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環境の費用便益分析

環境に関する政策の費用便益分析についての記事:

The economics of ecosystems / The Christian Science Monitor

国連環境計画(UNEP)のThe Economics of Ecosystems and Biodiversity reportを紹介している。

As such, it belongs to a broader, ongoing effort to correct what ecological economists say is a failure in most cost-benefit analyses to adequately account for the very real value of living systems.

レポートの目的は費用便益分析において生態系の本当の価値をきちんと考慮するようにすることだという。あくまで正確な計算するべきだということであって、計算しなくていいという話ではないことには注意が必要だ。

The trick is ensuring that the analysis is sufficiently rigorous — that it accounts for all services provided by a forest, both as paper and as living trees, and that it includes both short- and long-term outcomes.

要点は、分析を十分に厳密にすることだ。森林であれば、それがもたらすあらゆる便益(と費用)をきちんとカウントする。

[…] some environmental problems can, in fact, be illuminated by a sufficiently nuanced cost-benefit analysis, while others — such as environmental justice issues — clearly can’t.

費用便益分析へのお決まりの批判も取り上げられている。金銭で表せない価値もあるというものだ。しかし、生命価値は統計的なそれであれば推定できるし、どうしても金銭価値で表せない(したくないなら)数値化するだけで残しておくこともできる。一人助けるのにいくらかかるを計算するだけでも意味がある。

まあ大した記事ではないのだけど、The Christian Science Monitorは教会が発行しているが布教を目的とはせず、昔からネットの活用が早いことで有名であるなど面白い新聞だ。現在は日曜版しか紙媒体で発行しておらず基本的にオンライン新聞となっている。

タブレットと新聞業界 by Google

Advertising AgeにGoogleでChief EconomistをつとめるHal Varianによるタブレットと出版業界との関係についての発言がまとめられている(今週の水曜日にJ-schoolであった)。

Google Exec Says Newspapers Need to Re-Think Their Models – Advertising Age – Digital

まず新聞業界が直面している問題についてはこう述べている:

The trouble is the audience for news has been declining. Newspaper circulation has been slipping since 1990 and has plummeted in the past five years. Online, only 39% of internet users surveyed by Pew said they spent time online looking for news.

紙の発行数が落ちているにも関わらず、オンラインでニュースを探している人は39%しかいないという。

“The verticals that drive traffic are things like sports, weather and current news, but the money is in things like travel and shopping,” says Mr. Varian. “Pure news is the unique product that newspapers provide, but it is very hard to monetize.”

しかもそのオンラインで人々が読むのはスポーツ・天気予報・最近のニュースなどであって、新聞社にとってお金になる旅行やショッピングではない。そういったものは専門のサイトにいけばいいからだ。紙の流通費用によってさまざまな情報をバンドルして売っていた新聞はその能力を失っている。本当に新聞特有の情報である純粋なニュースは(著作権の保護もなく)利益にするのが非常に難しい

Typically, 53% of newspaper spending goes to traditional printing for distribution — costs eliminated through digital distribution — compared with 35% on what the Google exec called the “core” functions of news gathering, editorial and administration.

これに対抗する一つの方法は支出を減らすことだ。新聞社の支出の53%は印刷や配達などに充てられており、ニュースを作ることには35%程しか使われていないそうだ。よって、オンラインに移る過程で前者の支出をカットしていくことが収益改善につながる。The Huffington Postなどがいい例だろうか。

Google wants to help publishers use web technology to grow, Mr. Varian said. “I think papers could better exploit the data they have. They need better contextual targeting and ad-effectiveness measurement.”

逆に収益を増やす方法としては、Googleらしく情報の活用を上げている。オンラインでの行動は現実世界のそれに比べて情報収集が容易だ。これを利用すればより効果的な広告を打つことができる。個人の情報に基づいたきめ細かな価格差別によって収益率を上げることも可能だろう。

“We know there will be eventual competition from other devices, like the Kindle,” he said, “and of course there’s still the whole web. I don’t think the tablet should be viewed as the be-all and end-all of distribution.”

iPadがiPodのようにプラットフォームを支配して、消費者余剰を吸収してしまうことについてはKindleのような競争相手がいるので大丈夫だとしている。

“Users will likely engage with the tablet during peak leisure hours, and you would imagine that’s very attractive to publishers.”

