ノミクス

前のエントリーでScroogenomicsを紹介したがJoshua Gansは以下のような発言をしている:

Joel Waldfogel in his new book, Scroogenomics (will the onomics trend know no end?) tell us in a series of essays why you shouldn’t buy presents for the holidays.

ScroogenomicsはScrooge+nomicsで出来ている。もちろんnomicsはeconomicsから取ったものだが、元々はギリシャ語のoikos+nomosだ。oikosは家庭という意味でnomosは習慣とか法律という意味だ(ギリシャ哲学におけるノモスとピュシスの話は大学にいけばどこかで聞くだろう)。語源的にはnomicsだけを他の単語につなげるというのはあまり筋が通っていない。nomic(s)ないしnomyが語尾になっている単語は他にもergonomics、mnemonic、taxonomyなど色々ある。onomicsとなっている場合-o-は繋ぎで入っている(psych-o-logyなどと同じ)。

エコノミクスとの関連で作られた造語としては、Reganomics、Obamanomicsのような人名やFreakonomics、Parentonomics(Joshua Gansの本だ)のような経済書がある。ちなみによく似た接尾辞-omicsがあり、こちらもカタカナでオーミクスと言えば通じる(?)ほどよく使われている(本当はReganのようなnで終わる単語にnomicsをつける場合は-o-をはさむべきなのだろう)。

スクルージノミクス

面白そうな本がいつも読んでいるブログで紹介されていたの注文してみた。本の名前はScroogenomicsだ。

Game Theorist: Scrooge is an economist

スクルージ(Scrooge)というのはディケンズの小説クリスマスキャロルの主人公で極めつけの守銭奴として描かれている。

Scroogeonomics is an aptly titled 170 odd page presentation of the case against Christmas but more generally against gift giving.

この本は贈り物をする習慣に反対する内容だそうだ。他人にプレゼントを贈るのがあまり「効率のよい」行動でないのは明らかだろう。第一に相手が何を欲しがっているのかが分からない。実際、

Actually, he does better than that, he calculates it. It is around $12 billion per year made up of the money value of the total difference between what a gift is worth to someone versus just having the money.

お金をそのまま渡すのに比べて年間120億ドルの無駄が生じているそうだ(そしてプレゼントを選ぶのに悩む時間費用もだ)。だからといって現金を人に上げるのは難しい。アメリカでは冠婚葬祭でも現金がやりとりされることはほとんどない。現金が望ましくないとされている社会では、ある個人がそれを変えることはできない。

とはいえこういう風習はだんだんなくなってきているように思う。親戚が子供に物を買って与えることは少なくなってきている(うちでは子供のころから現金だったような気がする)し、カタログや金券も増えている。百億ドル単位での無駄があるのならこの流れは当然だろう。むしろプレゼントを渡すという習慣がどのように発生したのかのほうが興味深い。ほぼ全世界共通ともいえる習慣であり単なる偶然なはずはない。この本がその辺を解き明かしてくれると期待してみよう。

アラブ諸国における教育

アラブ諸国における教育についてのThe Economistの記事:

Education in the Arab world: Laggards trying to catch up | The Economist

アラブの国々が経済発展を遂げられない最大の理由は教育水準の低さだと考えられる。例えば、

According to surveys, barely a third of Egyptian adults have ever heard of Charles Darwin and just 8% think there is any evidence to back his famous theory.

エジプト人の三分の一はダーウィンについて聞いたこともなく、証拠のある理論だと考えている人は8%しかいない。アメリカの教育とキリスト教の関係はよく問題にされるが、聞いたこともないというのはそれを遥に上回る大問題だ。そんなことがおきうるのは教育内容が宗教によってコントロールされているからだろう。

Until recent reforms, state primary schools in Saudi Arabia devoted 31% of classroom time to religion, compared with just 20% for mathematics and science.

つい最近までサウジアラビアの初等教育の31%が宗教に当てられていたそうだ。

It is one reason why Arab countries suffer unusually high rates of youth unemployment. According to a recent study by a team of Egyptian economists, the lack of skills in the workforce largely explains why a decade of fast economic growth has failed to lift more people out of poverty.

