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Facebookとリクナビ

Facebook Japanの児玉太郎さんへのインタビューが話題になったが、早速日本でのペネトレーション戦略が明らかになった。

リクナビ2012|学生のための就職活動・就職情報サイト

Facebookが就活中の学生に対し、同じ大学で同じ分野を志望する学生や内定生、OBなどを検索する機能を提供し、それにリクナビがトラフィックを誘導している。

これはFacebookが日本に足場を築く上で賢い作戦だ。「Wave開発中止のポイント」で述べたように、ネットワーク効果の強い業界に参入するためには「ブロック」を抑える必要がある。アメリカでFacebookは一流大学の学生というブロックから始まった。

リクナビとの提携は「就活生」という日本独自の集団を狙っていることを意味する。就活生にとって必要なコミュニケーション相手は他の就活生や企業関係者にほぼ限定されているためブロックとして優秀だ。そして、リクナビはこの就活生グループに一気にリーチする機会を提供するだけでなく、企業関係者に対してFacebookに窓口を設けるように働きかけることができるだろう(いまのところこのディールでリクナビがどう利益を上げるのかは明らかになっていないようだが、ここから収益を上げることも可能だろう)。

過去の自分のネットでのアイデンティティと就職活動におけるそれとを区別したいという人は多いし、就職に使うのであれば名刺同様、実名でなければ用を果たさないFacebookがいわばアメリカにおけるLinkedInのようなスタンスで、大人のためのソーシャルネットワークというポジション取りをするのは実名制を保持したまま日本で展開する方法としては適切だ。今までは学生だから匿名で好きなことを書いていたかもしれないが、これからは実名で自分の情報を管理した上でネットワーキングすべきなんだと問いかけるわけだ。

また、既に新卒の就職市場で圧倒的なプレゼンスを誇るリクルートが、LinkedIn的な独自のキャリア系ソーシャルネットワークを作る方向ではなく、日本で展開し始めたFacebookと提携するというのは企業の姿勢として面白い。流石といったところか。

P.S. Facebookのガイド本の著者としては大変ありがたい展開です:)

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「無邪気に信じて」いるかは関係ない

日本でのGoolgeとYahoo!との提携について何だかよく分からない記事。

検索エンジンと個人情報の利活用 – アゴラ(山田肇)

危惧を強調する側は次のように主張した。「Yahoo! Japanがグーグルの検索エンジンを利用すれば、ますます個人情報がグーグルに集積される。この分野はネットワークの外部性が強いので、他企業が対抗することはむずかしくなるだう。独占企業の登場は長期的にはイノベーションの可能性を減じるものだ。」

GoogleとYahoo!が提携することで個人情報が云々というのは競争上の問題と分けて考えるべきであろう。現状の個人情報保護法が過剰ならそれは適正化するのが筋だ。個人情報を持ち出さなくてもこの提携に対する公正取引委員会の対応に問題があることは変わらない。

「提携の是非はYahoo! Japanの株主が決めればよいことであって、外からあれこれ言う必要はない」という意見もあった。

逆に反対論はというと、競争政策の問題を株主が決めればいいなどという反対意見はお話にならない。JALとANAが合併するのはJALとANAの株主が決めればいいことではない。価格がつりあがって困るのは消費者だ。

これに対して「グーグルの創業者は、世の中のあらゆる情報が連携し利用されることは人々の利益になる、と無邪気に信じているだけだ」という意見が出た。[…] 無邪気に信じて規模を拡大しただけだとしても、市場に悪影響を与える力を持つようになり、それを行使すれば、独占禁止法上の問題になるということだ。

こちらも何を言いたいのだろう。子どもの責任能力の話をしているのではない。企業が「無邪気に信じて」他の大企業と弁護士が念入りに作った契約を結んで実質的なシェアを伸ばし顧客たる広告主に対する価格を吊り上げたらそれは競争政策の対象だ。「無邪気に信じて」いるかは関係ない。大体、企業について無邪気かどうかをどう判定すればいいのかも分からないし、世界有数の大企業がそんな法律知らなかったで済むわけないだろう。

個人情報保護法が過剰でイノベーションを阻害するという論点は分かるし、知的財産に関してもGoogle Booksのような試みはアメリカでなければできなかっただろう。しかし、過剰な規制を問題にするなら、実際に過剰であるケースに正当な批判を加えるべきで、正当なケースに対する的外れな反論を紹介するのは逆効果だろう。

航空業界の再編

日本ではJALの整理解雇が話題だが、アメリカの航空業界では破綻なんて珍しくもない。

Converging Flight Paths – Graphic – NYTimes.com

1978年の自由化以来、ローコストキャリアーの台頭から、合併・破産を繰り返してきた(ローコストキャリアーもまた生き残っているのはSouthwestとJetBlueだけか)。レガシーキャリアで破産していないのAmericanぐらいだ。

とはいえ、この熾烈な競争は消費者にとっては急激な低価格化を意味し、それを先導したSouthwestはこの図にある全期間において業界最高の利益率を達成している。

Airline – Wikipedia, the free encyclopedia

Analysis of the 1992–1996 period shows that every player in the air transport chain is far more profitable than the airlines, who collect and pass through fees and revenues to them from ticket sales. While airlines as a whole earned 6% return on capital employed (2-3.5% less than the cost of capital), airports earned 10%, catering companies 10-13%, handling companies 11-14%, aircraft lessors 15%, aircraft manufacturers 16%, and global distribution companies more than 30%. (Source: Spinetta, 2000, quoted in Doganis, 2002)

