「Facebookポケットガイド」執筆しました

Facebookについてのポストが好評だったことから、Facebookのガイドブックを書かないかというお誘いを受け無事出版に至りました。Facebookのインターフェースは本当に頻繁に変わっていますが、背後にある考え方を説明することを目標に書きました。本ブログでのFacebook関連のポストと重複する部分もありますが、キレイかつコンパクトに作って頂いたので是非よろしくお願いします(Amazonでは154ページ、1,344円とのこと)。

Facebookポケットガイド
Facebookポケットガイド

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ハリウッド女優の最期

まさかこのブログでリンジー・ローハンを取り上げるとは思わなかったが、面白い話なので。

It Could Take Ten Years for Lindsay Lohan’s Career to Recover, Experts Say

アルコール・薬物依存の更生施設から出たばかりで早速、コカイン・アンフェタミンで捕まったリンジー・ローハンの女優としてのキャリアが終わったというストーリーだが、その理由は麻薬使用それ自体ではない(それならとっくに終了しているはずだ)。

“She is absolutely uninsurable even if a studio was willing to take the risk and hire her, so in this case its only time that can heal.”

問題は保険だ。映画制作のためには多額の資金が必要で、これは銀行からの借入や投資によって賄われるが(※)、お金を出すからには映画が予定通りに完成することを確かめる必要がある。しかし、投資家は映画制作の詳細を知らないので、代わりに保険(completion bond)を利用することになる。

保険会社は予定期間内に映画が完成しない場合には投資家に支払いをするか、強制的に制作に介入して映画を完成させる約束をする。もちろんそうなってしまっては困るので業界経験者を使って制作の細かいところに首を突っ込んで時間内に完成するように努力するわけだ。しかし、彼らも全てのリスクをコントロールできるわけではない。例えば、俳優が突然失踪してしまえばどうにもならない。ここでさらに俳優に関する保険(cast insurance)が必要となる。

この保険は俳優(や監督などキーパーソン)が何らかの理由で出演できない場合に支払いを行う。例えば、ターミネーター3制作に際しては主演のアーノルド・シュワルツェネッガーに200万ドルの保険金が掛けられたそうだ(万が一の場合の支払いは1億5000万ドル)。保険会社はリスクを軽減するために、病歴を調べたり、健康診断をしたりするだけでなく、スタントの利用を強制することまでする。このようなハリウッドにおけるお金の流れについては、「The Hollywood Economist: The Hidden Financial Reality Behind the Movies」に詳しい。

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2000年のムーラン・ルージュでひざを負傷し、続くパニックルーム(2001年)で降板したニコール・キッドマンは、次の映画主演に際し保険をかけるため、自身が100万ドルをエスクローに入れる必要に迫られたということだ。ニコール・キッドマンですら、保険がなければ主要な役を演じることはできないわけで、今回のリンジー・ローハンの俳優生命が絶望的なのは明らかだろう。保険がかけられるようになる頃には年齢的な問題もある(特に薬物中毒であることを考えると深刻だろう)。

Lindsay Lohan’s Failed Drug Tests Could Derail Upcoming Film | TMZ.com

A source close to the film tells us shooting the picture in Los Angeles instead of Louisiana “would radically change the budget” and force producers to try and secure additional financing.

主演予定のInfernoもこの様子では完成するかどうか疑わしい。撮影が予定されていたルイジアナ州は映画産業への減税措置で人気の場所で、裁判所からの移動制限でカリフォルニア州での撮影を余儀なくされれば制作費用は大きく膨らむ。制作会社が怒り狂っているのは間違いない。

(※)まあ大手なら必要ないかもしれないが、メジャーが保険なしのリスクをとってまで薬物中毒の俳優を使う理由もない。

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絵で見るコミュニケーション手段の拡大

Facebookの携帯進出」について過去記事(「IDをめぐる争い」、「プライオリティ・インボックス」)を参照していたら、図にしたほうが分かりやすいきがしたのでサクっと追加してみる(「金儲け=悪」の話を絵で説明してみる)。

前ID時代

郵便

個人識別としてIDが生まれる前の時代には、個人とのコミュニケーションは基本的に対面に限定されていた。対面でのやりとりするのは非常にコストがかかるためコミュニケーション自体が少なかったことは容易に想像できる。宛名を指定して郵送することで個人にメッセージを送ることも出来たが、住所はあくまで「家」を指すもので個人のIDとは言い難い

