米と新興国でも販売する予定だ。

自虐的な名前で話題になろうという戦略かと思いきや、「変化に敏感に対応する進化の象徴」と「あえて命名した」とのこと。残念ながら、Galapagosにそんなコノテーションはない。「進化の象徴」ではなく「進化論の象徴」だ。本気で「変化に敏感に対応する進化の象徴」だと思っているひとがデザイン本部長だとすれば「欧米と新興国」で販売なんて絵空事だろう。

「世界のデファクト技術をベースに、日本ならではのきめ細かなノウハウと高いテクノロジーを融合させ、世界で通用するモノの象徴としての意味を込めた」

GALAPAGOSは、同社が開発した電子書籍フォーマット「次世代XMDF」を核とした事業ブランド。

via その名も「ガラパゴス」 シャープの電子書籍端末、12月に発売 – ITmedia News

デファクト技術をベースにと言っているが、Androidを利用しているだけで、しかもAndroidマーケットにはアクセスできないそうだ。電子書籍端末としても、自社開発の有料フォーマットを利用する。世界で通用するモノの象徴というよりも、名前通り「ガラパゴス」の象徴という感じだ。

Sharp announces Galapagos e-reading tablets: 5.5 and 10.8 inches, getting e-bookstore in December — Engadget

Sadly, we should note that this is specifically tailored to suit the Japanese market, which makes an international release seem somewhat unlikely.

海外サイトを見ると、「欧米と新興国でも販売する予定」とされているにも関わらず、日本市場専用で海外展開ないだろうなんて言われている。そりゃ独自電子書籍プラットフォームが売りだと言われれば、日本専用だと思われるのは仕方ない。

ユーザーの反応はというと…「また、タブレットかよ」「いやこれは電子書籍リーダーなんだ」「じゃ何でE-inkじゃなくてLCDなんだ?」「???」という感じだ。

ちなみにGalapagosという命名については、良くも悪くもほぼ話題にすらなっていない。日本でもガラケーなんて言葉が流行るまでは、高校かなんかで習ったかな?、程度の認知度だっただろう。

[yrag01 2 hours ago]
‘Galapagos’, that’s the name you’re going with Sharp? Really?
And Tetracycline, Phanerozoic and Mitochondria were there for the taking!
新電子書籍端末「ミトコンドリア」とかも面白い。

命の値段?

「裁判官論文が波紋」というより朝日新聞が波紋を呼びこもうとしているように見える次の記事:

asahi.com(朝日新聞社):「命の値段」、非正規労働者は低い? 裁判官論文が波紋

パートや派遣として働く若い非正規労働者が交通事故で亡くなったり、障害を負ったりした場合、将来得られたはずの収入「逸失利益」は正社員より少なくするべきではないか――。こう提案した裁判官の論文が波紋を広げている。

裁判所が用いる逸失利益計算で正規労働者と非正規労働者を分けようという提案をしている論文についてだ。逸失利益とは損害賠償なんかで本来得られてたであろう利益・収入を言うわけで、労働者によって違うという主張自体は特に真新しいものではない。それを「命の値段」と呼ぶのが不適切なだけだ。差を設ける事自体を問題とするのなら、重度障害者の逸失利益はゼロ計算が普通のようだ(ゼロでないという判決が初めてでたというニュースが昨年末にあったが既に新聞社のサイトには見当たらない…)。

この論文に対し、非正規労働者側は反発している。…脇田教授は朝日新聞の取材に「論文は若者が自ら進んで非正規労働者という立場を選んでいるとの前提に立っているが、若者の多くは正社員として働きたいと思っている。逸失利益が安易に切り下げられるようなことになれば、非正規労働者は『死後』まで差別的な扱いを受けることになる」と話す。

さらに、逸失利益に差を設けることについて、差別だという主張を引いているが、これは的外れだろう。平均逸失利益が正規労働者と非正規労働者が異なるのはおそらく事実であり、実際に違うものを違った風に扱うことを差別だと批判するのは難しい。むしろ批判すべきは以下のような点だ:

  1. 逸失利益が人によって異なるのは事実だが、それなら正規・非正規という分け方だけに留まる理由はなく、そこだけを取り上げるのはおかしい
  2. 現在正規雇用であっても将来的にそうとは限らないので、概算するにも指標として不適切。
  3. 本来得られたであろう便益を金銭収入だけで算出するのはおかしい(余暇を重視したキャリア設計をして途中で死亡した場合、得られるはずだった将来の所得は逸失利益に含まれるが、得られるはずだった将来の余暇の価値は含まれない)。
  4. 加害者に適切なインセンティブ=ペナルティーを与えるという視点で考えると、普通加害者は事前に相手が正規雇用か非正規雇用かを認識していないのでそれを計算に入れる必要がない(例えば逸失利益が一番使われるであろう交通事故)。

そこで逸失利益の代わりになるのが統計的生命価値(Value of Statistical Life)だ。これは、人々が死ぬリスクを回避するために(例えば乗用車の安全設備に)どれだけの資源=お金を割いているかを調べ、そこから「一人」の命を救うために(政府が)負担する費用を計算するものだ。日本やアメリカでは5-10億円程度という推定結果が一般的だ。この数字は金銭収入以外の価値を含んでいるため逸失利益≒生涯所得よりも遥かに大きくなる。

「統計的」とあるように、この数字はある特定の人間の「命の値段」を示すものではない。確実な死を防ぐために支払える金額は多くの人にとって払える限界額だろうし、死ぬことと引き換えにお金を貰うことは(遺族への配慮を抜きにすれば)意味が無い。(重要ではあるものの)あくまで政策を決定・評価するための数字に過ぎない。「一人」の命を救うというのは例えば10000人が利用すると2人死ぬ危険があった設備を1人の犠牲に抑えるという意味であって、ある人を救うという話ではないわけだ(統計的生命価値が7億円ならこの改善に7億円までならかけるべきとなる)。

ちなみに医療の場合には、政策の対象が一定の病気の人や年齢の人に絞られるので、生活の質や余命を考慮にいれた数字(Quality-Adjusted Life Year; QALY)を使ってどの政策を優先すべきかが議論される(べき)。

マリファナ合法化

ちょっと古いけどカリフォルニアで誰がマリファナの合法化に反対しているのかという記事が話題になった。

California Pot Initiative Opposed By Beer Industry

The beer sellers are the first competitors of marijuana to officially enter the debate; backers of the initiative are closely watching liquor and wine dealers and the pharmaceutical industry to see if they enter the debate in the remaining weeks.

ビールの業界団体がマリファナ合法化に反対する献金をしているというニュースだ。もちろん全てのビール会社が反対しているわけではないが、ビールとマリファナがおそらく代替性を持つことを考えるとありがちだ(まあ片方やってると同時にやりたくなる人もいるだろうが…)。

Police forces are entitled to keep property seized as part of drug raids and the revenue stream that comes from waging the drug war has become a significant source of support for local law enforcement. Federal and state funding of the drug war is also a significant supplement to local forces’ budgets.

次は警察関連だ(警察官の団体など)。その理由として、麻薬捜査の過程で押収された資産が警察の収入になることや、麻薬対策(drug war)で連邦政府や州政府から予算が貰えることが挙げられている。

So far, the prison guards’ bosses have gotten involved — the California Correctional Supervisors Organization has given $7,500 — but the guards themselves are on the sidelines.

同様に刑務所の管理側はマリファナ合法化に反対しているが、実際に囚人の面倒を見る刑務所の職員は反対に回っていない。

The Service Employees International Union, a major presence in California, has endorsed the proposition. The Teamsters in September made its first successful foray into organizing pot growers. The United Food and Commercial Workers is backing the initiative and organizing cannabis club employees in the Bay Area.

逆に、組合員の現象に悩む労働組合は、マリファナ業者及び従業員の組合加入を受け、合法化賛成だ。

The teachers union, citing the revenue that could be raised for the state, is also backing the initiative.

強い政治力を持つ教員組合は、合法化が税収増に繋がることから賛成している。

推進側も反対側も実に分かりやすい利害関係を持っていることが分かる。そもそもアメリカにおけるマリファナの非合法化には、繊維や紙の代替品としての麻を排除するという目的があったとう主張もある(ちなみにアメリカでのマリファナ規制は繊維目的のHempとリクリエーション用途のCannabisを区別していない)。