新聞の価格変動

感謝祭の時に価格を上げる新聞が増えているそうだ:

Single Copy Premium Editions Offer Revenue Opportunity – Newspaper Association of America: Advancing Newspaper Media for the 21st Century

More than one in three newspapers now charge a premium for Thanksgiving Day single copy editions, according to a recent NAA survey, and newspapers like The Orange County Register and the Knoxville News Sentinel are adding surcharges for home delivery editions for the day as well.

三つに一つの新聞は既に価格を上げている。宅配にまでその動きは広がっているそうだ。

Valecia Quinn, director of consumer sales and retail marketing for the paper, says readers accept the premium because it’s the largest paper of the year, filled with solid news content, advertising and coupon offerings.

その理由は広告とクーポンだ。感謝祭にはセールが多く、広告の価値が上昇する。またアメリカではクーポンが非常に一般的だ。広告とクーポンを欲しがる人が多ければ当然新聞は購読者により高い価格を提示できる。

Fonticiella says the success of selling single copy Thanksgiving Day editions for a premium can be replicated with any special edition that readers perceive as having extra value.

当然、感謝祭に限る必要もない。消費者からの需要の高い日には価格を上げるのが自然だ。もちろん、広告とクーポンに頼る限り限界はある。広告主にとっては新聞価格は低いほうがよい。多くの購読者に広告を届けるのが目的だからだ。

ただ、無料紙に対する既存の新聞のアドバンテージもある。まず知名度が高い。多くの読者が必要な以上これは重要だ。次に新聞には個性がある。ある程度読者層を絞れるが故に適切な広告を打つこともできる。低所得者が多い新聞と高所得者が多い新聞では当然プロモーションの内容を変えることになる。また無料紙には無料でなくてはならないという制約がある。適時価格を変えることが戦略上優位な状況では無料であることの利点はない。

新聞社が新聞を特別視せず、通常の業界と同じように経営努力を行っていることは新鮮な気すらする。

アメリカのクレジットカードフィー

Credit-Card Fees: Retailers Are Fighting Back – TIME

Americans are being forced to pay significantly higher swipe fees whenever they use their credit cards than any of their peers in the industrialized world, according to a report by the Merchants Payments Coalition.

アメリカではクレジットカードを利用した際のフィーが有意に高いそうだ。記事によれば購入価額の2%に当たり、これは他の数倍にもなるらしい。

不思議なことに、記事では何故そうなっているのかについては言及されていない。それを説明しないでどうしてフィーが高すぎるか議論できるのだろうか。クレジットカード業界が寡占的であるのは事実だが、それはどこの国でも大差ない。VisaとMastercardがほぼ全てといってもよい。

アメリカと日本の違いを考えればフィーの差がどこから来るかは明白だ。アメリカの消費者は基本的に現金を持っていない。カードが使えることを当然だと思っているし、多額の現金を所持するのは危険だとされている。お店側も同様で多くの顧客はカードで買い物をすると見越しており、カードを受け入れないことは大きな売上のロスを意味する。また、商店主にとってもキャッシュレジスターに多額の現金を持つことは防犯上望ましくない。よってお店側は高めのフィーを払ってでもカードを受け入れるようになる。カードが使えないのは小額決済がメインな飲食店ぐらいである。この意味での比較的高額なフィーは特に問題ではない。

The merchants contend that if interchange fees are lowered, they would pass on the cost savings to consumers through lower prices for goods — at least that’s the theory.

加盟店はフィーのために小売価格が上がっていると主張しており、ロビー活動をしているようだが、これは非常に怪しい主張だ。費用が価格にどのような影響を及ぼすかは市場の構造に依る。完全に競争的であれば、限界費用=価格なので完全に消費者へ移るが、市場支配力がある場合には異なる。消費税をかける場合同様に、需要の弾力性や価格差別の有無によって決まる。極端な話、例えば、ある商品に対し消費者がいずれも一万円支払う意志があるなら価格は費用に依らず常に一万円であり費用の小売価格への影響はゼロだ。

TOEFLの行方

出版大手のPearsonがついに英語能力検定業界に参入するそうで:

Quick Takes: Pearson Formally Kicks Off Test to Challenge TOEFL – Inside Higher Ed

現在のこの市場はETSのTOEFLが支配的だ。他にはIELTSがあるが、英連邦の国々以外ではあまり普及していない。

上記記事からリンクされているNew Challenge to TOEFLにTOEFLの問題として会話能力の測定が挙げられている。

“It’s a complaint we hear time and again. Candidates do very well on the written examinations, but they aren’t prepared to engage in dialogue in the classroom,” Wilson said.

