COP15と笑える舞台裏

あまり経済とは関係ないが地球温暖化に関する面白い記事(温暖化に関する他の記事はこちら):

Copenhagen climate summit: 1,200 limos, 140 private planes and caviar wedges – Telegraph

コペンハーゲンでは地球温暖化に関する国際会議(COP15)が開かれているが、現地の人たちは大忙しだ。

“We haven’t got enough limos in the country to fulfil the demand,” she says. “We’re having to drive them in hundreds of miles from Germany and Sweden.”

リムジンを提供する企業のトップは、あまりの需要に国内では供給が追いつかずドイツやスウェーデンからリムジンを持ってきているという。

The airport says it is expecting up to 140 extra private jets during the peak period alone, so far over its capacity that the planes will have to fly off to regional airports – or to Sweden – to park, returning to Copenhagen to pick up their VIP passengers.

当然空港も大騒ぎで、普段よりも140機多くのプライベートジェットがピーク時だけで訪れる予定で、容量不足から乗客を降ろしたら他の空港へと向かうそうだ。

And this being Scandinavia, even the prostitutes are doing their bit for the planet. Outraged by a council postcard urging delegates to “be sustainable, don’t buy sex,” the local sex workers’ union – they have unions here – has announced that all its 1,400 members will give free intercourse to anyone with a climate conference delegate’s pass. The term “carbon dating” just took on an entirely new meaning.

さらに、政府が参加者に買春をしないように呼びかけていることに対して、性労働者の組合は会議に参加する代表者に対して無料でサービスを提供するとアナウンスしたそうだ。炭素の放射性同位体で年代を測定するカーボン・デーティングと比べられている。

In a rather perceptive recent comment, Mr Miliband said it was vital to give people a positive vision of a low-carbon future. “If Martin Luther King had come along and said ‘I have a nightmare,’ people would not have followed him,” he said.

温暖化対策に関してもっとポジティブなビジョンを示すことの重要性が強調されている。マルティンルーサーキングがI have a nightmareと言ったら人々はついてこなかっただろうという。

真面目な話もちゃんと書かれているのでジョークの効いたニュースを読みたい人におすすめだ。日本の新聞社のサイトでは見かけないタイプの記事だ。

マンガ輸出振興はやめよう

よく日本独自の文化としてマンガを新しい輸出産業にしようって話があるけど、本気なんだろうか:

日本発ポップ・カルチャーのすすめ〜日本の電子書籍市場

リンク先の基本的主張を要約すれば次のようなものだ:

  • 電子書籍分野で日本は進んでいる
  • その規模は464億円
  • そのほとんどは携帯向け
  • 携帯コミックは成熟した日本から生み出された新しい書籍文化
  • 携帯音楽市場は1000億円規模で世界一
  • 携帯コミックは次のコンテンツ市場
  • 海外展開も始まっている
  • 製造業は限界なのでコミックのような新しい産業を育てる必要
  • コミックに加え“カワイイ”文化やアニメ・映画

四つほど論点を上げたい。

  • 日本の携帯書籍市場が大きいのは日本独自の理由
  • 製造業は限界ではない・輸出だけ振興してもしょうがない
  • 産業育成は必要ない
  • 本気でポップカルチャーが一大輸出産業になると思ってるの?

日本の携帯書籍市場が大きいのは日本独自の理由

では何故日本の携帯電話上で書籍の販売が盛んなのか。それは日本では携帯プラットフォームが非常にクローズドだからだろう。寡占的なキャリアは端末メーカーと協力して比較的強いDRMと簡単な支払い手段を用意した。これにより、著作権管理の強固な携帯プラットフォームでのコンテンツ提供が広まったが、逆に言えば、それが市場が大きな理由であって日本の携帯向け書籍・マンガが特に魅力的だからではない。同じものを海外にもっていったからといって成功する根拠にはならない。通勤時間が異常に長いという日本固有の影響もあるだろう。

