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「消えた高齢者」という犯罪

高齢者の消息が掴めないというニュースが世間を騒がしているようだ。

高齢者の安否確認に「答えたくない」…拒否相次ぐ

地域社会が崩壊しているなどという今更な論点につなげる人も多いが(大体消息がつかめなくなったのは最近のことでもない)、一番の問題は年金などの不正受給だろう。極端な話、不正受給がないなら安否確認自体の必要性は薄い。

Cheaters in Social Security plentiful: Officials who go after fraud say it’s emblematic of a much larger problem

死亡届を出さずに親族等が年金を不正受給するというのは日本に限った話ではない。死んでいないことにすればお金が送られてくるのだからこういう犯罪が起きるのは当然のことだ。これを予期していなかったなどというのは無理がある。

[…] the Social Security Administration estimated that during the previous six months it had received more than 75,000 allegations nationally of possible fraudulent payments.

アメリカでも半年で75,000件の疑わしい支払いがあったとのこと。アメリカには戸籍制度もないので問題はより深刻だろう。

a Florida woman, Penelope Jordan, pleaded guilty to a theft charge after she was accused of hiding her dead mother’s body in a bedroom while Jordan collected the woman’s Social Security benefits for more than six years.

違法にソーシャルセキュリティーを受け取るやり口は幾つもあるが、その一つは今回の日本の問題同様に、死亡した親族を隠すことだ。

During that same period, more than 3,700 criminal investigations were closed, more than 300 people were arrested, more than 400 individuals were charged and nearly 800 people were convicted of crimes related to defrauding the agency.

但し、問題への対処は大きく異なる。アメリカ政府はこれを悪質な犯罪とみなして積極的に捜査している。不正受給の存在は社会保障への支持を大きく損なうからだ。同じ半年の間に300人以上が逮捕されている。

Social Security Fraud (pdf)

[…] penalties of imprisonment up to five years and a fine of as much as $250,000.

不正受給は重罪(felony)で、最大五年の懲役と最大25万ドルの罰金となっている。これに加えて民事訴訟の対象となる。

高齢者の所在確認 | 日テレNEWS24

これに比べて日本での罰則は非常に軽いようだ。基本的に死亡届をしていないことに対するペナルティで、年金を不正に受給することに対するそれではない(そちらは通常の詐欺で対応するのだろう)。

医療・介護サービスの利用から安否を確認するというのもいいかもしれないが、まずは年金制度が構造上こういった犯罪の温床になるという認識を持つ必要があるのではないだろうか。同じことは生活保護など他の社会保障制度にも言える。

Wave開発中止のポイント

GoogleがWaveの開発中止を発表したのニュースになった。では何故上手く行かなかったのだろうか。

Google’s struggles

Google’s struggles both with Wave and also with Buzz and Knol are that these are ventures with strong network effects and so that technology adoption is a great challenge.

Wave、Buzzであれば、FacebookやTwitter、KnolであればWikipediaと非常にネットワーク効果の高い市場を相手にしている。既に相当のユーザーがいなければサービスの価値はほとんどない。

それに対して成功したGoogleの製品の多くは強いネットワーク効果がない。広告であればユーザーが少なければ価格が低いだけだろうし、GMailやGoolge Doc (App) にしてもファイルレベルでの互換性は取れる。MapやReaderにいたってはスタンドアローンで利用出来る。

For Facebook, it was college students. For Twitter, it was celebrity following (this is a form of connectivity through a ‘star’ graph — the star being a source of many connections).

