https://leaderpharma.co.uk/ dogwalkinginlondon.co.uk

食べログの収益化

飲食店のレビューサイトである食べログがiPhone用アプリの課金を始めたそうだが評判はあまり良くない。

カカクコム、初の利用者向け有料サービス 「食べログ」で

検索した飲食店を、評価点数やアクセス数などで自由に並べ替えられる機能を加える。料金は月額315円。

まあ、iPhoneユーザーはブラウザでもアクセスできるし、アプリにだけ課金してもあまり害はない。しかし、こういったサービスはいかに利用者を増やすかが鍵だ。しかも、iPhoneから専用アプリを使ってまでアクセスしたいユーザーはレビューを書くようなコアユーザーである可能性が高くそこに課金するのは賢明とは思えない(アプリを使ってレビューしたら料金免除というのもありだが)。

逆にこういったユーザー層をいかに優遇するかがポイントだ。例えば同種のサービスをアメリカで展開するYelpはYelp Elite Eventというものを開催している。これは一定の条件を満たす貢献度の高いユーザーをエリートと認定し、お得な(しばしば無料の)イベントに招待するというプログラムだ。これにより、開催地となった飲食店では大きなPRが行えると同時にたくさんのレビューがYelpに追加される。コアユーザーの満足度も上がるし、エリートになろうとさらにレビューを書くユーザーもいるだろう。同時に参加者同士の交流の場ともなる。もともとレビュワー同士のつながりがレビューを投稿する理由の一つであり、直接コアなユーザー同士をマッチさせるのはいい戦略だ。

ではどこに課金すべきか。食べログの飲食店向けのページに現在の課金メニューが載っている。

  1. お店ページの強化
  2. 広告スペース
  3. 検索順位優先
  4. 特集
  5. 食べログチケット(グルーポン式)

どれも非常に妥当な課金方法だろう。さらに付け加えるとすれば、次のようなものが考えられる。

  • 客のコメントにリプライを付ける回数に課金
  • お店ページのページで競合店をサジェストしない
  • 競合店のページへのアクセス状況を含めたより広範な解析情報の提供

またグルーポン式のマネタイゼーションに関してはレビューサイトならではのやり方も可能だろう。

  • クーポンの販売対象を一定以上の貢献者(やその紹介)に限る:他の消費者の行動に大きな影響力を持つユーザーに限ることでお店にとってより有効なPRになる。食べログにとってもレビューの投稿を促す仕組みになる。
  • 割引ではなく、特別メニューを提供する:例えば、全メニューを摘み食いできるような特別コースを用意する。これによってレビューの数を効果的に増やせる。それなりの価格でも参加希望者は集まるだろうから客単価も下がりにくい。食べログはその日の利益を貰うないし折半すればよい。

レビューサイトのように二種類(以上)の顧客が存在するマーケットではどちらにどのように課金するかが重要だ。

デンマークの雇用

反貧困を掲げ内閣府参与にまでなった湯浅誠氏に関する記事が興味深い。

湯浅誠氏のとまどい: EU労働法政策雑記帳

興味深いのは、湯浅氏が北欧は福祉国家だから人を働かせようなんてする国じゃないというイメージを持っていて、それが行ってみたらそうじゃなかったと、いささかとまどっているらしいところです。

>イギリスでもデンマークでも、訪問する先々で、私は「とにかく仕事」というメッセージを受け取り続けた。イギリスではすべての中高生の在籍データを行政機関が共有し、学校に来なくなった子どもなどの情報を地域の若者担当部局に提供、ソーシャルワーカーの家庭訪問やユースワーカーの本人対応に結びつけていた。失業者は、日本のハローワークに当たるジョブセンタープラスでの定期的面接を義務づけられており、若年者は一般失業者に比べてより厳しいプログラムへの参加を求められていた。

ヨーロッパで就業支援に大きな資源が割かれていることに驚いたようだ。

もし、働けるのに働かなくても福祉でぬくぬく、という福祉国家のイメージを追い求めていたのだとすれば、それはやはり見当はずれだったといわざるを得ないのでしょう。

このような指摘がなされるのは当然だろう。セーフティネットが整備されているのに就業支援に力を入れなければ単に働かないことを選ぶ人が増えてしまう。これを読んで思い出したのが次のNYTの記事だ。

Why Denmark Is Shrinking Its Social Safety Net

デンマークで失業者が職を得るまでの期間を表したグラフだ。緑色の線は失業給付が四年間であった2005-2007の推移を示し、赤い線は五年間であった1998年を示している。失業して2,3ヶ月の内に就職する人が多い一方で、給付打ち切り直前に就業率が跳ね上がるのが分かる。

“It shows that people are not seeking all the jobs they could get, but just the jobs they would like to have,” said Steen Bocian, chief economist at Danske Bank.

