カップルのためのファイナンシャル・プラニング

New York Timesでこれから結婚する前にお金の使い方に話合うべきだというストーリーが紹介されている。

Your Money – Four Talks About Money to Have Before Marriage – NYTimes.com

何故、カップルがお金の使い方についてよく考える必要があるのか。一つ目の理由は離婚率の高さだ。

The risk that any marriage will end in divorce is about 45 percent

離婚率は半分近く、弁護士費用は引越し費用などは大きな財政負担になる。そして離婚の原因の多くがお金にまつわるものであるのは言うまでもない。

It’s almost impossible to be hooked up to somebody who has the same balance of spender and saver as you, or expansiveness versus conservativeness or financial circumstances

そしてお金の使い方について同じような考えを持っている相手と合う可能性はそれほど高くない

He adds that the mix gets even more volatile with second marriages, when couples may have children, ingrained financial habits and savings or other assets that necessitate the discussion of a prenuptial agreement.

さらに、二度めの結婚ともなれば連れ子がいる場合もあるし、消費パターンも固定してしまっている。大きな資産があればプレナップ(婚前取り決め)も必要になる。

ここでは再婚の事例が挙げられているが、必ずしも再婚である必要はないだろう。結婚時点での年齢があがるにつれ、消費パターンの固定化や重要な資産・債務の額は上昇していく。これには会計上現れない人的資本なども含まれよう。

When Lisa J. B. Peterson started her Boston-based financial planning firm, Lantern Financial, she knew she wanted to focus her practice on young professionals. She quickly realized that many of them could use premarital financial counseling and built a program called Harmoney around their needs.

カップルに絞ってファイナンシャル・プラニングを行うサービスが紹介されている。これは晩婚化・女性の社会進出によって大きな市場の拡大が見込める分野だ。晩婚化の影響については既に述べた。

女性の社会進出は、さらにビジネスチャンスを呼び込む。何故なら、女性が男性と大差ない貨幣所得を得るという事態は新しい現象であり、既存の婚姻制度ではうまく対処できないためである。

二十年・三十年前であれば、男性が稼ぎ頭で女性は家にいるというのがごく普通の家庭であった。そのような環境であれば、例えば離婚時に女性が財産分与・親権割り当てにおいて優位に立つことは合理だっただろう

しかし、男女ともに働く世の中ではそのような傾向は、本来両者にとって望ましい結婚がうまくいかなくなる可能性があるという意味において、マイナスに働く。男性にとって結婚があまりにもリスキーになりすぎるからだ。また晩婚化は結婚した時点で主に女性が生物学的なピークを越えていることも意味するため、さらに結婚へのインセンティブは弱まるだろう。

これが大きなビジネスチャンスであるのは言うまでもない。当事者が望ましいと思っている結婚が社会制度によって達成されないという非効率が存在する以上、それをファイナンシャル・プラニングであれプレナップであれ解決できるのであれば、効率的になった部分の分け前を利益としてあげることができる

もちろん社会の変化についていけないのは制度だけではない。文化もそうである。最近よくニュースなどで見る、デートでの勘定は誰が払うべきかという話がそれだ。根本にあるのは男女の所得の均等化とそれに対応しきれない文化だろう(特に婚前にあたる若年層においてほとんどなくなってきている)。

追記:これらの議論は全て期待値的な話であり、例外はいくらでも存在する。

インサイダー取引の社会的効用

インサイダー取引は日本でも金融商品取引法で規制されており、刑事罰の対象にすらなるが、実のところその根拠はかなり脆弱だ:

Learning to Love Insider Trading – WSJ.com

Donald Boudreauxは結論をまず一行で示している:

The reassuring truth: Insider trading is impossible to police and helpful to markets and investors.

インサイダー取引を規制することの問題は二つだ。

  • インサイダー取引は市場と投資家にとってしばしば望ましい。
  • インサイダー取引の規制は施行不能である。

この二点が非常に説得的に示されている。一つ目から順に見ていこう。

Prohibitions on insider trading prevent the market from adjusting as quickly as possible to changes in the demand for, and supply of, corporate assets. The result is prices that lie.

