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孤立した文明の発展

近代以降、地理的な孤立が経済発展の妨げになっていることは国ごとの比較から明らかになっていますが、それがそれ以前の時代にも通用するのかについて:

Economic Logic: Isolation and development

紹介されている論文によれば、

This paper establishes that prehistoric geographical isolation has generated a persistent beneficial eff ect on the course of economic development and contributed to the contemporary variation in economic development across the globe.

航海・航空技術のない時代における各文明の他の文明と距離がそれ以降の文明の発展のプラスの影響を与えたそうだ。方法論的にはかなり穴だらけな気もする(従属変数の選択、内生性など)が直感的にはわかりやすい結果だ。

1500

Isolation index vs log population density in 1500CE

2000

Isolation index vs log population density in 2000CE

技術発展のない時代においては孤立していることで戦争などに費やす資源を生産的な活動に割り当てられる。しかし、多くの国が集まっていることによる技術の共有・交換などの効果が孤立していることのメリットをそのうち上回るのだろう。

これはCivilizationというゲームをやったことがあればピンとくる現象だ。文明を発展させるゲームなのだが人類史と技術発展・地理的な要因との関係を極めてよく再現する非常によくできたゲームである。コンピュータでゲームをやったことのある人もない人も是非試してみてほしい。

特に子供がいる場合はお勧めだ。Ph.D.の学生にはこのゲームが好きだという人がとても多い。自分の学部でもよくいるし、前一緒に住んでいたオーストラリア人の化学のPh.D.も、今住んでいるポーランド人の数学のPh.D.も何故かこのゲームが好きらしい。頭のいい子供を育てる方法なんていう本を読むよりは効果がありそうだ。FacebookにはAll the history I know, I learned from playing Civilizationなんというグループもある。

ノミクス

前のエントリーでScroogenomicsを紹介したがJoshua Gansは以下のような発言をしている:

Joel Waldfogel in his new book, Scroogenomics (will the onomics trend know no end?) tell us in a series of essays why you shouldn’t buy presents for the holidays.

ScroogenomicsはScrooge+nomicsで出来ている。もちろんnomicsはeconomicsから取ったものだが、元々はギリシャ語のoikos+nomosだ。oikosは家庭という意味でnomosは習慣とか法律という意味だ(ギリシャ哲学におけるノモスとピュシスの話は大学にいけばどこかで聞くだろう)。語源的にはnomicsだけを他の単語につなげるというのはあまり筋が通っていない。nomic(s)ないしnomyが語尾になっている単語は他にもergonomics、mnemonic、taxonomyなど色々ある。onomicsとなっている場合-o-は繋ぎで入っている(psych-o-logyなどと同じ)。

エコノミクスとの関連で作られた造語としては、Reganomics、Obamanomicsのような人名やFreakonomics、Parentonomics(Joshua Gansの本だ)のような経済書がある。ちなみによく似た接尾辞-omicsがあり、こちらもカタカナでオーミクスと言えば通じる(?)ほどよく使われている(本当はReganのようなnで終わる単語にnomicsをつける場合は-o-をはさむべきなのだろう)。

クリーピー

アメリカでおそらく最も有名なオンラインコミックxkcdから:

xkcd – A Webcomic – Creepy

電車で気になる女性を見つけた男性が声を掛けようとするが、一人で最悪の事態を想定して何もしない。でも女性も実は興味を持ってるというプロット。

ここの四コマは割合いつも面白い。今回は二点ほど考えることがある。一つはこの場合の男女マッチングがうまくいかない理由は情報が不完全であるためだということ。この場合両者が興味を明らかにすれば共に得するはずだ。しかし、均衡において情報は隠れたままだ。登場人物の男性は失敗した場合の損失=恐怖が大きすぎるので相手から明らかなシグナルがなければ声を掛けない。それに対して女性から明らかなシグナルを送ることは相手が女性のことを軽い女だと誤解してしまう(ないし知ってしまう)可能性がある。よって両者ともに何もしないことが均衡になる。この問題については、複数回の接触による情報のやりとり、お見合いのようなシステムが解決策になる。しかしこれらはどれも現代社会では役に立たない。見知らぬ人間が出会いをし続けるという状況自体がごく近代の産物であるためだ。

それに加え進化心理学的な問題がある。上のような解決策はどれも両者の選好を所与としたうえで情報問題をどのようなメカニズムで解決するかということだが、冷静に考えればそもそも両者の選好はあまり合理的とは言えない。例えば男性が声を掛けて失敗することを恐れるのは合理的なのか。現実には、この四コマに出てくるようにfacebookを通じて失敗が知れ渡ることはない。最悪彼女の友達のネタになってもそれ以上の何かがあることではない。よって男性が失敗それ自体を恐れるのはあまり賢いようには思われない。

