ギャングは犯罪を減らす

日本では指定暴力団という不思議な制度があって説明が難しい。これに関連するエントリー:

Russell S. Sobel, More Gangs, Less Crime

The implication would seem clear: to reduce crime, just break up gangs.

一般にギャングは暴力・犯罪の象徴とみなされ、犯罪を減らすためにはギャングを叩けばいいと考えられがちだ。しかし、なぜギャングが発生するのかを考えるとそう単純な話ではない。

Our analysis suggests not that gangs cause violence, but that violence causes gangs. In other words, gangs form in response to government’s failure to protect youths against violence.

ギャングを一種の政府・自警団と考えると、ギャングが犯罪を引き起こすというよりも、犯罪が多く警察力の低い地域でギャングが自然発生すると考えるのが自然だ。ギャングは集団報復をちらつかせることでメンバーを守る。治安のよい地域ではこんな機能は必要ない。

In other words, individuals form gangs for the same reason that national governments form mutual defense alliances such as NATO.

これはNATOのような軍事同盟が存在するのと同じ理由だ。世界政府が存在しない以上国が自分を守るには自分が桁外れに強くない限り徒党を組むしかない。

A clear example of our logic is the case of gangs in the prison system.

刑務所の中でギャングが発生するのも同じ理屈だ。(少なくともアメリカの)刑務所で受刑者が他の受刑者に暴行を加えられても処罰されることはなく、自分の身を守るためには強い集団に加わるしかない。

While gangs, like governments, do use force to retaliate against aggression and to enforce rules, the net effect of both is to reduce the level of violence relative to what would exist without them.

もちろんギャングは暴力による報復を行うことで安全を確保する。しかし、それはあくまで脅しであって報復が日常化することはあまりない。結果として暴力は減少する。だからこそ、ギャング同士の抗争が発生すると目立つともいえる。

why the data on gang membership do not show an abrupt drop at age 18.

これはギャングの構成員が18を過ぎても減らないという謎も解明するという。ギャングが単に犯罪を生業とする集団であるなら刑罰の緩い未成年を積極的に雇用するはずだ。しかし現実にはそうではない。

ギャングを一種の自警団と捉えるとうまく説明できる。ギャングに入るか否かが犯罪のターゲットになるかどうかで決まるとすれば、17歳と18歳の間に大きな差はないからだ。

upward spikes in the crime rate were followed by subsequent increases in gang membership, but not vice versa.

時系列を追っても、犯罪が増えてからギャングが増えるのであって、その逆ではないそうだ。

こう考えると暴力団というものが一定の規制のもとでいわば放置されているのも理にかなっているように思える。暴力団が存在するのは犯罪が多いからで、暴力団それ自体を叩く努力をするよりも先に全般的な治安の上昇を進める方が先となるからだ。それが現代の日本の状況にも適しているかは分からないが。

プライオリティ・インボックス

IDをめぐる争い」ではFacebookが電話を駆逐するという記事を取り上げた。今回はGoogleの取り組みを見てみる。

Gmailが電話に進化 – Googleが米国で「Call phone」開始 | ネット | マイコミジャーナル

電話の弱点としてあげられていたものの一つはノイズだ。

制御不能 誰でもその10桁をダイヤルできる。別れた彼女も、選挙運動員も、押し売りも。番号非掲載、ナンバーディスプレー、着信拒否リスト等々でこの問題を解決しようとしたが、いずれの方法も望まれない電話を防いでくれない。

電話番号さえ分かればコールできるのでコミュニケーション手段として効率が悪いのに対して、Facebookならポリシーを使ってコントロールできるというわけだ。同じ問題はメールにも当てはまる。スパムの判定は正確になってきたものの、膨大なメール処理に終われている人が多いだろう。Googleのこの問題に対する答えがPriority Inboxだ。

Gmail Priority Inbox Sorts Your Email For You. And It’s Fantastic

Priority Boxは入ってきたメールを過去の情報に基づき分類する。今まではスパムかそうでないかだけを区別していたのに対して、今度は重要性まで判定する。これによってまず処理すべきメールに優先的に対応することができる。スパムフィルター同様「鍛える」ことができるので重要性判定の精度も徐々に上昇するだろう。Facebookが交友関係をベースにメッセージを区別するのに対し、過去のメールやユーザーの行動をもとにアルゴリズムでメッセージを分別するのはいかにもGoogleらしい

