費用効用分析の運用改善

UCLAのMark Kleimanによる費用便益分析への提案:

The Reality-Based Community: Reforming regulatory benefit-cost analysis

彼が挙げているのは三つ:

  1. 所得分配を考慮しない
  2. 間接的・長期的・不確実な要素の排除
  3. 市場の存在しない財の評価における問題

一番目の点については理論上は関係ない。日本においてはむしろ利点だろう。アメリカでは共和党を中心に福祉政策や累進税への支持が少ないが、日本では政治家・官僚による利益還元的な行動の方が問題だ。当然、確実に便益がマイナスな低所得者向け住居提供のような政策は非常に打ちにくくなるがそれは事実便益がマイナスである以上より説得力のある理由が必要というだけの話だろう(例えば、住居であればお金で渡すよりも確実に対象を特定できるとか)。

二番目の問題についてはより精密な確率の推定を提案しているがもっと根本的な難点がある。それは不確実性を計算に入れた後何を指標に政策を選ぶかだ。極端な例でいえば、費用や便益が平均値を持たないような分布もありえる。国がどの程度リスク回避的な政策選択をすべきということもある。

三番目はやはり理論上は問題ないのだが、現実には難しいパターンだ。例に挙げられている命の価値だがこれは生活の質で調整された余命を用いることで対処できる。環境の価値となると現実的に測定するのは非常に困難になるが、少なくともその他の費用便益の計算をするだけでも価値はあるだろう。費用効用分析にも費用がかかるのであまり期待できない調査をしてもしょうがないということはある。

日本ではまだ費用効用分析の導入があまり進んでいないのでこのような弊害はあまりないが、将来的には同じ問題が発生するだろう。しかし、最大の問題は教育だ。費用便益分析には様々な理論的・現実的問題があるが最終的な正当性はそれが一つの情報源に過ぎずそれ自体で政策を決定しない点にある。問題点はあるが、最終的には民主主義によって決定するのだから情報は多いに越したことが無いだろう、ということだ。但し、このディフェンスが有効であるためには国民、少なくとも政治家が何が仮定されていて、どのような問題があるかを知っていてかつ最終的な決定権が自分にあると認識している必要がある。政策決定に費用便益分析の導入が進むにつれて、基礎となる経済学を含めその読み方を一般に知ってもらうのが重要だ(これは統計分析の結果を利用するのにある程度の統計の知識が必要なのに似ている)。

Facebook | Grad Students グループ

よくある“you might be a grad student if…”系のリストだけど個人的には非常に笑える。まあ国による違いとか専攻による違いもあるけどいくつか好きなのを:

Facebook | Grad Students: they’re Not Bad People, they Just Made Terrible Life Choices

5.You have ever brought a scholarly article to a bar.

バーに学術論文を持っていったことがある。

これは誰でもやったことあるよね?本より運びやすいからね。

20.you write programs for classes that have nothing to do with programming.

プログラミングとは何の関係もないクラスでプログラムを書く。

あるある。むしろ習ったことないよ。

24.you procrastinate on one project by working on another project.

違う仕事に取りかかることで今の仕事を先延ばす。

ティーチングとか。

37.people (non-grad students) ask you “Are you going to be done soon?” and you laugh but inside a little part of you dies.

この中で一番お気に入り。原文のテンポがポイントなので訳はなし。読んでください。

49. you can’t help but sigh with envy when you overhear undergrads stress over 10 pg final papers in the elevator

エレベーターで10ページの期末レポートに愚痴る学部生をみて羨ましく思う。

てか宿題をタイプするだけでそれぐらい普通だよ。

60. you are startled to meet people who neither need nor want to read.

ものを読む必要もなければ読みたいとも思わない人に驚愕する。

ありえない。まああまり会わないけど。

69. you have accepted guilt as an inherent feature of relaxation.

罪悪感は息抜きと表裏一体だと知る。

これは一番嫌な部分だなぁ。

80. the professor doesn’t show up to class and you discuss the readings anyway.

教授が講義に現れなくても取りあえず文献について議論する。

あるある。逆に学生が遅刻するとみんなが待ってたりする。

90. you’ve ever sent a personal letter with footnotes.

個人的な手紙に脚注を使ったことがある。

ブログでも標準搭載すべき機能だ。あと巻(章)末注は絶滅するべき。

94. you actually _hope_ your professor assigns homework.

宿題が課されるのを心から希望する。

道具的なクラスは宿題必須でしょう。

95. you get a 3-hour final with 5 questions or less.

