https://leaderpharma.co.uk/ dogwalkinginlondon.co.uk

Big Sister:風俗の多方向市場化

最近Freemiumなんていう言葉が話題になっている。わかりやすく(?)言うと、ネットワーク効果のある市場で、マージナルな価格をゼロにすることで利用者を増やし、収益は価格差別によりインフラマージナルな利用者から回収すればいいというビジネスモデルだ。これはネットワーク効果が大きく、支払意志額の小さな消費者が多く(=需要曲線が強く下に凸で)、価格差別が容易な場合には有効な戦略だ。

しかし、収益をあげるのが無料で財・サービスを手に入れるユーザーの一部でなければならない理由はない。三種類以上の参加者のいるマーケットであれば、財・サービスのやりとりをする以外の第三者から利益をあげることも当然可能だ

無料の新聞がそれはその一例だ。新聞はニュースなどを読者に提供する一方、広告主から収益をあげる。読者が増えれば増えるほど広告収入が増えるため一定の条件下では読者には何も課金しないことも正当化される(例:小額の支払のための費用が高い)。

Big Sister(NSFW)はこの収益体制を風俗に適用したものだ(「夜のオンナ」の経済白書という本で紹介されているそうだ via Feel Like A Fallinstar)。かなり有名なもののようでBloombergでも記事になっているしWikipediaにも説明がある。Big Sisterのビジネスモデルは次のようなものだ:

  • 無料で風俗サービスを提供する
  • 引きかえに行為を撮影する
  • 映像はネットで有料で公開する

これが、サービス提供者、サービス需要者、ネット会員という三種類のアクターを一つのプラットフォームで結びつけるビジネスであるのが分かる。

誰が誰にお金を払うかは、ネットワーク効果がどのように発生するかによって決まる。サービス提供者は多い方がよいので企業は賃金を支払う。閲覧者は少ない方がいいので料金を徴収する。需要者は特殊で、売春が法律で禁止されているため無料となる。需要者は撮影に必要だが簡単に見つかるので経済的にもそれほど間違った価格(=0)ではない。

このビジネスモデル自体は古典的な覗き部屋と同じだがインターネットがそのスケールを飛躍的に拡大させた。こういったニッチは市場は通常大都市でしか成り立たないが、インターネットがあれば多くの顧客を同時に相手にできる。また低コストな地域で営業して高所得な地域で収益をあげることも可能だ。これにより、映像からの利益が上がったことでサービス自体の価格をゼロにできれば、売春に関する規制も同時に回避できる(基本的にその場での金銭のやりとりさえなければ売春には該当しない以上取り締まりは不可能だろう)。

日本でFacebookは生まれない

日本企業の弱点はプラットフォーム化ではなく消費者需要の把握だ

追記:ちょっと冗長になっちゃったと気にしていたポストにトラフィックが向き始めたので簡単に要約しておきます。

  1. 日本企業はプラットフォーム戦略が苦手なわけではない(例:ゲームコンソール)
  2. 苦手なのは需要の把握だ
  3. ソフトウェア化により需要へ複雑な対応が可能になりその適切な把握が決定的に重要になった
  4. これは大企業には難しいのでベンチャーが重要←日本苦手
  5. また細かな需要=選好は国により違う←日本企業がアメリカ相手とか無理(例:Facebook)
  6. やっぱそういう問題のない中間財とかで勝負すればよくね?(例:携帯部品)
  7. とはいっても日本国内での需要把握は重要だからベンチャーまわりはやっぱりなんとかしよう

という感じです。

アゴラ : 日本ITの国際競争力

「裏の技術力」と「表の技術力」という言葉を取り上げている。前者は基本的には製造技術のことだ。以下に安く質の高いものを作るかという技術であり、日本の製造業が得意にしてきた分野だ。

では「表の技術」とは何か。それはすなわち、ネットワークであると山田氏は説明した。

それに対して「表の技術力」とはネットワークを作ることだという。例としてiPodとウォークマンとの競争が挙げられている。

しかしiPodにはウォークマンにはない魅力があった。それがネットワークだ。音楽配信サービスのiTunes Storeと楽曲管理アプリケーションのiTunes、それに機器のiPodがシームレスにネットワーク化されることによって、どこでも自由に音楽が聴け るという環境を作り上げていたということだ。

iPodの魅力はiTunesによるネットワーク化だと指摘されている(但し「ネットワーク」の定義は見当たらない)。記事中ではさらにWindows, Google, Amazon, Facebook, Twitterなどの例から、なぜアメリカがこれらの事業で成功したかについての根拠が挙げられている。

