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GoogleがWindowsを捨てた日

GoogleとMicrosoftとはいろんな分野で競争しているが、ついにGoogleがWindowsの利用を控える方針を打ち出したそうだ。

FT.com / Technology – Google ditches Windows on security concerns

New hires are now given the option of using Apple’s Mac computers or PCs running the Linux operating system.

新しい社員はMacかLinuxのPCを使うかを選ぶようになったそうだ。Googleがサービス提供にLinuxを使っているのは有名な話だし、社員の多くはもとからMac/Linuxを利用していると思われるがこの動きはWindowsなしでも業務が可能であるというアピールになる(もっともGoogleと一般企業のITリテラシーの違いがあるので一般化はできないが)。

“We’re not doing any more Windows. It is a security effort,” said one Google employee.

さらに、セキュリティを理由として挙げることでMicrosoftへの批判にもなっている。実際には最近のWindowsが危険という話はあまり聞かないし、Microsoft Researchには各分野の優秀な人達が集まっているが、Googleの一般への知名度と評判を考えれば影響はあるだろう。

While Google is the clear leader in search, Windows remains the most popular operating system in the world by a large margin, with various versions accounting for more than 80 per cent of installations, according to research firm Net Applications.

Googleは検索広告市場をコントロールしており、それ以外のあらゆるアプリケーション層およびローカルのOSをコモディティ化しようとしている。その中には当然OfficeやWindowsといったMicrosoftの収益の殆どをたたき出す製品群が含まれる。反対にMicrosoftはオフィス製品とOS製品以外の分野に競争を起こすことで収益を高めている。

MicrosoftがGoogleの本丸に切り込む術を見つけられないなか、GoogleのOS市場への進出は順調に進んでいるようだ。さらにローカルのOSよりもアプリケーションマーケットのほうが重要性を増しているのも追い風だ。 AppleがFlashに関してクローズドな方針をとってのは懸案事項だろうがウェブ自体を締め出すことはできないため致命的な問題にはならない。

出版業界の矛盾

日本の出版業界で最近よく目にする矛盾が分かりやすく一枚に収まっている名作:

電子書籍:「元年」出版界に危機感 東京電機大出版局長・植村八潮さんに聞く

音楽業界のようにほぼ一手に握られることになれば、間違いなく日本の出版活動は続かなくなり、書店や流通の問題というより、日本の国策、出版文化として不幸だと思う。

まずは「文化」だ。文化として不幸かどうかより、消費者が不幸になっていないかを気にして欲しい。ところで日本の音楽業界が停滞しているのはiTunesのせいだという前提があるのだろうか。

アマゾンやアップル、グーグルなど「プラットフォーマー(基本的な仕組みを提供する企業)」の時代になるといわれている。

[…]

米国でプラットフォーマーに対抗できるのは、複数のメディアを傘下に収める巨大企業だけ。

アマゾン、アップル、グーグルが複数のメディアを傘下に収めているという話は聞かないが何か大型買収でもあったのだろうか(それとも日本企業がプラットフォームを作るというのは想定外なのだろうか??)。そもそもコンテンツを垂直統合していたらそれはもうプラットフォームではない(プレイステーションのゲームが全てソニー製だったらプレイステーションはプラットフォームとは呼べない)。

出版社4000社、書店数1万6000もある日本の出版業界が、このままで対抗できるわけがない。

[…]

日本人は紙質や装丁にこだわり、読み終えても取っておく人が多い。米国で成功したから日本でもというのは、分析が足りないと思う。

あれ?アメリカのプラットフォームが日本では成功しないなら、日本の出版業界は対抗できるのではないだろうか

iPadはそんな新しいメディアとしての可能性が高い。ただ、熱狂的なアップルファンは買うだろうけれど、広く日本人に支持されるかは分からない。

これも同じだ。日本の文化だから守る必要があるというために日本の特殊性を主張すればするほど、じゃあ保護の必要はないのでは?という矛盾に陥る

GBSの課題

あまり日本では見かけないGoogle Book Settlement (GBS)の記事があったので個人的なコメントでも。

マイクロソフト、アマゾンが猛反発 グーグルの書籍デジタル化問題、米公聴会で結論出ず JBpress(日本ビジネスプレス)

