無償インターンシップ

ヨーロッパのニュースで何回か目にした無償インターンシップの問題がNYTimesでも取り上げられている(ht@TheSyntaxError):

Growth of Unpaid Internships May Be Illegal, Officials Say – NYTimes.com

With job openings scarce for young people, the number of unpaid internships has climbed in recent years, leading federal and state regulators to worry that more employers are illegally using such internships for free labor.

若年層の雇用が細るにつれて無償インターンシップが増えているており、その合法性が取り沙汰されている。

Among those criteria are that the internship should be similar to the training given in a vocational school or academic institution, that the intern does not displace regular paid workers and that the employer “derives no immediate advantage” from the intern’s activities — in other words, it’s largely a benevolent contribution to the intern.

無償インターンシップが合法であるためには、インターンシップが職業学校のトレーニングに近く、かつ雇用を奪わず、雇用主が直接の利益を得ない必要があり、殆どの無償インターンシップはこの基準を満たさない。

In 2008, the National Association of Colleges and Employers found that 83 percent of graduating students had held internships, up from 9 percent in 1992. This means hundreds of thousands of students hold internships each year; some experts estimate that one-fourth to one-half are unpaid.

単なる経済環境の悪化だけでなく、インターンシップそのものの広がりも寄与している。1992年に僅か9%だったインターン経験は2008年には83%となっており、むしろインターンシップしない学生のほうが珍しい状況だ。そのうち1/4から1/2が無償ではないかと推測されているそうだ。

“Employers increasingly want experience for entry-level jobs, and many students see the only way to get that is through unpaid internships.”

雇用主がエントリーレベルにおいてもある程度のスキルを求めていることがその理由だ転職が盛んなため、新卒を雇用して教育しその後生産性に比べ低い賃金で働いてもらうということができない以上、企業は労働者の教育費用を払うインセンティブがない。スキルの低い労働者は教育費用を差し引いた給与しか出せないが、最低賃金を下回る金額では正規に雇用できず、無償インターンシップというグレーゾーンになるのだろう。

解雇が難しいが転職も困難なため、社内教育がメインとなる日本とは対照的な構図だ。労働市場の流動化が進めばこういった問題は日本でも生じるだろう。

Many employers say the Labor Department’s six criteria need updating because they are based on a Supreme Court decision from 1947, when many apprenticeships were for blue-collar production work.

このような不整合が生じているのは、先に上げた無償インターンシップに関する基準が六十年以上前に出されたものであることに由来する。ブルーカラーを念頭においており、所謂インターンシップというよりはアプレンティスシップに近い。当時であれば雇用主の力が相対的に強く、こういった規制も合理的だったかもしれないが、これが現在に当てはまるかは疑わしい

“One criterion that is hard to meet and needs updating is that the intern not perform any work to the immediate advantage of the employer. In my experience, many employers agreed to hire interns because there is very strong mutual advantage to both the worker and the employer. There should be a mutual benefit test.”

特に雇用主が直接の利益を得てはならないという基準は非常に時代遅れだ。昔ならある地域のある業種の就職先が限られているなどトレーニングの便益を正式に就職した後に回収できたかもしれない。しかし、今ではインターンで経験を積んだ学生が自分の会社に就職する保障は全くない。インターンを雇うのは企業にとってもインターンにとっても何らかの利益があるからであって、企業に慈善事業を期待するのは無理がある。企業に利益がないなどという意味不明な条件ではなく、双方に利益があるという条件にすべきというのはその通りだ。

“A serious problem surrounding unpaid interns is they are often not considered employees and therefore are not protected by employment discrimination laws,”

無償インターンシップが制度として運用されていないことはさらに大きな問題を引き起こしている。それは正規の雇用ではないがゆえに雇用に関する規制が適用されないことだ。性差別・人種差別などの法律がそれに当たる。無償、つまりお金の流れが無いゆえに無償インターンシップを規制するのは非常に困難だ。エンフォースメントの費用を考えれば強い規制をかけて取り締まるよりも、実態に近い制度を用意した上でそれなりのルールを守らせる方が効率的だろう