この影響は単なる面白い話に止まらず、適当な労働力供給不足による経済発展の停滞にまで及んでいる。教育システムの改善を進めている国もあるが一朝一夕な効果は望めないし、宗教的な反発も強い。

TIMSSの学力調査でもアラブ諸国は全て平均を下回り、しかも優秀な学生の割合は極端に低い。包括的な大学ランキングとして知られているSJTUのトップ500ランキングにはアラブの大学が一つもない。それに対してイスラエルの大学は六つもランクインしており、一般に高い学力で知られている。

P.S. それにしてもThe Economistの記事の質は安定的に高いように思う。日本にはこういうレベルの経済ジャーナリズムは存在しないのではないか。

最も高価な検索キーワード

MediaPostに今最も高価な検索キーワードが紹介されている:

MediaPost Publications Report: Top Keyword Price Nears $100 Per Click 10/15/2009

先月の最も高いキーワードはGoogleとYahoo!で同じでなんとそれぞれ1クリック$99.44と$60.68となっている。そのキーワードとは、

The report released Wednesday pegs Mesothelioma as the highest-selling keyword in September.

Mesotheliomaだ。スペルチェッカーが文句を言うぐらいなので余り知られていない英単語かもしれないが、中皮腫のことだ。中皮腫はアスベスト被爆によって生じる(悪性)腫瘍で極めて生存率が低い。

As for the word “mesothelioma,” it seems lawyers have ramped up paid-search ads based on lawsuits related to the asbestos-causing lung cancer.

Mesotheliomaキーワードを購入しているのは主にアスベストを利用していた雇用者への訴訟を専門にしているローファームと考えられている。多くの人が利用するキーワードではないが、顧客を見つけるには極めて効果的な方法である。

ANDAリバースペイメント推定違法化

以前から議論になっていたANDA申請を行った企業と先発企業との訴訟において後者が前者に支払いを行う形での示談について新しい法案が提出されている:

Patent Law Blog (Patently-O): Patent Reform: Reverse Payment

ANDA=Abbreviated New Drug Applicationとは米食品医薬品局(FDA)による新薬承認申請(NDA)の一種だ。アメリカで新薬を流通させるためには、その安全性・効果をFDAに認証される必要がある。その許可を申請するのがNDAだ。ANDAは既に流通している薬品と生物学的に同等な後発薬の承認申請を行う際に使われる簡略版である。1984年のハッチ・ワックスマン(Hatch-Waxman)法(正式にはDrug Price Competition and Patent Term Restoration Act)により導入された。これにより、特許が切れた薬品のジェネリック医薬品認証のための費用が節約され、より迅速に市場へ投入することが可能になる。

ANDAを利用するためにはFederal Food, Drug, and Cosmetic Act Section 505(j)に定められた四つの条件のいずれかを満たす必要がある。

  1. such patent information has not been filed,
  2. such patent has expired,
  3. of the date on which such patent will expire, or
  4. that such patent is invalid or will not be infringed by the manufacture, use, or sale of the new drug for which the application is submitted

この中で争点となっているのは四つめの条件だ。Section 505(j)ではさらにANDAで最初に申請を行った企業には180日間の独占権が与えられ、他の企業はANDAの認可を得ることができない。これはジェネリック薬品の開発を行うインセンティブを与えるための限定的な独占である。これを一般にParagraph IV Certificationと呼ぶ。

問題となるのは、後発企業がParagraph IV ANDAを申請するケースだ。Paragraph IV ANDAが申請されてから45日間、当該特許を保有する先行企業は後発企業を特許侵害で訴えることができる(薬品の特許を侵害せずにジェネリック薬品を製造できるのかという疑問は当然だが、薬品を保護している特許は主な薬効成分に関する特許だけとは限らない)。訴訟が始まると判決でるか30ヶ月経過するまでANDAの認可は行われない。この時特許関連の訴訟ではよくあるように示談が成立することが多いのだが、先行企業が後発企業に和解金を支払う形をとることがある。これは通常の特許侵害訴訟の結果とはお金の流れが逆であるためリバースペイメントと呼ばれる。

リバースペイメントが生じる原因として有力なのが、先発企業と後発企業との共謀である。後発企業がParagraph IV CertificationからParagraph III Certificationに切り替えることでジェネリック薬品の参入を遅らせて、現行薬の独占を続けることができる。示談になった場合、該当する特許の有効性について結論はでないため、たとえ特許が無効であっても独占状態は続くことになる。リバースペイメントはこの独占利得の分配と解釈される。

リバースペイメントが本当に反競争的なのかについては様々な意見があるが、ポイントはリバースペイメントの存在が違法行為を推定(per se illegal)するのかどうかである。リバースペイメントがほぼ確実に反競争的行為を示すのであれば推定が望ましいが、そうでないなら示談を推奨する意味での通常のRule of Reasonによる対応が望ましいということになる。

この件については連邦取引委員会(FTC)が以前に訴訟を起こして敗訴しているが、その時には司法省(DOJ)はFTCに反対していた。今回政権が変わったことによりDOJもFTC側に回り、議員から法案が提出されるにいたったというわけだ。