プロスポーツにおけるミニマックス

最近複数箇所で見たような気がするFreakonomicsのSteven LevittがKenneth Kovashと共著した論文の紹介:

Matthew Yglesias » Minimax Strategies in Professional Sports

pitch selection in Major League Baseball and play-calling in the National Football League. Authors Kenneth Kovash and Steven Levitt find that: “Pitchers appear to throw too many fastballs; football teams pass less than they should.”

プロスポーツはゼロサムゲームでもあるにも関わらずミニマックス戦略をとらないというのが結論だ(注:ゼロサムゲームとは利害関係が完全に対立しているゲームで、合理的なプレーヤーはミニマックス戦略をとることが示されている)。これは別にプロスポーツでもなくても同じだ。

They opt for the “minimax” solution — the set of plays that minimizes their maximum possible loss – and their play selection does not follow a predictable pattern that might give their opponent an edge. But minimax predictions typically have not fared well in lab experiments.

実験室でも被験者はミニマックス戦略をとらない。こちらは進化論的に説明できるだろう。自然界はゼロサムで出来ていないので人間が自然にミニマックス的行動をとるとは思えない。また、実験では勝敗にかかる利害が小さいし参加者がルールを完全に理解しているかもわからない。

ではプロスポーツの場合はどうだろう。プロ選手は勝敗に強い利害関係があるし、ゲームの内容を完全に理解しているのでより理論に近い行動をとると考えられる。よって上記の理由で合理的行動から乖離する可能性は低い。よってプロスポーツでミニマックスが観測できないことは合理性仮説に疑問を投げかけるというわけだ。

しかしプロスポーツがゼロサムだという仮定の正当性はどうなのだろう。プロスポーツの勝敗結果はゼロサムだが、スポーツチームは勝率を最大化しているわけではないし、ましてやここの選手は言うまでもない。勝敗結果を多少犠牲にしてでもファンの支持を得る行動をとるのが、犠牲が小規模に抑えられるのであれば、最適な行動だろう(本当に期待勝敗結果を最大化すると思っているのだろうか??)。

文献紹介によるとテニスのサーブの左右やサッカーのPK戦のキーバーの行動、ポーカーではミニマックスと整合的な行動をとるとされている。テニス選手の成果がほぼ完全にランキングで決まること、PK戦では結果が全てであること、ポーカーはそもそもファンが評価するものでないことからすれば野球やフットボールの試合より遥に完全なゼロサムになっており、特に矛盾はない。

論文本体へのリンクはこちら。詳しい方のコメント募集。

クリーピー

アメリカでおそらく最も有名なオンラインコミックxkcdから:

xkcd – A Webcomic – Creepy

電車で気になる女性を見つけた男性が声を掛けようとするが、一人で最悪の事態を想定して何もしない。でも女性も実は興味を持ってるというプロット。

ここの四コマは割合いつも面白い。今回は二点ほど考えることがある。一つはこの場合の男女マッチングがうまくいかない理由は情報が不完全であるためだということ。この場合両者が興味を明らかにすれば共に得するはずだ。しかし、均衡において情報は隠れたままだ。登場人物の男性は失敗した場合の損失=恐怖が大きすぎるので相手から明らかなシグナルがなければ声を掛けない。それに対して女性から明らかなシグナルを送ることは相手が女性のことを軽い女だと誤解してしまう(ないし知ってしまう)可能性がある。よって両者ともに何もしないことが均衡になる。この問題については、複数回の接触による情報のやりとり、お見合いのようなシステムが解決策になる。しかしこれらはどれも現代社会では役に立たない。見知らぬ人間が出会いをし続けるという状況自体がごく近代の産物であるためだ。

それに加え進化心理学的な問題がある。上のような解決策はどれも両者の選好を所与としたうえで情報問題をどのようなメカニズムで解決するかということだが、冷静に考えればそもそも両者の選好はあまり合理的とは言えない。例えば男性が声を掛けて失敗することを恐れるのは合理的なのか。現実には、この四コマに出てくるようにfacebookを通じて失敗が知れ渡ることはない。最悪彼女の友達のネタになってもそれ以上の何かがあることではない。よって男性が失敗それ自体を恐れるのはあまり賢いようには思われない。

これは進化論的に説明できる。人間は通常のリスク(特に非常に小さな確率で生じる現象)についてはしばしばリスク愛好的であるのに対し、社会的なリスクについては極めてリスク回避的である。猿が自分の遺伝子を広めるためには子孫が繁栄する必要がある。ある猿にとって森を離れて歩き出すことはその猿自身にとって期待値に言えば自殺行為だが、成功した場合には子孫が繁栄する。その猿の人生にとってはマイナスでも進化論的には非常に適切な行動なのだ。そして我々はみなそういう猿の末裔である。これにより人間が極めて小さな確率を過大評価すること、例えば期待値が価格の半分でも宝くじを買うという行動、が説明できる。それに対し、社会的なリスクは猿にとって致命的だ。二十匹の群れにおいて村八分にされることは個体の死を意味する。そのため社会的行動においては非常に慎重になるのが望ましい。