製造業は限界ではない・輸出だけ振興してもしょうがない

製造業ベースの国際競争力では、今後、輸出関連産業が飛躍的に大きく伸びる可能性は小さく、これまで、ハイテク化や高付加価値化によって 立つという図式を日本の産業界は追求して来ましたが、このモデルだけでは限界があると思います。

ハイテク化・高付加価値化がどうして限界があるのかよく分からない。自動車産業はうまくやっているように見えるし、海外に目を向けても半導体や携帯など製造業が輸出の柱となっている国は多い。金融サービスや映画などのコンテンツを大々的に輸出しているのはアメリカだけではないだろうか。また輸出を行うのは輸入をするためであって、限界(?)を越える必要なんてない。海外で資産を買い占めたいのだろうか。

産業育成は必要ない

コミックのような成熟社会の文化に根ざしたコンテンツ配信をビジネスモデル化し、産業として育てていく途を加える必要があります。[…]産業育成として、コミック に加えて、東京発の“カワイイ”文化や世界で受賞相次ぐアニメや映画まで含めて配信ビジネスとして仕組んでいくことが、新しい日本の発展を支えるのではな いかと思っています。

産業育成一般に当てはまる話だが、政府に輸出産業を予知する能力はない。日本のポップ・カルチャーがそんなに素晴らしいなら、ほっとけばいい話であってどうにか振興しようというのは余計なことだ

本気でポップカルチャーが一大輸出産業になると思ってるの?

では日本のポップカルチャーが製造業に代わり外貨を稼いでくるようになるのか。

文字と比べて、ビジュアル系のコンテンツは映画を含めて、他文化の人達にも理解され易く、日本発のポップ・カルチャーとしての情報発信は十分可能です。

確かにマンガのようにビジュアルなものは文字だけのコンテンツに比べれば他文化の人にも理解されやすいかもしれないが、食料や自動車のようにはいかないだろう。

アジアを中心に、更に最近では欧米においても、コミック、アニメや“カワイイ”ファッションなど、日本発のポップ・カルチャーは注目を集めています。

変わったものとして注目を集めるのと輸出産業になるというのは全く違うことだ。いくらか輸出できるだろうけど、製造業のあとをつぐなんて不可能だろう。海外で一番大きなビジネスになっている日本文化は寿司だろうがそれだって普通の料理だと考えているのはごく一部だし、海外で出されるのは(多くの場合現地の人が)現地向けにアレンジしたものだ。海外に寿司レストランがたくさんできて日本に外貨が流れ込んできているという話も聞かない。

そもそも文化的なものは輸出するのが難しい(参照:日本でFacebookは生まれない)。日本にあるものをそのまま海外に持ち出しても一部のマニアに受けるのが関の山だ。本当に産業として成立するためには、海外の人たちがどんな日本風コミック・アニメ・ファッションを欲しているのか知る必要がある。だが、これは日本人が日本にいるだけでは非常に難しい。誰がスパイシー・ツナ・ロールやレインボー・ロールを作ったかという話だ

むしろ日本に独自性があって海外でも受けるというコンテンツで言えば、こちらの「マカオで“大人”の展示会、日系が海外攻勢」のほうが見込みがあるのではないだろうか:

インドから来たバイヤーは「日本のアダルト産業は世界的にも評価が高い。日本の商品をインドで売りたい」と興味がある様子。また一般客として来場した香港人男性は「今まで見たことがない商品があって面白い」と話した。

ネットのルールなんてない

ネガティブ記事は好きではないが、これはどうかと思ったので突っ込んでおく:

マードック氏にグーグルが譲歩 「ネットのルール」はどう変わる インターネット-最新ニュース:IT-PLUS

ここしばらく話題になっているマードックとグーグルとの対立についての記事だ。

デジタル技術や伝送技術などの進歩がネットという新たなコンテンツの流通経路を生み出した。しかし、技術進歩やネットがコンテンツを無料にしたわけではな い。ビジネスモデル(無料モデル)や権利侵害(違法コピーや違法ダウンロード)がコンテンツを無料にしたのである。即ち、技術ではなく人がそうしたに過ぎ ない。ウェブ2.0以来ネット上に定着した「コンテンツは無料」という風潮は不可逆なものではないのである。

