逆頭脳流出

アメリカからの頭脳流出に警鐘を鳴らすRichard Floridaの記事:

Is the U.S. Facing a Brain Drain?

From the beginning, I’ve been worried about this talent shift. Two things are happening. Countries such as Canada, Australia, and New Zealand are going after our best and brightest. In China and India, the best and the brightest are staying.

近年、カナダ・オーストラリア・ニュージーランドなどが優秀な人材を取り組む努力をしているという。実際アメリカの移民政策はそのイメージよりも厳しい。他にもイギリスやシンガポールなど英語が公用語の多くの国が積極的な受け入れを行っている。また、同時に長く人材の供給元であった中国・インドにおいて流出の減少と帰国が目立っている。

もちろんネットでみればアメリカに流入する人材の方が遥かに多いだろうが、その傾向に変化が見られていることに対する懸念だ。

How to save Detroit, how to stimulate the mortgage industry. This flight of talent out of this country is actually a much more fundamental problem than anything talked about in Washington. Keeping top talent here as well as attracting top talent to our shores is a fundamental economic advantage.

国内問題がクローズアップされているが、人材の流出はそれらよりも遥かに十代な問題だと主張されている。これは日本にも当てはまるだろう。文化・言語の差によって人材の移動が制限されている面はあるが、これからもそれが続くとは限らない。

I think that the important core of American ingenuity is not American ingenuity. It’s the ability to attract the world’s best people.

アメリカの強さは最高の人材を惹きつける能力にあるというのは全面的に賛成だ(逆に言えば個々の政策レベルでアメリカを参考にするのは危険ということでもある)。

One of the biggest tools foreign companies have is our business schools. All these great companies are coming to recruit.

まあビジネススクールの人材がそれに当たるかどうかは分からない。むしろ理工系の人材供給を考えた方がいいとは思う。

ウェブ入社試験

ウェブ入社試験の替え玉受験が問題になているそうだ。

正直者はバカ!? ウェブ入社試験に“替え玉受験”横行

人気企業の多くが1次試験で実施する就職テス トで、「替え玉受験」が行われているというのだ。ネット受験をこれ幸いに、別人に問題を解かせて高得点をゲットしているという。

企業が応募者にオンラインの試験を実施しているそうだ。これに替え玉受験が発生するのは誰だって分かるだろう。個人情報が漏れるとマズイためマーケットが存在しないだけで、一方的に替え玉受験を行うサービスがあっても不思議ではない(というかないほうが不思議だ)。

この声に対し、実際にウェブテストを行っている大手メーカーの担当者は「会場を借りて一斉に行う従来の入社試験に比べて、ウェブテストは大変なコスト削減 になる。いまさら会場型には戻せません。替え玉受験があることは織り込み済み。その後の数回にわたる面接で、ダメな学生は必ず淘汰されます」と語る。

当然、企業はこんなことは分かっているわけで、コスト削減が目的だ。替え玉を用意できるのも「社会人」としては重要な能力なのもあるだろう。

しかし不思議なのは、明らかに不正確なことが分かっているウェブテストではなく、大学の成績を利用しないのかということだ。もちろん大学でも替え玉受験はあるだろうが、多くのクラスで替え玉するのはある一回のウェブテストで替え玉するのに比べて遥かに難しい。

どんな授業なのか・評価の方法が分からないという面はあるが、ある程度の規模の大学・学部であれば応募者の中での分布を見るだけでも良い。学校と平均成績だけ見て足切りをすればよい。勿論、社員が直接推している学生は別に分けておく。

大学の試験がある程度重視されるようになれば、真面目な学生は大学の試験の適正な実施を要求するし、大学側も成績の分布や試験の質に気を使うようになるはずだ。学生が誰も成績を気にしていない(=審査に使えない)ため企業も気にしない(=学生も気にする必要がない)という状況が、企業が気にするので学生も気にする(=審査に使える)という状況になればこんな無駄は排除できるはずだ。会場を借りるよりウェブが安いのなら試験をしないのはもっと安い。

追記

@Hirohyさんから以下のようなコメントを頂いた:

ちなみに昔の弁護士就職市場では成績より司試合格までに要した年数というシグナルの方が用いられてたから成績を気にしない学生が多かったが制度改革(増員)後は前者がシグナルとして機能しにくくなりLSの成績がシグナルとして使用され始めた。

学生と企業が成績を重視するかは相互に依存しているため複数均衡状態になっていて、均衡が移動するためには外生ショックが必要になる。弁護士業界においてはロースクールの全面的に導入がそのショックとなり、移動が起こったと考えられる。

サラダはビッグマックより高い

マクドナルドでサラダがビッグマックより高いのにはいろんな理由があるが、補助金政策もその一端だ。

Why A Salad Costs More Than A Big Mac – The Consumerist via FlowingData

右側が連邦政府の推奨する食品の配分、左側が政府が出している補助金の配分だ。如何に肉類・乳製品に大きな補助金が出ているかが分かる。砂糖やハイフルクトースコーンシロップの原料となるコーンへの補助金も莫大だ。この状況でファーストフードは身体に悪いから税金をかけようというのは何かおかしい。