いくつかの問題点が指摘されている。

(1)世界中の作家からの明確な承諾が得られないまま、グーグルが書籍をデジタル化し、それを公開してしまうという問題

これは著作権の国際的調和とアメリカにおけるクラスアクション制度の奇妙な重なりによって生じる。アメリカの外で生じた著作物も、アメリカ国内で保護されるが、これは当然アメリカの著作権法による。例えばフェアユースなんかも適用されるし、訴訟になればクラスアクションの対象にもなる。よってグーグルは国外の作家をまとめてクラスとして和解することができることになる。

(2)作家などの権利保有者の行方が分からなくなっているいわゆる “孤児書籍” についても、グーグルが勝手に公開してしまうという問題

孤児書籍(Orphan Works)とは著作権が存在しているにも関わらず著作権者が発見できないような著作物のことだ。著作権者に連絡が取れなければ二次利用することもできない。

但し、このような著作物が公開されることは基本的には望ましいことだ。書籍自体はグーグルがスキャンしていることからも分かるように提携している(大学の)図書館に存在しており、公開されて困るという類の話ではない。より広く公開されることはプラスだ。

問題は、そこで生じる社会的便益を誰が得るかということだ。権利者が見つからない以上、便益はグーグルと和解の一環として設立されるBook Rights Registryで山分けされることになる。しかし、デジタル化を行うGoogleはともかく、他の作家が孤児書籍からの収益を得る理由はない。これはクラスアクションを使ってGoogleと作家協会(Author’s Guild)が孤児書籍を乱用するようなもので正当性を欠く。Googleがこのような利益を作家協会に供与することで、独占的な形態を確保しているように見える。

そもそも連絡を取ることので出来ない主体をどうクラスとして定義するかという問題もあり、むしろ立法的に対処することの方が望ましいだろう。

他にも、グーグルとBBRとの利益の分配方式など検討事項は多いが、書籍、特に絶版本や孤児書籍、がネットや図書館で簡単に検索できるようになることは素晴らしいことであり、これがうまく解決されることが望まれる

iPadはe-bookリーダーじゃない

間の抜けたタイトルですが(どうも題名をつけるのは難しい)、Appleからついに発表されたタブレットマシンiPadがそこら中で話題なので関連記事でも紹介:

Three Reasons Why the iPad WON’T Kill Amazon’s Kindle – Bits Blog – NYTimes.com

iPadはiBooksという電子書籍ソフトウェアを搭載しており、AmazonのKindleの対抗馬と目されているが実はそうでもないという記事だ。

The Kindle is for book lovers, and the iPad is not.

Sure, the Kindle’s potential market may have shrunk today, since the two-books-a-year folks will now opt for the more versatile iPad.

But the Kindle (and other devices with E Ink screens) will continue to be the best device for lovers of long-form reading, period.

一つ目の理由は、Kindleがターゲットとしてる層とiPadがターゲットとしている層が全く違うということだ。これは非常に重要なポイントだ。何故なら、読書と音楽ではユーザーの嗜好の分布が全く異なるからだ。音楽であればもちろんマニアは存在するが、一般人もかなりの消費を行う。しかし、これは書籍には当てはまらない。

1/3 of high school graduates never read another book for the rest of their lives.
42 percent of college graduates never read another book after college.
80 percent of U.S. families did not buy or read a book last year.
70 percent of U.S. adults have not been in a bookstore in the last five years.

どの程度信用できるかは分からないがこちらのページが引っ張ってきた統計だ。普段から読書をする人には信じ難いが、読書を全くしない人というのはかなり多い(参考:Facebook | Grad Students グループ)し、識字率にさえ問題のあるアメリカでは(参考:ヤクザと識字率)その傾向はさらに顕著だ(待ち時間なんかにただボーッとしている人が多い)。

Kindleが読書マニア向けのデバイスとすれば、iPadは読書のライトユーザーのためにデバイスとなるだろう。これはAppleがiPodでとった戦略に近いだろう(iPodが音質を売りにしたことはないと思う)。例えば、ゴシップ誌が唯一の読み物という(おそらく毎月一冊以上本を読む人より多い)層にとってe-inkは必要ない。カラー液晶の方がいいに決まってる。

