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サイドプロジェクト

3MからJeffersonまでサイドプロジェクトの有用性についてまとめられた記事:

Success on the Side — The American, A Magazine of Ideas

セロハンテープ(Scotch Tape)がRichard Drewという一社員よって開発されたというのは割合有名な話だ。これに対する3Mの考えは、

The humbling conclusion followed: It is hard for even experts to predict or plan the next innovation, and thus all employees, especially those on the front lines, should have a part in allocating R&D resources.

イノベーションを起こすためには社員全員、特に前線にいる社員に研究開発に貢献させることだというものだ。

So 3M implemented a groundbreaking policy called the 15-percent-time rule: regardless of their assignments, 3M technical employees were encouraged to devote 15 percent of their paid working hours to independent projects.

これによって生まれたのが有名な15-percent-time ruleだ。社員は労働時間の15%を独立プロジェクトに当てることが奨励される。

Jefferson’s side project—sharpened and clarified by editors committed to honing its essential message for maximum popular appeal—now represented the core of revolutionary values with a clarity that none of its creators had exactly foreseen at the time.

合衆国憲法の起草もサイドプロジェクトだったとされている。

They cite first the enormous goodwill generated internally: “20-percent time sends a strong message of trust to the engineers,” says Marissa Mayer, Google vice president of search products and user experience. Then there is the actual product output which of late includes Google Suggest (auto-filled queries) and Orkut (a social network). In a speech a couple of years ago, Mayer said about 50 percent of new Google products got their start in 20 percent time.

その現代版が有名なGoogleの20%ポリシーだ。技術者は労働時間の20%を承認されたサイドプロジェクトに費やせる。Googleの製品の半分はこのようなサイドプロジェクトによって作られたという。

Bottom-up product development of this sort has held various names over the years. German scholar Peter Augsdorfer studies the phenomenon of “bootlegging” in companies, which he defines as unauthorized innovative activity that the employees themselves define and secretly organize.

似たような概念としてブートレギング(bootlegging)がある。承認されていないプロジェクトを社員が勤務時間内に会社の設備を使って進めることをさす。bootlegというのは密造を意味する(元々はブーツのすねに酒を隠したことが由来だ)。

True undercover work is less common than “skunk works,” a trademarked term from Lockheed Martin to refer to authorized bootlegging. There, higher-ups direct a business group to work on projects autonomously so as to avoid bureaucratic morass.

スカンクワークス(skunk works)もこれに近い。こちらは変わったプロジェクトを会社の上の人間の元で進めることを指す。組織における面倒を避けてイノベーションを推進するのが狙いだ。

Apple used to have a skunk works program in the 1980s but has discontinued it, and does not offer side-project time to employees. Over the past decade it has reined in its more experimental R&D experiments. “Apple’s $489 million R&D spend is a fraction of its larger competitors. But by rigorously focusing its development resources on a short list of projects with the greatest potential, the company created an innovation machine,” noted a Booz Allen report in 2005.

とはいえサイドプロジェクトが常にいい結果を残すわけではない。ここではAppleの例が挙げられている。Appleは開発研究費が規模に比して小さな企業として有名だ。特に基礎研究は殆どやっていない。限られた資源を集中させ類稀なるイノベーションを実現しているのは周知の通りだ。

A case-by-case policy means the company is spared an across-the-board hit of 20 percent of all employee time, 365 days a year.

これは社員全員に自由な時間を与えるのに比べるとひどく低コストだ。

ではどのような状況でサイドプロジェクトはうまくいくのだろう。著者は三つのポイント指摘している:

First, they highlight the random circumstances that can give rise to important inspiration. Second, they promote experimentation—not abstract brainstorming—because the “aha!” moment does not always happen at the outset, as mythologized, but somewhere in the middle of the process. Third, they underscore not the mad, brilliant scientist at the top but the collective brainpower of all employees, especially those close to the customer—Richard Drew at 3M, Paul Buchheit at Google. These people are critical to sustaining innovation over the long term.

