コモディティ化対策編

前回「労働のコモディティ化」で、労働の規格化が進みコモディティになってしまっていると述べた。

〇〇という資格を持っている人間が××をすると幾らみたいな状況では、労働者の価値は〇〇であることでしかない。それでも〇〇が希少であれば給与水準は高止まりするが、でなければ待っているのは完全なコモディティ化だ。

これは福祉業界や派遣業界に限ることではない。役職や資格だけで何をする人なのかが確定するような仕事をしている人全てに当てはまる。自分の仕事が言葉で簡単に表せるということで、それに当てはまる誰かが入れば後は給料が低い方が有利ということだ。

仕事・労働で考えると新しいことに聞こえるかもしれないが、マーケティングという観点から言えばこれは常識だ。物を売るときに一番最初にさけるべきはコモディティ化であって、いかに他の製品から自社製品を差別化するかだ。パソコンでも車でも携帯でも、どうやって単なるパソコン・車・携帯ではなく独自のブランドとして認識されるかに膨大な労力をはたいている。

この観点からすれば、資格だけで決まる分野や派遣業界で働くということは、あえてノーブランドのコンピュータ部品で勝負するようなものだ。そしてそのような場所で競争に勝つ方法は部品のそれと同じで、単に安く売ることだ。中国で賃金を抑えて安く売るならいいが、この場合抑えるのは自分の賃金だ。敢えてそんな処で自分を売りに出したくはないだろう(移住して生活費を抑えるのはありえるが)。

ではどうやったらこの状況でうまくやっていくにはどうしたらいいか。二つの方向性がある。

まずは他人をコモディティ化することだ。製造業がオートメーションによる生産性向上で発展したように労働者を規格化して利益を上げる。何をやるかを誰でも分かるようにマニュアル化すればよい。このマニュアル化こそが最も創造性を必要する部分で、これが出来る人間が最大の利益を享受する。派遣業者が儲かるのはこのためだ。労働者の賃金を抑えることでコストを下げ、経営者として利益を上げるノーブランド型だ(もちろん経営者としてそれなりに有名にはなるだろうが)。

他人を使いってコスト削減をしたくないのであればどうするか。製品差別化に走るしかない(日本で製造するためにはどうするかと同じことだ)。そのためにはまず自分の名前を掲げる必要がある。名札のないものにブランドは生じないからだ。これは昔ながらの名刺交換と変わらない。違うのはソーシャルメディアによって自分の名前を売るのが格段に容易になったことだ。これを有効に活用できるひとと出来ない人との差がついていくだろう。

実際の運用には、製品の場合同様にいろんなパターンがあるだろう。それこそ有名人のように自分というブランド一つでやっていくのも手だろうし、OEM・部品製造企業のように複数の組織に顔を出すような専門家になることもありえる(旧来の企業のように一つの組織の下で働くのでは単なる下請け企業になってしまう)。現実にはその中間型のような形態を取るケースが多くなるだろう。

どのような戦略を取るにしろ、単に人に言われたことをやるのが上手いだけでは駄目だ。自分の仕事は自分で作り出していく必要がある。不況だから大学生の希望就職先には大手企業ずらりという状況をみていると現実にはそううまくいっていないようではあるが。

職業別の政治的傾向

職業ごとに、リベラル・保守のスペクトラムでどの辺になるのかが図になっていて面白い。

Ideological rankings of occupational categories

政治献金をする人の職業のデータから各職業のメジアンでの政治的な立ち位置が示されている。青と赤の分布は民主党と共和党の議員のものだ。拡大すると読めるが、最もリベラルなのはMontion PicturesでそれにProfessors, Printing and Publishing, Public Schools, Laywersなどが続く。逆に保守的なのはOil and Gas, Auto dealers, Construction, Energy Production, Agricultureなどとなっている。思想的な左右と経済的な左右とを分離できない一次元的な表現の限界は感じるものの面白いデータだ。

数値の計算については他のポストで説明されている。簡単に説明すると、まず民主党の立候補者の数値を[latex]-1[/latex]、共和党の立候補者の数値を[latex]1[/latex]とする。次に献金者の数値を献金相手の数値の献金額での加重平均として計算する。そして今度は逆に各候補者の数値を献金者の数値をそれぞれの献金額の加重平均にアップデートする。数値が収束するまでこれを繰り返すと各候補者及び献金者の数字が決まるという寸法だ。この方法は、議員の数値を議会での投票行動から計算する方法に比べて、落選した立候補者への献金も考慮できる点で優れている。

働きたい会社

毎年恒例の100 Best Companies to Work Forの2010年版が発表された。これはアメリカの大手企業にかなり注目されているリストだ。調査会社が社員へ聞き取りを行うなどして指標を作成する。新卒学生の行きたい企業ランキングなんかよりも余程信頼できるだろう。

今年のトップはソフトウェア大手のSAS。金融や臨床などで非常によく使われる統計パッケージの開発元だ。私も半年程使っていたことがある。

100 Best Companies to Work For 2010: Full list – from FORTUNE

What makes it so great?