しかしこれらは何れも現代社会においては当てはまらない。宝くじが自分だけ当たるかもしれないと思うことも、アイドルをみて自分もなれるんじゃないかと思うことも本人の人生にとって期待値的にプラスにはならない(大抵の人が家庭を持って子孫を残せる世の中では進化論的にさえ有利でない)。同じように社会関係における過剰なリスク回避行動も本人の得にならない。この四コマの場合であれば男性が失敗を気にするのは不合理だ。失敗してもまたその女性と会うことはおそらくない。バーであれば次のバーに行けばいいだけだ。最悪違う街にでも引っ越せば何も分かりはしない。

女性にとって同様だ。噂が広まらずほぼ確実に避妊が可能な社会において女性が実際に貞淑であろうとするインセンティブはない。但し、男性には、少なくとも長期的な関係においては、そういう女性を望む強い選好がある点だけは多少違う。男性は子供が本当に自分の遺伝子を引いているかを確認できないからだ。そのため女性は貞淑である必要はないが、そうである振りをする必要がある。具体的には、会話が始まっても簡単に関心を明らかにせず、時間を掛けるということになる。それに対し男性は相手に合わせて待つか、時間を掛けずとも身持ちが悪いということにはならないと説得することになる。この構造は子供に対するDNA鑑定が一般化し、そのことに適合した制度ができれば多少変わるだろうが当分はこのままだろう。

大学の価値は何か

大学の経済的価値についてEconomistから:

What’s college all about? | Free exchange | Economist.com

So, the question: are colleges selling an information-based product or an aura-based product (or something else altogether)?

It could be that the key value is in being in a room with an expert and other interested students, in participating in dorm-room bull sessions, in napping on a pile of texts in a musty old library, and in running naked across the quad at three in the morning. These things can’t be digitised and infinitely replicated.

情報に加えてオーラが重要だと主張している。技術により情報の価値は失われるが大学での経験はデジタル化できないというわけだ。この意見には賛成だ。大学に行くことは、二十歳前後にある意味好きなことができる時間を持てることだ。知識を伝えることが全てなら大学は短いほうがいいだろうが、早く卒業したくてしょうがないという学部生にはお目にかからない。それに対し学部卒業してからの教育(大学院・職業訓練など)は短期間なのが好まれる。

One other thing to think about; it could be that a key value of universities has nothing at all to do with what a student does while enrolled, and instead stems from the filtering mechanism of the admissions process. […] They act as ratings agencies, in a sense, screening products and declaring them “safe” or “risky”.

もちろんフィルタリングの価値が最も高いのは否めないだろう。高校生が大学での実生活を想像するのは難しいが、大学のランクなら簡単に分かる。

It would be interesting if in the future there are organisations which play this role more explicitly, offering to investigate a candidate’s history and skillset for a fee, and certifying qualified candidates, all in a fraction of the time and at a fraction of the cost of an actual university education.

フィルタリングが重要ならそれを専門に提供する企業が出てもおかしくない。例えば東大に行くことの価値が東大を卒業すればある程度賢いと思われることなら別に模試の結果でもあれば構わないんじゃないかということだ。むしろ中での順位まで分かるのでより情報量は多い。

今のところそういう企業はないが、これは十分にありえる。大学から中退して成功する人々を見れば分かる。フィルタリングが全てなら中退しても問題はないわけだ。もちろん中退者は大学生の代表値ではないので単純に比較できないが、誰から見てもやむを得ない理由で中退せざる追えなかった人の労働市場の評価を見れば分かるだろう。

ただこの手の企業が市場に信頼されるのは非常に困難だ。しかし信頼を獲得する方法もとりあえず二つほど思いつく。一つは既にある権威を利用することだ。具体的には教育学なんかのPh.D.をつれてきて事業を始めることだ。企業や個人向けに職業適正のパーソナリティ判定を提供する企業はこれに非常に近い。しばしば心理学者が会社を設立しているし、MBTIなどは認定機関が存在している。

もう一つの方法は単純な信頼獲得を目指すのではなく、フィルタリングを行う企業がリスクを負担することだ。ある労働者の能力を認定するだけでなく、その質を制度的に担保する。これは人材派遣という形式をとることで実現できる。企業は派遣されてきた労働者の質に問題があれば交換を要求できるので評判に依存する必要が無い。人材派遣会社というとイメージが合わないかもれしれないが、コンサルティングファームの実態はこれに限りなく近いだろう。特に戦略系などは会計やITなど特定の業務を売っているわけではないのでこの要素がほぼ全てではないだろうか。彼らの採用がトップスクールよりも厳しいと言われるのはこのことの証左のように思われる。

出会い系最適メッセージ

オンラインデーティングサイト(出会い系?)のOkCupidのブログより:

Online Dating Advice: Exactly What To Say In A First Message « OkTrends

We analyzed over 500,000 first contacts on our dating site, OkCupid. Our program looked at keywords and phrases, how they affected reply rates, and what trends were statistically significant.

