新規店舗とレビューサイト

食べログの悪いレビューが新規開業店舗を潰してしまうというエントリー:

食べログが、レストランを潰す – Feel Like A Fallinstar

新規店舗はレビューも少ないので悪意のあるレビューワー(例えば競合店)によって悪いレビューがつけられると困るという話。もちろん、ユーザーもそういったレビューが存在すること自体は理解しているが、「火のないところに煙は立たぬ」的な論理で客が遠のくのは想像に難くない。

しかしこういったレビューサイトもレビューが有用でなければ成立しないわけでただ手をこまねいているわけではない

食べログのレビューを見てみれば、ユーザーには過去のレビュー数、レビューには参考票の数が表示されている。後者は新規店舗では期待できないが、前者のレビュー数はそのレビューワーが真面目にレビューしているかを知る手がかりになる。他にもお店全体の点を表示する際にこういった数字を考慮して計算したり、レビューが極端に少ない間は総合点を表示せずにレビュー絶賛募集中などと表示するのもよいだろう。

アメリカを中心に同じようなサービスを提供するYelpでは、レビュー点数の分布や推移を明らかにしている

こちらは比較的新しくレビューの少ないお店だ。星一つと二つのレビューが一つずつあって一時期平均点が急に落ち込んだのが分かる。

ただこのようなレビュー精度を高めようという企業努力も市場に競争がなければ期待できない。食べログが独走するのではなく、それに対抗するサービスの登場が期待される。

英語のアクセント

経済とは何の関係もないが、あまりにも面白かったので紹介。

YouTube – The English Language In 24 Accents

イギリス各地のアクセント、アメリカの複数のアクセント、日本人を含めた外国人のアクセントを全て一人でしゃべって録画してある。イギリスのアクセントの細かい違いはよく分からない(というか一部は聞き取れもしない)が、アメリカのアクセントや外国人のアクセントは相当にあたっているように思う(ナイジェリア訛りも似ているそうです;日本人と中国人はいまいちかな)。全部聞き取るのは至難のワザだが、逆に言えば共通の発音なんてないし、分かりやすい発音である必要ですらないことがよく分かる。個人的な慣れもあるだろうが、外国語訛りのほうがイングランドの訛りよりも余程聞き取りやすい。

無償投稿カルチャー?

ユーザーの参加を促すことは多くのウェブサービスで非常に重要だ(例えばキャス・サンスティーンのInfotopiaなどに詳しい)。その中でWikipediaに関わるユーザーが減っているという記事。

ウィキを支えた無償投稿カルチャーの落日

「共通の善」のために無償で奉仕するという発想はやや色あせて見え、ネット上の活動に参加することが退屈に感じられるようになった。

その理由を、Wikipediaが新しいサービス(Facebook, Flickr, YouTube, Yelp, etc.)などに比べて、明確な恩恵がなく全体への無償の奉仕だからとしている。しかし、この区別にどれ程の意味があるのだろうか。

競合する多くのサービスもまたユーザーに金銭的な利得を提供するわけではない。例えばレストランのレビューや動画を公開したからといってすぐに直接なメリットがあるわけではない。質の高いコンテンツを公開することで自分のブランドを築くことはできるだろうが、それはWikipediaでも変わらない。頻繁に価値のある貢献を行うユーザーはそのコミュニティーで自分の地位を築く。

オープンソースソフトウェアの開発なんかも同様だ。無償奉仕という特別なカルチャーが原因であるなら、これほどのソフトウェアが公開されることはなかっただろう(例えばこのブログはオープンソースソフトウェアであるWordpressで運営されている)。開発者はスキルを身につけたり、自分の能力を潜在的な雇用主へとアピールしたりするためにオープンソースのプロジェクトを利用している。企業もまた、自社のサービスで利益を出す手段としてオープンソースソフトウェアに投資を行う。

Wikipediaで起きていることは無償投稿カルチャーの衰退ではなく、単にユーザー参加という限られたリソースを巡る競争が激しくなっているだけのことだ(もちろんWikipediaの完成度が上がったこともあるだろう)。そしてユーザー参加を理解することの重要性は一段と増している。