まず株式市場の社会的な効用を理解する必要がある。株式市場の究極の目的は資源の最適配分だ。より生産的な事業に投資家が資本を移動する。それにより、限られた資本が全体的としてより効率的に利用され、企業は利益をだし、投資家は利潤を得て、消費者はよりより製品・サービスを享受する。

もしある企業がいつか潰れるということがインサイダーには理解されているとする。もしインサイダー取引が違法でなければ彼らは手持ちの株式を売却(ないし空売り)する。それによりインサイダーは多くの利益を上げるだろうが、市場における当該企業の株価は暴落する。これによりインサイダー情報を持たない外部投資家は損失を被るが、株価は適正水準に瞬時に調整され、潰れかけの企業に資源が配分されることはなくなる

もちろん既存の投資家は損失を被るだろうが、その損失は投資家からインサイダーへの所得移転に過ぎず社会的な損失ではない(=社会から消えたわけではない)。また企業が最終的に清算されるのであれば投資家が損失を出すことには変わりない。むしろ清算までに時間がかかることでより多くの資本が失われ投資家にとってもより大きな損失となる。

もっとも投資家もこの様な構造を全て考慮したうえで投資を行うので、そもそも公正性を問うこと自体に意味はない。仮にインサイダー取引による損失の可能性があるのであれば株式を購入する時点で企業はそのリスクを補償するためのプレミアムを投資家に払っているはずだ。

As Mr. Manne said a few years ago in a radio interview, “I don’t think the scandals would ever have erupted if we had allowed insider trading because there would be plenty of people in those companies who would know exactly what was going on, and who couldn’t resist the temptation to get rich by trading on the information, and the stock market would have reflected those problems months and months earlier than they did under this cockamamie regulatory system we have.”

記事中ではEnronの例が上げられている。Enronが継続可能なビジネスでないことはEnron内の多くの人間が知っていたはずである。インサイダー取引が違法でなければ彼らがその情報を利用することでEnronの株価は事前に暴落し、資本を調達できなくなったEnronは早期に清算されていただろう。そうであれば、貴重な資本が他の有益な事業を行っているからEnronに向けられて浪費されることもなかったはずだ。

二つ目のインサイダー取引の施行不能性については実際に刑事事件になるインサイダー取引の案件がほとんどないという事実からも明らかだが、次の一節が極めて説得力のある議論を展開している:

It follows that unbiased application of these prohibitions should target not only traders whose inside information prompts them to actively buy or sell assets, but also traders whose inside information prompts them not to make asset purchases or sales that they would have made were it not for their inside information.

インサイダー情報を利用して取引を行い、情報がない場合に比べて、大きな利益を上げることがインサイダー取引であれば、インサイダー情報を利用して保有している株を売却するのを止めることも当然インサイダー取引となる

投資家から冴えないと思われている企業が実は画期的な新製品を準備しているのであれば、自社株を持つ社員はそれを売るのをやめる。しかし、「何もしない」ことを規制するのは不可能だ

After all, if capital markets continue to function as well as they do given that many investment decisions potentially influenced by inside information are unstoppable because they are undetectable, why believe that the detectable portion of investment decisions influenced by inside information would be harmful if they were legal?

そして「何もしない」というインサイダー取引が株式市場に問題を引き起こしているようにも見えない。見えるインサイダー取引だけが刑事罰の対象となるほど悪質だという理由は見当たらない

逆に、インサイダー取引を規制する根拠は何だろうか。

There are, of course, situations in which it is in the interest of both a company and the public for that company to delay the release of information.

一つは非公開にすることが企業にとっても投資家にとっても望ましいインサイダー情報が存在することだ。例としては社会的に効率的な企業買収に関する情報がある。事前に買収意図が市場に漏れてしまえば、被買収企業の株価は買収企業が支払う意志のある限界まで釣り上がってしまい、買収は成立しない。これは仮定より社会的に望ましくない。

Discovering what types of inside information are proprietary and which are not proprietary—and, hence, which types of information are appropriate to protect and which not to protect from insider trading—can be left to corporations themselves.

しかし、このような問題は法律で対応する必要がない。どのインサイダー情報を公開するかは企業が自分で決められる問題だ。労働契約において一定の情報公開を禁止すればよい。

The reason is that corporations must compete for that most demanding and vigilant of all clients: capital.

何故なら、望ましいインサイダー取引の規制を行っていない企業は株式市場から資本を集められないためだ。

例えば、金融取引規制法は会社の取締役や重要な地位にいる従業員による自社株取引を規制している。しかし、そんな規制は本当に必要なのだろうか。私が投資家なら、取締役が制約なしに自社株を秘密裏に取引できる企業には投資しない。著者はさらに、異なる企業が異なるインサイダー取引制約を設けられることの効用で記事を締めくくっている。

ではインサイダー取引規制には全くが利点がないのかというとそうでもないだろう。とりあえず二点すぐに浮かんだ。

  • ほとんどの企業にとって適切なインサイダー取引に係る契約の雛形を示す。これにより、企業がいちいち契約を起草する費用、投資家が異なる契約を理解するための費用を節約できる。
  • 金融当局が効率的に監督をできる。企業自身が社員の株取引を監視しても信用がない。第三者が関わる必要があるが、企業毎に規程が異なれば監督は困難になる。

しかし、根本的な問題はインサイダー取引の有無それ自体というよりも、インサイダー取引を監督する側が規制する事柄についての深い理解を欠いていることだろう。規制するか自体は実証的に決まる事柄に過ぎない。

ファイナンスの教授の投資戦略

ファイナンスを教えている教授がどんな投資戦略を取っているかについて:

ScienceDirect – Journal of Financial Markets : Confidence, opinions of marketefficiency, and investment behavior of finance professors via Overcoming Bias

First, most professors believe the market is weak to semi-strong efficient. Second, twice as many professors passively invest than actively invest. Third, our respondents’ perceptions regarding market efficiency are almost entirely unrelated to their trading behavior. Fourth, the investment objectives of professors are, instead, largely driven by the same behavioral factor as for amateur investors–one’s confidence in his own abilities to beat the market, independent of his opinion of market efficiency.