三時間の試験に五問以下しか問いがない。

えっと、三時間だと二問当たりでしょうか。

鶏が先か卵が先か

Chicken & Eggという問題はネットワーク効果の強い市場では非常に重要である。とくに双方向性市場(two-sided market)では顕著だ。例えばアマゾンがそうだ。本を買う顧客がいなければ出版社は商品を卸さない。

以下のエントリーで起業家でベンチャーキャピタリストであるChris DixonがChicken & Egg問題への対策を挙げている。

cdixon.org / Six strategies for overcoming “chicken and egg” problems

彼の提案は六つだ:

  1. Signal long-term commitment to platform success and competitive pricing.
  2. Use backwards and sideways compatibility to benefit from existing complements.
  3. Exploit irregular network topologies.
  4. Influence the firms that produce vital complements.
  5. Provide standalone value for the base product.
  6. Integrate vertically into critical complements when supply is not certain.

一つ目は人々の期待を変えるものだ。アマゾンの例でいえば出版社が商品を卸すのに必要なのは顧客が来るだろうという期待だ。別に卸す時点で客がいる必要はない。コミットメントデバイスとしてGoogleのオープンソースソフトウェアが挙げられている。より適切な例としてはIntelのIntel Architecture Labが挙げられるだろう。Intelはx86という自社が実質支配するプラットフォームに関連する投資を行った。IntelがIALにおいて如何にコミットメントの問題にを注意していたかはPlatform Owner Entry and Innovation in Complementary Markets: Evidence from Intelに詳しい。

二つ目は互換性を持たせることで既存のネットワーク効果を利用するというものだ。個の場合もコミットメントが問題になる。MicrosoftがMac互換のOfficeを提供する際、それがいつまで維持されるかはユーザーにとって重要だ。Silverlightも同様だ。この戦略はEmbrace, extend and extinguishと呼ばれる。しかし必ずしもうまくいくとは限らない。OS/2の例もある。この戦略がどのような場合にどうやって成功するかも興味深い。

三つ目はとくに興味深い。一部のグループに的を絞ることで既存のネットワークを打ち破るというものだ。ここでは大学生が多いfacebookがどうやってFriendsterを追い抜いたかが例として挙げられている。いかに特定のグループを発見するかが鍵となる。

四つ目はプラットフォームの問題だ。不可欠なコンポーネントを持っている企業を味方につければ確かに競争には勝てるだろう。しかし、それを提携相手の企業はそれを知っているのでそれなりの見返りがなければ協力しないため、最終的に利益になるかは微妙だ。Sony / PhilipsのCDが事例として挙げらているが、この場合最も重要な点は交渉のやりかただろう。複数いる提携相手に別々に交渉していくことで「見返り」を減らすことができる。

五つ目は見落とされがちだが、要するにネットワーク性を減らしてしまうということだ。ユーザーがリスク回避的であれば有効だ。

最後の六つ目もやはりコミットメントが問題になる。AppleはMac OSX上で多くのアプリケーションを持っているがこのことは外部のデベロッパーにとっては大きな脅威となる。

Craigslistの経営方針

Craigslistの創設者であるCraig Newmarkと現在のCEOであるJim Buckmasterに関するWiredの記事が非常に面白い。ウェブビジネスやサービスデザインに興味のあるにはかなりおすすめ:

Why Craigslist Is Such a Mess

Craigslistのデザイン上の特徴はまさに何の特徴もないことだ。

This is old-fashioned. But craigslist is old-fashioned in any number of ways. It relies on email and the telephone in an era of SMS and social networks. It sticks to traceless transactions in an industry that makes its living collecting data from every touch. And just as people who run technical companies are reaching an apex of confidence in their ability to invent new forms of community based on sharing everything, craigslist still treats social life as dangerously complex, deserving the most jaded caution.

これは近年のウェブビジネスの流れとはまさに逆である。

Besides offering nearly all of its features for free, it scorns advertising, refuses investment, ignores design, and does not innovate. Ordinarily, a company that showed such complete disdain for the normal rules of business would be vulnerable to competition, but craigslist has no serious rivals. The glory of the site is its size and its price.

にも関わらず、競争を勝ち抜いているのは何故か。それは規模と価格だという。しかし、Craig Newmarkはそれとは異なることを述べている:

“People are good and trustworthy and generally just concerned with getting through the day,” Newmark says. If most people are good and their needs are simple, all you have to do to serve them well is build a minimal infrastructure allowing them to get together and work things out for themselves. Any additional features are almost certainly superfluous and could even be damaging.