Facebookとリクナビ

Facebook Japanの児玉太郎さんへのインタビューが話題になったが、早速日本でのペネトレーション戦略が明らかになった。

リクナビ2012|学生のための就職活動・就職情報サイト

Facebookが就活中の学生に対し、同じ大学で同じ分野を志望する学生や内定生、OBなどを検索する機能を提供し、それにリクナビがトラフィックを誘導している。

これはFacebookが日本に足場を築く上で賢い作戦だ。「Wave開発中止のポイント」で述べたように、ネットワーク効果の強い業界に参入するためには「ブロック」を抑える必要がある。アメリカでFacebookは一流大学の学生というブロックから始まった。

リクナビとの提携は「就活生」という日本独自の集団を狙っていることを意味する。就活生にとって必要なコミュニケーション相手は他の就活生や企業関係者にほぼ限定されているためブロックとして優秀だ。そして、リクナビはこの就活生グループに一気にリーチする機会を提供するだけでなく、企業関係者に対してFacebookに窓口を設けるように働きかけることができるだろう(いまのところこのディールでリクナビがどう利益を上げるのかは明らかになっていないようだが、ここから収益を上げることも可能だろう)。

過去の自分のネットでのアイデンティティと就職活動におけるそれとを区別したいという人は多いし、就職に使うのであれば名刺同様、実名でなければ用を果たさないFacebookがいわばアメリカにおけるLinkedInのようなスタンスで、大人のためのソーシャルネットワークというポジション取りをするのは実名制を保持したまま日本で展開する方法としては適切だ。今までは学生だから匿名で好きなことを書いていたかもしれないが、これからは実名で自分の情報を管理した上でネットワーキングすべきなんだと問いかけるわけだ。

また、既に新卒の就職市場で圧倒的なプレゼンスを誇るリクルートが、LinkedIn的な独自のキャリア系ソーシャルネットワークを作る方向ではなく、日本で展開し始めたFacebookと提携するというのは企業の姿勢として面白い。流石といったところか。

P.S. Facebookのガイド本の著者としては大変ありがたい展開です:)

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「無邪気に信じて」いるかは関係ない

日本でのGoolgeとYahoo!との提携について何だかよく分からない記事。

検索エンジンと個人情報の利活用 – アゴラ(山田肇)

危惧を強調する側は次のように主張した。「Yahoo! Japanがグーグルの検索エンジンを利用すれば、ますます個人情報がグーグルに集積される。この分野はネットワークの外部性が強いので、他企業が対抗することはむずかしくなるだう。独占企業の登場は長期的にはイノベーションの可能性を減じるものだ。」

GoogleとYahoo!が提携することで個人情報が云々というのは競争上の問題と分けて考えるべきであろう。現状の個人情報保護法が過剰ならそれは適正化するのが筋だ。個人情報を持ち出さなくてもこの提携に対する公正取引委員会の対応に問題があることは変わらない。

「提携の是非はYahoo! Japanの株主が決めればよいことであって、外からあれこれ言う必要はない」という意見もあった。

逆に反対論はというと、競争政策の問題を株主が決めればいいなどという反対意見はお話にならない。JALとANAが合併するのはJALとANAの株主が決めればいいことではない。価格がつりあがって困るのは消費者だ。

これに対して「グーグルの創業者は、世の中のあらゆる情報が連携し利用されることは人々の利益になる、と無邪気に信じているだけだ」という意見が出た。[…] 無邪気に信じて規模を拡大しただけだとしても、市場に悪影響を与える力を持つようになり、それを行使すれば、独占禁止法上の問題になるということだ。

こちらも何を言いたいのだろう。子どもの責任能力の話をしているのではない。企業が「無邪気に信じて」他の大企業と弁護士が念入りに作った契約を結んで実質的なシェアを伸ばし顧客たる広告主に対する価格を吊り上げたらそれは競争政策の対象だ。「無邪気に信じて」いるかは関係ない。大体、企業について無邪気かどうかをどう判定すればいいのかも分からないし、世界有数の大企業がそんな法律知らなかったで済むわけないだろう。

個人情報保護法が過剰でイノベーションを阻害するという論点は分かるし、知的財産に関してもGoogle Booksのような試みはアメリカでなければできなかっただろう。しかし、過剰な規制を問題にするなら、実際に過剰であるケースに正当な批判を加えるべきで、正当なケースに対する的外れな反論を紹介するのは逆効果だろう。