TOEFLにもスピーキングが導入されているがどの程度役にたっているのだろう。自分が最初に受験したのは21の時だった。当時は学校の授業以外で英語を使ったことなど一度もなかったがほぼ全てのアメリカの大学院の要求するスコアは越えていた(受験英語も捨てたものではない)。逆に23で二度目受けたときは日常的に英語で会話していたが初回と比べそこまで大きなスコアの違いはなかった(10%も上がっていない)。二回とも特に準備して受けたわけではないので同じ条件だったように思う。

Pearson’s Anderson said that in planning the new test, the recording was viewed as key by admissions officers. The recording will not be reading, but will be of the candidate responding to a prompt requiring analytic thought and explanation — something comparable to what a student might experience in a classroom.

新しい試験では録音内容を学校側も聞けるようにするようだ。これは正しい方向のように思える。スクリーニングが目的であれば、他のスコアで可能である。少なくとも録音を提供しない理由はない。実際に議論や授業を行っているところをビデオに取れば会話ができるかどうかは一目瞭然だろう。

スピーキングの内容を専攻別に分ければより効果的だろう。その昔気まぐれで英検一級の試験を受けたが、面接での得点が足りず落ちた。その時の内容は確か、化粧品開発のために動物実験を行うことの是非について二分で喋れというものだったが、どうやったら二分でまとめられるのか全く分からず功利主義から始めて失敗した。おそらくあまり真面目に考えず、可哀想だ・エイリアンがやってきて人間を使ったらどうする、とか適当に妄想すればよかったのだろうが、そういうのは非常に苦手だ。何か専攻に関連する情報やシラバスのようなものを与えて質疑応答するなどの方がよいように思う。

内容がどのようなものになるにしろ、競争相手の登場は受験者にとっては非常に望ましい。現状のTOEFLの大きな問題には高価格と低品質なサービスがある。日本での受験料は事前予約済みで$200であり、近年上昇し続けている。またサービスのレベルはかなり低い。私が利用した際にはTOEFLのスコアが応募締切りに間に合わないことが多かった(但し、このことは大学側によく知られているのもあり、最終的に届けば問題にはならない)。

この市場への参入は比較的困難である。受験者側は最も多くの大学が受け入れる試験を受ける強い動機がある。受験予定の大学のうち一つでも新しい試験を認めていなければTOEFLを受けることになるだろう。この構造を変えることは困難だ。新規参入者は市場の反対側、大学に注力すべきだ。大学側は新しい試験を認めるのに大きな費用が必要なわけではない。多くの学生が望んでいるのであれば導入するのに抵抗はないだろう。Pearsonは新試験がTOEFL程度の信頼性があることを示し、スコアの読み方を説明し、より使いやすいサービスを提供すればよい。既にビジネススクールの集団を取り込んでいるのは正しい方向性だ。受け入れてもらうために金銭ないし教材などを提供することもありえるだろう。

鶏が先か卵が先か

Chicken & Eggという問題はネットワーク効果の強い市場では非常に重要である。とくに双方向性市場(two-sided market)では顕著だ。例えばアマゾンがそうだ。本を買う顧客がいなければ出版社は商品を卸さない。

以下のエントリーで起業家でベンチャーキャピタリストであるChris DixonがChicken & Egg問題への対策を挙げている。

cdixon.org / Six strategies for overcoming “chicken and egg” problems

彼の提案は六つだ:

  1. Signal long-term commitment to platform success and competitive pricing.
  2. Use backwards and sideways compatibility to benefit from existing complements.
  3. Exploit irregular network topologies.
  4. Influence the firms that produce vital complements.
  5. Provide standalone value for the base product.
  6. Integrate vertically into critical complements when supply is not certain.

一つ目は人々の期待を変えるものだ。アマゾンの例でいえば出版社が商品を卸すのに必要なのは顧客が来るだろうという期待だ。別に卸す時点で客がいる必要はない。コミットメントデバイスとしてGoogleのオープンソースソフトウェアが挙げられている。より適切な例としてはIntelのIntel Architecture Labが挙げられるだろう。Intelはx86という自社が実質支配するプラットフォームに関連する投資を行った。IntelがIALにおいて如何にコミットメントの問題にを注意していたかはPlatform Owner Entry and Innovation in Complementary Markets: Evidence from Intelに詳しい。

二つ目は互換性を持たせることで既存のネットワーク効果を利用するというものだ。個の場合もコミットメントが問題になる。MicrosoftがMac互換のOfficeを提供する際、それがいつまで維持されるかはユーザーにとって重要だ。Silverlightも同様だ。この戦略はEmbrace, extend and extinguishと呼ばれる。しかし必ずしもうまくいくとは限らない。OS/2の例もある。この戦略がどのような場合にどうやって成功するかも興味深い。

三つ目はとくに興味深い。一部のグループに的を絞ることで既存のネットワークを打ち破るというものだ。ここでは大学生が多いfacebookがどうやってFriendsterを追い抜いたかが例として挙げられている。いかに特定のグループを発見するかが鍵となる。