「技術ではなく人がそうしたに過ぎない」というのはどういう意味だろう。最終的に行動するのは人間なのだから「人がそうした」と言うならなんだってそうだ。技術が変化し、それに対応して人の行動が変化したのだ。「風潮」というものは市場参加者の最適行動の結果に過ぎない。確かに「コンテンツは無料」という風潮は不可逆ではないが、そもそもの原因である技術進歩の流れが変わっていない以上、人の行動も変わらない。

もちろん、「無料」の変革は大変である。一部の新聞社が有料化してもユーザーは無料のところに流れるだけだろう。また、違法コピー・違法ダウンロードを制 圧しない限り、無料の変革はニュース記事を超えてコンテンツ全般には広がらず、「闇の無料の世界」が拡大するだけである。闇金業者が繁盛するような世界と 同じにしてはならない。

技術的に違法コピー・違法ダウンロードを制限することはとても難しい。よって「コンテンツは無料」というのが支配的な価格付け戦略になっている。一体これをどう解決するというのだろう。ネットは自由みたいな原理主義に加担する気は全くないが、技術進歩に逆らうのはコスト的に難しい

コンテンツを利用して無料モデルで儲けているグーグルなどのネット企業の収益を、コンテンツ側に還元しなくていいのかという問題である。米国ではフェアユース規定が還元しなくていいことの根拠となっているが、結果として「フェア・シェア」が実現されていないのでは、洒落にもならない。

いい悪いの基準が全く分からない。「フェア」という言葉を定義せずに使っても意味がないだろう。コンテンツ企業がコンテンツを提供し、検索エンジンがそれを表示しているのは両者にとって、そうすることがそうしないことより得だからだ。これはある意味「フェア」ではないか。結果として実現される配分は法制度に影響されるが、それを論じるには「フェア」の定義についての合意が必要だ

つまり、マードック氏が第一歩を踏み出し、グーグルはとりあえず最低限の対応をしたが、その結果としてネットの常識がどう変わるかはこれからの勝負なのである。

「ネットの常識」でビジネスが動いているのではないビジネスが動いた結果としてのパターンが「ネットの常識」なのだ。マードック氏がグーグルから譲歩を引き出したのは彼がコンテンツ生産において市場支配力を持っているからだし、譲歩しか引き出せなかったのはグーグルが検索市場のリーダーだからだ。

日本のマスメディアはネット関連の問題では常に受け身であったが、今回ばかりは、行動するなら早く動くべきである。ネット上でのビジネスの「ルールづくり」が常に米国で行われるというのは、もう止めにすべきではないだろうか。

アメリカで「ルール」ができて日本に波及するなんてことはない。アメリカで生じた変化が日本でも生じることで結果としてのパターンが一致するだけだ。技術は国境をまたいで波及するのでそれは自然なことだし、ネット関連の技術変化はアメリカから生じるので、「ルール」がアメリカから日本にやってきたように見えるがそれは表面的な問題に過ぎない

追記:複数均衡を選択するという意味での「ルール」ならあるかもしれないが元記事の話とは関係ないだろう。もし無料均衡から有料均衡へ飛ぶという話ならそれはカルテルだ。

HIVカルトグラム

エイズといえばアフリカが大変というイメージだが、実際どの程度なのか視覚化されていると分かりやすい:

xocas.com information graphics » Blog Archive » World AIDS Day

aids

HIV感染者の数を面積で表したカルトグラム(統計地図)だ。色は人口当たりの患者数を表している。アフリカが圧倒的なことが分かる(マダガスカルが巨大なのはアフリカという単位で縮尺を決めたからだろう)。元データは国連にある。

