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競業避止特約の効果

November 13th, 2009

競業避止特約(covenant not to compete; CNC)が企業および従業員の人的投資に与える影響について:

The Harvard Law School Forum on Corporate Governance and Financial Regulation » Noncompetition Agreements

For most firms, the human capital of their employees is a core asset, but it is one over which they cannot exercise full ownership.

企業にとって従業員の人的資本は極めて重要な資産だが、(奴隷制がない以上)完全にはコントロールできない。

このことは、企業が従業員に対して人的な投資を行うインセンティブを低下させる。何故なら、投資を受けた従業員の市場価値が上昇して他の会社に移るかもしれないからだ。

競業避止特約は従業員の移転を防ぐことで、企業の投資インセンティブを回復する。しかし同時に、他の会社へ移ることができない従業員の自己への投資を減らす。

リンク先で紹介されている研究では、時代・州によって異なる競業避止特約の執行レベルの違いを利用して、競業避止特約が従業員への人的投資に与える影響を分析している。

We show that increased enforceability leads to fewer executive within-industry transfers, lower and more salary-based compensation, reduced post-transfer compensation, lower R&D spending and reduced capital expenditures per employee.

結果は概ね上のストーリーと整合する。競業避止特約は従業員の移動を困難にし、企業による人的投資を促すという当初の目的を達成する。その一方で、従業員本人による人的投資を妨げてしまう。

We find no evidence that the enforceability regime affects either firm market to book ratios or profitability.

企業の価値への影響はない。この理由としては、従業員による投資の減少が企業による投資の上昇を打ち消してしまうこと、企業間の人的移動の減少により知識の移転が妨げられるマイナスの影響を挙げている。

後者の影響はAnnalee SaxenianがRegional Advantageで提起したものだろう。カリフォルニアは競業避止特約の極めて弱い州で、それがシリコンバレーの繁栄につながったという可能性はある。

人的資本がより重要になっていくことは確実だ。しかし、そのこと自体は企業による投資を優先すべきか、労働者自身の投資とスピルオーバーを優先すべきかといういう問題の答えにはならない。どちらが重要かというのは、必要な人的投資についての情報を持っているのは誰かということで決まるように思われる(これはvon Hippelの議論につながるだろう)。

ブラックメールというビジネス

November 2nd, 2009

ブラックメールというのは脅迫状のことだ。脅迫状の法的な扱いについて非常に興味深い記事がある:

The Art of Blackmail – NYTimes.com via Market Design

Blackmail is a “wonderfully curious offense,” to use the phrase of Paul H. Robinson, a professor at the University of Pennsylvania Law School and his coauthors in a recent paper. A threat to tell the truth is no crime, and neither is asking someone for money. But if you demand money to prevent the truth from being told, Professor Robinson said, you’ve crossed the line. At its core, he explained, the offense is “a form of wrongful coercion.”

ブラックメールの定義は、真実の情報であり(substantially true)名誉毀損に当たらない情報を公開すると脅して金銭を巻き上げることだ。これは犯罪とされている。しかし法的にこれが違法であるのは非常に微妙だ:

  • 真実の情報を公開することは犯罪ではなく
  • 金銭を要求することも犯罪ではない
  • だが真実の情報を公開しないことを条件に金銭を要求することは犯罪である

ところがブラックメールとほぼ実質的に同じことをしても犯罪にならない方法がある。

Those confrontations, however, did not cross the line into the criminal realm, he said, because they had been sanitized by lawyering. Attorneys, he noted, can create a legal filing that promises to bring out unpleasant facts in depositions or during trial; a settlement is not, technically, a payoff. He called it “wrapping an extortion threat in a legal cloak.”

