Diggの失墜

最近使い物にならなくなっているDiggが大規模レイオフに出たとのこと。まあ当然といえば当然ではある。

米ブクマ大手Diggが大規模レイオフ 「Web2.0」から「ソーシャル」に乗り移れず【湯川】 : TechWave

「米ソーシャルブックマーク最大手」のDiggが「ソーシャル」乗り遅れずに苦境に陥ったという記事なのだがこれは不適切なだろう。

Digg is a social news website. […] Digg’s popularity has prompted the creation of other social networking sites with story submission and voting systems.

WikipediaにあるようにDiggはブックマークというよりもニュースサイトだ。ユーザーが自分のメモとして面白いサイトをメモっておく場所ではなく、ネタを投稿してみんなで盛り上がろうという場所なわけだ。2ちゃんねるにネタでスレを立てる感覚に近い。リンクもBookmarkするのではなくSubmitする。また、Digg自体もソーシャルな仕組みを持っているし、一年半程前からFacebookとの連携機能もある

では何故Diggは失速したのか。それは今年8月に行われたVer. 4へのアップデートのためだ。完全に一から書かれた新バージョンは当初不安定であっただけでなく、従来からの機能を削ってしまった。不満を持ったユーザーは一斉にライバルであるRedditに流れた。これはAlexaのランキングからも明らかだ。

非常に分かりやすく8/25のアップデートからアクセスが減っているのが分かる。そしてその一部は赤線のRedditに移っている。

しかし、このDiggの落ち込みはソーシャルニュースそれ自体が「ソーシャル」化に乗り遅れて崩壊したことを示すわけではない。長期的なアクセスをみればRedditのアクセスは伸び続けているし、Diggもバージョンアップ以前にはアクセス数で上昇傾向にあった。もちろんFacebookやTwitterといったネットワークのトラフィックはこれを遥かに上回る勢いで伸びているのは事実ではあるが。

デジタル化契約

講談社が著者に不利な契約書を送りつけていることに対する批判記事だ。

池田信夫 blog : 講談社の「デジタル的利用許諾契約書」について

批判の内容は次のようなものだ。

  1. 出版社がデジタル化を独占する
  2. 15%の印税率が低すぎる

問題だらけの指摘ではあるが、まず第一に、これらの批判が全て正当だとしてもそれは講談社への批判にならない。契約書を送りつけているだけで契約は成立はしないので、もし著者に一方的に不利な契約を提示しているなら損するのは講談社だ。デジタル化について事前に契約で定めていなかった出版社は弱い立場にいる。

詐欺のように不利な契約を騙して結ばせるということはありえる。しかし、講談社のような企業が法的に問題のある行為に及ぶとは思えないし、出版社と著者とは長期的な関係にあるので一度限りの裏切りは出版社の利益にならない。将来の出版を考慮して一見不利なデジタル化契約を結ぶことはあるだろうが、それはパッケージとしてみて不利な契約を押し付けられているとは言えない。

出版社と著者との力関係で押し付けられるという意見もあるかもしれないが、講談社が出版市場を独占しているという話も、他の出版社に行こうとしたら既に講談社の手が廻っていて門前払いなんて話も聞かない。講談社の提示した条件が気に入らないなら他の出版社を当たるだけのことだろう。

他の出版社から電子出版したいという話があっても、著者は出すことができない。

個々の指摘についても当たっていない。まず、出版社がデジタル化を占有することは極めて合理的なことだ。出版社は印刷屋ではないので、本のプロモーションを行う。紙媒体のプロモーションは電子書籍の売上にもプラスであるため、紙媒体と電子書籍とで主体が異なれば望ましい水準でのプロモーションは行われない。これは著者にとって望ましくない。歌手とレコードレーベルとの契約が通常独占になっているのと同じ理由だ。