アブストラクトからの引用だ。発見は四つ:

  1. ほとんどの教授は弱度ないし準強度市場効率仮説を支持している。
  2. 能動的な投資を行っている人はそうでないひとの半分。
  3. 投資行動と市場効率仮説への態度は相関がない。
  4. 投資目的は大抵素人と同じ要因で説明できる。

まあ妥当なところか。市場が基本的に効率的でも誰かが裁定取引をする。能動的に投資するかは自分の時間をどう扱っているかによる。投資が好きな人はファイナンスの教授にはならない(!)のでこちらも妥当だ。

格付け機関の失敗

今回の金融危機において、格付け機関がいかに間違ったシグナルを送ったかについて:

How Moody’s sold its ratings – and sold out investors | McClatchy

A McClatchy investigation has found that Moody’s punished executives who questioned why the company was risking its reputation by putting its profits ahead of providing trustworthy ratings for investment offerings.

Moody’sの例が挙げられている。格付けの信頼性と機関の評判を重視した社員が如何に追いやられていったかについて多くのインタビューを交え詳細に記されている。

原因の一つには格付け機関の収益構造がある。

To promote competition, in the 1970s ratings agencies were allowed to switch from having investors pay for ratings to having the issuers of debt pay for them.

格付け機関は投資家ではなく債権の発行者から収益を得るようになった。そのため格付け機関は利益を得るために格付けを発行者の意向に沿う形に歪めるインセンティブを持った。

Moody’s was spun off from Dun & Bradstreet in 2000, and the first company shares began trading on Oct. 31 that year at $12.57. Executives set out to erase a conservative corporate culture.

When Moody’s went public in 2000, mid-level executives were given stock options. That gave them an incentive to consider not just the accuracy of their ratings, but the effect they’d have on Moody’s — and their own — bottom lines.

さらにMoody’sは2000年に株式市場へ上場し、広範な社員にストックオプションの支給を始めた。これは社員に格付けの正確性ではなく、会社の利益をまず考えるインセンティブを与えた。

格付け機関が正しい格付けを行うインセンティブは基本的に評判を維持するためだ。しかし金融市場において格付けが正しかったかが判明するのは数年に一度、不景気になったときだけだ。景気のよいときにはほとんどの株は上昇するし、債権もデフォルトを起こすことはほぼない。レストランのように商品の質がすぐに判明する業種とは評判がプレーヤーに与える影響は大きく異なる。さらに格付け自体は単なる意見に過ぎないため法的責任は生じない。仮に生じたとしてもそれを確認する方法がない(注)。

しかし格付け機関のような組織がここの投資家の代わりに情報を集め処理することは社会的にプラスだろう。格付け機関を機能させるには、投資家が現在の格付け機関が問題のあるインセンティブ構造を持っていることを認識する必要がある。そうすれば、問題のある所有形態の機関は信用されず市場から排除されるだろう。

(注)リスキーな債権を特定のCDOに混ぜることで発行会社が利益をあげられること、それにより安全なトランシェでもデフォルトする可能性があること、投資家がそのようなCBOを発見できないこと、そしてデフォルトした場合でも債権の分布がランダムでないことを証明できないことを示した最近の論文についてこちら

ウォールストリートの利益

なぜJPMorgan ChaseやGoldman Sachsが数十億ドルの四半期利益をあげているかについて明解な説明がこちらに:

Philip Greenspun’s Weblog » How Wall Street is making its billions

Because of the Collapse of 2008 financial reforms, the big investment banks are able to borrow money from the U.S. government at 0 percent interest. Then they can turn around and buy short-term bonds that pay 2 or 3 percent annual interest. Now they’re making 2 percent on whatever they borrowed. They can use leverage to increase this number, by pledging some of the bonds that they’ve already bought as collateral on additional bonds.

彼らは連邦政府から金利なしで手にした資金を国債にキャリーして利益を上げているという話だ。国から援助が無利子で、国債はほぼリスクフリーなので単純に利益が上がる。いくら資金があってもリスクが高すぎると思えば民間に投資することはないので、単に政府部門から投資銀行にお金が流れているだけになる。

さらに記事後半では最近続けて検挙されているインサイダー取引の話が続いている。