サイト上でやりとりされたメッセージの簡単な分析を行っている。母集団は、送り手と受け手が最初にやりとりしたメッセージだ。独立変数は返事があったかどうかで、従属変数はメッセージ内での特定の単語の有無だ。

記事中で挙げられている、返信率を挙げるコツは以下の通りだ:

  1. きちんとした英語を書く
  2. 身体的な賛辞を避ける
  3. 変わった挨拶をする
  4. サイト外で交流しようとしない
  5. はっきり明確にする(e.g. 文学に興味があるではなく、メタルが好きだとか)
  6. (男性であれば)謙虚にする
  7. 宗教から離れる

1は当たり前か。2は言葉で伝えるとあからさますぎるのでうまくいかないのだろう。3は現実でも同じ。4は最初のメッセージとしては怪しすぎる。5は興味の内容というよりも、相手のプロフィールなどを読んでいるかどうかか。6は解釈が難しい。オンラインだと誰もが堂々としているので謙虚にすることが(現実とは異なり)プラスになる可能性や謙虚であることは(現実同様)とりあえず反応する程度の理由にはなる(がどこにもたどり着かない)可能性が考えられる。7はオンラインでの布教が現実よりも簡単なのでより悩ましいかデーティングサイト利用者に宗教的でないひとが有意に多いかだろう。前に触れたアメリカ一般の無神論者に対する反応とは乖離している。

god-chart調査方法による可能性もある。(口頭ないし書面で)聞かれれば宗教は大事だというが、いざ異性を選ぶ際にはまったく気にしていないというパターンだ。

もちろんこの調査は欠点だらけだ。例えば、

  • デーティングサイト利用者が社会全体を代表していない
  • デーティングサイト自体、賢い探出会い方とは言えない
  • 最初のメッセージに返事をもらうことは直接の目標ではない
  • 他の要素が返信率と各メッセージに相関しているだけで因果関係がない

などいくらでも考えつく。最後の欠点だけ説明すると、例えばきちんとした英語を書かない人が望ましくない集団に多いだけで変な英語それ自体は問題ではないかもしれないということだ。これは変わった挨拶が望ましいとされているところを見るととてもありえそうだ。プロフィールが非常にまともなのにアホっぽい英語を混じるのは変わった人間というシグナルを送るのでプラスの効果が期待できるだろう。

チーズ中毒

昔からチーズが好物だ。今日もブログの記事を書きながらライデンとプロボローネをかじっていた。机にチーズを持ってくると持ってきただけ食べてしまう。いつものことなのであまり気にしていなかったが、よく考えれば何かおかしい。

チーズの主成分はたんぱく質と脂肪だ。しかし、チーズが欲しくなるときは別にたんぱく質や脂肪が欲しい時ではない。たんぱく質が欲しい時はローストビーフなんかが無性に食べたくなるし、脂肪の場合はアボカドなどが浮かんでくる(そもそも脂肪が急に食べたくなることはほとんどない;普通に生活していれば十分に摂取できるからだろう)。おそらく何か中毒性のある化学物質が含まれているのではないかと思い、ちょっと検索したらすぐに見つかった。

Breaking the Food Seduction

Cow’s milk—or the milk of any other species, for that matter—contains a protein called casein that breaks apart during digestion to release a whole host of opiates called casomorphins.

牛乳(ないし動物の乳一般)に含まれるカゼインたんぱくはカゾモルフィンというペプチドを代謝過程で生成する。カゾモルフィンはモルヒネ同様にオピオイド受容体をブロックする。

As milk is turned into cheese, most of its water, whey proteins, and lactose sugar are removed, leaving behind concentrated casein and fat.

ミルクをチーズにする過程で水分やホエイたんぱくを含む乳清が取り除かれるため、カゼインの含有率が高まる。

It appears that the opiates from mother’s milk produce a calming effect on the infant and, in fact, may be responsible for a good measure of the mother-infant bond. No, it’s not all lullabies and cooing. Psychological bonds always have a physical underpinning.

もちろんそのような物質が多くの動物の乳中に含まれるのには理由がある。麻薬的な効能を通じて母親と子供との関係を強化するわけだ。

Casomorphin from ChemgaPedia

Casomorphin from ChemgaPedia

カゼインの代謝ができない人はチーズにアレルギーを示すが、これはアルコールを代謝できない人がいるのと同じことだろう。遺伝的に中毒になりやすい人とそうでない人がいるということだ。

As milk is turned into cheese, most of its water, whey proteins, and lactose sugar are removed, leaving behind concentrated casein and fat.