キャリア段位

また、政府が何かおかしな制度を作ろうとしているようだ。

「キャリア段位」導入へ=非正規の待遇底上げ-政府

会合では、会社を辞めても次の就職希望先が同一業界ならば、適正な待遇で見つけやすくなるよう、新たな職業能力制度「キャリア段位」の導入に向けた本格的検討に入ることを決定。

職業能力を認定する「キャリア段位」制度を検討しているそうだ。ネーミングはともかく、政府が職業を定義することが可能なのだろうか。

キャリア段位は、分野ごとの実践的な職業能力を客観的に評価する制度。企業で働きながら業界横断的な職業能力の「段位」を取得できるのが特徴で、政府は業界団体や教育機関と連携、介護や環境など成長分野でまず普及させたい考えだ。

特に成長分野において、キャリアを定義し、それに必要な段階的な能力をアイデンティファイし、かつそれを客観的に評価することがどう可能なのだろうか。五年間の導入計画を立てるというが、政府が五年後に必要となる能力を予測することはできない。もし政府ですらそれを予見できるのであればそれは既に成長分野ではないし、そんな誰もが気づいていることを仕事にしても儲かるとは思えない

唯一、政府が将来お金になる職業とそれに必要な能力を把握できるとするなら、それは政府自体が規制により無理やり仕事を作り出してしまった時だろう。「客観的に評価する」ための外郭団体が設立されて税金を無駄遣いしてしまうだけでなく、成長分野ではその内容も的外れで、肝心の成長を阻害してしまう公算が高い。

援助のループ

プロダクト(RED)のCEOがグッチやらエルメスやらを一押ししているFTの記事の紹介に引き続き、NGOにおける金の流れに関する記事:

Secret NGO Budgets: Publish what you spend

Out of twelve NGOs that it asked to publicize the budgets of their ongoing projects, only one (Oxfam GB) complied.

グルジアとロシアでの45億ドルにも及ぶ人道的・復興支援の行方を追跡しようとしたところ、予算の公開に応じたのは12のNGOのうちOxfamだけだったという。これはNPO/NGOがドナーの信頼によって成り立っていることを考えると不思議なことだ。顧客たるドナーは自分たちが対価を支払って依頼している事業が適正に行われているかを観察できない利益を配分しないというのも信頼を保持するための手段だ。信頼を得られない団体は支持=寄付を得られず存続できない。

In an unusual display of interagency coordination, ten NGOs convened a meeting and wrote a joint letter to TI Georgia, arguing that they were unable to share their budgets at short notice as “there are a number of legal and contractual implications involved with donors, head office and other stakeholders which will take time to resolve.”

その辺りはNGO側も認識しているようで、10のNGOは共同で予算を開示出来ない旨のレターを送ってきたという。普段見られないほどの協調行動がこんなところで現れるというのは皮肉なものだ。確かにみんなが開示できないのであればダメージは少ない。

USAID informed me that it needed the consent of the NGOs to release this data as it might contain “confidential commercial information,” thereby closing the opacity loop: first NGOs had blamed donors for not being able to release budgets, and now the biggest donor was passing the buck back to NGOs.

寄付の多くを負担する政府機関へ情報公開を迫っても、NGOの同意が必要だと言って断られる。NGOは政府の機関ではないので全ての情報を要求出来ないということだ(これは政府が外部委託を行うことで情報公開を阻むのと同じ構造だ)。NGOはドナーのせいにし、公的機関であるドナーはNGOのせいにする。よってどこからも情報が見えないループが完成する。NGOの資金の流れが分からないだけでなく、援助国での政府のお金の使い方まで不透明になる。

“We finally got the district government to post its budget in the mayor’s office, where everybody can see it,” he proudly told me. When I suggested that he post his own project’s budget in his office, he recoiled. “This is an experimental project, so the overheads are very high,” he replied. “So it would be very difficult to explain.”