ネットワーク効果の強い業界への参入には、関連性の強い「ブロック」をおさえることが必要だ。Facebookは大学生をターゲットにした。学生にとって他の学生とのコミュニケーションは極めて重要であり、しかもそのやり取りの多くはそのグループ内で終わる。大学生だけ押さえればとりあえずはサービスとして価値が出てくる。そして大学生というブロックを確保し、そこから広がっていった大学生という集団が卒業という形で自然に拡散していく点がこの発展を後押ししたわけだ。

TwitterはFacebookによってすでに固められた友達関係という繋がりを使わなかった。友達という性質上双方向的な関係ではなく、フォローによる一対多の関係をネットワークの基本としている。一対多の関係はFacebookでは成立しにくい、有名人とそのファンというブロックを囲い込んだ。Twitterのこの性質は、個人が一種の有名人となりファンを獲得するという環境を提供し、それにのった「プチ」有名人が次々にファンを呼びこむことでTwitterは拡大した

For Wave, Google tried to do this by having invites and referrals initially.

GoogleはWaveで招待制度を使うことで人間関係をサービス内に模倣した。Waveのユーザーは最初から知り合いと繋がっているということだ。

Put simply, those people were already connected and Wave didn’t offer something that was interconnected or of extra value

しかし、この「つながり」はブロックとしては利用できない。何故なら、その人間関係は既に成立している=つながっているからだ。Twitterのように知らない人と繋がるという機能には欠けるし、Facebookのように昔知っていた人を見つけるということもない。既存のネットワークに比べて新しいコネクションを提示できなければユーザーは留まらずいつまでたってもネットワーク効果は発生しない

つまり、Google Waveの一番の問題はネットワーク効果の強い市場において、まず確保するブロックを特定しそこから広げていくという戦略に欠いたことだ

But Google needed to have interconnectivity from the start and a strategy. Wave seemed to have promise as a one stop shop.

さらに既存の競合サービスとの接続も万全だったとは言いがたい。Twitterのように棲み分けを狙うのであればまだしも、全てを包括する機能を提供する=競争相手をひっくり返すのであれば可能な限り互換性を取る必要はあっただろう。

ただ、この事例がGoogleの評価にマイナスかというとそうでもない。むしろ、強い競争相手のいる市場でもとりあえず動く製品で参入してみるのは重要であるし、それがうまくいかなければ直ぐに撤退するという判断も的確だろう。次の試みに期待したいところだ。

ウェブでの匿名性

ウェブでの匿名性なんてそもそも存在しないというお話:

IT / ウェブの匿名性はもはや名ばかり ─ 瞬時に明かされるあなたの身元

消費者の名前は得られないが、このデータを住宅保有者や世帯収入、結婚歴、好みのレストランなどの記録と相互参照させる。その後、統計分析を施し、個々のウェブ・サーファーのし好について推測を始める。

企業が消費者のアクセスを追跡し、外部のデータと照合することで嗜好を推定する。外部のデータを使うことがアマゾンなどとは違うという。消費者の名前は得られない、とあるが十分なデータがあれば個人名まで遡れることもできると考えるべきだろう。

個人の嗜好が分かれば人によって異なる価格を提示することで売り手は収益を増やすことができるため、こういったサービスを提供する企業が次々に出てくるのは明らかだ。

このことから二つの問題が生じる

  1. 差別を禁止する規制の有名無実化
  2. プライバシー保護のエンフォースメントの困難化

まず、差別との関係だ。異なる価格を提示する価格差別は一般的に禁止されていない。価格差別が消費者や社会全体にとって必ずしも悪いことではないからだ(むしろプラスであるケースが多い)。

金融サービス業界では、公平な融資に関する法律により人種、肌の色、宗教、出身国、性別、公的支援の受け取りや婚姻暦に基づく差別が禁じられている。

但し、例外として人種などの差別を禁止する法律はある。雇用においても人種による差別は違法だ。しかし、他の情報から最適な価格を設定した結果としてほぼ人種毎に差が生じたとしてもそれを罰することはできないだろう。

もう一つはプライバシー保護のエンフォースメントだ。大抵の企業は情報を集めるときに(特別な理由がなければ)自社でしかデータを利用しないと謳っている。しかし、現実にはこのように多くのデータが参照される。データの出所(とそれを知っていて利用したこと)を立証するのは困難なので実質的にプライバシーを守ることは難しくなる。外部(海外)の企業が分析の結果だけを提供するようなスキームならもはや取り締まりようがないように思える。

個人レベルでは匿名性はないものとして行動する他ないだろうが、政策的な対応も必要だろう。

日本のシリコンバレー!?