ちなみに日本の現状はというと数日前に朝日新聞に記事が上がっている:

エイズ増える日本「現実直視を」 来日のNGO代表訴え

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こんな中、日本国内の感染者の総数は2008年までに1万人を超えた。潜在的な感染者は数倍いるとみられる。

ということで、国際的には小規模ながらも右肩上がりに増えている。記事では適切な性教育の不足が問題とされているが、本当の原因は何だろう。アメリカのように性教育と聞くと騒ぎ出す政治力の強い団体がいるようには思わない。

ちなみにカルトグラムの作成は一筋縄にいかない。国別・都道府県別の数字を入れるだけで地図化してくれるようなウェブサイトがあると社会のためにもよいように思う。誰かやってくれないだろうか。

タクシー代の交渉

タクシー料金がメーターで決まるのはごく一部の先進国だけだ。多くの国では目的地を告げたあと値段交渉を行う。いくつかの戦略が提示されている:

Psychology, economics, and the taxi – Chris Blattman

Strategy part 1: Figure out the “real” price beforehand. Shopkeepers, hoteliers, hosts, and the like will help you here. Ask those who actually take taxis.

まず大体の落としどころを事前に調査する。ネットで調べてもいいし、現地の人に聞いてみてもいい。別に嘘をつくインセンティブはないだろうから誰でもいいだろう。

Strategy part 2: Anchor the price. Humans have a tendency towards starting point bias. Get that starting point low.

とりあえず低い額からスタートすることも重要だ。

Strategy part 3: Figure out the national bargaining fraction. Anchor too low and some cabbies will simply stop talking to you.

もちろんあまり低い値からスタートしようとすればタクシー運転手は交渉に応じない。大体どの程度から交渉を始めるのが普通かということも調べる必要がある。

Strategy part 4: Keep smiling. It’s a game, so try to enjoy it. Never lose your cool.

笑っていたほうがいいそうだ。これは大抵の一回限りの交渉に当てはまるだろう。

面白いのは、国によって大体のスタート位置と交渉にかかる長さが違うということだ:

  • Ethiopia: 0.7 with 2 rounds
  • Argentina: no less than 0.9 and 1 round.
  • Canada: 1 and 0
  • Uganda: 0.5 and 4 rounds
  • Liberia: 0.1 and 8 rounds
  • Morocco: 0.001 and upwards of 754 rounds (including mint tea).

非常に低い価格からスタートするのが普通でやたらと交渉に時間がかかる国もあれば、日本のように全く交渉を行わない国もある。これには二つの理由があるだろう。

まず一つは、タクシー運転手が値段交渉を価格差別のデバイスとして利用していることだ。お金のある人はさっさと移動したいので長い交渉を避けたがる。これを利用して、払える人に多く払ってもらいつつ、値引き交渉をするような客も取り込む。価格差別は需要が不均一な場合ほど重要であり、貧富の差はその最も大きな要因だ。

二つ目の理由は、タクシー業界の構造だ。個々の運転手にとって値段交渉を価格差別に使うのが最適な行動であっても、運転手全体にとっては最適ではない。業界が大きな企業に統合されれば、値段交渉に応じないようにすることで、運転手同士の競争を避けるだろう。これは会社の信用をもとに所属する運転手が機会主義的に価格を釣り上げて利益を出すことを防ぐためにもなる(フランチャイズのレストランが仕入れを統一するようなものだ)。日本のように料金が一律に規制されていない場合でも企業ごとに一つの価格体系しかなければ競合他社の価格を把握するのは簡単であり、(暗黙の)共謀を形成するのも簡単になる。

但し、値段交渉に応じないというポリシーは実際に守られているかを確認するのが難しい。運転手と客にとって有利な交渉であれば誰も会社にそれを報告するインセンティブがないためだ。メーターを利用した課金の仕組みはこの問題を解決するためのものだろう。