One of the Best Companies for all 13 years, SAS boasts a laundry list of benefits — high-quality child care at $410 a month, 90% coverage of the health insurance premium, unlimited sick days, a medical center staffed by four physicians and 10 nurse practitioners (at no cost to employees), a free 66,000-square-foot fitness center and natatorium, a lending library, and a summer camp for children.

ランク付け方法は企業秘密か公開されていないが、SASが一番になった理由として、月$410のチャイルドケア、健康保険の90%会社負担、無制限の(有給での)病欠(sick day / sick leave)、無料の医療施設、巨大なジム、プール、図書館に子供のためのサマーキャンプが挙げられている。

さらに調査会社のサイトには、SASの社内文化が紹介されている

Over 24 executives have active internal blogs. When executives update their blogs, they are automatically featured on the main page of the SAS Wide Web so that employees can read the blogs and offer their comments.

24人以上の重役が内部向けのブログを持っており従業員はそれを読んでコメントをつけられるという。

In response to a question asking what might be changed at SAS to make it a better place to work one employee responded: “I don’t think of anything. If I did think of something, I am confident that I could give that feedback to management, and have it considered”.

何か改善の余地があれば経営陣に伝えて考慮してもらうことに自信がある」という社員の言葉を紹介している。こんな言葉が得られる日本企業はどれくらいあるだろうか。

And all salaries at SAS are set in the same way – by matching market data to the job title.

社員のサラリーは全て、ジョブタイトルごとに市場での水準に合わせて設定される。これは時代の流れだ。

All staff who might be contracted out in other organizations – gardeners, food service employees, healthcare staff – are SAS employees.

正社員(?)だけの特別待遇かというとそうではなく、通常は外部に委託される業務でも、従業員としてサラリーで雇用している。

もちろんSASは社員に対して慈善事業をやっているわけではない。ABCは次のように報道している

Managers say that investment pays off with extremely low employee turnover that in turn reduces training costs.

SASはこれにより極めて低い離職率を達成し、社員の研修・訓練費用を節約しているという。実際、離職率はソフトウェア業界にして僅か2%だ。社員が離れないために努力する終身雇用が理想で、転職が難しい社会との違いが現れているのかもしれない

Over 24 executives have active internal blogs. When ex-ecutives update their blogs, they are automatically featured on the main page of the SAS Wide Web so that employees can read the blogs and offer their comments.

ビジネスをしてお金を稼いで社会のためになろう

Twitterでryosukeakahoshiさんが次のように呟いていた。

いまだに「ビジネス≒金儲け=悪」のような歪んだ先入観を持った大学生がいっぱいいる@福岡。何でそんな考えに至るんだろうか?学校教育?マスメディア?家庭教育?日本の風習?

「ビジネス≒金儲け=悪」という間違った考え方がどうして支持されるかというのは確かに面白い問題だが、その前にそれが間違っているということを説明した方がいいかもしれない。

お金を稼ぐ一番簡単な方法は人々に望まれていることをすること

お金を稼ぐとはどういうことだろう。例えば、レストランであればお客さんに食事を提供することだ。客はお金を払って=他の消費を犠牲にして食事を注文している。別に強制しているわけではないのでこれは客にとって望ましいことなはずだ。その食事は1000円だっとする。レストランはそれを1000円で自分から提供しているのだからそれで利益がでるはずだ。二人が自発的に取引を行っているということはそれが二人にとって望ましいということだ

レストランの例が示すように、ビジネスの本質は社会の非効率を解消して、その分け前を得ることだ。食事を食べたいがおいしい料理をすぐに作れないひとと、それなりの価格でおいしい料理をすぐに作れる人がただ並んでいるのは非効率だ。レストランは食事を提供することでこの非効率を解消し分け前として1000円をもらう。

解消する非効率が全体のパイで、利益はその分け前だ。ないパイは分けられないので、ビジネスが基本的にはパイを作り出す=社会をよくするものなのは明らかだろう。これがいいことでないというならそれはかなり変わった考えだ。

でも自発的じゃなかったらどうするの?