文中のこのエピソードは面白い。援助先の地方政府に予算を開示させたのが最大の業績と語るNGOが自分たちの予算の開示を渋る。援助を行う側にとっても援助を受ける側にとってもこのような不透明性は是正しなければいけない課題だ。

GoogleとAmazonの競争

GoogleとAmazonと言うとebookやクラウドストレージでの競争が注目されがちだが、本当の対立はそこではない。

While Google fights on the edges, Amazon is attacking their core

Google is fighting battles on almost every front:  social networking, mobile operating systems, web browsers, office apps, and so on.  Much of this makes sense, inasmuch as it is strategic for them to dominate or commoditize each layer that stands between human beings and online ads.

Googleの最近の戦略は検索広告以外のマーケットに出ていってそれをコモディティ化することだ。ユーザーの情報を集めることで広告の精度を上げ、中抜きによって広告市場での収益性が上がる。それらの市場で単独の利益を上げる必要もないし、別にその市場を取れなくても競争が激しくなるだけで構わない。

In fact, Google and Amazon’s are already direct competitors in their core businesses. Like Amazon, Google makes the vast majority of its revenue from users who are looking to make an online purchase.

しかも検索広告ですらその大半はGoogleにとって収益性が低い。Googleのコアビジネスは広告、特に何かを購入しようと考えて検索エンジンを使うユーザーだ

The key risk for Google is that they are heavily dependent on online purchasing being a two-stage process:  the user does a search on Google, and then clicks on an ad to buy something on another site.

Googleがこの製品検索へ広告を提供することで利益をあげるためには、ユーザーが何かを買おうとするときにGoogleの検索エンジンを使ってもらう必要がある。そしてそのためには、買い物する場所が散らばっていなければならない

Amazonがオンラインでの製品販売で拡大していくことはこのビジネスモデルに大変都合が悪い。何か欲しいときにGoogleで闇雲に検索するよりも、Amazonで検索してレビューを読んだ方が早いことは多い。Amazonは一般的な検索でGoogleと争う必要はないし、全ての製品を自社で提供する必要もない

本当に収益の上がる部分は製品を探す客と製品を提供する客とのマッチングだ。Googleの高収益性は検索アルゴリズムが他のマッチング手段、オークションやショッピングモール、よりも効率的であることに依存している。検索エンジンとしてトップを保つだけでは足りないのだ。

労働者に優しくする企業

ローレベルな労働者に優しい方針を採用する企業の業績がいいというストーリー。この手は話は個別事例の列挙に過ぎないので一般化は難しいが、アイデアとして読むのは意味がある。

Finding Profit From Investing in Workers

記事の元となっているのはProfit at the Bottom of the Ladder(サマリー)というリサーチだ。企業のヒエラルキーの下にいる労働者に投資したり、耳を傾けたりすることで業績が改善した事例を扱っている。

Investing in workers’ health led to reductions in absenteeism and turnover rates, and to greater productivity.

一つ目は労働者の健康を改善する投資だ。自動車部品工場ではAutoliv Australiaでは休暇や病欠を取りやすくすることで離職率が15-20%から3%になったという。American Apparelでは健康保険の補助、エクササイズクラスの提供、社食での健康なメニューな提示によって従業員の怪我や病気が減ったとのこと。

さらに南アメリカのSA Metalでは従業員へのHIV/AIDS治療を提供することでトラックが健康上の理由で止まってしまうのを防いでいるそうだ。

offering training and career tracks to line workers led to lower turnover and easier recruitment, and served to make employees more efficient while they were with the company.

二つ目には、企業によるトレーニングと昇進機会の提供が離職率低下や採用の容易化、生産性の向上に役立つという。向上で英語の授業(ESL)を提供することで従業員間のコミュニケーションが円滑になった例や、ウェアハウスマネージャーの68%が時給払いのパート出身であるCostcoの低い離職率が取り上げられている。