ただiPodと違うのは、読書のライトユーザーは音楽のライトユーザーとは異なり、大したコンテンツ消費を行わないということだ。Appleはこの層だけを相手に(既にAmazonが大きなシェアを持つ)電子書籍ビジネスを行うことはできない。逆に他の会社が電子書籍を独占しその余剰を回収されるほうが困るのでオープンなePubフォーマットが採用されているのは自然だ。

Appleの狙いは今のところ限定的な市場であるタブレットを市場として確立させることだろう。それを成し遂げるためにはタブレットの価値を上げる必要があり、電子書籍はその一つの方策、行ってみればおまけだ(もちろんKindleとの関係を市場が騒ぎ立ててくれる分には大歓迎だろうが)。そのブランドを最大限に活用して電子書籍リーダーとしてのKindleやネットブック・ラップトップとは違う新しい市場を開拓するというのはAppleらしい。実際Appleは「Apple – iPad – The best way to experience the web, email, & photos」と紹介しており、e-bookは出てこない。

Amazon will continue to improve on the Kindle.

Amazonは先行者ではあるが、Kindleはニッチ市場を相手にしているため、さらに製品の特化を進め、一段とiPadから離れていくはずだ。本業が書店であるAmazonにとってこの戦略は非常に合理的だ。本を殆ど読まない層を頑張って取り込む必要もない。

The Kindle store will continue to thrive.

Amazon smartly separated its Kindle hardware division from its Kindle e-book store and has since released or announced Kindle apps for the iPhone, PC, Mac and Blackberry.

Kindleを生産するハードウェア部門は電子書籍の販売部門とは分離されているし、Kindleのアプリケーション版は様々なプラットフォームで展開されている。これはプラットフォーム企業に典型的な戦略だ(参考:Googleのプラットフォーム戦略)。プラットフォームの魅力が増すことが最も重要なことであり、その上のアプリケーション層を狙うのはむしろ特殊なケースだ

KindleにはDRMもあるので、あわよくばe-bookリーダー市場でiPodのようにシェアを取れればいいと考えていたのだろうが、書店であるAmazonにその絶対的必要はない。e-bookリーダー市場が他社に独占されて書籍販売による利益を回収されてしまわなければ十分だ。Amazonが欲しいのはハードウェアとしてのKindleではない。リーダーが競争的に(安く)供給されるならAmazonは書籍販売で利益をあげられる。もちろん競争はあるだろうが、それは電子書籍でなくても同じことであり、Amazonがそこで既に競争優位を持っている。

ガラパゴス携帯市場

日本の携帯は世界一だという人もいればガラパゴスだという人もいる。残念ながら(やはりとも言うが)後者が正しいことを示唆するポストをArsTechnicaから:

iPhone blowing up worldwide, big in Japan after all

iphone

Japan has seen the biggest increase—over 300 percent—which may help explain why the iPhone commanded nearly half of the Japanese smartphone market in 2009.

Admobのデータよると、日本でのiPhoneの増加率は世界最大で年間300%にものぼったそうだ。計測方法の詳細は分からないが、大きな伸びであるのは間違いない。元々ほぼ存在しなかったスマートフォン市場の半分近くがiPhoneということだ。

n fact, data from market research firm Impress R&D shows that the iPhone is the number one smartphone in Japan by a huge margin—the iPhone commands 46 percent of the smartphone market, while its nearest competitor has just under 15 percent and the nearest Android phone slight more than 2 percent.

iPhoneにつぐスマートフォンメーカーは12パーセントしかない。これは日本の携帯キャリア・メーカーのプラットフォーム戦略の失敗を意味するだろう。日本のキャリアは独自のネットワークを構築し、マイクロペイメントを容易にすることで多くのサービスを呼び込んだ。着うたなどの成功を見るにこの作戦自体はそれなりにうまくいったとは言える。

しかし、通常のインターネットと融和し、世界中の市場をカバーするiPhoneにはサービスの面で競争できない。もし日本がこのまま戦略を転換することができなければ、現在2%強と言われるAndroidがiPhoneに次ぐシェアを持つようになる日も近そうだ。