もっとも航空会社は一般に低リターンな産業としても有名で、長年、平均リターンは資本コストを下回っている。逆に、航空会社がフィーの徴収をいわば代行している空港会社などの関連業界はどれも比較的高いリターンを誇っている。

グルーポンの満足度

急成長を続け、日本でも参入の相次ぐグルーポン系のビジネス。その一方で、長期的な展望への疑問もある。グルーポンを利用した企業はどう考えているのだろうか。

グルーポンを利用した企業を調査したペーパーが公開されている。360の企業にコンタクトし、150の企業から回答を得ている。内訳はレストランが32.7%、教育関係(語学や料理の教室など)が14%、サロンやスパが12.7%、ツアーが8%だ(産業によって回答率にシステマティックな差はあるだろうが、この内訳自体も興味深い)。

グルーポンが利益になったかどうかについて2/3の企業がなったと応える一方で、48社が利益にならなかったと答えている。その原因としてはクーポン以外の購入がなかった、リピートしなかった、チップが少なかったというようなことが挙げられている。グルーポンが主にプロモーションで使われていることを考えると、クーポンだけでは物足りない内容にして追加的・補完的な消費を狙ったり、リピートする動機を与えることが重要であることが分かる(日本ならチップはそもそもない)。

産業別で見るとレストランが特に否定的とされている。これはクーポンの内容が料理であるため追加消費が少なかったり、余程美味しいのでなければ次から正規料金でリピートしようとは思わないためだろう。飲食店でグルーポンを有効活用するなら、料理プラスお酒一杯をクーポンにして追加の注文を狙うといった工夫が必要かもしれない。もしくは結婚式などイベント利用がメインのお店で下見に利用しやすいようなクーポンにするのもいいかもしれない。

成功例としては、スパの82%はグルーポンが利益につながったと答えている。これには供給量が固定されていて季節変動があるなどイールドマネジメント面での効果が大きく、しかも(飲食店などにくらべ)他に有効なマーケティングチャンネルがないといった理由が考えられる。

このペーパー自体は、そもそも回答のあった企業という偏ったサンプルに基づいているし、相関関係と因果関係がぐちゃぐちゃっぽい統計分析なんかをしていて微妙だが(そもそも統計分析よりはケーススタディのほうが適切な分析対象にも思える)、データとしてはとても面白い。グルーポン系のビジネスをしている企業であれば自前の完全なデータを持っているのでもっと意味のある分析が可能だろう。どのサービスが競争を勝ち抜くかはそういった自社のデータの分析能力で決まるかもしれない

Amazonのユーザー参加

食べログが(悪い意味で)話題になったが、ユーザー参加型のサービス自体はこれからも伸びる一方だ。

What Motivates Amazons Hardcore Raters?

ユーザーレビューといえば老舗とも言えるのがAmazonだ。Amazonでは当初からユーザーが書評をアップロードする仕組みができている。この記事ではそのAmazonで大量のレビューを公開しているユーザーのプロフィールやモチベーションを紹介している。

And that explains why Amazon’s reviewer system is so successful. It’s built entirely on the back of the everyman. Cholette might call herself a fitness enthusiast, but she still spends most of her hours doing things the average Amazon shopper can relate to: working, commuting, being with family.

こういったレビューがAmazonにとって極めて重要であるのは明らかだ。一般読者による感想は、Amazonにとって費用がかからないと同時に、他のユーザーから見て分かりやすい視点で書かれている。

Under the new ranking system, Cholette places fourth because 93 percent of her comments have been chosen as helpful by readers. She also has more than 240 fan voters, or customers who frequently return to see what she has to say.

ランキングやファンといったシステムはレビューの書き手にやる気を与えるだけでなく、一般ユーザーが価値あるレビューワーを見つけるのを容易にする。役に立つレビューを見たいのなら、ランクが高いレビューワーを見ていったり、気になるユーザーがファンになっているレビューワーを探したりすればいいわけだ。

Publishers recognize the value in this system. Klausner, Grossman wrote back in 2006, receives an average of 50 free titles every week from publishers hoping to get her attention — and her review.

もちろんこのビジビリティーは何も一般ユーザーに対するものだけではない。レビューしてくれる人を探している出版社にとっても有用だ。Amazonのレビューワーランクで上位にくれば多くの出版社が評価コピーを送ってくる。

Artist representative and gallery owner Grady Harp, another twelve-year Amazon veteran, also receives galleys from new writers looking for an opinion on their work.

新人作家が意見を求めてくることもあるそうだ。

Harriet Klausner may not be a self-promotion robot for publishers, but it seems they are benefiting from the system. Send book to Beth Cholette, get review, sell more books. It’s a win-win-win, for publisher, for user and even for Cholette.

レビューワーは本をもらったり、仕事につなげたりできるし、出版社はレビューを書いてもらい本を売ることができる。ユーザーもそのレビューを参考にすることができる。こういった関係を作り出すことで、小売店たるAmazonは大きな価値を創造している。レビューはストックなので長年続けることで新規参入者にはない競争上のメリットになっている。

どうやって参加者全員に価値を提供し、コミュニティを創り上げていくのかを考えることは、「消費者」が情報発信能力を持つ(ないしこの場合持たせることができる)時代に重要なこととなっている