日本でもインターンシップが広がっており同じような問題が生じるだろうが、その時に過剰な規制をかけてそもそも若者が経験を得るチャンネルを塞いでしまわないことが望まれる

P.S. 特に大学関係者がこうしたインターンシップを批判するときは気を付ける必要があるだろう。大学はキャリア教育という市場でインターンシップとは競合関係にあり、中立的とは思えない。それどころか大学は授業料を取っているのだから(無償)インターンシップを非難するのはおかしいだろう。しかも大学は入ってしまえば切り替えるのが難しいがインターンはダメだと思ったらやめればよい。

インフォグラフィック

最近目にすることの増えたインフォグラッフィクの問題点を具体的に指摘している次のポスト:

The gulf remains wide – Junk Charts

インフォグラッフィク(infographics)というのはWikipediaによると次のように定義されている。

インフォグラフィック(英: Inforgraphics)は、情報、データ、知識を視覚的に表現したものである。インフォグラフィックは情報を素早く簡単に表現したい場面で用いられ、標識、地図、報道、技術文書、教育などの形で使われている。また、計算機科学や数学、統計学においても、概念的情報を分かりやすく表現するツールとしてよく用いられる。科学的情報の可視化にも広く適用される。

要するにデータをヴィジュアル化した、統計で出来ているグラフの派手なバージョンのようなものだ。題材となっているのはMashableの記事(”5 Amazing Infographics for the Health Conscious”)で取り上げられているインフォグラッフィクだ。


サプリメントの効果が上から下に並べられている。上の方は効果が臨床的に確認されているもので、下にいけばいくほど健康な大人が経口摂取した場合の健康増進効果が未確認となっている。よく見かけるGojiやacaiは微妙なのかなど、内容自体は結構面白いが、ヴィジュアライゼーションとしては問題もある。

If the location and cluster membership of the substances depicted have some meaning, I might even feel ok about the effervescence. But I don’t think so.

それはサプリメント同士の位置関係に特に意味が見出せないことだ(ちなみにeffervescenceというのは気泡のことだ)。

こちらは水道水に含まれるバクテリアの数なんかを表したインフォグラフィックだ。問題とされているのは右側にある、各水道がカバーする人口のグラフだ。

The fact that the four buildings are not considered one complete unit also trips me up. The Truckee Meadows is depicted as 7 buildings, not divisible by 4. In addition, if 2 short buildings + 1 tall + 1 medium = 200,000 people, how many people live in 2 tall + 1 medium + 4 short buildings?

右下にはグラフの単位(?)がつけられている。
しかし、建物の高さが均一でないためグラフの読み方が分からない。棒グラフの長さが人間を表しているのか、面積なのかはっきりしない。さらに±サインを約という意味で使われているのも分かりにくい。日本なら≒だしアメリカなら~を使うのが標準的だろう。

They belong to the class of “pretty things” that are touted all over the Web but from a statistical graphics perspective, they are dull.

インフォグラフィックは見栄えこそいいが統計学的に見ると怪しいことは気に留めておく必要がある。

アンドロイド躍進

携帯マーケットについての最新レポート:

Google Android Continues to Transform Smart Phone Market

まず目立つのはAndroidが受け入れられ始めていること。次の90日間にスマートフォンを買う予定の人の三割がAndroidがいいと言っているそうだ。半年前は6%しかなかったことからすると凄い躍進だ。日本でもNTT DocomoからAndroid搭載機が発売されており今後が注目される。

逆にPalmの凋落は留まるところを知らない。iPhoneがPalmのシェアを食い続けている格好だ。

この差を生み出しているのはやはりシステムの使い心地・アプリケーションの豊富さなどプラットフォームの魅力だ。首位をキープするiPhoneと拡大しつつあるAndroidの顧客満足度は群を抜いている。携帯市場での競争はすでにプラットフォームの間のそれに移行した。そこに日本メーカーの影は全くない。

花火の規制緩和

ノーベル賞を取った人が教育について語るというのはよくある話だがこれはなかなか興味深い。

Nobel laureate: If you want to get kids interested in science, legalize fireworks

When I asked Sir Richard at lunch what we could do to spark more interest in science among young people, I was surprised by his answer: make it easier for them get their hands on fireworks.