After implementing a teamwork system in which sewers were paid based on the number of garments produced by their team, productivity at American Apparel increased dramatically […]
三つ目はチームに対するインセンティブの支給だ。American Apparelでは人員は12%増えただけなのにアウトプットが三倍になったという。
In the United States, average wages at Costco were approximately 42 percent
higher than those at their closest competitor, Sam’s Club, the wholesale branch of Wal‐Mart.
Costcoでも労働コストは競争相手より42%高いにも関わらず離職率や生産性で優位に立っている。
While the high productivity wasn’t solely due to employee incentives in either case, financial rewards clearly fueled employee productivity in both cases.
労働者を助けるというと収入の安定が挙げられがちだが、適切な金銭的インセンティブ支給が企業にとっても労働者にとっても望ましいことは多い(両者のインセンティブを合わせるのだから当然ではある)。
Companies in our study established ways to learn from their lowest‐level employees, who had the most expertise on the ways in which much of the work at the company was done and could be improved.
四つ目は末端の労働者からいかに情報を集めてくるかということだ。日本経済の調子が良かった時には、日本企業の成功の秘訣なんて具合によく取り上げられた要素だろう。
As a result of its reputation for providing good jobs and investing in the community, Costco faced less community opposition than its competitors, such as Wal‐Mart, when looking for new sites for its warehouses.
最後はコミュニティに対する配慮や評判だ。Costcoは最低賃金をかなり上回る賃金を提供することで知られており、お店を出す場合でも大型店特有の地元住民の反対が少なくて住んでいる。
最終ページでこれにからめてウォールストリートを批判しようとしているのが残念だが10p程度の短いレポートなので気晴らしにどうぞ。

Facebookの使い方

追記:このポストをキッカケにFacebookのガイドブックを執筆しました。よろしくお願いします。

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最近、Facebookの使い方が分からないという声を(主にTwitterで)耳にするので使い方を簡単にまとめてみる。私自身別にヘビーユーザーではないので、正しい(?)使い方かどうかは知らないがとりあえずはこんな感じでどうぞという程度にとって頂きたい。

寮の部屋

日本人が最初にFacebookを見たときによく分からないのがWallというものだ。壁って何だよという感じだ。単にメッセージ送るのと何が違うのか。

これは寮の部屋の扉だと思えばいい。寮の扉にホワイトボードをぶら下げたり、紙を貼ったりするのは一般的だ。

イメージとしては上の写真(CC)のホワイトボードのような感じだ。メモを扉の下から入れるのと比べると通りすがりの人に見えるという違いがある。実際、書き込んだ人と書き込まれた人が両方友達ならニュースフィードに表示される。書き込まれた人しか知らなくてもその人のプロフィールまで行けば内容は読める(この辺はTwitterと変わらない)。返事は自分の壁にしてもいいが、相手の壁に書き込みに行ってもいい。

別に単なるメッセージボード以外の使い方も出来る。上の例(CC)ではアンケートを取っている。扉には好きな物を貼りまくって自己主張してもいい。学生寮が想像しにくければオフィスのデスクを想定してほしい。

部屋の飾り

自己主張の場所は扉だけではない。友達が部屋に来たことを考えよう。このとき間取りも家具も固定な寮で、自分をアピールできるのは壁だ。大学生が壁に貼るといえば何か、一番に来るのは写真やポスターだろう。

上の写真のように(CC)自分が見るためでなく、自分がどんな人と仲がいいかなどを訪問者にもお伝えするわけだ。但し、ネット故に違うこともある。

他の人が自分が入った写真をアップロードし、タグすることもできる(タグというのは写真に人物を関連付けること)。プライバシー設定によっては自分がタグされている他人の写真も自分のプロフィールから見えるようになる。上の例では飲み会に森伊蔵が出てきて一人盛り上がる私が写っていた(写真自己規制)。

自分の趣味をポスターなんかでアピールする人もいる(CC)。Facebookだと、自分な好きな音楽・映画・言葉を登録したり、好きなバンドのファンになったりできる(何のファンかは友達などに見える)。

例えば日本酒が好きならSakeグループに入ってもいい。他の日本酒好きと知り合うこともできるだろう。

プライバシー

Facebookでよく問題となるのがプライバシーだ。メンバーは自分の情報を友達などに見てもらいたいが、誰にでも見せたいわけではない。上の例で言えば、ホワイトボードはドアの外=同じ寮の人は見れる、写真・ポスターは室内=友達しか見えない、という風になっているのが普通だ。

とはいえ、物理的にドアが存在するわけではないので、その区切りは自分で設定することができる。会社の人にはプライベートの写真は見せないとか、親しくない知り合いにはWallにも書き込ませないとかいう風に設定する。