日本の場合どうなっているかも興味があるが、関税や輸入割当を通じた補助金以外の保護が多いので数字を出すのが難しそうだ。

就活留年

内定がもらえなかった学生が卒業要件を満たしていても留年できる制度が広まっているそうだ。

就活留年制度:今年ダメでも「新卒」で再チャレンジ 大学公認、増える採用校

就職が決まらなかった学生が、翌年度も就職に有利な「新卒」で就職活動ができるように、卒業要件を満たしても在学させる「希望留年制度」を設ける大学が増 えている。あえて単位を落として就職浪人するケースは以前からあったが、大学公認の留年制度の広がりは厳しい就職戦線を映し出している。

公式な制度として存在しなかっただけで現実には就職浪人という人が以前からよくあったのはその通りだろう。自分のまわりでも結構いた。大学の就職する人が少なかったり、留学したりと「就活」に乗り遅れる話はよくあった。

卒業に必要な単位を取得した学生でも、希望すれば留年が可能で、授業料は基本的に半額。

卒論を出さずに前期休学すればいいので実質的な差はない。ちなみに留年に関してはアメリカは先進国(?)だ。

4-year colleges graduate 53% of students in 6 years – USATODAY.com

Nationally, four-year colleges graduated an average of just 53% of entering students within six years

四年制大学を六年以内で卒業する人は53%に過ぎない。そもそも六年卒業率を指標にしているところからして留年の多さが分かる。もちろん大学により数字は大きく異なり、

Harvard University boasts one of the highest rates, 97%. Southern University at New Orleans, which faced upheaval in 2005 with Hurricane Katrina, reported 8%.

学生の選別が厳しかったり、授業料が高かったりすれば当然六年卒業率は上がる。U.S. Newsには四年卒業率のランキングすらあるが、90%あればTop 10に入れる。日本の大学でも卒業にかかる年数は伸びて行くのだろうか。

水問題のスケープゴート

日本の政治はだめだみたいな話をよく聞くけど、政治がだめなのは日本の専売特許ではない。カリフォルニアにおける水資源問題について。

Deceptive arguments are being made in California’s water wars

Apportioning this finite resource among cities, farms and the environment will require well-informed discussions, conducted responsibly and in good faith, and thoughtful investments in conservation technologies.

大農業地帯であるカリフォルニア中央部のセントラルバレーでは近年水不足が深刻だ。資源が限られている時それをうまく利用するためには慎重な議論が必要なのはその通りだ。

A perfect opportunity, in other words, for political posturing.

しかし同時に政治パフォーマンスの絶好の機会でもある。セントラルバレーでは失業率が40%を超える地域もあるそうで不満な有権者には事欠かない。

McClintock’s argument appears to be that the fault lies with the “environmental left” and its puppets in Washington, who place the fate of a silvery, 2-inch fish above the needs of human beings.

その一つの戦法は問題を過剰な環境保護にすり替えてしまうことであり、今回そのシンボルとして選ばれたのがDelta Smeltという小魚だ。

この小魚を人間様より重視するというのか!!という論理だ。

Though Fresno County officials projected 2009 to be a “dire year” in production, that needs to be measured against the record harvest of 2008, when the county’s $5.7-billion production value represented a nearly 6% increase over 2007.

この手の問題では常にそうであるように、これは実態を現してはいない。まず、干ばつで生産が落ち込んでいるという主張に問題がある。前年に比べて生産が減っていはいるが、それは昨年が記録的な豊作だったためだそうだ。

In dry periods, like the last few years, the federal government has still delivered to those users 100% of their contracted supply. This year Westlands, which sits at the bottom of the rights waterfall, may receive as little as 5%.

もちろん、問題が全くないわけではなく、水不足が深刻な地域もある。しかし、それは環境保護のためではなく、水の配分に関する制度の問題だ。下流から順に割り当てて行く仕組みになっており、優先順位の低い地域ではすぐに水不足が起きる。

Mendota’s annual unemployment rate has dipped below 25% only twice in the last 10 years, according to state statistics; in 2003, when the federal deliveries were better than 75% of contract supply, Mendota unemployment still approached 32%.

この制度的問題は今に始まったことではなく、現在40%の失業率で騒がれている地域ではこの十年間失業率が25%を切ったことがない。一番水が多く供給された年でも32%であり、高失業率は構造的な問題だ。

記事中ではダムなどの過剰な環境負荷が原因として挙げられているが、対策としては適切な価格設定が必要だろう。価格がつく事により環境への外部性をコントロールできるし、地域ごとに非効率な不均衡が生ずるのを防ぐことができるはずだ。

No amount of political bluster will solve these conflicts. Nor will an approach that treats the needs of every community of water users as superior to everyone else’s, that advocates the building of new dams that just repeat or magnify mistakes committed in building the old ones, or that reduces a complex issue to a comic-book conflict between human beings and a tiny fish.

しかし、そのためには今優先的に水の供給を受けている人から資源を取り上げる必要があり、農家にとっては財政的な負担になる。解決策は、言うまでもなく、全てを小魚のせいにすることだ。

Delta Smeltの写真はWikipediaより(パブリックドメイン)。