RNAスプライシングでノーベル賞を受賞したSir Richard Robertsは、若い人にもっと科学への興味を持ってもらうためには花火に触れさせるのがいいという。

“When I talk to my Nobel colleagues,” he said during the on-stage portion of our conversation, “more than half of them got interested in science via fireworks.”

他の受賞者に話ても多くの人が花火を通じて科学へ興味を抱いたとのこと。

Blowing stuff up, apparently, generates excitement about chemistry in a way that staring at the periodic table of the elements just doesn’t.

確かに花火は見た目も派手だし、含まれる元素によって色が変わるので科学を学ぶのには最適だ。Wikipediaにも花火に利用される元素とその用途が記されていて面白い。ちなみに日本では火薬類取締法で規制されている。危ないものを規制することは必要だが、子供が科学に触れる機会を用意することも必要かもしれない。

キャリアとコーリング

経済と何の関係があるのかは疑問だが、昨日ブローカーの飲み友達と似たような話題になったので:

Ben Casnocha: The Blog: Do You Want a Family or a Calling?`

仕事についてキャリア(Career)とコーリング(Calling)との区別をした上で、仕事と家庭とのバランスについて論じている。

First, let’s review Michael Lewis’s distinction between a “career” and a “calling”:

A job will never satisfy you all by itself, but it will afford you security and the chance to pursue an exciting and fulfilling life outside of your work. A calling is an activity you find so compelling that you wind up organizing your entire self around it — often to the detriment of your life outside of it.

普通、仕事というのはそれ自体で幸せになるとかいうものではなく、仕事の外での人生を追求する上での土台を与えてくれるものだ。それに対しコーリング(天職?)はどうしてもやらないといけないもので、自分の人生がそれを中心に回るようなものだという(日本ではそもそも仕事は全てコーリングであって生活は仕事を中心に回るべしというような信仰があるような気もするが…)。

If you have a job / career you have plenty of time and energy for your own family, but it’s maybe harder to change the world with your professional work. If you want a calling, you don’t have time for a family.

ワーク・ライフ・バランスで問題となるのはコーリングの方だ。単なるキャリアであれば家族のための時間もエネルギーもあるが、世界を変えるようなことはできない。コーリングとなると家族に割く時間はなくなる。

To me “family” means kids. If you are parenting children, it’s virtually impossible to have a professional calling as Lewis defines it. “Family” can also mean having a spouse who’s pursuing his or her professional calling — then, even without kids, it’s impossible for you to do the same. (Power couples rarely work out.)

ここでいう家族は子供のことで、子どもがいると仕事を自分の生活の中心にするのは難しい。配偶者が仕事中心の生活を送っている場合も同様だ。

I believe the unvarnished reality about work-life-balance is this: the only people who successfully follow an all-consuming, high-impact professional calling are: a) either single or married to a someone who has a “career” (or less) and not a “calling” and, b) do not have kids.

全力を仕事に傾けるためには、独身か単なるキャリアを持っている相手と結婚していて子どもがいないことが必要なのだろうと述べている。これは時間だけでなく、地理的な条件を考えても妥当に思える。仕事を中心にすれば住む場所は仕事で決まってしまうが、配偶者がそれに合わせて仕事を選べない限りうまくいかない。子供がいる場合はさらに難しい。

Many men, including some of Silicon Valley’s most famous, do their “calling” early in life and then “career” later in life with kids. Men have the luck of being able to organize their lives in a way that this can work. Women, not so much. Damn biological clock.

一つの方法は、最初に自分の仕事=コーリングに没頭し、後で子供を含めた家族を普通の仕事=キャリアで養うというものだ。ここで男女の違いが生じる。女性の場合、生物学的な理由で子供を先延ばしするには限界がある。先に子供を育てるとキャリア上のギャップが生じるし、ある程度手間がかからなくなっていたとしても子供がいれば完全に仕事を生活の中心にするのは難しい。そうすると時間との勝負になってしまう。