スタートアップ

ウェブテクノロジー関連の有名なベンチャーキャピタルであるY Combinatorの共同創業者の一人であるPaul Grahamによる企業を立ち上げることに関するエッセイが公表された:

What Startups Are Really Like

Y Combinatorは普通のベンチャーキャピタルとは異なり小規模な投資とベンチャー運営に関するコンサルティングを兼ねた業務を行っている

His company, Y Combinator, is a hybrid venture capital fund and business school that invests in, advises, and, literally, feeds 40 or so early-stage businesses a year. Investments are small — less than $25,000 per company — but Graham supplements the money with smart advice, introductions to later-stage investors, technical help, and a sense of community.

上記エッセイには19のポイントが挙げられているが、個人的に重要だと思ったものを二つ紹介する。

一つ目は5. Persistence Is the Keyである。ベンチャー企業にとって鍵となるのは持続力ということだ。特に次の一節は限りなく正しい:

I’ve been surprised again and again by just how much more important persistence is than raw intelligence.

ビジネスを成功させるために必要なのは持続力であって単純な頭のよさではない。実行力とアイデアと言い換えてもいい。成功している企業が持つビジネスモデルのほとんどは特別なものではない。Microsoftの前にもPC用OSは存在した。楽天の前にも仮想店舗というアイデアはよく知られていたし、オークションは昔から存在する。Amazonも始めてオンライン書店を立ち上げたわけではない。このアイデアはありふれていて、実際に実現するのが困難だという認識は彼の挙げる他の項目にも反映されている。

もう一つは2. Startups Take Over Your Lifeだ。企業を立ち上げることは仕事をすることは全く違うということだ。

Running a startup is not like having a job or being a student, because it never stops. This is so foreign to most people’s experience that they don’t get it till it happens.

これは脚注で彼が指摘しているように大学院の生活と同じだろう(Paul Graham自身はComputer ScienceのPh.D.だ)。仕事と休みの区別が全くないため、休暇という概念がない。週末に何もしていないだけで罪悪感を感じるのがいい例だ。この感覚に馴染めない人は自分で会社を立ち上げることはできないだろう。

自分で事業を始めようと考えている人は是非全項目に目を通して欲しい。

カップルのためのファイナンシャル・プラニング

New York Timesでこれから結婚する前にお金の使い方に話合うべきだというストーリーが紹介されている。

Your Money – Four Talks About Money to Have Before Marriage – NYTimes.com

何故、カップルがお金の使い方についてよく考える必要があるのか。一つ目の理由は離婚率の高さだ。

The risk that any marriage will end in divorce is about 45 percent

離婚率は半分近く、弁護士費用は引越し費用などは大きな財政負担になる。そして離婚の原因の多くがお金にまつわるものであるのは言うまでもない。

It’s almost impossible to be hooked up to somebody who has the same balance of spender and saver as you, or expansiveness versus conservativeness or financial circumstances

そしてお金の使い方について同じような考えを持っている相手と合う可能性はそれほど高くない

He adds that the mix gets even more volatile with second marriages, when couples may have children, ingrained financial habits and savings or other assets that necessitate the discussion of a prenuptial agreement.

さらに、二度めの結婚ともなれば連れ子がいる場合もあるし、消費パターンも固定してしまっている。大きな資産があればプレナップ(婚前取り決め)も必要になる。

ここでは再婚の事例が挙げられているが、必ずしも再婚である必要はないだろう。結婚時点での年齢があがるにつれ、消費パターンの固定化や重要な資産・債務の額は上昇していく。これには会計上現れない人的資本なども含まれよう。

When Lisa J. B. Peterson started her Boston-based financial planning firm, Lantern Financial, she knew she wanted to focus her practice on young professionals. She quickly realized that many of them could use premarital financial counseling and built a program called Harmoney around their needs.

カップルに絞ってファイナンシャル・プラニングを行うサービスが紹介されている。これは晩婚化・女性の社会進出によって大きな市場の拡大が見込める分野だ。晩婚化の影響については既に述べた。

女性の社会進出は、さらにビジネスチャンスを呼び込む。何故なら、女性が男性と大差ない貨幣所得を得るという事態は新しい現象であり、既存の婚姻制度ではうまく対処できないためである。

二十年・三十年前であれば、男性が稼ぎ頭で女性は家にいるというのがごく普通の家庭であった。そのような環境であれば、例えば離婚時に女性が財産分与・親権割り当てにおいて優位に立つことは合理だっただろう

しかし、男女ともに働く世の中ではそのような傾向は、本来両者にとって望ましい結婚がうまくいかなくなる可能性があるという意味において、マイナスに働く。男性にとって結婚があまりにもリスキーになりすぎるからだ。また晩婚化は結婚した時点で主に女性が生物学的なピークを越えていることも意味するため、さらに結婚へのインセンティブは弱まるだろう。

これが大きなビジネスチャンスであるのは言うまでもない。当事者が望ましいと思っている結婚が社会制度によって達成されないという非効率が存在する以上、それをファイナンシャル・プラニングであれプレナップであれ解決できるのであれば、効率的になった部分の分け前を利益としてあげることができる

