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貨物船による大気汚染

センセーショナルなタイトルの次の記事:

How 16 ships create as much pollution as all the cars in the world | Mail Online

十六隻の船が世界全体の自動車よりも汚染を生み出してるというのはどういうことだろう。

As ships get bigger, the pollution is getting worse. The most staggering statistic of all is that just 16 of the world’s largest ships can produce as much lung-clogging sulphur pollution as all the world’s cars.

問題となっているのは硫黄汚染だ。なぜそんなことがありえるのか。

But, unlike power stations or cars, they can burn the cheapest, filthiest, high-sulphur fuel: the thick residues left behind in refineries after the lighter liquids have been taken. The stuff nobody on land is allowed to use.

それは船の燃料に対する規制が非常に緩いためだ。陸上では既に違法とされているような精製の残りかすが燃料として利用されている

Bunker fuel is also thick with sulphur. IMO rules allow ships to burn fuel containing up to 4.5 per cent sulphur. That is 4,500 times more than is allowed in car fuel in the European Union. The sulphur comes out of ship funnels as tiny particles, and it is these that get deep into lungs.

国連の一部である国際海事機関(International Maritime Organization)による船の硫黄の許容量はEUの自動車燃料のそれの4500倍だそうだ。

For decades, the IMO has rebuffed calls to clean up ship pollution. As a result, while it has long since been illegal to belch black, sulphur-laden smoke from power-station chimneys or lorry exhausts, shipping has kept its licence to pollute.

IMOは海洋運送を行う企業の利益団体のようになっていて、船の燃料に関する規制を悉くはねのけているそうだ。

Smoke and sulphur are not the only threats from ships’ funnels. Every year they are also belching out almost one billion tons of carbon dioxide. Ships are as big a contributor to global warming as aircraft – but have had much less attention from environmentalists.

もちろん二酸化炭素も大量に排出される。こんなことが可能となっている大きな原因は、自動車や飛行機に比べて船の環境汚染への注目が薄いことだという。

ここでは指摘されていないがもう一つの理由は規制のあり方だろう。環境汚染物質の排出量に関しては数量規制がかけられることが多い。リッター何ミリグラム以内といったものだ。しかし、数量規制は非常に非効率なことが多い。この例のように一部の用途が抜け落ちていたり、建材のホルムアルデヒドのように注目が集まると過剰な規制が起きたりする。炭素税のような価格によるコントロールをより積極的に利用すべきだろう。

ブロードバンド普及への壁

アメリカの連邦通信委員会が公表したブロードバンド普及を阻む七つの要素が紹介されている:

FCC outlines seven biggest barriers to broadband adoption

Federal Universal Service Fund (USF) Structure: Doesn’t support broadband deployment and
adoption despite over $7 billion spent to subsidize telecommunications annually.

まず指摘しているのはユニバーサルアクセスのための基金の運用だ。主に固定電話のために利用されているという問題や高コストの場所に支出されることがインセンティブを歪めるなどの問題が指摘されている。

基金の運用を新しい時代に適応させ、効率化することは重要だが、そもそもこういった基金の必要性も議論されるべきだろう。孤島にまでブロードバンドを普及させるのは非効率だし、こういった基金が既得権益となるのは避けようがないことであることに注意する必要がある。

Broadband Adoption Gap: Increases the cost of digital exclusion to society

所得階層や人種間の普及率の格差が問題にされている。これはアメリカならではの部分でもある。最低限のアクセスは携帯電話でも可能だし図書館などもある。所得格差は所得再配分で対処すべきだ。

Consumer Information Gap: Undermines competition, innovation, and choice

消費者が実際の接続速度についての情報を持っていないという問題。これは情報の非対称であり、実測でどの程度かを表示させることを義務付けるないし、そういった情報を国が集約することは社会厚生上プラスでありうる。

Spectrum Gap: Frustrates mobile broadband growth

テレビからモバイルブロードバンドへの周波数の移転は行うべきだ。既存のテレビ局への周波数を、携帯同様オークションにかければよい。但し、テレビ局が大反対するのは確実なので政治的にどうするかというのは難題だ。一段とテレビの視聴が減り、その政治力が落ちるまでは実現できないかもしれない。