産業振興策というと胡散臭いが、地方レベルでうまくいっている例というのは興味深い。

岐阜は日本のシリコンバレー!? 「セカイカメラ」や「Finger Piano」生んだ県の振興策

大垣市のIT施設「ソフトピア・ジャパン」内にプロジェクト拠点「ドリームコア・コレクティブ」を開設し、iPhone55台を整備。その上で、ITベンチャーの入居料減免やアプリ開発教室「iPhone塾」を設置するなどした。

岐阜県でiPhoneの講習会を行ったり、ベンチャー支援したりして効果が上がっているとのこと。地方レベルでの試みに可能性を感じる理由は二つだ:

  1. 地方間の競争がある:他の市町村の政策より上手くいっていなければ明白である
  2. 徴税能力に限界があり、野放図な支出は難しい:国に比べればこういった裁量は遥かに少ない
  3. 国政に比べて行政への有権者のチェックが細かい:省庁レベルのある政策の成否が原因で議員の地位が脅かされることはないが、市町村首長であれば重要な論点になりうる

一方で、多数の地方自治体が「日本版シリコンバレー」的政策を実行しており、成功例の存在が全体としての効率的投資(=税金の使い道)を意味しない。ある地方のレジャー施設の成功が日本中にある寂れたレジャー施設を正当化しないのと同じだ。失敗のツケは税金で取るという構造がある以上、このような懸念は払拭しようがない。

とはいえ、今回の例でiPhoneが中心になっているのは面白い。

  • 産業政策の最大の問題は「産業」を選ぶ能力が政府にないことだが、センスがよさそう
  • ネット系のビジネスだが、iPhoneを使って参加者を物理的に集めている
  • 開発のためとはいえ複数の端末を用意するのは費用がかかり、特に学生には難しい

さらに他のタイプの講習会なども開催できれば多様な人的交流が発生し効果が高まりそうだ。例えば海外のメディア・マーケティングに詳しい人が集まれば、開発したアプリを日本ローカルに留めずにうまく世界に広めていくといったこともできるのではないだろうか。

P.S.

IT系のビジネスは本来世界展開が比較的簡単ですが、業界の人は結構ドメスティックな印象がありますがどうなんでしょうか。もちろん国際的に活躍する方もいますが、比較的少数に思えるし、実際に海外で在住しているとビザの関係もあり起業とはいかないというのもあるのかもしれません。

発展途上国向け温暖化対策

気候変動対策における発展途上国の役割について:

Policies for Developing Country Engagement

温暖化対策となると日本を含めた先進国の責任ばかりクローズアップされるが、発展途上国が取り組める対策を考えるのも重要だ。特に、誰に道義的な(!)責任があるかという負担の擦り付け合いに終始しがちな点は残念だ。

For example, fossil fuel subsidies are common in many developing countries. Reducing or eliminating them would relieve budget pressures, promote more efficient energy use, improve energy security, and avoid unintended distributional consequences while also slowing the growth of GHG emissions.

しかし、温暖化対策になる政策の全てが痛みを伴なうものではない。例えば化石燃料への補助金は燃料価格を下げその消費を促進する。このような補助金を廃止することで、補助金のための財源(と課税に伴う経済の歪み=税の死荷重負担)が必要なくなるし、燃料の利用も適正化される。補助金には燃料の購買者の負担を減らすという再配分的意味合いもあるが、それは他の再配分手段で達成できる。また、実際には業界団体の圧力などで補助金が使われているケースも多く、温暖化対策を理由にそういった政治力を排除できるなら一石二鳥だろう。日本でも高速道路無料化なんて意味不明なことを言ってないで、気候や混雑への外部効果を計算にいれた適正な課税・通行料徴収を行うべきだ。