友達まで、友達の友達まで、同じ学校の人といった大まかな設定から、ユーザーごと・リストごとの細かい設定まで可能だ。デフォルトではかなりの部分が一般公開になっているので、新しく始める場合にはプライバシーの設定に注意したい(アカウント>プライバシー設定)。

ポーク

Facebookの分かりにくい機能にPokeがある。Pokeというのは突っつくことだが、これはワン切りのようなもので、相手に自分がアクションをとったことだけが分かる。それを見てどうするかは受け手次第だが、頻繁にやると単なる変質者にしか見えないので注意。

フレンド

Facebookを始めると色んな人からフレンド登録申請がやってくるようになる。特に知らない人から来ると最初はビックリするが無視して構わない。間違って押したとか、向こうも使い方が分かってないとか、(女性なら)単なるナンパであることが多い。

ではフレンド登録は慎重にかというとそういうわけではない。会ったことがある人は登録というのが普通で、アメリカ人なら500とか1000とかフレンドがいることが多い。もちろん全員を同じように扱う必要はなく、上述のプライバシー設定を活用するとよい。

ありがちな例としては十年前の同級生が突然フレンドになって、今の友達に知られたくないことを壁に書き始めるとか、昔の卒業アルバムの写真にタグしはじめるなどという災害がある。

名刺・ローロデックスとしての利用

以上のようにFacebookは基本的に自意識過剰な大学生のためのSNSなわけだが、そんな時期を過ぎた人にとっても利用価値がある。

一つは名刺としての利用だ。Facebookは本名と自分の写真で登録する(注:それ以外のプロフィールは著しく胡散臭いのでやめたほうがいい)ので名刺の代わりになる。イベントなどで会ったときに名前だけ教えておけば、検索して簡単に(Facebook)フレンドになれる。

そこから他の情報を交換することもできるし、後で連絡する時にも便利だ。ステータス更新をしていれば相手に忘れられないという効果もある(あまり更新頻度が高いと邪魔で隠されること必至なので避けた方がいい;コロラリーとしてTwitterの更新をFacebookのステータスと同期するのもお勧めしない)。

逆に自分のフレンドリストは高機能なローロデックスとして利用できる(写真はCC)。時々自分の知り合いの近況を眺めつつ連絡をとってみる。年賀状を書くようなものだ。

Twitterとの違い

ではFacebookとTwitterの違いは何か。一番の差は利用目的だ。Facebookは例え薄い関係であっても現実に知っている人を登録、管理するものだ。面識のない人を登録することは基本的にない。デフォルトのプライバシー設定は段々緩くなってきているが、あくまで友達の友達まで公開といったレベルが基本だ。これについては以前「Twitterでは「つぶやく」な」というポストで述べた。

ではTwitterがFacebookのステータス更新やMixiの日記と違うのは何か。それはTwitterの仕組みの根底にある一方向性だ。従来のSNSでは友達になるためには相手の承認が必要だ。昔の友達を発見したり、最近会った人を見つけたりするのには役立つが、あくまで既存の人間関係を補完するものに過ぎない。見ず知らずの人間が友達リストにたくさんいる人は少ないだろう。それはまさに「友達」リストなのだ。

Twitterがデフォルトで誰にでも見え誰でもフォローできるのに対して、Facebookはあくまで仲良しグループでやりとりしたり、昔の知り合いを探したりするためのネットワークだ。現実の交友関係が基礎となっている。

もちろんTwitterで知りあった人と実際にあってみることもあるし、Facebookで友達の友達と知り合うこともあるのでその境界は曖昧だが、システムの違いはネットワークの形成に影響を与える

冒頭のFacebookが流行っているらしいのでアカウントを作ってみたが使い方が分からないというのはその典型だ。既存のネットワークを管理するのが基本なFacebookは自分の知り合いもFacebookにいなければ活用出来ない。TwitterなどでFacebookフレンドを募集してもいいが、フレンド同士は面識があるという想定のもとで作られたシステムなのでどうしても使用時に違和感が出てくる。これはまず面白そうな人を一方的にフォローしてみるTwitterとは対照的だ。現状では外国人の知り合いが多いのでなければ突然Facebookを活用してみるというのは難しいかもしれない。