国際開発のキャリア

最近、就活の話題をよく目にするのでもう一つエントリーを紹介。

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国際開発のスペシャリストがどうやってそのキャリアを始めたかを説明している。しかし、その内容は開発という特殊な分野にだけ当てはまるというよりも、「アメリカの就活」で紹介した一般的な「就活」と本質的に変わらない。

It was an unpaid position with a multilateral organization in Tashkent, Uzbekistan, and it pretty much launched my global health career.

最初はウズベキスタンでの無給での仕事から全て始まったという。ではどうやってそのためのお金をもらったかという質問が沢山くるという。

I didn’t get funding. I estimated how much it would cost me every month to live in Tashkent. I figured out how long I wanted to stay – six months. Then I got a job, saved up my money, deferred my student loans, and got on the plane to Tashkent.

答えは単にもらえなかったというものだ。月いくら掛かるかを計算し、滞在したい期間を決め、そのための費用を働いて貯金し学生ローンの返済を延期して容易したという。

I actually ended staying at my internship for a full year, funding the extra six months with a US government fellowship that no longer seems to exist.

しかし、結果的に滞在は一年に延び、延長した分の費用は政府のフェローシップによってまかなわれたそうだ。

It led to the job that led to my next job and so on and so forth until here I am now with enough experience that I believe myself capable of blogging about it.

ここから次の仕事、その仕事への繋がり、十分な経験を得るに至っている。

But I got to Tashkent on my own, and I don’t think I could have gotten that fellowship if I wasn’t already there.

しかし、同時に最初のフェローシップを得たのは既に現地にいたからだという。これはインターンシップによって経験を積み、ネットワークを作ってキャリアを形成していくというアメリカでは普通のパスだ。

日本人も国際的な場所で活躍しようというなら、これだけの条件を揃えればいつ頃に行けるみたいな皮算用をするのではなく、自分から打って出る行動力が必要だ。仮に皮算用通りに事が進んだとしても、身一つで始めた人間と同じ力がつくとも思えないし、既に築かれた信頼関係なしに同じ結果を出すことはできない(同じことを言っていたとしてどちらに説得力があるだろう?)。

日本経済の現状

経済産業省が公表しているスライドがよく出来ているのでここでも紹介(ht @kazemachiroman)。日本が抱える問題とここに至るまでの経緯が丁寧に解説されている。ではどうしたらいいのかという部分になると急に説得力がなくなるが、日本語だし全部読む価値はあるように思う。特に興味深いグラフを幾つか抜粋する。

日本の産業を巡る現状と課題

まず各国の貯蓄率の推移だ。日本は貯蓄率が高く、アメリカは借金だらけというイメージを持つ人が多いと思われるが、日本の貯蓄率はアメリカを下回っている。高齢化や社会保障によって貯蓄率が下がるのはしょうがないが、それにしても衝撃的な数字だ。

最近、株主主権の問題と絡めて話題となった労働分配率だがここでも日本は英米独仏などよりも高い水準を保っている。特にドイツが一番低いのは興味深い。

企業の海外移転に関するアンケート結果だ。多くの企業が生産機能移転を決定ないし検討しているとのこと。生産コストを考えればその流れは当然だろう。日本で働く人は開発・研究・本社機能で能力を発揮出来るようにならないと厳しい。

こちらは三大都市圏及び地方の人口推移だ。全体に人口が減っていくものの、相対的に地方での人口減少が深刻となる。

特に地方圏では、今後急速に人口減少。地域経済の立て直しが深刻な課題。

とはいえ、既に莫大な予算をつぎ込んでいる地方経済をどう立て直すというのだろうか。

実質失業率は急激に伸びている。日本の比較的低い完全失業率は企業による抱え込み=保蔵によって維持されているに過ぎない。

当然これだけの余剰人員を抱えていれば労働生産性で他国に引けをとるのは当然の帰結だろう。

企業内部で再配分が行われているような状況であり、雇用者報酬も伸び悩む。国境を越えられるような人材の確保はますます難しくなりそうだ(こっちも購買力平価だよね?)。

では日本の問題は何か。まず挙げられているのが実効法人税率の圧倒的な高さだ。どこの国で始めても良いような産業があえて日本を選ぶことはないだろう。儲かりそうであるほどそうだ。運輸の関する費用も高く事業コストが足かせになっている状況が分かる。

