小額クーポン

メール・イン・リベートに引き続き、日本では見られないアメリカの価格戦略としてクーポンを見てみよう。

これはドラッグストア(でいいのかな?)のWalgreensのクーポンだ。チラシにこういった割引情報が乗っていて、店の中や郵便ポストを見ると大抵見つかる。ここまでは日本と変わらない。

しかし、上の画像には点線の枠とバーコードがあるのに注目して欲しい。そう、この値引きはそのチラシにハサミを入れて切り取り、購入時にスーパーに持っていかなければ有効ではないのだ。日本でいえばマクドナルドのクーポンと同じだが、それがそこら中のスーパーに存在する。

ファーストフードのそれとは異なりこれはお得情報ということですらない。まず第一にクーポンが含まれるチラシは店の入り口に山積みされており、別に誰でもその場で手に取れる。また、割引額もかなりしょぼいことが多く、50¢割引でしかないクーポンもざらだ。それを切り取って、レジに持っていき、しかも時間がかかるので店員や他の客から若干冷たい視線を浴びることを考えるとなんのためにあるんだ、これ??と思うのも無理はない代物だ(注)。

ではなぜ、こんなシステムがあるのか。これもまた価格戦略の一つだクーポンを切り取って、わざわざレジにもっていって店員に説明するという行動を取る人にだけ割引を提供する手段なのだ。わざわざクーポンにせずに割引するのでは割引前の価格を払ってもいい客にまで割引を提供してしまうからこういうことをする。

日本でこれがあまりないのは、MIRの場合と同様、教育・所得水準の格差が比較的小さいためだろう。クーポンは利用者の手間を増やすし、レジの進みを遅くするので、効果が薄ければわりに合わない。しかし、格差が開いていくのであればこういった販売手法を導入する企業が出てきても不思議ではない。

(注)ちなみにアメリカのサービスの質は想像を絶する低さなので自分が不器用なのにいらいらして客を睨んでいるレジ係なんて珍しくもない。そもそもレジのスピードは日本の三分の一以下だ。

メール・イン・リベート

チェック廃止の話が在米の方々を中心に好評だったので、もう一つの消えてなくなって欲しいものであるメール・イン・リベート(MIR)を取り上げる。

まず、馴染みのない人にMIRが何かを説明しよう。MIRとは割引の一種で、商品を購入したときにレシートやバーコードと所定の書類を郵送すると忘れたころに(運がよければ)小切手(!)が送り返されてくるというものだ。実店舗でもネットでもよくみかけるが、便利なのでneweggから一例とってきた:

mir赤く囲った部分がMIRだ。10ドルの小切手が送ってくるということを意味する。ちょっと考えればこれが恐ろしく非効率なことが分かるだろう。客はリベートの申請書類を郵送する必要があるし、企業側はそれを処理して(正規の購入者かを確認する必要がある)、さらに小切手を郵送しなければならない。10ドルの割引をするのになんでこんな手間を掛けるのか。そのまま値引きすればいいじゃないかという話だ。

これは、典型的な価格差別戦略だ価格差別とは同じ製品・サービスを相手によって違う値段でうることだ。たくさん支払う気のある客には高値で売って、そうでない客には割引して売ることだ。こういうと当然のように思えるが実際にやるのは結構難しい。対面で値段交渉をするなら簡単だろうが、量販店の棚に並ぶような製品では特別な仕組みがないとできない。同じものが違う値段で並んでいれば誰でも安い方を買うからだ。

ではこのMIRはどうやってそれをクリアするか。リベートの申請に手間がかかるようにすることで、時間のない人には実質割引をせず、暇な人には割引を適用するのだ。通常忙しい人の方がお金も持っているし、いろいろ比較して製品を買うこともない。こういった人は比較的多めのお金を払えるのでこの方法で利益が上がる可能性がある。

もちろん、この方法には大きな無駄があるのでうまくいくとは限らない。無駄というのは、リベートを送るための費用だ。なるべくリベートを受け取るのを難しくするため、電話して催促しないと小切手を送ってこないなんてケースもざらだ。

リベートを使わない人がリベートが存在するがゆえにその商品を購入しないこともある。アメリカでもMIRには反感が強く、事務費用などの負担もあり量販店ではMIRを撤廃しているところもある。

また、そもそも人によって時間の価値に大きな差がなければ機能しない。日本でMIRを見かけない理由の一つはここにあるだろう。所得格差が広がればこういったリベートも普及する可能性がある。

チェック廃止

大したニュースではございませんが、アメリカ在住者としては取り上げたい:

Britain bounces checks after 300 years – Yahoo! News

The board of the UK Payments Council, the body for setting payment strategy in Britain, agreed on Wednesday to set a target date of October 31, 2018 for winding up the check clearing system. The board is largely made up of Britain’s leading banks.

