日経TEST

日経TESTというものがあるそうだ(ht @AkieIriyama)。もう一年以上実施されているらしいが今日初めて耳にした。

日経TESTは日本経済新聞社と日本経済研究センターが主催するテストで、正式名称を「日経経済知力テスト」といいます。TESTは経済知力テストを英訳した「Test of Economic Sense and Thinking」 の略称です。経済知力は、経済の仕組みや流れを理解し、新しいビジネスを生み出す能力を意味します。これからのビジネスリーダーを目指す人材に求められる必須の能力です。

「経済知力」という物を測るそうだ。経済の仕組みや流れを理解するのはいいとして、新しいビジネスを生み出す能力とは何だろう。経済学的には非効率かつ自分が改善できる場所を見つける能力のような気がするが、具体的にどんな能力かは書いていない。説明できない能力をどう測定するのだろう。

出題する問題は、経済とビジネスに関する基本的な理解力があるかないか、ニュースに対する感度はどうか、考える力はどの程度かなどという観点から作成しています。教科書的な知識の有無を問うだけの試験ではありません。

教科書的な知識ではなく、感度や考える力を測ってくれるそうだ。さて例題を覗いてみよう。

Q1. 消費の現場で言われる「シックスポケット現象」のシックス(6)に当てはまるものを下の選択肢から選びなさい。

「消費の現場」という日本語が良く分からないのはおいておくとして、「シックスポケット現象」の意味を問う問題だ。単に教科書的知識を問う問題に見える。ちなみに英語で検索しても見当たらないが和製英語だろうか。

Q10. 消費者行動を説明する用語に「AIDMA」がある。「アテンション(認知)、インタレスト(興味)、デザイア(欲求)、メモリー(記憶)、アクション(行 動)」の頭文字を指すが、インターネットの普及によりそのパターンが「AISAS」に変わってきたという説がある。「AI」までは同じだが、後半の 「SAS」は何を指すか。

これは難題だ。どちらも聞いたことがない。SASと言えば統計パッケージしかしらない。「経済知力」が足りないようだ。これまた日本語ばかりヒットするがWikipediaによると電通が流行らせたらしい:

日本語圏において「AIDMAの法則」として、広告代理店の電通等により提唱されたAISASとの比較により知られる。

お陰様でまた雑学が増えたが、これも教科書的知識なのだろうか(「的」があるので教科書に載っていなくもいいのだろう)。もちろんバズワードの意味を問う問題ばかりではなく、経済畑の人に答えやすい問題もある。

Q8. 現在のFRB(米連邦準備制度理事会)議長は誰か。

言うまでもなく、これも四択だ。むしろFRBとは何かを選ばせた方がまだ難しいだろう。一番面白いのは次の質問だろうか:

Q6. 商品注文時などに、店舗スタッフが歌を歌ってくれることで有名なのはどこか。

よく言えば多様性に富んだ、逆に言えば何を測りたいのかさっぱり分からない問題が並んでいる。大体次の四つのカテゴリーに分けられる:

  1. 最近の(日経的)流行り言葉
  2. 統計の大体の把握
  3. 最低限の会計の知識
  4. トリビア

考える問題がないのはご愛嬌だ。大学で教えるような経済学の問題もほぼないが、必要ないと考えられたようだ。「新しいビジネスを生み出す能力」をどこで測っているのかはよく分からない。

日経TESTは、新聞の取材・報道で蓄積した豊富な事例を素材に、ベテランの編集委員らが時代の変化を見据えながら試験問題を作成しているのが最大の特色です。

時代の変化を見据えるというのは最近の流行を追ってみることなのだろうか。TOEICのようなビジネスを狙うにしても、新聞を買わせるために現在の紙面に試験の方を合わせている限り成功することはないだろう。試験は独立した機関が作成するか、少なくとも意味のある試験を作り、それに役立つよう紙面の方を変えて行くのでなければ見込みがないように思われる。

上がる学費

教育費が年々上がるという話ではなく、同じ生徒の学費が毎年上がるのは何故かという話。そういえば日本の国立大学の学費は毎年上がっていたような気がするけどそれとは別。

Dear Economist: Should I try to make school fees fairer?