これは進化論的に説明できる。人間は通常のリスク(特に非常に小さな確率で生じる現象)についてはしばしばリスク愛好的であるのに対し、社会的なリスクについては極めてリスク回避的である。猿が自分の遺伝子を広めるためには子孫が繁栄する必要がある。ある猿にとって森を離れて歩き出すことはその猿自身にとって期待値に言えば自殺行為だが、成功した場合には子孫が繁栄する。その猿の人生にとってはマイナスでも進化論的には非常に適切な行動なのだ。そして我々はみなそういう猿の末裔である。これにより人間が極めて小さな確率を過大評価すること、例えば期待値が価格の半分でも宝くじを買うという行動、が説明できる。それに対し、社会的なリスクは猿にとって致命的だ。二十匹の群れにおいて村八分にされることは個体の死を意味する。そのため社会的行動においては非常に慎重になるのが望ましい。

しかしこれらは何れも現代社会においては当てはまらない。宝くじが自分だけ当たるかもしれないと思うことも、アイドルをみて自分もなれるんじゃないかと思うことも本人の人生にとって期待値的にプラスにはならない(大抵の人が家庭を持って子孫を残せる世の中では進化論的にさえ有利でない)。同じように社会関係における過剰なリスク回避行動も本人の得にならない。この四コマの場合であれば男性が失敗を気にするのは不合理だ。失敗してもまたその女性と会うことはおそらくない。バーであれば次のバーに行けばいいだけだ。最悪違う街にでも引っ越せば何も分かりはしない。

女性にとって同様だ。噂が広まらずほぼ確実に避妊が可能な社会において女性が実際に貞淑であろうとするインセンティブはない。但し、男性には、少なくとも長期的な関係においては、そういう女性を望む強い選好がある点だけは多少違う。男性は子供が本当に自分の遺伝子を引いているかを確認できないからだ。そのため女性は貞淑である必要はないが、そうである振りをする必要がある。具体的には、会話が始まっても簡単に関心を明らかにせず、時間を掛けるということになる。それに対し男性は相手に合わせて待つか、時間を掛けずとも身持ちが悪いということにはならないと説得することになる。この構造は子供に対するDNA鑑定が一般化し、そのことに適合した制度ができれば多少変わるだろうが当分はこのままだろう。

It DOES=(

Climate change depresses beer drinkers – environment – 13 September 2009 – New Scientist

IF THE sinking Maldives aren’t enough to galvanise action on climate change, could losing a classic beer do it?

It DOES=( モルディブが沈むという話だと引越し費用があれば足りるじゃないかという人でもビールがなくなると困るという人は実際たくさんいそうだ…。

但し”a classic beer”なので別にビールが全部なくなるわけじゃない。

Climatologist Martin Mozny of the Czech Hydrometeorological Institute and colleagues say that the quality of Saaz hops – the delicate variety used to make pilsner lager – has been decreasing in recent years. They say the culprit is climate change in the form of increased air temperature.

問題になっているのはピルスナーに使われるホップ。まあ一種類ならと言いたい所だけど日本の大手ビールはどれもさっぱりとしたピルスナー。暑くなってビールがなくなるのは困るので温暖化にも気をつけましょう。

チーズ中毒

昔からチーズが好物だ。今日もブログの記事を書きながらライデンとプロボローネをかじっていた。机にチーズを持ってくると持ってきただけ食べてしまう。いつものことなのであまり気にしていなかったが、よく考えれば何かおかしい。

チーズの主成分はたんぱく質と脂肪だ。しかし、チーズが欲しくなるときは別にたんぱく質や脂肪が欲しい時ではない。たんぱく質が欲しい時はローストビーフなんかが無性に食べたくなるし、脂肪の場合はアボカドなどが浮かんでくる(そもそも脂肪が急に食べたくなることはほとんどない;普通に生活していれば十分に摂取できるからだろう)。おそらく何か中毒性のある化学物質が含まれているのではないかと思い、ちょっと検索したらすぐに見つかった。

Breaking the Food Seduction

Cow’s milk—or the milk of any other species, for that matter—contains a protein called casein that breaks apart during digestion to release a whole host of opiates called casomorphins.

牛乳(ないし動物の乳一般)に含まれるカゼインたんぱくはカゾモルフィンというペプチドを代謝過程で生成する。カゾモルフィンはモルヒネ同様にオピオイド受容体をブロックする。

As milk is turned into cheese, most of its water, whey proteins, and lactose sugar are removed, leaving behind concentrated casein and fat.

ミルクをチーズにする過程で水分やホエイたんぱくを含む乳清が取り除かれるため、カゼインの含有率が高まる。

It appears that the opiates from mother’s milk produce a calming effect on the infant and, in fact, may be responsible for a good measure of the mother-infant bond. No, it’s not all lullabies and cooing. Psychological bonds always have a physical underpinning.

もちろんそのような物質が多くの動物の乳中に含まれるのには理由がある。麻薬的な効能を通じて母親と子供との関係を強化するわけだ。

Casomorphin from ChemgaPedia

Casomorphin from ChemgaPedia

カゼインの代謝ができない人はチーズにアレルギーを示すが、これはアルコールを代謝できない人がいるのと同じことだろう。遺伝的に中毒になりやすい人とそうでない人がいるということだ。

As milk is turned into cheese, most of its water, whey proteins, and lactose sugar are removed, leaving behind concentrated casein and fat.