Deployment Gap: High costs can limit broadband deployment

設置コストが高い地域の問題。これは別に政府がどうにかすべきことでもないだろう。あまりにも設置コストのかさむ場所にはブロードバンドを整備しない方がよい。但し、需要が少ないと自然独占が生じる問題にはある程度対処ができる。それはブロードバンドを提供する消費者協同組合を推進することだ。これにより独占の弊害を減らせる。田舎であれば消費者同士の均一性は高いし、人間の出入りも少なそうなのでうまくいくように思う。

Television Set-Top Box Innovation Gap: Hinders convergence, utilization, and adoption

アメリカの家庭のテレビ普及率は99%、PC普及率は76%だという。しかし携帯でのネット接続も可能だし、この数字に注目する必要はあまりみえない。今PCを持っていない家庭に頑張ってPCを配ってもウイルスだらけになるのがおちだろう。ちなみにうちにはテレビは一台もない。

Personal Data Gap: Users need to control their own information

データセキュリティに関する話だがブロードバンド普及からはあまり関係ないだろう。

ブロードバンドがそこまで重要なら勝手に普及するはずであって政府の関与が必要なようには思えない。単なる利権の温床になるような気がする。

なぜ資格試験や教育が必要なのか

大学生は多すぎるのか」というポストに対するコメント欄で、司法試験制度について議論があったので資格制度一般について論じてみる。医師国家試験についてはちょうどこちらで提案がなされている。

何故試験や教育が必要かを考えずにどのような試験や教育が望ましいかを決めることはできない。通常のサービス業において試験や教育に関する制約は存在しない。単に市場での競争に任せておけばいいからだ。では司法サービスや医療サービスを市場へ任せられない理由が何だろうか。

経済学的にはこれらの専門家によるサービスは信用財(credence good)として捉えられる。信用財とはある財の価値が購入してもなお分からないようなケースである。よく挙げられるのは車の修理である。消費者にとって分かるのは車が動くか動かないかだけだ。実際に修理に何が必要でどれだけの費用がかかるかは分からない。そのため修理工は必要のないサービスを勧めたり、過大な請求を行う強いインセンティブをもっている(書いていてWillyさんのアメリカでの自動車修理に関するポストを思い出した)。消費者はこれに対して、社会的に非効率な方法で対応する。修理すれば低費用で直るものを直さなかったり、修理で直るものの全交換を要求したりする。

弁護士や医師のサービスはこの修理工のケースによく似ている。消費者が分かるのは裁判の結果と治療の結果だけで、そのための費用や本当に専門家が努力したのか、そもそも能力のある専門家だったのかについては非常に曖昧な情報しか持っていない。もし消費者が修理工と同じように弁護士や医師のサービスを捉えるなら、サービスの結果だけで報酬を決めるだろう。そしてそのことは社会的に非効率だ。例えばそもそも治りにくい病気に効果のある治療は利益が出ないため、誰も相手にしなくなる。また専門家が努力したとしても運悪く結果が出なかった場合にもそもそも努力しない場合と同じ報酬なので努力するインセンティブ自体が減少する。

では、どのような対策が可能だろうか。その一つの方法が資格を設けることだ。専門家の能力を保証することで、もしサービスが一定の結果をもたらさなかった場合には専門家の努力が足りなかったと推定できる(能力の保証がなければ運が悪くて失敗したのと区別がつかない)。またある程度の能力を持っている人間だけを選別することで、サービスを提供するための費用を抑えられる。能力のない人間にとって能力のある人間と同じだけの結果を出すのは大変だからだ。これは契約締結後に専門家が努力するための(限界)費用を減らすので非効率を抑えられる。また資格取得に投入した費用はあとで取り戻すことができない(サンクする)ため、資格を取得した専門家はその資格を失うような行動を取らないように努力することも効率性上昇に寄与する。修理工や医師のようにサービスの質に関する情報の非対称が時間の経過により判明するものではサービス提供後の保証の提供も役立つ。修理や手術後のアフターケア保証がそれだ。