ここから、失業給付があるために本当なら仕事に就くことが出来てもそうしていない人が相当数いると結論付けるのは自然だ。

In addition to halving the unemployment benefits period, the government is pinning high hopes on job activation programs, one of the three pillars in Denmark’s famed “flexicurity” model. Employers have carte blanche to hire and fire, and in turn, the jobless are guaranteed benefits if they attend retraining and job placement programs tailored to prepare them for work where labor is scarce.

デンマーク政府もこのような問題に対応して、失業給付の期間削減と就業支援の強化を同時に打ち出した。企業は雇用・解雇において大きな裁量(carte blanche)を持つ一方で、失業者は労働者の不足している産業向けのトレーニングプログラムを受ける条件で給付を受けられる。就業支援・職場復帰によって失業問題に対処し、そのつなぎとして給付が存在するという構造になっている。前者だけではセーフティネットがないし、後者だけではモラルハザードの温床になってしまう。同時に取り組んでいくことが重要だ(まあBIのような制度であればモラルハザードの問題はクリアできるが)。

すでに行政の中枢にいる方がヨーロッパの制度を実際に見て驚くというのは困ったことではあるが、その驚きを世間に明らかにするというのはこれからの軌道修正に期待できるかもしれない。

アフリカは何を指すか

開発の話になると「アフリカ」が一番のトピックになる。しかし、「アフリカ」という括り自体にはあまり意味が無いようだ。

Economics: That depends on what you mean by “Africa”

Now take the 45 countries in Sub-Saharan Africa. Over 2000-2005 the average growth rate was 2.2%—exactly the global average—but the standard deviation among African countries was 6.1%—much higher than the global variance.

アフリカは成長しているのか停滞しているのかという議論をよく目にするが、どうも成長率に関して「アフリカ」という枠で見るのはあまり得策ではないようだ。 例えば2000-2005年のサブサハラアフリカ諸国の平均一人当たりGDP成長率は2.2%だったが、その標準偏差は6.1%もあったそうだ。

いまさら説明するほどのことでもないが、標準偏差はサンプルの散らばり具合を現す数値だ。元の分布が正規分布だとすれば平均から標準偏差一つ離れたところまでに約68%のサンプルが含まれる計算になる(以下はWikipediaの挿絵だ)。 つまり、平均2.2%といっても2/3程度の国が-3.9%から8.3%に入るよ、という程度の精度しかないということだ。これではある国がサブサハラアフリカと言われても成長率がプラスなのかマイナスなのかすら確信を持って言うことができない。こういった問題が生じるのは、サブサハラアフリカ諸国がまとめて成長率を論じるほど、(少なくとも経済的には)似ていないためだ。アフリカについて語る場合にはその地域内での差異をよく認識する必要がある。

Appleのプライシング

Appleの巧みな価格付けを解説した記事。

How Apple plays the pricing game

一つの戦略は囮価格(price decoy)だ。本当に買わせたいものと、それより劣った製品・サービスを同じような値段で提示することで前者が魅力的に映る。

[…] Apple has started to build smaller, 7-inch versions of its iPad tablet, […] If you wonder why in the world Apple would add yet another potentially cannibalizing product to its lineup of iPods, iPod Touches, iPads, laptops and computers, realize that this gadget is likely a decoy.

その例として登場が取り沙汰されている7インチサイズのiPadが挙げられている。Appleの製品ポートフォーリオを見ると、iPad, iPhone, iPod Touchなど非常に似たような機能を持つデバイスが多く、これ以上それを増やすのはどうしてだろうと首を傾げるところもある。しかし、Apple自身も7インチサイズを大量に捌くとは考えておらず、あくまで上位製品の引き立て役と見ている可能性はある。

次に挙げられているのが参照価格(reference price)だ。こちらは高価格なイメージを最初に刷り込むことでお買い得感を出す作戦だ。

Apple has played this game with itself by launching products such as the iPhone at artificially high reference prices – the iPhone cost $599 when it first hit the streets – and then rapidly lowering that price. Today, a $199 iPhone seems like a steal;

例としてiPhoneお価格を$599からスタートし、下げていったことが挙げられている。これはすぐに手に入れたい熱心なファンからより多くの収益を上げるための価格差別とも理解できる。

逆に参照すべき価格自体を隠すという方法も実践している。ユニークな製品を作ることは製品自体の価値を高めると同時に、その製品の価格が妥当なのか判断するのを難しくする。

Is the new $99 Apple TV box a good deal? Who knows? It looks like nothing else on the planet.

