タクシー料金がメーターで決まるのはごく一部の先進国だけだ。多くの国では目的地を告げたあと値段交渉を行う。いくつかの戦略が提示されている:
Psychology, economics, and the taxi – Chris Blattman
Strategy part 1: Figure out the “real” price beforehand. Shopkeepers, hoteliers, hosts, and the like will help you here. Ask those who actually take taxis.
まず大体の落としどころを事前に調査する。ネットで調べてもいいし、現地の人に聞いてみてもいい。別に嘘をつくインセンティブはないだろうから誰でもいいだろう。
Strategy part 2: Anchor the price. Humans have a tendency towards starting point bias. Get that starting point low.
とりあえず低い額からスタートすることも重要だ。
Strategy part 3: Figure out the national bargaining fraction. Anchor too low and some cabbies will simply stop talking to you.
もちろんあまり低い値からスタートしようとすればタクシー運転手は交渉に応じない。大体どの程度から交渉を始めるのが普通かということも調べる必要がある。
Strategy part 4: Keep smiling. It’s a game, so try to enjoy it. Never lose your cool.
笑っていたほうがいいそうだ。これは大抵の一回限りの交渉に当てはまるだろう。
面白いのは、国によって大体のスタート位置と交渉にかかる長さが違うということだ:
- Ethiopia: 0.7 with 2 rounds
- Argentina: no less than 0.9 and 1 round.
- Canada: 1 and 0
- Uganda: 0.5 and 4 rounds
- Liberia: 0.1 and 8 rounds
- Morocco: 0.001 and upwards of 754 rounds (including mint tea).
非常に低い価格からスタートするのが普通でやたらと交渉に時間がかかる国もあれば、日本のように全く交渉を行わない国もある。これには二つの理由があるだろう。
まず一つは、タクシー運転手が値段交渉を価格差別のデバイスとして利用していることだ。お金のある人はさっさと移動したいので長い交渉を避けたがる。これを利用して、払える人に多く払ってもらいつつ、値引き交渉をするような客も取り込む。価格差別は需要が不均一な場合ほど重要であり、貧富の差はその最も大きな要因だ。
二つ目の理由は、タクシー業界の構造だ。個々の運転手にとって値段交渉を価格差別に使うのが最適な行動であっても、運転手全体にとっては最適ではない。業界が大きな企業に統合されれば、値段交渉に応じないようにすることで、運転手同士の競争を避けるだろう。これは会社の信用をもとに所属する運転手が機会主義的に価格を釣り上げて利益を出すことを防ぐためにもなる(フランチャイズのレストランが仕入れを統一するようなものだ)。日本のように料金が一律に規制されていない場合でも企業ごとに一つの価格体系しかなければ競合他社の価格を把握するのは簡単であり、(暗黙の)共謀を形成するのも簡単になる。
但し、値段交渉に応じないというポリシーは実際に守られているかを確認するのが難しい。運転手と客にとって有利な交渉であれば誰も会社にそれを報告するインセンティブがないためだ。メーターを利用した課金の仕組みはこの問題を解決するためのものだろう。