もちろん社会の変化についていけないのは制度だけではない。文化もそうである。最近よくニュースなどで見る、デートでの勘定は誰が払うべきかという話がそれだ。根本にあるのは男女の所得の均等化とそれに対応しきれない文化だろう(特に婚前にあたる若年層においてほとんどなくなってきている)。

追記:これらの議論は全て期待値的な話であり、例外はいくらでも存在する。

移民と送金規模

国際的な移民と送金の規模についてわかりやすいビデオがThe Economistにあがっている:

主な情報は次の通りだ:

  • 地域間の移動より地域内での移動が多い
  • 送金は高所得の国から中所得の国へのものが多い
  • 移住のコストは大きく、経済の発展に伴い移民が増える
  • 低所得の国から移民と自国へ送金は小規模に留まっている

孤立した文明の発展

近代以降、地理的な孤立が経済発展の妨げになっていることは国ごとの比較から明らかになっていますが、それがそれ以前の時代にも通用するのかについて:

Economic Logic: Isolation and development

紹介されている論文によれば、

This paper establishes that prehistoric geographical isolation has generated a persistent beneficial eff ect on the course of economic development and contributed to the contemporary variation in economic development across the globe.

航海・航空技術のない時代における各文明の他の文明と距離がそれ以降の文明の発展のプラスの影響を与えたそうだ。方法論的にはかなり穴だらけな気もする(従属変数の選択、内生性など)が直感的にはわかりやすい結果だ。

1500

Isolation index vs log population density in 1500CE

2000

Isolation index vs log population density in 2000CE

技術発展のない時代においては孤立していることで戦争などに費やす資源を生産的な活動に割り当てられる。しかし、多くの国が集まっていることによる技術の共有・交換などの効果が孤立していることのメリットをそのうち上回るのだろう。

これはCivilizationというゲームをやったことがあればピンとくる現象だ。文明を発展させるゲームなのだが人類史と技術発展・地理的な要因との関係を極めてよく再現する非常によくできたゲームである。コンピュータでゲームをやったことのある人もない人も是非試してみてほしい。

特に子供がいる場合はお勧めだ。Ph.D.の学生にはこのゲームが好きだという人がとても多い。自分の学部でもよくいるし、前一緒に住んでいたオーストラリア人の化学のPh.D.も、今住んでいるポーランド人の数学のPh.D.も何故かこのゲームが好きらしい。頭のいい子供を育てる方法なんていう本を読むよりは効果がありそうだ。FacebookにはAll the history I know, I learned from playing Civilizationなんというグループもある。

説得力のある批評をする方法

消費者の心理に関する研究が紹介されている:

Drilling Down – Veteran Critics More Persuasive When Uncertain, Study Finds – NYTimes.com

Asked to evaluate the restaurant, the students who read the expert’s review liked it much better when he seemed tentative; the opposite was true of the novice.

四種類のレストランのレビューを被験者(学生)に見せる実験を行ったそうだ。四つのレビューとは、

  • 専門家が完全にお勧め(positive certainty)
  • 専門家が一応お勧め(tentative praise)
  • 素人が完全にお勧め
  • 素人が一応お勧め

結果は専門家の場合は曖昧な評価の方が好まれたのに対し、素人の場合には確信を持って勧められている場合の方が評価されたそうだ。

これは常識とよく合致する。専門家の曖昧な意見はよく考えて評価が行われているように聞こえるが、素人の曖昧な意見は何も考えていないように聞こえる。

また専門家は自分の評判があるので100点満点を出すことはない。逆に満点を出していると専門家としての地位を疑われる。素人にはそのような制約はなく高得点を出しても問題はない。もちろん本当の専門家が満点評価をしているならば一番評価されるだろうが、実験であれば専門家とされているだけに過ぎないため、いわば「自称」専門家の満点は信用されないのだろう。逆にいえばこの実験の問題は本当に信頼されている専門家のケースを扱うことができない点にあるだろう(実際の研究がどうなっているのかは分からないが)。

これは大学院出願における推薦状にも当てはまる。無名の教授(ビジネススクールであれば上司含む)の推薦状は明らかに素晴らしいものでなければ意味がない。むしろ留保点があれば大きなマイナスになる。名の通った人の推薦状であれば二通り考えられる。大学院側が推薦人と個人的な関係を持っているないし過去の推薦に関する履歴を記録している場合にはやはり素晴らしい推薦状の方がよいだろう(例えばいつも学生を送り出している教授の推薦は極端な話お勧めか否かだけで十分だ)。しかし経歴や地位は素晴らしいが信用できる推薦人と確信をもっていない場合には長所短所詳しく書いてある推薦のほうが効果的なように思われる(例えば経済学部宛てに推薦状を書く数学の教授の場合褒めてばかりでは誰にでもそうなのかもと疑うだろう)。

P.S. 著者とジャーナルをキーに実際の論文を探してみたがどれか確定できなかった。ジャーナリストとしては明記すべきだろう。