イギリスでついにチェックを廃止する目処がついたそうだ。チェックというのは小切手のことで、基本的には金額と宛名を書いてサインすると銀行でお金を動かせるものだ。日本では個人向けだとほぼ存在しないが、アメリカでは誰もが使っており、家賃なんかはほぼみんなこれを使う。銀行振込でいい?とかいうと頭のおかしなひとを見るような目で、普通にチェックにしろとか言われる。ネット振込が普通のところから来ると、慣れないサインを書きながら、どんだけ古いんだよ、とか愚痴りたくなること請け合いだ。

But while many UK supermarkets, high street retailers and petrol stations have stopped accepting checks, they are still a popular form of payment among elderly people, many of whom find the idea of using automated cash machines intimidating.

当たり前だがチェックの処理には費用がかかる。お店ならスキャンして銀行に送るだろうし、人間なら銀行まで足を運ぶ必要がある。ちなみにアメリカのATMの預け入れは備え付けの封筒にチェック・現金を入れて放り込むだけ(数えない)という衝撃のシステムだ。

ではなぜいまだにチェックが使われているのか。アメリカでは(イギリスでもそうだろうが)、クレジット・デビットカードの利用が非常に進んでいる。現金は基本的にもっていないのでどこにいってもカードで払う。財布に10ドルもなくびっくりすることもよくある(1ドルでもお札なので気づかないっていう話だが私だけだろうか)。

それにも関わらずチェックの廃止が進まないのは高齢者のため(=せい)だ。カードはお店で使うだけで、使いたくないひとは使わなくてよい。高齢者は現金と小切手の世界で生きている人が多いのだろう。

ではなぜそもそもチェックが使われているのか:

“Without checks, we are very concerned people will be forced to keep large amounts of cash in their home, leaving them vulnerable to theft and financial abuse.”

これは犯罪との関係だ。多額の現金を持ち歩いたり、家に置いておくのは危ないので昔からチェックを利用する。日本では現金を数万円持っているからといって危ないとは言われないが(使ってしまう危険の方が大きい!)、アメリカやヨーロッパでは違う。高額紙幣が使えなかったり、そんなもの持ち歩くなと説教されたりする(昔500ユーロ札に扱いに困った)。逆にこういった状況はカードの利用を促した。小売店はレジスターにキャッシュを保持したくないからだ。アメリカでも早く消えてなくなってほしいものだ。

本当の失業率

失業率ってのは結構当てにならない統計なんだけど、もし知らない人がいたら次のビデオをどうぞ:

Mintが本当の失業率は(10.0でなく)17.2%だと主張するビデオを作った

四種類のありがちな「失業者」が実は失業率にはカウントされないってのを面白おかしく説明している。元データは労働統計局(Bureau of Labor Statistics)のこちらにある。以下が六種類の失業率だ。公式な失業率はU3で10.0%となっている。

  • U1: 5.9%
  • U2: 6.6%
  • U3: 10.0%
  • U4: 10.5%
  • U5: 11.3%
  • U6: 17.2%

これらの定義はBLS introduces new range of alternative unemployment measuresにあり、BLSは1995年から六種類の数値を公開している。簡単に要約すると:

  • U1: 長期求職者(15週間以上)の労働人口に対する割合
  • U2: 解雇された求職者の労働人口に対する割合
  • U3: 25歳以上の求職者の労働人口に対する割合
  • U4: フルタイムの求職者のフルタイム労働人口に対する割合
  • U5: 16歳以上の求職者の労働人口に対する割合
  • U6: パートタイムの労働者・求職者を考慮
  • U7: 仕事がみつからないので職探しを止めた人を考慮

U6, U7はU5に足し算する形で作られているがU1-U4は全く違う指標と考えられる。但し、アメリカでは景気悪いから大学院に通うという人もいるのでこれでもどれだけ実態がつかめているか分からない。日本のデータは統計局にある。

ちなみに個人財務管理サービスを提供するMint.comが公開したビデオだ。もちろんこれは自社のプロモーション活動の一環であり、経済的な動機に基づいている。このクオリティのビデオを作るのは趣味・ボランティアでは難しく、やはりウェブのコンテンツが充実するためにはこういった経済利益に基づく行動が重要なように思われる(参考:日本のウェブが残念なのは当然)。

アメリカのTwitter利用状況

Twitterに関する統計がeMarketerにあったのご紹介:

Data on Twitter Decline Stacks Up – eMarketer

twitter_web

Twitter.comへのユニークビジターは減少傾向にある。但し、これはTwitterの利用者が減っているということではない。

Crowd Science data from August 2009 indicated 43% of Twitter users accessed the service through third-party applications, and 19% through SMS.

43%のTwitterユーザーはサードパーティーのアプリケーションからTwitterにアクセスしており、19%はショートメッセージを使っているとのこと。こうしたアクセス方法をとるユーザーの方が平均的に更新頻度が高いことを考えれば、ウェブサイトへのアクセス減少は単にアクセス方法が多様化していると捉えられる。

twitter_pop

Twitterユーザー自体は増えており、2009年で1800万人、成人インターネット利用者の11.1%にも及ぶという。この数字がどれほど正確なのは分からないが非常に多くの人が登録しているのが分かる。もちろん登録者の中で実際に利用する人の割合はかなり低いだろうが、それでも凄まじい普及率だ。