講談社は、この本を電子出版すると約束していないので、彼らが出さないかぎりどこの電子書店でも売れない。

売れば儲かる本を出版しない理由はないのでこの指摘もおかしい。但し、特許などであるように、競合製品の売上を伸ばすために他の商品を抱え込んで売らないという可能性はある。この辺は通常契約の期限や出版しない場合には権利を戻すといった規約で対応するだろう。件の契約書は一部しか引用していないのでどうなっているのかは分からない。

印刷・製本などの工程がなく間接費の小さい電子書籍で、このように低い印税率を設定するのは異常である。

15%の印税が低すぎるかどうかは出版社の方の話を読んで頂きたいところだが、著者にとって印税率がいくつであるべきかは出版社が何をしてくれるかによるとしかいいようがない。サービスに対して印税率が低すぎるという話であれば分かるが、電子書籍では印刷・製本がいらないから安くしろというのは乱暴だろう。

15%という印税率は(当社以外の)日本のほとんどの電子出版社で同一であり、カルテルを組んでいる疑いがある。

15%という横並びな印税率にカルテルの疑いがあるとのことだが、市場での価格が一定なのは完全競争でも同じだ。これだけでは何ともいえない。

このように元記事での批判はあたっていない。にも関わらず講談社の契約を批判するのは、本当は競争相手として講談社の取り組みを脅威に感じているからだろう。もし講談社のオファーが馬鹿げたものならおかしな点を指摘するより自滅を待つのが得策であるはずだ。

内部留保再び

また内部留保を雇用に回せという言説が話題になっている(参考:「株主至上主義って?」)。

Togetter – 「城繁幸氏、池田信夫氏ら、元経済記者三宅雪子女史の「経済音痴ぶり」を聞いて、あきれる」

継続審議になっている派遣法。まさに、小泉構造改革のときに規制緩和などで、派遣社員が大幅に増えました。私は内部留保がある会社が派遣切りをするのが許せません。菅さんが、もっと財界にパイプを持ち、圧力をかけるべきだと思います。

民主党の三宅雪子議員のツイートが発端だ。派遣切りと規制緩和や企業の業績との関係以前に、「内部留保」という概念が理解されていないのが批判が集まった原因だ。ご本人はそういう指摘に対して完全否定の姿勢だが分かっていないのは明らかだろう(例えば、会計が分かっていないという指摘に対して、「多額に、という意味です」と答えているが、分かっていないことが一段と強調されただけだ)。

詳しくは会計の専門家に任せるとして、ポイントは内部留保が資本=BS(貸借対照表)の右側だということだ。BSの右側は基本的にお金ないし資産がどこから入ってきたかをメモっておく場所であって、企業がお金持ち(=資産が多い)であることを示すわけでもお金儲け(=利益が多い)をしていることを示すわけでもない。内部留保が多い企業は資産や利益が多い傾向があるとしてもそれは間接的な関係に留まる。資産が多いかどうかはBSの左側を見れば分かるし、利益が多いかはPL(損益計算書)を見れば分かる。

一般家庭で考えれば分かりやすい。サラリーマンにとっての利益とは給料だ(生活費は経費かという難しい話はおいておく)。入ってきたお金のうち使われなかった部分は家計に残り貯蓄となり、その積み重ねが資産だ。貯金する額が多い家計は給料が多かったり、既に貯めた金額も多いかもしれないがそうとは限らない。単に倹約家なだけかもしれないし、子どもの将来の教育費用を積み立てているのかもしれない。

内部留保が多いから負担をしろという考えは、こういった人々も十把一絡げに金持ちなんだからもっと税金払えといっているようなものだ。金持ちかどうかを知りたければ保有資産や年収で判断するのが自然だし、インセンティブを歪めない。先の例で言えば、教育費用を先に貯蓄すると貯金額(≒内部留保)は増えるが、教育ローンを組んで後で返済すれば貯金にはならない(負債が増え、支払利子という費用が発生する)。後者を前者よりも優遇する理由はない。