資本市場としての魅力もない。シンガポールの躍進をみればアジアでの地位は完全に失われたといっていいだろう(追記:資本市場の地位という意味)。

資料では、これらの経緯・現状を踏まえた上でさらなる産業政策の重要性が強調されているが、現状はその産業政策の失敗とも捉えられる。まずは企業活動がしやすい環境を整え、国内での競争を促進することで生産性を上げることが重要だろう。そうすることで、政府が成長産業を決め打ちしなくても、優秀な産業が競争に生き残る。

結論部分こそ微妙だが、全体として非常によく出来た資料なので、時間のある時にでも是非読んでみてほしい。

「返還ビジネス」

似たような話は前にも取り上げたが、公益のためにもう一度:

「過払い金」に続く「返還ビジネス」を 模索する弁護士業界 賃貸住宅更新料や残業代も対象に | 伊藤博敏「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]

また、残業代についても返還請求が増えているのをご存じだろうか。

借金の過払い金請求が話題になったが、現在のトレンドは残業代の返還請求だそうだ。残業代が返還されて何が悪いのだろうか。

業務はパラリーガルに任せ、本人は海外旅行を楽しむといった悪質なケースもあった。

何故か突如過払い金請求の話に戻り、弁護士が仕事をしていないと批判している。しかしパラリーガルができる仕事を弁護士に強制して誰の得になるのだろう。誰でも出来る仕事に資格を要求する法律を変えるべく政治家を批判してみてはどうか。

この小口債権の回収で、機械的に過去に遡ることで得られる”旨み”を知った弁護士業界は、もう引き返せない。更新料や残業代にとどまらず、次々に「返還ビジネス」を仕掛けることだろう。

次々に不正な状況を解決してくれることの何がまずいのだろうか。「旨み」がなければ被害者はほっておかれるだけだ。社会はゼロサムではできていないので、他人が儲けていることを妬んでも誰の得にもならない

資格はあっても仕事がない弁護士たち。返済能力のある企業を相手にした「返還ビジネス」の急増も無理はない。

儲けすぎだと批判しているのかと思えば、今度は増えすぎな弁護士の救済だという。哀れみと恨みは紙一重だ。弁護士を増やしたおかげで、今まで相手にされてなかった残業代返還請求を弁護士が取り扱うようになったのであれば、それはむしろ弁護士増員の成果だろう

税金も払わない「ハイエナ弁護士」のなかには、顧客のカネを着服、あるいは法外な成功報酬を要求する者もいる。

またも存在命題から何を結論づけようとしているのだろう。どの業界にだって脱税する人はいる。税制が複雑になれば結果的に脱税と認定される人が発生するのは避けようがない。

救済されているのは多重債務者ではなく弁護士業界というのが現実である。

弁護士が増えすぎて仕事がないなら、高額なフィーは請求できない。一体、弁護士費用の高さを批判しているのか、過剰な弁護士の救済を批判してるのか分からないが、同時に批判するのは無理がある

過払い金返還請求がもたらしたのは、商工ローンのロプロ(旧日栄)、SFCG(旧商工ファンド)といった老舗の倒産、あるいは消費者金融大手四社の一角の アイフルが私的整理に入るなど、小口無担保金融モデルの破たんだった。20万人近い雇用を抱える業界は揺らぎ、多くのノンバンク社員は職を失った。社会的 損失は大きい。

過払い金請求は消費者金融の破綻を招いて社会的損失だった言う。しかし過払いなら返還請求するのは当然だし、それによって助かった債権者もいるはずだ。

弁護士のための「返還ビジネス」の急増をこのまま許していいのか――そんな論議をすべき時にきている。

むしろ、単に弁護士を叩くためにこんな記事を書いて「ニュースの深層」などと呼んでしまうジャーナリズムの是非を議論すべき時が来ているのではないだろうか(そんな時期はとっくに過ぎてもう手遅れという気もするが)。

ちなみに筆者のプロフィールによると

経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。

との事だが、この記事のどこに取材がなされているのかさっぱりわからない。オンラインの記事は別枠ということなのだろう。

女性の出世は何故遅い

結構微妙な記事が多いHBSだが、女性の出世に関する面白いネタがあった。

Women in Management: Delusions of Progress

アメリカでは女性の社会進出は目覚しく、労働人口においても肩を並べている。しかし、社内での出世に関しては有意な差があるようだ。

Even after adjusting for years of work experience, industry, and region, Catalyst found that men started their careers at higher levels than women. […] Among women and men without children living at home, men still started at higher levels.