彼にとってはシンプルで何の機能もないことこそが強みだというわけだ。結局記事の中ではどちらが本当の理由なのかは追求されていない。

ぱっと思いつくのは、スイッチングコストとコーディネーションの問題だ。Craigslistの競争相手がいるとしよう。ユーザーにとってどちらのサイトを訪れるかはほぼ投稿の数及び訪問者の数に依存している。片方を使っているひとが次にものを売る・買う時に違うサイトを使うための費用は使い方を覚えるぐらいなものだ。

大した機能があるわけではないが、案内広告を利用するひとは多岐に渡り、コンピュータに堪能とは限らない。また多くのユーザーは頻繁にサービスを利用するわけではないのでなるべく簡単なものが好まれるだろう。最終的な選択はユーザー数に依存していたとしてもなるべくわかりやすいインターフェースであるにこしたことはない。

もう一つ考えられるのがコーディネーションだ。スイッチングコストが低い市場では一気にシェアが入れ替わるということは十分にありえる。現在のシェアがどうであれ、将来競合相手が支配的になりそうだとみんなが思っているなら急にユーザーが入れ替わっても不思議は無い。実際ソフトウェア市場では支配的と思われている企業が没落することが過去いくつもあった。

ユーザーの期待を変えるのは困難ではあるが、企業理念のようなものが影響することは十分に考えられる。それなりの数のユーザーが片方の企業を何の理由であれ支持するのであれば、他のユーザーにとってもその企業のほうが成功する可能性が高いと信じる理由となるからだ。次の一節はこの考えと符合する:

But in the battle with MetroVox he had an asset that more than compensated for these shortcomings: For years he had worked on his site with an uncanny, machine-like constancy, doing all the painstaking and repetitive things that would make most people desperate with frustration and boredom, and he had done them happily. And now his users paid him back in the most obvious possible way: They stopped using the List Foundation address, resumed posting their free ads at craigslist.org, and emailed Newmark when problems occurred. Less than a year later, the bubble burst and MetroVox faded away.

Craigslistの元CEOがCraigslistのトラフィックを半ば奪って(詳細は本文参照)始めたMetroVoxという類似サービスとの競争において、ユーザーは今までのNewmarkの行動を元にCraigslistを選んだとされている。少なからずそういうユーザーがいることで他のユーザーも残ったのだろう。ユーザー数が最大に重要である以上、競合相手が多少違うサービスを提供していても問題はない。

他の類似した市場においても同じ議論が当てはまるかは興味深い。

民間の研究者

理系では企業の研究所というのは珍しくないが、社会科学においては珍しい。Microsoft Researchに所属するdanah boydのブログから:

apophenia: am I an academic?

研究している分野はソーシャルネットワークで、社会学的な観点からの分析だ。企業での社会科学の研究職と大学での研究職とが対比されている。多くの相違点は理系のそれと変わらない。しかし得に興味深いのはエンジニアとの関わりに関する以下の一節だ。

Still, you have to spend time helping the company directly! Yes, I spend time working with product groups. But I like to think of it as my teaching duty. Rather than teaching Soc 101 to hung-over 18-year-olds who didn’t bother doing the reading, I teach an interactive form of Soc 101 to engineers who are filled with questions that start with “but why?” and “but how?” I have a hard time imagining that my engagement with product groups takes up more of my time than teaching, office hours, and prep. And it’s often quite fun and thought-provoking.

Microsoftはソーシャルネットワークの専門家を抱えることで、他の従業員への啓蒙を行っているわけだ。これは二つの点で合理的である。まず、この仕事は専門家を内部に抱えずに行うのが困難だ。勿論、適時大学の研究者を呼ぶ、コンサルタントを使うなどの方法は可能ではある。しかし、細かな設計に関する問題に対応したり、効果的に知識を吸収させるという意味では外部から人を呼ぶのは効率が悪い。また、全くの新しい分野について一般的なコンサルティングが役に立つとは考え辛い。例えばソーシャルネットワークの使い方について大手のファームが専門性を有しているとは思えないし、それに特化した小規模なファームについてもその知見が信用に値するかは分からない。

二つめの理由としては、専門家を研究者として雇うことにより、専門家のモチベーションを維持しつつ専門性を維持できることが上げられる。仕事上の裁量を大きく取り、研究に従事させることは、特に専門性の高い業務においては有効な雇用戦略でありうる。

同様の研究部門はGoogleやYahoo!にも存在する。民間の研究機関を考慮しているなら一読の価値があるだろう。