しかし、プラットフォームを制する企業が競争に勝つというのはその通りだが本当に日本企業はプラットフォームが重要な市場に弱いのだろうか

しかし、80年代までものづくりや企業向けのビジネスで成功を勝ち取ることができていた日本企業はどこもネットワーク化の流れに乗り遅れ(任天堂など一 部の例外を別として)、ネットワーク化の流れが特に激しく進行している消費者向けビジネス分野では決定的に後手に回ってしまった。

本文中で挙げられている任天堂はゲーム機というプラットフォームビジネスで大成功を収めている。またゲーム機市場においてはSonyもいる。Sonyは前世代から比べるとシェアを落としているが、世界に三社しかいないゲーム機市場において日本の企業が二つ活躍しているというのは見落とせない。ゲーム機市場はコンテンツ企業と消費者という二種類の参加者が存在し、参加者間に外部性が顕著な典型的なプラットフォーム市場だ

また日本とアメリカだけを考えれば日本が負けているようにみえるが、世界中を見渡せばコンピュータソフトウェアやウェブ上のサービスでアメリカ以外の国の存在感はほとんどない。別に日本企業が特別にまずい行動をとっているわけではない。

では、日本企業が抱える問題は何かそれは消費者需要の把握だ。ゲーム機市場の場合これはそれほど大きな問題にならない。ゲーム機に求められる要素はそれなりに決まっているし、何よりも企業は複数のゲーム機を消費者に提供するわけではない。互換性が重要でアップデートのきかないゲーム機は基本的に一世代に一つで、異なるのはサードパーティーが開発するコンテンツだ。プラットフォーム企業は、ゲーム機の性能と生産コストを決定し、あとは基本的に価格と生産量で競争する。

それに比べるとiPodの設計は非常に難しい。物理的な設計が困難なのではない。音楽プレーヤーはプレーヤーというハードウェアの上で動くソフトウェアと接続先のコンピュータで動くソフトウェアを合わせてはじめて機能する。そして、このソフトウェアにはハードウェアにはない大きな特徴がある:

  • さまざまな機能・インタフェースがありうる
  • 簡単にアップデートできる

根本にあるのはソフトウェアの柔軟性だ。製品が複雑なインターフェースで消費者によりきめ細かい対応をできるようになったため、生産者は消費者が欲しがっているものを的確に、そう値段と性能だけではなく、把握して提供する必要が生まれた。ネットワークは音楽プレーヤーに求められていたことの一つだ。

日本企業はプラットフォーム市場で競争できなかったわけではなく、プラットフォームが必要とされているということに気づかなかったというのが正確だろう

ではなぜ日本企業がプラットフォームの重要性に気づかなかったのだろうか。それは日本企業が消費者から非常に離れて活動しているためだ。i-modeの使えないドコモの役員のように、企業が消費者の需要を把握できていない。その原因の一つは、お馴染みの労働市場の硬直性だ。アメリカでも大企業が消費者の細かい需要を理解しているわけではない。把握した社員が独立したり、若い人が会社を立ち上げることで需要を的確に捉えた製品が市場に供給される。これが日本の労働市場では難しい。

しかし、これだけが日本企業が「国際」競争力を持たない理由ではない。もう一つは、日本市場が世界市場とは異なることだ。日本企業は日本市場の動向なら適切に読めるかもしれないが、例えばアメリカの大学生が何を欲しているかを知るのは難しい。アメリカ支社を作ることも、アメリカ人を雇うこもとできるがアメリカ人が自分たちで必要だと思ったから立ち上げたような会社に勝てる理由がない。