ちなみにアメリカで他人宛の郵便物を開封するのが厳罰だ。これは郵便というプラットフォームを擬似的な個人IDシステムと稼働させるための措置であり、そういったシステムの重要性を示している。

電話

固定電話の普及は、郵便に変わる比較的安価なコミュニケーション手段の登場を意味した。電話であればその場で応答が得られるので、紙が必要である場合以外は、電話が主な連絡手段となった。しかし、固定電話は基本的に家や会社に属するものでまだ個人のIDとは言えない

ID時代

携帯電話

携帯電話は、郵便や固定電話と異なり、完全に属人的なコミュニケーション手段を提供し、ある人の連絡先といえば携帯の電話番号を意味するようになった。また電話番号を使った文字情報の伝達=SMSは郵便に似ているが遥かに効率的な非同期型のコミュニケーション手段となった。携帯電話が爆発的に普及したのも頷ける。

Facebook

Facebookを代表とするソーシャルネットワークはある意味で「薄い」コミュニケーション手段をユーザーに提示した。別に電話したりメールしたりするほどの用事はないけれど、ステータスぐらい見せてもいいという間柄だ。もちろん、既に電話やメールを直にやり取りする相手にも追加のコミュニケーション手段は有用だ。個人ベース(プロフィール)でありながら、ステータス更新という一対多のチャンネルを提供した点が新しい(※)。

Facebookがダイレクトメッセージやチャット機能、携帯への進出で狙っているのは、上の図で言えば内側への侵攻作戦と捉えられる

(※)メールを複数人に送信するニュースレターなどはステータス更新に近く、実際にそれを勧めるネットワーキングの本などもある。しかし、メーラーのインターフェースはそういったメール利用にうまく対応できていないためうまく機能することは少なかった(自分でフィルターを設置しない限り、全てのメールが同じ場所に放り込まれる)。しかし、これはあくまでソフトウェア的問題であり、Googleのプライオリティ・インボックスはそれに対する一つの回答となっている。

Twitter

Twitterもまた同じ図の上で表現することができる。TwitterはFacebookにおける自分対友達という一対多の側面を拡大し、もはやフォローする側とされる側に何のレシプロカルな関係も(少なくともシステム上は)求めない。もちろんユーザーがTwitter上でフォローしあったり、ダイレクトメッセージを使って次の段階に進む(=他のIDの交換や実際に会ってみる)のを妨げるものではない(※)。

FacebookはファンページとLikeを使ってこの領域に踏み込もうとしているが(例えばこのブログのファンページ)、友達関係を基本としたネットワークにうまくTwitter的な人間関係を組み込むのに苦労しているようだ。

(※)出会い系と称されるサービスのように、この絵で内側に進む場所を提供することは非常に価値がある。

おまけ:ブログとの関係

このような個人のコミュニケーション手段とマスメディアとの中間に位置するのがブログだ。ブログはマスコミ的手法を個人で利用できるように低コスト化するという方向性だが、FacebookやTwitterが担っている領域をカバーしてきた面もある。多くのブログが補助的な手段としてTwitterを利用するように境界は曖昧だ。特にブロガーがTwitterを個人として利用する場合その区別はほとんどなくなり(例えばこのブログのアカウント)、Twitterのさらに外側に位置するコミュニケーション手段の一種として捉えることもできる。個人を起点としたコミュニケーション手段がさらに拡大していけば、そもそもマスコミ的手法の必要性自体が薄れてくるだろう(ニュースを提供するというサービスとしては必要だが、意見を世間に発表する場としての地位は揺らぐ)。

注:当たり前ですが、コミュニケーション手段の利用法は人によって様々なのでこんな簡単に切り分けられるわけではありません。例えば知らない相手にコールドコール・ナンパ・飛び込み営業すればすっ飛ばすこともでき、ゆえにそういった能力は貴重(だが難しい)と考えられるわけです。あくまで分かりやすくするため便宜的に分けたものとお考えください。