レストランの話は客が自発的に食事を注文していることが前提だ。もしレストランがぼったくりだったら、悪いことだろう。しかし、ぼったくりが犯罪であるように、取引を強制することはほとんどの場合に犯罪となる

これは偶然ではない自発的でない取引は一般に望ましくないので、それを犯罪としているのだ。強制的に物品を奪い取るのは強盗であり、金をだまし取るのは詐欺だ。これらの行為は何も生産しないどころか、その過程で暴力のようなパイ自体を壊す行動を伴う。だからそれは違法とされており、社会的に望ましくないビジネスは割に合わないように社会は作られている。犯罪にするほどではない場合には税金が課される。例えばタバコを吸うことは本人にとってはプラスなので完全に禁止するよりも税金で適当なバランスをとったほうがいいからだ。

抜け道は?

もちろん法律には抜け道がある。世の中の全ての望ましくない行動を事前に列挙することはできないからだ。でも、それを探してビジネスにするというのはあまり賢明ではない。我々はそういった行動を見つけて規制しようという意志をもっており、抜け道を利用して派手に稼いでいる人を見つけたらその抜け道を塞ぐからだ

逆に、社会のためになるけど儲からないこともある。例えば、科学技術に投資することで未来の人たちは利益を得るが未来の人々と取引をすることはできないから分け前をもらうこともできない。しかし、この場合でも悲観的になる必要はない。それが全体として望ましい限り、いつか我々は政府を通じてそれを支援する。政府という主体が未来の人の代わりとなるのだ。

ビジネスをしてお金を稼いで社会のためになろう

このようにビジネスは基本的に社会のためになるそういう風に社会は作られている。社会のためになることをしたいなら、なるべく大きな非効率を見つけてそれを改善すればいい。大きなパイを取れば分け前も多くなるのが普通だ。そうなっていない例外的なケースを探してビジネス・金儲けはよくないなんて気取っている暇があったら、何かを始めるべきだ大抵の場合、それで社会はよくなるのだから

ではなんで「ビジネス≒金儲け=悪」なんて考える大学生が多いのか

この問いへの私なりの答えは、ほとんどの日本の大学生は自分で商売をしたことがないから、というものだ。何か自分でものやサービスを売ってお金を稼いだことがあれば、こんなことが分からないはずはない。だってそうだろう。欠陥品を売りつけるのは難しく、みんなが欲しがる商品を売るのは簡単だ。捕まるリスクをおかして欠陥品を騙して売るよりも、商品を改善したほうがいい。それがビジネスであり、そうした改善の結果が金儲けだ。

追記:コメントでktamaiさんが指摘されているように、大学教員のほとんどが自分でビジネスにふれたことがないというのは大きな原因の一つのように思います。皆様有意義なコメントありがとうございます。

追記:図を使ってこのことを説明してみました。下のピングバックリンクからどうぞ。

付加価値を生んで税金(再分配原資)を収められるのは「産業」だけ。事業仕分けでみたように、残りは公務員もNGOも学者も芸術もスポーツも全部それを使う人neu

書評:Brazen Careerist

本を読んだら時々書評をしようと思う。初回は、昨夜、未だに時差ぼけがあり眠くなかったので読んだこの本で:

Brazen Careerist: The New Rules for Success by Penelope Trunk

著者は著名ブロッガー。45個のキャリアについての助言を集めたものである。特徴は、現在18-40歳あたりのGen X / Yのみを対象としていることだ。新しい世代は、前世代(=ベビーブーマー)とは異なり、「自分に合う」仕事を見つけるまで転職を繰り返し、会社での成功よりも仕事と私生活のバランスを求める。社会から性差に基づく収入格差もなくなり、主婦という概念もなくなりつつある。

この状況下においては、旧来のキャリア上の問題、例えばどうやって同僚より早く出世するか、はあまり意味を持たない。そこで著者はこのような状況の変化を所与としたうえで、キャリアを中心にしたアドバイスをする。履歴書の書き方から、上司・セクハラの扱いかた、、メールの書き方に至るまで様々な分野に渡る。心理学などの研究が援用されている箇所(例:人々の幸福度は年収$40,000を越えると収入の影響をほとんど受けない)は特に面白い。

個々のアドバイスの内容自体は特に驚くようなものではないが逆にどれも合理的だ。上述したような新しい環境で仕事をしている人には実用的な情報だろう。もし、自分の業界がまだ「前世代」的であるなら、この本を読んで備えてみるのもいいだろう。内容も平易で、200ページもないので英語の勉強にもお勧めできる。

知らなかった単語:hobnob, brownnose