むしろタブレットの存在はニュースが読まれる時間を増やすことにつながるため、新聞社にとっては魅力的だという。これはまず全体のパイを考えるエコノミスト的な視点だ。

しかし、一つGoogleにとって都合の悪いことが抜けているようにも思われる。確かにiPadがe-bookの市場を独占し余剰を吸収することはありそうにない。しかし、オンライン収益の鍵となる広告の市場はどうだろう。Googleが圧倒的なシェアを握る広告市場において、Googleはオークションの設計を通じて市場支配力を行使できる。もちろん既存のチャンネルよりも効率的なチャンネルを可能にした企業が利益をえるのは正当なことだが、それによって実際にコンテンツを生産している人間の利得が減ることはコンテンツ生産のインセンティブを与える著作権制度の趣旨からすると懸案事項だろう。

Mr. Varian’s list of suggestions doesn’t include pay walls, such as the New York Times’ plan for a metered approach to charging users. “It’s too easy to bypass,” he says.

ちなみにNYTの有料化については、簡単に回避できるという技術的な理由でうまくいかないとしている。

経済報道の質

オバマ政権の政策分野でどの分野によりよい報道が必要かについての調査がGallupが公表されたようで、Freakonomics Blogで紹介されている:

Disequilibrium in the Market for Economics Reporting? – Freakonomics Blog – NYTimes.com

経済が40%、医療30%、戦争12%、テロ11%、特になし6%となっている。どうしてこんなに需要が多い状態が続くのか。誰かジャーナリストが出てきて経済記事を提供するはずではないか。この理由として次の五つが紹介されている:

  1. いま景気が悪いから経済が注目されている
  2. 経済について書くのは難しい
  3. 量を増やすのは簡単だが質を上げるのは難しい
  4. 外部から人材を登用することが難しい
  5. 質のいい記事がほしいと「答える」人が多いだけで実際の需要はない

I think number five rings true. I would be interested in data on number one […] Numbers two or three might be part of the story, but each of these only works if the dynamics of number four are part of the story.

これについて著者は5番目が一番それっぽいと述べている。これは基本的に口で言っていることが本当の希望だとは限らないというエコノミストの基本的な考え方を反映している。また1,2,3については4の産業としてのジャーナリズムの硬直性がなければ関係ないと言う。何故なら経済について質の高い記事を書く人間を雇うこと自体は「不可能」ではないはずで、最初の三つが原因であるためには4が必要となるからだ。日本であればアカデミアを含め労働市場が硬直的なので4は深刻だろうし、2,3についてもアメリカにくらべると難しいだろう。

第六の理由をあげるなら、「経済」というトピックの幅の広さと個人の趣向の多様性が挙げられるだろう。人によって「経済」と聞いたときに思い浮かべる分野は違うので誰もがどこかで不満を感じているだろうし、「経済に関するよい報道」が意味するものが余りにもさまざまなので誰もが納得する解はないだろう。例えば、マウスの機能に不満を持つ人はあまりいない。機能が単純で生産者にもつかみやすい。逆にコンピュータ本体や携帯電話であれば人によっていろいろな見方があるので誰もが満足することはなく、みんな何かしら改善の余地があると考えているということだ。

NYT有料化を擁護する

ライブドアが始めた新しいメディアというTech Waveでニューヨーク・タイムズの一部有料化が取り上げられている。

Tech Wave : ニューヨーク・タイムズ、いよいよ有料化へ。絶対失敗するだろうけど

「絶対失敗するだろう」という過激なタイトルになっているが何を持って失敗とするのだろう(ht @Lingualina)。それを定義しなければこの予想には意味がない。例えば、現在収益が上がっていなければ赤字が減るだけでも成功だろう。

また、一部有料化というなら、The Wall Street JournalもFinancial Timesも既に導入している。WSJもFTも一部有料化を続けており、これは一部有料モデルが少なくとも彼らにとっては全部無料モデルよりも利益になるということだろう。多くの新聞社が経営難で廃刊になる中でこれは成功といえる。同じことがNYTには当てはまらないとする根拠はなんだろうか