Facebookが分かりやすい例だ。日本の企業がFacebookを作れただろうかどれだけ人材がいて資本があってもFacebookができることだけはない。参加者が本名を名乗り、自分の顔写真をのせ、在籍・出身大学から勤め先まで公表するソーシャル・ネットワークサイトが日本で生まれることはないのだ。それは、ベンチャーキャピタル不足のせいでも技術者不足のせいでもなく、日本とアメリカは違うという話だ(注)。そして、ネットワーク効果の高い分野で世界最大の市場を取れないことは決定的な弱点となる。ある意味どうしようもない。

ソフトウェアにより消費者需要を把握することが重要になった時代に、日本企業が世界市場で競争するのは非常に難しいことが分かるだろう。ではどうするか。二種類の方向性がある。

  1. 一つは、(労働市場・資本市場の問題は解決したうえで)企業が真に国際化することで世界で求められる製品を提供すること、
  2. もう一つは、需要の把握が決定的な市場を避け、輸入に必要な外貨は他の産業で稼ぐことだ。

一つ目の道は現実には厳しいだろう。アメリカでも大企業は消費者需要の把握を苦手としている。また、前述したように日本以外の国、例えばヨーロッパの国々、でもアメリカの需要を把握できていない。そして、日本は世界で最も国際化していない国の一つだ。

残るのは二つめの道だ。これは現在であれば自動車など日本が極めて強い産業に注力していくことを意味する。例えば、携帯電話本体ではガラパゴス状態の日本だが携帯に使われている半導体においては圧倒的なシェアを誇っている。何も最終消費財だけが市場ではない。

もちろんそうした産業で外貨を稼ぐことは、労働市場や資本市場を改革しない理由にはならない。ハードウェアのソフトウェア化、産業のサービス化は進む一方であり、日本でもベンチャー企業が消費者心理を理解した製品を提供していくことはさらに重要になる。単に、そこから生まれた製品が世界を制することはないというだけだ。

(注)匿名性に対する態度は労働市場の硬直性に依存しているので、本当に労働市場が流動化すればFacebookが生まれることはありうる。しかし、ベンチャーに行く若者が増える程度の変化では関係ないだろう。

Eventbrite

Can Eventbrite Shine in Ticketmaster’s World? – Bits Blog – NYTimes.com

The San Francisco company, which has less than 30 employees, announced this week it raised its first round of venture capital: $6.5 million from Sequoia Capital.

Eventbriteがセコイア・キャピタル(Sequoia Capital)からのベンチャー投資を得たというニュース。これがニュースになるのはセコイアがシリコンバレーでは極めて名声の高いベンチャーキャピタルだからだ。Cisco, Oracle, Apple, YouTube, Google, NVIDIA, Paypalなどの有名企業が投資先として上がっている。他にも Dropbox, imeem, LinkedIn, Mahoro, OpenDNS, Rackspaceなど多くの気になる企業がポートフォーリオに含まれている(Amazonに買収されたZapposにも投資している)。

If the organizers sells tickets, Eventbrite charges them, taking a 2.5 percent cut plus a dollar fee per ticket.

イベントのオーガナイザーがチケットを売り、Evenbriteは$1プラス売上の2.5%を徴収するという仕組みだ。

They say they will use the cash to focus on smaller markets like conferences and nightclubs, as well as to further integrate their event planning tools into mobile phones and social networks like Facebook and Twitter.

既存ビジネスが相手にしていない小規模マーケットを狙い、ソーシャルネットワークを最大限活用する点は最近出てきたプラットフォームビジネスにどれも共通するものだ。Eventbriteは商用イベントをターゲットにしているが、システム的にはevitemeetupと大差ない。違うのは収益の方法だ。eviteは広告、meetupはオーガナイザーのメンバーシップフィー、Eventbriteは基本的に利用量に応じたフィーを収入源としている。

現実の市場において、どの試みがもっとも成功するかはプライシング以外の様々な条件によって決まってくるが、似たようなプラットフォームが全く異なる収益ストリームを持っていることは興味深い。

Live Nationのプラットフォーム化

Live NationはメディアコングロマリットのClear Channel Communicationsの子会社でレコードレーベルとプロモーターの中間のような企業だ。通常のレコードレーベル同様にアーティストと契約を結ぶが、音楽自体に対する権利はアーティストに残したまま、コンサートの運営を行うなどプロモーターとしての性格が強い。

このような事業形態は非常に理にかなっている。デジタル著作権管理が(DRM)がうまくいかない以上、アーティストを利益を付随するサービスで上げる必要がある。その最も大きな部分がパフォーマンスであり、レコードレーベルもそこからの利益をシェアする形であれば、正しいインセンティブのもとで運営される。

Live Nation Opens Web Platform To Artists & Fans – hypebot via Techdirt

Concert promoters Live Nation have made changes to their web site that places more of the site’s content int the hands fans and artists. LiveNation.com is a top 50 ecommerce site and a top 5 online music network.