その差は職務経験・産業・地域・子供の有無を調整しても変わらないとのこと。では何が原因なのか。面白い調査結果が挙げられている。

A quarter of the women in our study left their first job because of a difficult manager—nearly as many as those who moved on for more money (26%) or for a career change (27%). Only 16% of the men left because of a difficult manager.

最初の職を辞めた理由を調査したものだ。こちらも条件付されているのか分からないが、上司とうまくいかなかったという理由が男性に比べて多い。

Of course, these results suggest that women and men may be treated differently by their first managers.

とはいえ、ここから男女が上司に違う扱いをされているのはOf courseとか言われると何だろうか?という気にはなる。女性のほうが人間関係を重視するだけかもしれない(多分にありそうだ)。

Companies must acknowledge their failure on this front, learn why they haven’t succeeded, and come up with better programs to help talented women advance.

その挙句、企業はこの問題を解決して有能な女性の進出を助けなければならないとまで言われるとどうだろう。もし男女の出世における差が単なる差別に基づくものであるなら、差別されている人を優先的に雇う企業は競争で優位に立つはずなので市場にまかせておいてもいいはずだ。

などと少し真面目に考えてしまったものの:

Catalyst works with businesses and the professions to build inclusive workplaces and expand opportunities for women and business.

記事を書いた人たちは女性のための職場環境を整える団体にいるようで、この記事自体が単なる広告のようだ。何か悔しいが書いてしまったのでポストしてみた。

欧州新聞社のオンライン戦略

新聞の話題が続いているが、ヨーロッパのストーリーは珍しいので取り上げたい。

Lessons for U.S. Media From European Paid-Content Plays

Le Monde in France, for example, has been charging for premium content since 2002, and has racked up 100,000 subscribers steadily paying $8 a month — even though its traditional newspaper circulation is barely more than 300,000.

フランスの代表紙であるLe Mondeはプレミアムコンテンツに対して月$8相当の料金を課しているが、十万人もの顧客がいるそうだ。これは紙媒体の購読者の三分の一で相当な数字だ。英語ではなくローカルな情報を伝える点でアメリカの新聞社に比べると利益を上げるやすい面はある。これは日本にも当てはまるはずだ。

Le Figaro’s approach, 14 months in the making, keeps the main newspaper content free but offers two other options at $10 and $20 a month. Premium users get access to in-depth information, special offers, twice-daily newsletters, roundtable discussions with journalists, the opportunity to see their own content on the home page of the site and a concierge service that can arrange everything from theater tickets to shirt cleaning.

Le Figaroは基本的な内容を無料で公開した上で$10/$20相当の二段階のオプションを用意している。ここで面白いのはそのプレミアムコンテンツの内容が単なる情報に留まらないことだ。記事ではジャーナリストとの討論やコンシェルジュサービスが挙げられている。

Two regional titles in Germany, Berliner Morgenpost and Hamburger Abendblatt, have put up pay walls around premium content. But two big national titles, Bild and Die Welt (owned by publishing company Axel Springer), are keeping their websites free while selling iPhone-app subscriptions for $2 to $5 a month.

ドイツではBerliner MorgenpostとHamburger Abendblattがペイウォールを採用する一方で、大手であるBiltとDie Weltはウェブを無料でiPhoneアプリを$2から$5で提供しているとのこと。これは課金の容易さ・iPhoneを利用した価格差別の観点からも妥当な戦略だ。

The Guardian, Britain’s most-visited newspaper website, launched a $3.73 iPhone app — despite outspoken rejection of the pay-wall model — it sold 70,000 in the first month.

The Gurdianも同様のiPhoneを用いた戦略を採用している。

“In the long run, though, the industry has no choice. It has to find a way to get people to pay for content. It’s a great experiment.”

どの新聞社にも共通しているのは、長期的にはデジタル化に対応するしかないと理解した上で如何に収益をあげるかを試していることだ。日本でも日経による本格的なデジタルコンテンツの提供が始まったが既に大きく遅れを取っている。寡占的な企業がイノベーションを採用しないというのはよく知られた話だ。競争政策を含めた対策が必要かもしれない。