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ネット中立性への反対

先週、連邦通信委員会(FCC)の議長がネット中立性の無線ネットワークへの拡張を示唆した。それについてコメントしようと思っていたが、すでにAT&Tは反対の意を表明していた。

AT&T Calls F.C.C. Neutrality Plan a ‘Bait and Switch’ – Bits Blog – NYTimes.com

Federal Communications Commission Logo

ネット中立性とは、ネットワーク上を流れるデータについてネットワーク事業者が中立的であることを意味する。例えば、インターネットでアマゾンを開くときだけ他の書店サイトよりも高速に表示されるよう、接続業者が設定していればこのネット中立性違反となる。

ネット中立性については多くの支持者が存在する。最右翼と呼べるのは(一部の)技術屋さんで、情報というものは自由になる性質を持っている、などと主張する。ウェブ上のビジネスをやっている企業は、自由なプラットフォームがイノベーションを育んできた、という点を強調する。

逆にネットワーク業者は一般にネット中立性に批判的な立場を取ることが多い。無線ネットワーク市場において特に顕著で、携帯上で動作するVOIPソフトウェアをブロックするのがよい例である。

しばしば、事業者側が消費者に不合理な規制を行っているとか、別料金を取るのは搾取だなどという批判が行われることもあるがそれほど単純な問題ではない。反対・賛成ともに根拠があるからだ。

中立性に反対する根拠のもっとも大きなものは混雑料金だ。ビデオをダウンロードするユーザーのスピードを下げたり、それに課金したりするのは遅い車両の有線順位を下げたり、トラックに割増料金を請求するのと同じという考えである。これだけでは先のアマゾンの例は正当化できないように思われるがそうでもない。ISPは上流のへの接続に変動費用を負担しているので自社ネットワーク内にあるコンテンツは実際に低費用で提供できる。YouTubeへの接続は遅くする代わり、効率のより自社ネットワーク内の(提携している)ビデオサイトは高速にするというわけだ。

ユーザーに異なる料金を請求すること自体も特に不思議なことではない。大抵の市場において行われている価格差別の一つだ。トラフィックが支払い意志と相関しているのならISPの利益になる。過疎地などにおいては採算を取るために必要だと考える人もいるだろう。

さらに、反対・賛成以前に政府が口を出す必要がないという考えもある。ISPはもしネットワークを中立に運営することが社会的に有益であるなら、中立にした上でその消費者余剰を接続費用を上げることで手にする方が(一定の条件のもとでは)効率的だからだ。

これらの問題の上にさらに、「使い放題」として提供しているサービスが規制を行っていいのかという消費者保護政策上の課題、利用規程に小さく書いてある項目の法的有効性を疑う向きなどが合わさって非常に分かりにくい状況になっている。

ちなみにこのネット中立性問題は日本では今のところ騒がれていない。これは大部分の人口が集中する都市部において、ISP同士の競争が激しいことによる。インターネット使い方を制限するようなISPは競争に生き残れない。

逆にアメリカにおいてはある地域にISPが一つしかないというのはよくあることだ。ベイエリアにあるバークレーですら選択肢は二つしかない(AT&TとComcast)。サービスの質も低く、料金に比して接続スピードは十年前というレベルだ。ネット中立性を議論するのもいいが、インターネット接続市場の規制緩和・新規参入促進・分割などを検討すべきともいえる(そもそもBaby Bellの合併を認めるべきではなかった)。

しかし日本もこの問題を避けて通ることはできない。このニュースで取り上げられているとおり政策の焦点は携帯市場に移っている。日本の携帯プラットフォームは非常に閉鎖的だ。つい最近も携帯上の音楽にDRMを導入するというニュースが流れ、音楽のDRMはもはや絶滅に瀕していると考えているアメリカ人を驚かせた。

The company’s harshest words focused on the F.C.C.’s auction of wireless spectrum last year. One block, purchased by Verizon Wireless, specifically required the winner to open the frequencies to any device and application. AT&T bought other blocks of spectrum that had no such explicit conditions. In its statement today, the company noted “that unencumbered spectrum was sold for many billions more” than the spectrum Verizon bought.

但し、ここでのAT&Tの批判はネット中立性そのものというよりもFCCのやりかたに向けられている(これは消費者を直接敵に回したくないということからだろう)。AT&Tは先のスペクトルオークションで他企業のデバイス・アプリケーションへの開放を義務付けらていないブロックを割高で落札している。オークション後に中立性を持ち出すのは卑怯だという批判だ。もちろん排除できるという条件でこそないが曖昧さは否めない。

追記:さらに詳しい記事がArs Technicaから出た。

ビジネスしやすさランキング

doingbusiness.org

doingbusiness.org

世界各国で事業運営を行う際の容易さについてのランキングがある。リンク先は日本の2010年分だ:

Doing Business in Japan – Doing Business – The World Bank Group

様々な指標を作ってまとめてある。世銀傘下の国際金融公社IFC) が作成している。日本のスコアはというとOECDの中で15番ということで平凡だ(OECD参加国は30だ)。税金(の支払い及びそのための事務)が非常 に低く、企業を起こすための手間や建築許可・労働関係・資産登録が低め。逆に破産関係では世界一位、契約の履行や資金調達もスコアが高い。

スコアの作り方によるが、規制関係が弱めで、逆に民間での取引や司法制度が望ましい傾向がある。また事業を始めるのは困難にも関わらず、事業を終了するないし再生するのは簡単だというのも面白い。特にRecovery Rateの92.5%はOECD平均が68.6%とされており印象的だ。但しその定義は、

The recovery rate is recorded as cents on the dollar recouped by creditors through the bankruptcy, insolvency or debt enforcement proceedings. The calculation takes into account whether the business emerges from the proceedings as a going concern as well as costs and the loss in value due to the time spent closing down.

とされており必ずしも望ましいとは限らない。破産した企業に資金提供を続けることで企業を存続させれば100と計算されるようだ。

ちなみに作成チームの紹介もあり、International Businessを始め色々な分野の人が加わっているが日本人はいない。