イノベーションは天才が悩んだ末に素晴らしいアイデアを生みだし改良し製品になるのではない:

  1. アイデアは予期しないところでやってくる
  2. アイデアは頭で考えて発見されるのではなく、実際に何かを進めるうちに出てくる
  3. 重要なのは社員全員の総合的な力、特に顧客に近い社員のそれである

最近ではこれに加えMITのEric von Hippelが主張するユーザー・イノベーション、BerkeleyのHenry Chesbroughによるオープン・イノベーションといった概念が企業・研究所主導による従来型のイノベーションと対比されている。

近年、欠陥を批判されることの多い特許制度もまたイノベーションの分散的な構造を捉えている(これについてはそのうち述べる)。しかし、訴訟費用・認定の条件など特許制度が適切にカバーできないイノベーションの分野が存在する。企業によるこれらのイノベーションへの取り組みはそのギャップを埋める行動と理解できるのではないだろうか。

ANDAリバースペイメント推定違法化

以前から議論になっていたANDA申請を行った企業と先発企業との訴訟において後者が前者に支払いを行う形での示談について新しい法案が提出されている:

Patent Law Blog (Patently-O): Patent Reform: Reverse Payment

ANDA=Abbreviated New Drug Applicationとは米食品医薬品局(FDA)による新薬承認申請(NDA)の一種だ。アメリカで新薬を流通させるためには、その安全性・効果をFDAに認証される必要がある。その許可を申請するのがNDAだ。ANDAは既に流通している薬品と生物学的に同等な後発薬の承認申請を行う際に使われる簡略版である。1984年のハッチ・ワックスマン(Hatch-Waxman)法(正式にはDrug Price Competition and Patent Term Restoration Act)により導入された。これにより、特許が切れた薬品のジェネリック医薬品認証のための費用が節約され、より迅速に市場へ投入することが可能になる。

ANDAを利用するためにはFederal Food, Drug, and Cosmetic Act Section 505(j)に定められた四つの条件のいずれかを満たす必要がある。

  1. such patent information has not been filed,
  2. such patent has expired,
  3. of the date on which such patent will expire, or
  4. that such patent is invalid or will not be infringed by the manufacture, use, or sale of the new drug for which the application is submitted

この中で争点となっているのは四つめの条件だ。Section 505(j)ではさらにANDAで最初に申請を行った企業には180日間の独占権が与えられ、他の企業はANDAの認可を得ることができない。これはジェネリック薬品の開発を行うインセンティブを与えるための限定的な独占である。これを一般にParagraph IV Certificationと呼ぶ。

問題となるのは、後発企業がParagraph IV ANDAを申請するケースだ。Paragraph IV ANDAが申請されてから45日間、当該特許を保有する先行企業は後発企業を特許侵害で訴えることができる(薬品の特許を侵害せずにジェネリック薬品を製造できるのかという疑問は当然だが、薬品を保護している特許は主な薬効成分に関する特許だけとは限らない)。訴訟が始まると判決でるか30ヶ月経過するまでANDAの認可は行われない。この時特許関連の訴訟ではよくあるように示談が成立することが多いのだが、先行企業が後発企業に和解金を支払う形をとることがある。これは通常の特許侵害訴訟の結果とはお金の流れが逆であるためリバースペイメントと呼ばれる。

リバースペイメントが生じる原因として有力なのが、先発企業と後発企業との共謀である。後発企業がParagraph IV CertificationからParagraph III Certificationに切り替えることでジェネリック薬品の参入を遅らせて、現行薬の独占を続けることができる。示談になった場合、該当する特許の有効性について結論はでないため、たとえ特許が無効であっても独占状態は続くことになる。リバースペイメントはこの独占利得の分配と解釈される。

リバースペイメントが本当に反競争的なのかについては様々な意見があるが、ポイントはリバースペイメントの存在が違法行為を推定(per se illegal)するのかどうかである。リバースペイメントがほぼ確実に反競争的行為を示すのであれば推定が望ましいが、そうでないなら示談を推奨する意味での通常のRule of Reasonによる対応が望ましいということになる。

この件については連邦取引委員会(FTC)が以前に訴訟を起こして敗訴しているが、その時には司法省(DOJ)はFTCに反対していた。今回政権が変わったことによりDOJもFTC側に回り、議員から法案が提出されるにいたったというわけだ。

Elinor Ostromの講義

今年のノーベル経済学賞は組織の経済学とのことで、Oliver WilliamsonElinor Ostrom受賞した。著名エコノミストの反応はEconomixなどに詳しい。

その中でも触れられているがOstromはPh.D.もUCLAのPolitical Scienceで現在もIndiana, BloomingtonのPolitical Scienceの教授という政治学者だ。エコノミスト一般への知名度は(少なくともノーベル賞受賞者としては)低い。Political Scienceでは過去にHerbert Simonが受賞している。

詳しい業績については先のリンク先の解説や著作(アマゾンで確認できた最新の著作はこちら;今注文した)を読むべきだろうがYoutubeに彼女が共有地の悲劇について説明している映像があったので紹介しておく:

Environmental Economics: Ostrom’s take on the Tragedy of the Commons

ちなみに、周知の事実かもしれないが、ノーベル経済学賞の(英語での)正式名称はSveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobelで正式なノーベル賞ではない。またノーベル賞のなかでも平和賞だけはノルウェイの管轄だ。

Williamsonの業績については広く知られているが、こちらに彼へのインタビューがある(A Golden Bearの足跡より)。

Wikileaksのプラットフォーム化

Wikileaksは匿名の告発情報を受け付け公開するウェブサイトである。そのWikileaksが自ら情報を募り公開するだけでなく、他の団体と告白者との間に入る活動を始めている:

Wikileaks plans to make the Web a leakier place

Wikileaks.org, the online clearinghouse for leaked documents, is working on a plan to make the Web leakier by enabling newspapers, human rights organizations, criminal investigators and others to embed an “upload a disclosure to me via Wikileaks” form onto their Web sites.

新聞社・人権団体・捜査当局などが「Wikileaksを通じて情報を公開する」というフォームをサイトに埋め込めるようにする。

The upload system will give potential whistleblowers around the world the ability to leak sensitive documents to an organization or journalist they trust over a secure connection, while giving the receiver legal protection they might not otherwise enjoy.

これにより、告発者は自分の信頼する団体・ジャーナリストに安全に書類を渡すことが可能になる。相手が信頼できるなら何故Wikileaksを挟む必要があるのかという疑問はあるかもしれない。しかしWikileaksのページを見れば分かるように、彼らは安全に情報を漏洩するための技術を要している。

たとえある新聞記者を信用していたとしても、彼女が通信に十分な暗号化を用いているか、例えばメールなら送信元を特定する情報をコンピュータ内に(キャッシュなどであれ)残していないか、漏洩元からの攻撃に対し技術的・法的に防御できているかという問題は残る。通常のEメールには何のセキュリティも備わっていないこと自体知らないジャーナリストの方が多いだろう。Wikileaksが間に入ることでそのような問題を解決することになる。

Once Wikileaks confirms the uploaded material is real, it will be handed over to the Web site that encouraged the submission for a period of time. This embargo period gives the journalist or rights group time to write a news story or report based on the material.

しかも、Wikileaksに送信された情報は当該ジャーナリストに一定期間独占的に供給される。

Wikileaks often runs into problems concerning how to present material and how to make it easier to sift through for vital information, said Assange.

何故独占供給されるのか。それにはWikileaksが抱えている問題がある。Wikileaksが機密情報を受け取ったとしても、情報をそのまま公開するだけでは世間に広まらないことが多い。生のデータ・情報は役に立たないという情報化社会のジレンマはここでも成り立っている。データを解析し、情報を取捨する作業が必要となる。この場合にはジャーナリストがその役割を負うことになる。

独占的に情報の供給を受けることで、ジャーナリストはより真剣に機密情報を集めようとするだろうし、入手した情報をよりよい形で公開するように勤める。一種の知的財産権がWikileaksにより私的に供給されるわけだ。もちろん個々のジャーナリストがきちんとセキュリティを確保していることが担保されていればWikileaksを通す必要はなく、秘密にしておくことはできる。しかし記事を公開すれば独占権は失われる(ニュース記事には一般的な著作権が適用されない)わけでWikileaksを通すことによりデメリットは殆どない。

Wikileaksには日本語インターフェースも用意されている。

i4i v. Microsoft

i4i v. MicrosoftにおけるDellのアミカス・キュリエ

Groklaw – The Dell amicus brief, PDF and text, HP’s as PDF (i4i v. Microsoft)

訴訟については日本語の記事などをどうぞ。基本的な構図としては、Microsoft Wordのアドオンを販売していたi4iがMicrosoftが自社の技術をWordに取り込んだとして訴えたという話。それに対してMircosoftへ賠償命令とWordの出荷停止命令がでている。

細かい話はGroklawに多くの記事が出ているが興味深いのはcnetで紹介されている以下の部分だ:

I4i says not out to destroy Microsoft Word

Microsoft has several options, including legal appeals, pursuing a settlement, or recrafting Word in a way so that it doesn’t infringe on I4i’s technology.

Microsoftは出荷停止命令が出るまでに示談することもできたはずである。判決に対する反対は出荷停止による市場への影響が大きすぎることだが、もしそうであれば実際に出荷停止にまでもつれ込むのはおかしいはずだ。二者で交渉している以上、出荷停止が可能であることは交渉開始時の立場を変えるに過ぎない。勿論、第三者が二者間の交渉の結果に影響を受けることはあるだろうが(示談の最大の問題であるが)、今回はそれには当てはまらない。この辺の法律的解釈はどうなっているのだろう。