例えば$99のApple TVが安いのか高いのかはよく分からない。マッチする比較対象がないためだ。

最後はバンドリングによって本当の価格を隠すやり方だ。これはどこの業界でもよく見られるもので、携帯に販売奨励金を出して実際には通話料で儲けるというようなものだ。

That sexy new Apple TV thing doesn’t store anything, so you’ll pay to play.

Appleはここでもうまくやっていて、例えば新しいApple TVはセットボックスではあるがコンテンツを保存しない。よって実際に利用すると多くのコンテンツを買うことになり実際の対価は$99とはならない。

元記事のコメント欄はAppleネタということで若干炎上気味だが、コモディティ化が早い業界でどうやって利益を出すかというケースとしておもしろい。

新成長戦略?

産業政策は未だに根強い支持を集めているようだ。

政府が国内産業をリードしていく それが成長のポイントだ/経済産業省の近藤洋介政務官に聞く

今回の新成長戦略が、以前のものとは違う点をひとつだけ挙げて下さい。

具体的な数値目標を出したという点です。

新成長戦略が以前の成長戦略と違うのは具体的数値目標があることだという。しかし、例えば第五世代コンピュータ達成すべき数値目標があったら成功したのだろうか「当初の目標を達成した」と主張することはできなくなるが、うまくいかない事自体は変わらないだろう。日の丸検索エンジンでも同じことだ。

そもそも産業政策が支持されなくなったのは、過去の事例を事後的に評価した結果としてその有効性が否定されたからだ。数値目標があるだけで結果が変わるというモデルでもあるのだろうか。

産業政策(特定産業分野へ予算を重点配分する等)については、そもそも「時代遅れ」「不要だ」との指摘もあります。政府は、教育分野での人材育成や規制緩和に力を注ぐべきだ、という主張です。

むしろ、そうした批判の方が時代遅れだと思います。政府は産業政策に関与せず、規制緩和だけを進めていれば後は自由市場がうまくやってくれる、というのは小泉政権時代の発想です。それは結果として失敗し、今の日本の厳しい状況があるわけです。

だから、産業政策が支持されなくなったのは過去の事例の分析によるものであって、「時代遅れ」とか「小泉政権時代の発想」とかではない。自由市場はうまくいくかいかないかというのは間違った切り口で、単にうまくいく場合とうまく行かない場合があり、データからすると産業政策はうまく行かないということだ(小泉政権下の規制緩和が失敗したとも思わないが)。

局面によっては政府が産業をリードしていく、という姿勢の方が、力がある企業が集まる国々の間ではスタンダードになっています。

例えば韓国では、サムスン電子が凄まじい高収益を上げるなどしています。為替の影響もありますが、背景としては1997年のアジア通貨危機を機に政府主導で分野ごとに企業を集約した、ということがあります。こうした政府関与の結果、サムスン電子などが強くなり韓国経済を引っ張っています。アメリカでも、オバマ政権がグリーン・ニューディール政策で環境・エネルギー分野での産業政策を進めています。また、フランス政府は原発などの海外商談で企業と力を合わせています。

これは単なる印象論と権威主義だろう。サムスン電子が凄まじい高収益を上げるのは、市場を人為的に独占させたのだから当然だ。例えば電話市場を再びNTTだけにすればNTTの収益は爆発的に上がるが、それが日本経済を引っ張るだろうか。引っ張るとしたら方向は下だ。オバマ政権のグリーン・ニューディール政策を産業政策と考えるのは難しい(「ニューディール」という名前から明らかだろう)し、フランス政府が民間企業に口を出すのは昔からだ(そしてそれがフランス経済にネットで貢献しているという話は聞かない)。

結局のところ、どうして終身雇用で安定した給与を貰う公務員が、身銭を切る民間の企業・投資家よりも将来の産業の行末をうまく予想できるのかという問題に答えない限り、産業政策が支持を集めることはないだろう(市場の失敗が明白な場合を除く)。