I’m a marketing manager at a British private boarding school. Fees start low and increase during a pupil’s education regardless of the fact that costs remain pretty constant before inflation. I want to reflect this “flat” cost and reward loyalty – but how can I without an ugly hike at reception class?

質問に対する答えという形式をとっているTim Harfordのコラム。実際、ショッピング中にどうしてこれはこういう値段の付け方なの??と聞かれることはよくある。。ちなみに、「ああそれは…」などと真面目に答えると、「そうアンタ達のせいでこういういやらしいプライシングになるのね」などと返されること請け合いだ(説明は後付で価格の付け方自体は昔からあることが多いわけだけど)。

今回のお題は私立(寄宿)学校の学費で、一年目から段々と上がっていくと言う。質問者は費用が一定なのだから価格も一定に、フェアに、すべきではないかと言っている。

Let’s take a step back. You say that you’d like to reflect costs. Why? Most businesses set prices to attract customers and increase profits. Costs are not directly relevant.

これに対する返答がなかなかいい。そもそも費用と価格を連動させる直接的な理由はないという。そりゃそうだ。基本的には相手が払う気がある限り価格を上げればいいだけの話だ。もちろん余り利幅が大きいと競合相手に客を取られるという懸念があるので価格を抑えるという話はあるだろうが、それはフェアかどうかとは関係ない。

Most companies say they reward loyalty, but it is more traditional to gouge loyal customers while chasing new ones. Don’t fall for your own propaganda.

ロイヤルな顧客を大事にするというのはよくあるスローガンだが、その心はロイヤルな客のほうが価格を上げても大丈夫だからであって、ロイヤリティそのものが重要ではないという話だ。

また「費用」といったときにそれが何を指しているのかも実ははっきりしない。例えば企業にとっては遊休設備があればコスト割れしても売った方いいことも多いわけだが、この場合の費用とは何だろうか。会計上のそれで言うならこれは赤字取引となる(もちろん会計原則には経済のそれとは違う意義があるので会計処理がおかしいという話ではない)。

Parents will be nervous about whether the school will suit their children, so a cheap price year in reception is sensible.

では何で最初安いのかというと、それはお試し期間だからだ。こういうと学費のようには聞こえないが本質的には同じことだ。ディアゴスティーニと変わらない。

The only reason to change your current pricing is if you can figure out a way of concealing some of the later fees.

改善の余地があるとすれば、いかに価格の上昇を見えないようにするかだ。これは各種証明書の発行費用を上げることで達成できる。流石にそこまで費用を計算する人もいないだろうし、将来どれぐらい払うかも分かりにくい。

将来売ります

自分の将来所得を担保に投資を募る実業家の話題が盛り上がっている。

Entrepreneurs offer their life’s future earnings for an investment

Kjerstin Erickson, a 26-year-old Stanford graduate who founded a non-profit called FORGE that rebuilds community services in Sub-Saharan African refugee camps, is offering 6 percent of her life’s income for $600,000.

NPOの創設者が自分の所得の6%の見返りに$600,000の投資を募集しているそうだ。6%で$600,000ということは、所得のリスクも割り引いた現在割引価値(≠生涯所得)が$10,000,000必要なわけで、普通に考えたら割に合わない。

それだけでなく、持分への投資ということで、株式会社などが持つガバナンス上の問題点を共有している:

  1. 94%は本人という社長兼大株主が所有しているわけで、少数株主たる投資家との間に利害対立がある
  2. 公開会社のような上場審査や法定監査があるわけではなく、所得の6%といっても所得の数字自体信頼できない
  3. そもそも意思決定に加わるわけではない

その結果次のような問題が考えられる:

  1. 所得の限界効用が落ちるので働く気が失せる
  2. なるべく所得に現れない便益を優先する、例えばお金にはならないが楽な仕事しかやらない

このような懸念に対して、

The transparency afforded by social networking is making it easier for investors to vet people’s reputations and hold them accountable.