但し、この議論は必ずしも制度としての資格が必要であることを説明しないことには注意が必要だ。その理由は三つほどある。

  • サービスの購入が頻繁であれば評判によって質は保たれる
  • 資格が必要だったとして政府がそれを提供する必要がない(民間資格)
  • カルテルの危険性
  • 垂直統合

まずこれまでの議論は基本的に静的であったことに注意が必要だ。もしこの状況が繰り返し起きるならこのような問題は起きない。消費者は専門家に関する情報を蓄積するため、評価の悪い専門家には依頼しなくなる。これを知っている専門家は最初から必要な努力を払うようになるし、それだけの結果をそもそももたらせない、ないしもたらすためにコストがかかりすぎる能力のない・低い人は市場から撤退せざるをえない。例えば、大企業であれば弁護士事務所に仕事を依頼することは日常茶飯事だろうから信用財の問題は軽微だろう。この議論は一般消費者には適用できないことには注意が必要だ。普通の人は弁護士サービスを多くて数年に一度しか利用しない。但しこの点はインターネットなど情報の共有を可能にする技術により緩和されつつある。

民間にまかせれば十分なことも考えられる。例えば自動車修理であれば自動車メーカーが修理工の能力を保証することがありえる。修理工がそういった保証を受けるインセンティブがあるだけでなく、メーカーにとっても自社製品の修理市場が効率的になることはメリットだ。効率的な修理が可能な車種は消費者にとって価値が高く、メーカーはその分価格を引き上げることができる。このように業界全体の利益を代表するような組織があれば、こういった資格制度は勝手に提供される

次の問題は前段落の業界組織にも当てはまる。資格制度を提供するインセンティブを持つのは業界を代表する組織だが、彼らは同時に価格を釣り上げる強いインセンティブを持っている。これは二種類の経路で行われる。一つは、資格制度のための組織を通じて直接価格を調整することだ。業界団体が価格や数量に関する情報を集めるのがこれにあたる。こういった情報の共有は共謀による価格つり上げを容易にする。二つ目は資格制度を使った新規参入を制限することだ。供給が減ることで独占利潤が生まれるだけでなく、共謀の結成も容易になる。業界団体の関与を減らせば問題は緩和するが、専門家を評価する能力が専門家以外にはあまりないため実際には困難だ。資格が政府によって制度化されていてもいなくてもこの問題は生じるが前者の場合には複数の資格認定機関による競争がないためより深刻だ(政府が関わってない場合には例えば認定機関が一つでも潜在的な競争がある)。

政府の関与がなくとも垂直統合で解決されるという考えもある。一つの方法はサービス提供側の統合で、自動車メーカー自らが整備サービスを提供するのがそれに当たる。もう一つの方法はサービス購入側の統合で、企業による法務部の立ち上げ、顧問弁護士の雇用などがこれに当たる。インセンティブが合わない問題を統合によって一気に解決するわけだ。但し、垂直統合だと競争・専門化の欠如という問題が生じる。

資格・教育に関する問題を議論する際にはこれらの長所・短所を勘案したうえで資格・教育制度の維持費用と見比べて判断する必要がある。

ネットとカスタマーサービス

日本メーカーのカスタマーサービスについての記事:

アゴラ : これでいいのか?最近のカスタマーサービス- 上村敏

元の文章は読みにくく、論点が整理されていないが、コメント欄で補足されている:

該当の件は液晶テレビの購入時の問題で、BS/CSチューナーを搭載している考え商品を購入したのですが、実際には搭載されない商品でした。ネットであわ せてパラボラアンテナも同時購入していたので、店頭での購入であればまずこのような事態にはなっていなかったのでしょう。販売店およびメーカーサイドでは開梱後の返品および交換は一切受けられないとに回答でした。消費者センターの見解ではBS/CSチューナー非搭載などのデ メリット表示が不十分であるとの指摘をうけましたので、販売店及びメーカーに文書にて回答をお願いいたしました。その結果販売店より商品交換の回答が、電 話にて(文書ではなく)あり昨日商品交換が完了しこの問題自体は解決いたしました。