Googleの本当の目的はGMailをさらに便利にすることには留まらないはずだ。Priority Inboxが便利であれば、ユーザーはその精度を高めるためにより多くの情報を登録し、アドレス帳にはソーシャルな情報が集まってくる。最近、GoogleがGMailのアドレス帳機能を強化してることとも整合的だ。BuzzではGMailにソーシャルな機能を後付しようしたが、今回はGMailそのものをソーシャルな方向に進ませているように見える。Facebookの登録にもメールアドレスが必要なようにIDとしてのメールアドレスの地位は電話並に強固だ。今後の展開が興味深い。


うまくいかないフリーミアム

無料版を公開しても上手くいかない実例の紹介。

fladdict » 無料版10日で20万ダウンロード、広告料$200

勢いきってリリースした TIltShift Generator for free, 10日で20万ダウンロードを突破しました。ところが問題は、その勢いにみあわない広告費。20万本ダウンロードされて、広告料はたったの$200でございます。

とあるiPhoneアプリの無料広告版を公開したところ爆発的にダウンロードされたものの、それに見合う広告費が得られなかったとのこと。

本来20万本販売していれば、1600万円分の売り上げだったわけですが、1598万円ちかい機会損失という結末に。ついでに有料版のランキングも22位から40位以下に大幅ダウンとあいなりました。

有料版に比べて収益は微々たるもので、しかも有料版の売上すら奪ってしまったようだ。

また気になったのは、カメラアプリのインプレッション効率の悪さですね。遷移毎に広告を表示できるRSSやTwitter、ゲーム系と違い、写真編集は1回の起動にたいするインプレッション効率が悪い。これがダイレクトに響いている印象です。

この無料版自体が収益に貢献しない理由はこの通りだろう。写真編集は一日中使うソフトではないので広告収入に結びつかない

では、無料版が儲からないばかりか有料版の売上が落ちたのは何故か。フリーミアムの落とし穴でフリーミアムがうまくいく条件を挙げた。

  1. ユーザー数が増えることで製品の魅力が上がり(外部性)、有料アカウントにより多くチャージできる
  2. 製品の価値が分かっていない製品を使ってもらう
  3. 無料であることで製品が口コミで広まる

まず基本となる外部性だが、このアプリが画像にエフェクトを加えるものだ。同じエフェクトを使うひとが世の中に多く存在するというのはユーザーにとって好ましいことではない。だから無料版が大量にダウンロードされると、有料版のユーザーは逆に減ってしまう。しかも有料版と無料版の差は広告の表示だけで、そもそも無料版と有料版とで有効な差別化ができていない

またこの製品の価値を分かってもらうにしても、無料版を公開する必要性がない。既に公開されているAdobe Air版で十分だ。

無料での口コミ効果もほとんどない。に有名なアプリであるようだし、iPhoneアプリが無料というのは全く珍しくない

フリーミアムもプライシングの一種であり、需要のあり方=ユーザーの行動をよく読んだ上で設定する必要がある。なんとなくフリー版も提供してみたではうまくいかないのはしょうがないことだろう。

結論としてはフリーミアムの落とし穴で述べた通りで、フリーミアムがうまくいくかは個別ケース毎に考える必要がある。

薬の価格差

何とも緩い記事が目に入ったので軽くツッコミ。

貧困と闇を生む抗生物質 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

例えばウガンダの患者がブランド薬品を買ったとすると、一日1ドル25セント未満で暮らす貧困人口が34%増加する。中所得国のインドネシアでさえ、人口の39%が新たに貧困層入りするという。

抗生物質のせいで住民が貧しくなっているかのようなタイトルだがそんなわけはない。薬品を除いた所得が減るのは薬品を買えば当然で、購入したということは購入しないよりも本人にとっていいことなはずだ。

これは、中低所得国では所得水準に対する医薬品の価格が先進国より高くなっているからだ。

あくまで「所得水準に対する」価格が高いだけで、中低所得国のほうが価格自体は安い。製薬会社は国によって価格差別を行っている。それでも中低所得国の価格が高すぎるとすれば、転売によって価格差別が不完全なためだ。

アフリカでは寄付された薬を横流しして儲ける産業が生まれており、例えばマラリアの治療薬は6.5%が政府に届かず闇市場に流れているという。

しかし、横流しを規制するなど製薬会社による価格差別が徹底されれば先進国における価格は上昇する。これを(おそらくこの記事の主な読者である)先進国の人々は支持しないがどう展開するのだろう。