議員は経済部記者だったとのことだが、こんな話は利益処分の仕訳を切ったことがあれば分かることだろう。

長い説明が必要だからですよ。はい、終了 RT @A_xtu: 経済の話がツイート向きでないのはなぜか。国民を愚民扱いするのか RT @miyake_yukiko35: えー内部留保は私の言葉足らずですみません。経済の話はツイート向きではないのでこれにて終了にしましょう(^.^)。

上のまとめにある批判の数を考えると素晴らしいスルー力だが国会議員の姿勢としては如何なものだろうか。

変わるコンテンツの主流

ネットの主役は誰なのか。一つの指標は誰が一番帯域を使っているかだ。以下の表は北アメリカにおける帯域使用率トップ10だ(出展)。

Netflix’s Squeeze — No Not That One, The Other One

左側がアップストリーム、右側がダウンストリームを示している。アップストリーム(一般ユーザーからの発信)では相変わらずP2P(BitTorrent)が首位を占めているが、注目はダウンストリーム(ユーザーにとってのダウンロード)だ。なんとNetflixが20%を超える帯域を利用しており、その割合はHTTP、つまり通常のウェブブラウジングに迫っている。ビデオ配信だけ見てもYouTubeの二倍だ。その他にも大量の画像を共有しているFacebookや音楽ファイルをダウンロードさせるiTunesがトップ10に食い込んでいる。

映画やテレビにおいてもネットでのストリーミングへシフトが起きているのが分かる。日本ではまだこういったコンテンツのストリーミングはあまり行われておらず、今後このセグメントでどんなことがおきるか興味深い。

おかしなことばかりの「奨学金」

どうしようもない記事なのでブログでも。

奨学金の条件「社会貢献活動への参加」追加へ

文部科学省は、国費を財源とする無利子奨学金の貸与を大学生らが受ける際の条件について、成績や世帯収入に加え新たに「社会貢献活動への参加」を追加する方針を固めた。

税金が入った無利子奨学金を受ける際の基準に社会貢献活動が追加されるというニュースだ。ツッコミどころがありすぎて何から始めたらいいか分からない程のダメさ加減だが三点ほど。

名称がおかしい

まずは、何度も指摘しているが、「奨学金」という言葉遣いだ。無利子奨学金というのはあくまで貸与であって、政府の補助は「無利子」の部分でしかないはっきり教育ローンと呼ぶべきだ

目的に対して手段がおかしい

次に、この政策はその目的を果たすと思えない。

同省は、公費で学ぶ学生に社会還元の意識を根付かせたいとしている。

どうも希望と現実が混同されているようだ。社会貢献活動を義務付けると社会還元の意識が芽生えるというメカニズムを教えて欲しい。税金を払わせると寄付の心が芽生えるだろうか。

目的自体がおかしい

また、目的を達成するかどうか以前にその目的の設定に問題がある。奨学金や教育ローンの政策目的は社会的に望ましい(教育)投資に対して、補助金や流動性を提供することだ。決して「社会還元の意識を根付かせる」ことではない。条件・義務を増やすことはこの本来の目的に反するし、二つの目的があるとそれが達成されているかを測定するのも難しくなる。

ちなみにこのように一つの政策で複数の目的を達成しようという試みは、しばしばやりたいことがあるにも関わらず他人を説得できる策が思いつかないときに行われる。この場合であれば、「社会貢献活動を増やす」という目的があるのに、それを達成する有効な策がないために教育ローンという入れ物を利用している(どっかの外郭団体が無料ボランティアをほしがっているのだろうか?)。

社会貢献活動がそんなに重要なら、兵役のように全国民に義務付けてしまうこともできる(みんなが社会還元意識をもったほうがいいだろう)。それをしないのはそれだと支持を得られないからで、かわりに立場の弱い教育ローン受給者だけに絞ったのだろう。

最期に一文だけ繰り返し引用する。

成績や世帯収入に加え新たに「社会貢献活動への参加」を追加する方針を固めた

貧しい家庭の出身で一定の成績を修めている人にたった今から(!)社会貢献をしろと言っているようにしか読めない。よくもまあそんなことが言えると思う。