小売店が商品説明のような正の外部性(=他の小売店も得をする)の強いサービスを行う場合、再販売価格維持制度がなければそのサービスが過小供給され社会厚生が低下することが知られている。

再販売価格が拘束されていなければ、小売店が頑張って商品説明を行っても他の安い店で買われてしまうからだ。ここで商品説明は一種の公共財となっている。

公正取引委員会による再販売価格拘束の取り締まりに加えて、ネット販売の普及により消費者が安い他の店で購入することはより簡単になった。この環境下で十分な商品説明が行われないのは自然な帰結だろう。

しかし、だからといって再販売価格拘束が正当化されるわけではない再販売価格を固定することは小売店間の競争を妨げるという問題があるからだ。その例外に当たるのが再販制度の認められている著作物だ。

ちなみに、

ただ私のように消費者センターまで問題を持ちこまなければこの程度の問題が解決できないのかという疑問がありました。

とあるが小売店同士の競争を確保するためにはある程度仕方ないだろう。商品情報が過小供給される以上、消費者はよりよく情報を集めて商品を購入する必要がある。小売店は商品販売にかかるリスクを負っており、表示不十分で間違って購入された商品の返品を受け入れるインセンティブがない(消費者センターに叩かれれば受け入れるようだが)。

アメリカでは家電製品はレシートがあれば無条件で返金に応じるという商習慣があるということを思い出しました。ただ結婚式に必要なビデオカメラを買い、終了後そのカメラを販売店に返品にくるといった例もあり、まったく信じられない商習慣であると感じました。

アメリカ式の返品制度には反対のようだが、解決策の一つであるのは確かだ。また、ある程度の問題はコストダウンのために受け入れるしかないという意見について、

熾烈な国際競争では決して生き残れません。

と述べているがそんなことはないだろう。現にアメリカのカスタマーサポート(ないしカスタマーサービス一般)は日本とは比べ物にならないほど低い。またそもそも小売店レベルのサポートの話が国際競争と何の関係があるのかもわからない。

トービン税の問題

トービン税については前取り上げたが、それに対する反対意見があったので紹介:

Tobin tax: How to reveal you don’t understand risk : Core Economics

A great way to reveal that you only understand risk management in static terms is to advocate a Tobin tax on financial transactions.

トービン税はリスクマネジメントを静的にしか理解していないことを示すという。

People who look at the financial system and see the massive growth in trading volumes of capital market and risk market instruments and conclude that it is all just speculation run amok, just don’t get it.  They don’t have a good understanding or intuition about how risk is dynamically managed in the economy.  They want a Tobin tax to suppress speculation, not realising that they will damage the allocative efficiency of the financial system.

著者によれば、資本市場・保険市場の拡大は投機ではなく、リスクが動的に管理されている証拠であって、トービン税を掛けると金融システムの効率を損なうそうだ。

市場のどこまでが投機なのかというのは実証的な問題なのでよく分からないがいまいち説得力がないように思う。理由は以下だ:

  • 現状はファーストベストではないだろうから税金を掛けると結果が悪くなるとは一概に言えない
  • トービン税が非効率性を生むとして、問題は他の経済活動に税金を掛けるのとどっちが非効率かということだ

前者についてはそもそもトービン税の推進派も税金が何らかの非効率を招くことは否定しないだろう。しかし実体経済へのマイナスの影響を与える投機行動を直接規制できないのであれば取引全体を規制することは正当化しうる(公害を取り締まる方法がないことを前提とすれば競争を促さないことが正当化されるのと同じだ)。

後者は税の超過負担の問題だ。一定の税収が必要なことを前提とすれば、必要悪としての税金はなるべく経済に歪みをもたらさない場所に掛けるのが望ましい。よってトービン税の非効率性を議論するなら、他の税金にくらべて非効率だという必要がある。

まあ、トービン税が導入されることは政治的になさそうなので実質的にはどうでもいい気もする。