Live Nationは自社サイトをプラットフォームとして作り替えている。ファンとアーティストが(この区分けに意味があるとも思わないが)ともにサイト上で活動する。FacebookやTwitterとも接続し、自社のイベントだけでなくユーザーがイベントを追加することもできる。

Live Nation is the largest producer of live concerts in the world, annually producing over 22,000 shows for 1,600 artists in 33 countries.  During 2008, the company sold over 50 million concert tickets and drove over 70 million unique visitors to LiveNation.com.

Live nationはコンサートプロデューサーとしては世界最大であり、5000万のチケット売上に加え、自社さ糸への7000万人にユニークビジターがいるそうだ。

ファンとアーティストが共に存在するプラットフォームとしてはMySpaceが未だに強いが、Live Nationの業界におけるプレゼンスを考えるとプラットフォーム運営の如何によっては一番の座を掴める可能性は十分にある。特にMySpaceはテクニカルな面で遅れており、新技術をうまく取り入れた上で、ユーザーによるイノベーションを促すことが重要だろう。

ペイウォールはうまくいかない

ペイウォール(paywall)とはウェブサイトが一部のコンテンツを有料にして、フィーを支払わない顧客からのアクセスをブロックすることである。

これについてSlashdotで的を得た意見が紹介されている:

Slashdot News Story | Paywalls To Drive Journalists Away In Addition To Consumers?

‘My column has been popular around the country, but now it was really going to be impossible for people outside Long Island to read it,’ he says. Friedman, who is 80, said he would continue to write about older people for the site ‘Time Goes By.’

ペイウォールを導入するのに伴い、長年勤めてきた記者が新聞社を退職し、ブログで執筆するという話が紹介されている。

‘One of the reasons why the NY Times eventually did away with its old “paywall” was that its big name columnists started complaining that fewer and fewer people were reading them,’ writes Mike Masnick at Techdirt

TechdirtのMike Masnicはニューヨークタイムスがペイウォールを撤廃した理由として、コラムニストが読者の減少を懸念したからだと述べている。

この二つの事例は新聞業界がインターネットによってうまくいかなくなった一つの大きな原因を明らかにしている。

もともと新聞というのはプラットフォームである片方には読者、反対側には執筆者がいる。前者は良質なコラムを望み、後者はより多くの読者を望む。プラットフォーム運営者としての新聞社はこの二つの絡み合う市場をバランスさせていく必要がある

購読料を上げすぎると読者はへり、コラムニストにとっての魅力はなくなる。またコラムニストへの報酬を減らすと読者にとっての新聞の価値は減ってしまう。

しかし旧来の新聞業界におけるバランスはインターネットの浸透によって完全に崩れた。その一つが最初の引用におけるブログの役割だ。新聞社が利益を挙げるためには読者の量を制限する必要がある(注)。だがこれはコラムニストにとってはマイナスだ。昔であればこんなことに文句を言う人間はいなかっただろうが、今は違う。コラムニストにとって読者を探す手段はいくらでもある。ブログがその一つだ。新聞が読者を見つける効率的手段でないなら自分で発表すればよい。もちろんブログで直接金銭収入を得るのは難しいだろうが、知名度があれば他で稼ぐことができる。

この場合であれば、記者は既に大きな注目を浴びており、彼の動きは成功だったと言えるだろう。

(注)これは効率的な価格差別ができないことを前提としている。価格差別が可能であれば、価格を限界費用に抑えたままでも利益をあげることは可能だ。メディア企業を非営利企業として再生しようという動きはこの点をついている。ちなみに、寄付収入の多い劇場などはこのビジネスモデルの典型だ(言うまでもなく、非営利であってもビジネスはビジネスだ)。