で、なぜ僕が新聞の有料化が失敗すると思うのかというと、時代の流れをまったく無視しているから。ほかのネット上のサービスはテクノロジーを使ってものす ごいスピードでその価値を高めているのに、新聞は何の改良も加えずにただ読みづらくしようとしている。読むのに手間をかけようとしている。そんなの受け入 れられるはずがない。

挙げられている理由はどれもNYTにだけ当てはまるものではない。ほかのネット上のサービスがテクノロジーの利用で価値を高めているのはそうかもしれないが、NYTの記事のクオリティは日本の新聞社の記事や世にあふれるブログとは比べるまでもなく高い。全てを有料化するならともかく、FT式の一定以上のアクセスに対する課金がうまくいかないとするには時代の流れよりは強い根拠が必要だ。

ちなみにライブドアの田端氏はTechWave開始に際して「良質」のコンテンツを次のように説明している(ht @fukui_dayo)。

極めて斬新な「問題提起」型の記事のほうが、退屈で無難な「模範解答」型の記事よりも、遥かに「良質」だと言えるのが分かるだろう。

もし既存のメディアがこの意味での「良質」な記事に駆逐されるのであればジャーナリズムの将来には懸念を覚える。テクノロジーを利用して利便性という意味での価値を高めようとするのもいいが、まず記事の内容を高めるという発想が必要だ。本当に質の高い記事を社会に提供している人たちがいかにそのコストを回収するかを必死になって考えているのだ。それが難しいことだとしても、ただ「絶対失敗するだろうけど」と評することには賛同できない。費用を下げて収益を求めるのも悪くないが、質を保つためになんとか収益率を高めようとする試みは応援したい

P.S. 若干攻撃的な書き方になってしまったが、これもまた「良質」なのだから許されるだろう。

読む量は増えている

YouTube・ビデオゲーム・iPod・携帯など読書離れが危惧されているが、我々が読む文章は増えている:

Study: Rumors of Written-Word Death Greatly Exaggerated | Epicenter | Wired.com

“Reading, which was in decline due to the growth of television, tripled from 1980 to 2008, because it is the overwhelmingly preferred way to receive words on the Internet,”

文章を読むことによる情報収集はテレビの影響で減退していたが、この三十年近くの間に三倍にもなったという。これは文章がインターネットで最も利用されている情報伝達手段であるためだ。

これは少し考えれば何も不思議ではない。インターネットは情報伝達、特に文字情報の伝達、のコストを劇的に下げた。コストが下がれば消費が増えるのは当たり前だ(Kindleのベストセラーの多くは無料だ)。音声や映像の配信費用も下がったが、それは文字情報の衰退を意味しない。文字と音声・映像は限られた情報伝達をシェアしているわけではないからだ。どちらも安くなり、どちらもより多く消費されるようになったということだろう。だからこそ我々はネットをやりすぎて仕事が進まないなんていう状況に陥るのだ。

ネットが情報伝達を担うことに抵抗する既存メディアは、三桁ジーンズを批判するデザイナーのようなものだ(注)。新しいプレーヤーは市場全体を拡大させていく。既存のプレーヤーがやるべきことはそれをパイの奪い合いと捉えることではなく、広がる市場での自分のプレゼンスを築き、さらには市場の拡大をさらに進めることだ

技術進歩に異を唱えても先は見えている。たとえその意見が「正しく」とも、市場の大きな流れを変えることはできない。その「正しさ」さえも変えられていくのだ。

追記

(注)新しいポストを書くほどでもないのでここで件の記事へのコメントを一つ。「川久保さんは、安さを求めた結果、若い人たちの創造性が失われていくのも心配だというのだ」とあるが、安い衣服は組み合わせたり加工したりして創造を促す側面がある。これは音楽のリミックスにも通じる。ただし、音楽の場合と異なり政治・法律を利用して利得を拡大しようとしているのではないのでそういう考えで仕事をすることには何の異論もないし、それで成功されていることは素晴らしいことだ。