四つ目はプラットフォームの問題だ。不可欠なコンポーネントを持っている企業を味方につければ確かに競争には勝てるだろう。しかし、それを提携相手の企業はそれを知っているのでそれなりの見返りがなければ協力しないため、最終的に利益になるかは微妙だ。Sony / PhilipsのCDが事例として挙げらているが、この場合最も重要な点は交渉のやりかただろう。複数いる提携相手に別々に交渉していくことで「見返り」を減らすことができる。

五つ目は見落とされがちだが、要するにネットワーク性を減らしてしまうということだ。ユーザーがリスク回避的であれば有効だ。

最後の六つ目もやはりコミットメントが問題になる。AppleはMac OSX上で多くのアプリケーションを持っているがこのことは外部のデベロッパーにとっては大きな脅威となる。

Craigslistの経営方針

Craigslistの創設者であるCraig Newmarkと現在のCEOであるJim Buckmasterに関するWiredの記事が非常に面白い。ウェブビジネスやサービスデザインに興味のあるにはかなりおすすめ:

Why Craigslist Is Such a Mess

Craigslistのデザイン上の特徴はまさに何の特徴もないことだ。

This is old-fashioned. But craigslist is old-fashioned in any number of ways. It relies on email and the telephone in an era of SMS and social networks. It sticks to traceless transactions in an industry that makes its living collecting data from every touch. And just as people who run technical companies are reaching an apex of confidence in their ability to invent new forms of community based on sharing everything, craigslist still treats social life as dangerously complex, deserving the most jaded caution.

これは近年のウェブビジネスの流れとはまさに逆である。

Besides offering nearly all of its features for free, it scorns advertising, refuses investment, ignores design, and does not innovate. Ordinarily, a company that showed such complete disdain for the normal rules of business would be vulnerable to competition, but craigslist has no serious rivals. The glory of the site is its size and its price.

にも関わらず、競争を勝ち抜いているのは何故か。それは規模と価格だという。しかし、Craig Newmarkはそれとは異なることを述べている:

“People are good and trustworthy and generally just concerned with getting through the day,” Newmark says. If most people are good and their needs are simple, all you have to do to serve them well is build a minimal infrastructure allowing them to get together and work things out for themselves. Any additional features are almost certainly superfluous and could even be damaging.

彼にとってはシンプルで何の機能もないことこそが強みだというわけだ。結局記事の中ではどちらが本当の理由なのかは追求されていない。

ぱっと思いつくのは、スイッチングコストとコーディネーションの問題だ。Craigslistの競争相手がいるとしよう。ユーザーにとってどちらのサイトを訪れるかはほぼ投稿の数及び訪問者の数に依存している。片方を使っているひとが次にものを売る・買う時に違うサイトを使うための費用は使い方を覚えるぐらいなものだ。

大した機能があるわけではないが、案内広告を利用するひとは多岐に渡り、コンピュータに堪能とは限らない。また多くのユーザーは頻繁にサービスを利用するわけではないのでなるべく簡単なものが好まれるだろう。最終的な選択はユーザー数に依存していたとしてもなるべくわかりやすいインターフェースであるにこしたことはない。

もう一つ考えられるのがコーディネーションだ。スイッチングコストが低い市場では一気にシェアが入れ替わるということは十分にありえる。現在のシェアがどうであれ、将来競合相手が支配的になりそうだとみんなが思っているなら急にユーザーが入れ替わっても不思議は無い。実際ソフトウェア市場では支配的と思われている企業が没落することが過去いくつもあった。

ユーザーの期待を変えるのは困難ではあるが、企業理念のようなものが影響することは十分に考えられる。それなりの数のユーザーが片方の企業を何の理由であれ支持するのであれば、他のユーザーにとってもその企業のほうが成功する可能性が高いと信じる理由となるからだ。次の一節はこの考えと符合する:

But in the battle with MetroVox he had an asset that more than compensated for these shortcomings: For years he had worked on his site with an uncanny, machine-like constancy, doing all the painstaking and repetitive things that would make most people desperate with frustration and boredom, and he had done them happily. And now his users paid him back in the most obvious possible way: They stopped using the List Foundation address, resumed posting their free ads at craigslist.org, and emailed Newmark when problems occurred. Less than a year later, the bubble burst and MetroVox faded away.

Craigslistの元CEOがCraigslistのトラフィックを半ば奪って(詳細は本文参照)始めたMetroVoxという類似サービスとの競争において、ユーザーは今までのNewmarkの行動を元にCraigslistを選んだとされている。少なからずそういうユーザーがいることで他のユーザーも残ったのだろう。ユーザー数が最大に重要である以上、競合相手が多少違うサービスを提供していても問題はない。

他の類似した市場においても同じ議論が当てはまるかは興味深い。