それは弁護士を雇うことだという。弁護士が示談に応じない限り裁判を起こしてその過程で相手が秘密にしたい情報を公開すると伝えることは犯罪ではない。示談は技術的に金銭的利得に当たらないからだ。

そもそも脅迫を犯罪にする根拠は何なのだろうか。私に公表されたくない情報があるとして、それを共有する人間と秘密を公開しないという契約を結ぶことの何が問題なのだろう。契約が成立するならば当事者ともに利得を得る。問題は情報が社会にでないことが社会的にマイナスかどうかだ。

これは以前に触れたインサイダー取引の場合に似ている。社会的に秘密にすべき情報は契約によって公表を規制する一方、公開すべき情報は資本市場における圧力によって自発的に公開される。

例えば脅迫の内容がある企業のビジネスモデルの欠陥だとする。その場合この情報は社会に公開されるべきで、脅迫が成功することは社会的に望ましくない。しかし、脅迫を犯罪にしたところで情報を公開するインセンティブがあるわけではない(公開会社であれば空売りした上で情報公開することは考えられる)。単に相対的交渉力の変化で脅迫で巻き上げられる金額が減るだけだろう。

また脅迫が刑事罰である点も気になる。情報を共有する前に結んだ情報保持契約を破ることは民事なはずだ。

この辺りの法的根拠はどうなっているのだろう。また日本でも同様の議論は成り立つのだろうか。

鶏が先か卵が先か

August 27th, 2009

Chicken & Eggという問題はネットワーク効果の強い市場では非常に重要である。とくに双方向性市場(two-sided market)では顕著だ。例えばアマゾンがそうだ。本を買う顧客がいなければ出版社は商品を卸さない。

以下のエントリーで起業家でベンチャーキャピタリストであるChris DixonがChicken & Egg問題への対策を挙げている。

cdixon.org / Six strategies for overcoming “chicken and egg” problems

彼の提案は六つだ:

  1. Signal long-term commitment to platform success and competitive pricing.
  2. Use backwards and sideways compatibility to benefit from existing complements.
  3. Exploit irregular network topologies.
  4. Influence the firms that produce vital complements.
  5. Provide standalone value for the base product.
  6. Integrate vertically into critical complements when supply is not certain.

一つ目は人々の期待を変えるものだ。アマゾンの例でいえば出版社が商品を卸すのに必要なのは顧客が来るだろうという期待だ。別に卸す時点で客がいる必要はない。コミットメントデバイスとしてGoogleのオープンソースソフトウェアが挙げられている。より適切な例としてはIntelのIntel Architecture Labが挙げられるだろう。Intelはx86という自社が実質支配するプラットフォームに関連する投資を行った。IntelがIALにおいて如何にコミットメントの問題にを注意していたかはPlatform Owner Entry and Innovation in Complementary Markets: Evidence from Intelに詳しい。

二つ目は互換性を持たせることで既存のネットワーク効果を利用するというものだ。個の場合もコミットメントが問題になる。MicrosoftがMac互換のOfficeを提供する際、それがいつまで維持されるかはユーザーにとって重要だ。Silverlightも同様だ。この戦略はEmbrace, extend and extinguishと呼ばれる。しかし必ずしもうまくいくとは限らない。OS/2の例もある。この戦略がどのような場合にどうやって成功するかも興味深い。

三つ目はとくに興味深い。一部のグループに的を絞ることで既存のネットワークを打ち破るというものだ。ここでは大学生が多いfacebookがどうやってFriendsterを追い抜いたかが例として挙げられている。いかに特定のグループを発見するかが鍵となる。

四つ目はプラットフォームの問題だ。不可欠なコンポーネントを持っている企業を味方につければ確かに競争には勝てるだろう。しかし、それを提携相手の企業はそれを知っているのでそれなりの見返りがなければ協力しないため、最終的に利益になるかは微妙だ。Sony / PhilipsのCDが事例として挙げらているが、この場合最も重要な点は交渉のやりかただろう。複数いる提携相手に別々に交渉していくことで「見返り」を減らすことができる。

五つ目は見落とされがちだが、要するにネットワーク性を減らしてしまうということだ。ユーザーがリスク回避的であれば有効だ。

最後の六つ目もやはりコミットメントが問題になる。AppleはMac OSX上で多くのアプリケーションを持っているがこのことは外部のデベロッパーにとっては大きな脅威となる。