Facebookの携帯進出

Facebookが携帯開発に乗り出しているいるというニュースが報じられている。

Facebookはなぜ今, Android携帯を開発中なのか–iPhoneではトータルなソーシャル化が不可能だからだ

OS自体をコントロールしなければ機能的に「トータルなソーシャル化ができない」というと書かれているが、それは正確ではない。ウェブ上のFacebookもまた、「OSの深部」にアクセスしているわけではないからだ。ブラウザー上で動く限り利用出来る機能は制限される。他社ブラウザーに頼るのはよくて、他社携帯電話に頼るのがマズイのは何故だろう

それはFacebookが人々のデフォルトのIDを手に入れたいからだ。言い方を変えると、ユーザー同士が連絡を取り合う際にFacebookを通じて連絡を取って欲しいということだ。すでにメッセージをFacebookを通じてやり取りする人は多いが、仲の良い友人間やビジネスレベルにおいては電話(とSMS)が主体となっていて、Facebookはあくまで「薄い」友人関係において主要な通信手段となっている(この以前は放置され気味だった人間関係をうまく管理できるところがFacebookの強みといってもよい)。

携帯電話は現状において、最も確実に連絡を取る手段であり、ここを抑えずにFacebookがメインのコミュニケーション手段になることはありえない。Appleはコミュニケーション手段を抑えようという考えを持ってはいないようだが(他の理由で)自社プラットフォームのオープン化を推し進める気はなく、Googleは自身がAndroidとGmailを基調としたソーシャル化を狙っている。この情勢でFacebookにとって携帯ネットワークに手を出す一番効率的な方法はオープンソースであるAndroidを改造することというわけだ。

但し、FacebookがAndroidに手を加えてリリースしたとしてそれを他の携帯会社が利用する理由はない。Facebookアプリはいくらでも存在するわけで、OSレベルでFacebookへのアクセスが追加されたOSを利用する大きなメリットはないからだ。ウェブにおける「いいね!」ボタンのように、他のアプリに対してFacebookとの連携で価値を提供する必要があるだろう

日本プレミアム

円高で輸入品の販売が好調なようだが、もとから内外価格差の非常に大きな製品が多い。

Yen Pumps Up Luxury Prices

For decades, the model for selling luxury imported goods in Japan has been simple: plush surroundings, attentive service—and the “Japan premium.”

日本へ進出する海外ブランドの基本戦略は常に価格を上げることだった。日本は所得水準高く、それでいて言語的、地理的、政治的な理由(=関税など)によって裁定取引が起きにくいため、海外ブランドにとっては大きな収益を上げるための格好市場だからだ。そもそも国内の物価水準が高いため飛び抜けて高い価格がつくことが多い。高価格商品への共食いを防ぐために、低価格のラインを全く展開しないことも多い(ヨーロッパの高級車なんかが典型だろうか)。

“Given the economy and the new price transparency, while the Japan premium will not go away, it will be difficult to maintain going forward,”

しかし、この状況も徐々に崩れつつある。経済の低迷によって高価格商品への需要が落ち込む中で、インターネットを通じた裁定取引が容易になっているためだ。内外価格差を調べるのは簡単だし、乗用車のような大型商品を除けば、クレジットカードの普及もあり海外への注文も難しくない。ブランド側で輸出入をコントロールしようにも、販売した製品を輸出されてしまうのは止められない(著作権法を盾に海外輸出を止めようという動きもあるが順当にうまくいっていない)。

Coach says Japanese consumers can’t be sure they’re getting the real thing unless they buy at a Coach store, an authorized retailer or Coach.com.

ブランド側の対策としては、まず正規品であることをアピールすることがある。ここで登場しているCoachは特に内外価格差の大きなブランドでプレミアムイメージの維持には最新の注意を払っているはずだ。今まで海賊版撲滅を目指してきたブランドが、逆に海賊版が大量に存在することを放置することで(正規品の)中古市場・国際裁定取引に対抗しようという流れが強まるかもしれない。海賊版が増えると正規品全体の需要は減る一方で、正規品内での自社直販への需要は増えるためだ。

商品の構成を変えるのも有効だろう。全く同じ製品を展開しないことで単純な価格比較を難しくすると同時に、プレミアム感を高める戦略だ。Burberryなんかは昔からこの戦略をとっているが日本限定ラインが他のブランドにも広がるだろう。服などであればあからさまに国内外でラインをわけなくてもサイズの違いでラインをわけてもよい。