多くの国の消費者にとって薬は高価すぎる。だからこそ闇で薬を買おうとするニーズがある。

問題は価格差だったはずがいつのまにか薬はどこでも高いという話になっている。闇で薬を買おうとするのは価格差があるからで、絶対水準が高いからではない。どこでも価格が同じなら闇市場自体成立しない。

偽物の薬もそうだ。薬を手に入れようと必死の患者は、安いといわれると誘惑に負けやすい。たとえそれが偽物かもしれないと思っていても。

そして最後に突如偽物の薬に話が移っているが、もはや何を言いたいのか分からない。

ソーシャルゲームの戦略

追記:そもそもの前提が正しくないという意見もあるようですが、自分でTVCMを見ていないので判断がつきかねます。サラ金パチスロ云々の話は着想のネタと捉えて頂ければ幸いです。メインストリーム化に伴い、自制心が低く割引率の高い層の取り組みが重要となり、ソーシャルゲームはそこに適応しているというのがポイントです。

テレビ広告を実施する企業はどんな企業かについての議論が面白かった。

Togetter – 「佐々木俊尚@sasakitoshinao氏の、ソーシャルゲーム評、ソーシャルゲームネタと、それに対するツイートまとめ」

RT @igi: サラ金(消費者金融)→パチスロ→法律事務所→ソーシャルゲームとTVCMに出稿する広告クライアントの主流は21世紀以降移り変わってきたけども、業態は違えど”これらのビジネスターゲット”が全く変わっていないことに注目すべき

テレビを使って広告を打つ企業はサラ金、パチスロ、法律事務所(債権回収など?)、ソーシャルゲームと移り変わってきたが、そのターゲットは変わっていないという指摘だ。

これはテレビという媒体がターゲットとしている層はほぼ決まっていることを考えれば自然だ。十年ぐらいでテレビの主な視聴者が変わることはない。

RT @shinjifukuhara: 20年近くテレビの前線にいますが、いくつかの視聴者クラスターが消えていることに気付きます。。でもボリュームゾーンはほぼ変わってないと思います。RT @rionaoki: 先程からテレビ広告のターゲットに関するツイートがRTされていますよね。

これについてはテレビ局で働く人の発言からも裏付けられている。消えたクラスターは今は主にインターネットでニュースなどをチェックし、娯楽番組ではなくYouTubeやニコニコ動画を楽しむような層だろう

テレビでの広告は非常に高くつくので、サラ金・パチスロ・法律事務所・ソーシャルゲームといった業界はテレビでしかリーチできない集団を相手にしていると考えていいだろう。但しテレビの主な視聴者がその集団であるとい考えるのは早計だ。例えこういった広告がターゲットとしている人が視聴者の少数派であっても、他の手段でリーチできず、かつ大きく利益に貢献すればよい。

では、過去にテレビ広告に出稿していたサラ金・パチスロ・法律事務所に共通する顧客はどのような人々だろうか。ギャンブルに興じ、借金を重ねてしまうという人間像が浮かび上がる。自制心が弱く、割引率の高いグループだ。ソーシャルゲームはこういった消費者相手の商売と考えると実によく出来ていることが分かる:

  • 基本ただ:最初は課金せず、どんどん特典を用意する。今後、ゲーム内アイテムを後払いで購入可能にしたり、一ヶ月以内にキャンセルしなかった場合だけ費用が発生するといった課金方法が登場するだろう(もうしてるかもしれないが)。
  • 育成系:どれだけ自分がハマるかを予想できない。ソーシャルゲームのほとんどはだんだん面白くなっていく育成系だ。これは旧来のネットゲームとも共通する。
  • 招待制度:ソーシャルゲームは、友達を招待させることで拡散する。自制心が弱い人は、自分が友達を招待すると、それが原因で辞めることもできなくなる(ピアプレッシャー)。これもネットゲームと同じだ。マルチ商法じみた招待制度も登場するかもしれない。
  • 仮想通貨:Facebookなどでは既にプラットフォーム独自の仮想通貨がつくられている。これはゲーム内で通貨を稼ぎ、他のサービス・物品の購入に当てることができることを意味する。パチンコの景品交換所に近い仕組みを創りだすことが可能だろう。

プラットフォームはソーシャルゲームをさらに流行らせるため、共通仮想通貨制度の普及、課金システムの改善を行う必要がある。例えば、仮想通貨制度に加わりクレジットカードなどの決済手段とリンクさせると一定の金額をプレゼントしたり、残高がマイナスの場合にはプラットフォーム自体のアカウントを停止するといったことが考えられる。