ソーシャルネットワーキングによって透明性が増しているから何とかなるのではと述べられているが、会社法を考えれば分かるようにそんな簡単な話ではないだろう。

ただこの個別事例が成功するかと言われればおそらく成功すると思われる。このような議論を呼ぶ募集を行うことは本人やそのプロジェクト(そしておそらく投資する側)にとって大きなPRになるからだ。これを弾みに成功していけば割に合う投資になる可能性はそれなりにあるだろう。

また、この取引を投資ではなく寄付の一種だと考えることもできる。将来所得と引換に融資を受ければその個人は金銭的な報酬を優先するインセンティブを失うが、これはNPOが自ら利益を配分しないことと似ている。もともとNPOは属人的な正確が強いので、組織ではなく個人に投資するという考えもありうるだろう。

ハンバーガー地図

マクドナルドの分布を前に取り上げたので、これも取り上げないわけにはいかない。ちょっと真面目な記事を仕上げる時間がないので箸休めにどうぞ。

A Disturbance In The Force « Weather Sealed via Flowing Data

今回はマクドナルドと競合するハンバーガーチェーンを表したマップだ。AggDataというサイトで販売されている各チェーンの所在地情報から作られている。$20-$50と割合リーズナブルな価格設定だ。

見たことがないがSonic Drive-Inというチェーンがテキサスを制している。あとはJack In The BoxがLAを中心にCAに展開していること、Wendy’sは東側に多いなんてことが分かる。

マクドナルドが12,000店舗、今回挙げられている競合チェーンは合計で24,000店舗以上あるそうだ。アメリカでは独立系のハンバーガー屋も多いし、ビールが飲めるところの多くでハンバーガーを出す。

ちなみにそのマクドナルドを超える店舗数を誇るのがSubwayで23,000店舗を超えているようだ(追記:タイポで桁があがっておりました)。

ニュースは儲からない

メディアが陥っている問題について非常によくできた記事の紹介。

News is a lousy business for Google too

There is a widespread myth that search engines have taken profits away from news websites.

サーチエンジンがニュースを提供する企業から利益を横取りしているという主張はよく聞く。しかし、ネット上でニュースが儲からないことはサーチエンジンがなくても十分説明できる。

The internet upended this model by 1) providing a new delivery method for classified ads (mainly Craigslist), 2) increasing the supply of newspapers from 1-2 per location to thousands per location, thereby driving the willingness-to-pay for news dramatically down, and 3) unbundling news categories, making cross subsidization increasingly hard.

三つの理由が挙げられている。一つはCraigslistを代表とするクラシファイド広告の登場だ。こういった広告は旧来の(アメリカの)新聞にとって大きな収益源であった。二つ目に地域独占が解消し、ひとつの地域でたくさんの新聞を購読できるようになった。三つ目はニュースを分けて販売できるようになったためニュース以外で稼いでニュースでお金を使うということできなくったことだ。

これらはどれも紙媒体に存在した紙媒体のボトルネックがなくなったことにより生じている。配布コストが下がれば地域独占はなくなり競争はまし、バンドルを維持できなくなる。クラシファイド広告もまた旧来はバンドルされていたコンテンツの一つだ。

ここまではこのブログでも何度も述べてきたことだが、次の話が面白い。

Even Google doesn’t make money on it.

ニュースはGoogleにとってすら儲からないという。実際にAfgranistan warで検索しても広告が表示されない。あまりにも収益が少ないからだ。

Big money-making categories include travel, consumer electronics and malpractice lawyers. News queries are loss leaders.

Googleが利益をあげるのは旅行や電化製品、それに訴訟ネタだという。実際、去年の最も高いキーワードはMesotheliomaだった。ニュースで利益を出せないのは検索エンジンに横取りされているからではなく、そもそもニュースが生み出す利益が非常に小さくなったためだということがよく分かる。