州の赤字と人件費

大赤字の州に在住しているものとしてはとても気になるポスト:

Public Sector Pay Outpaces Private Pay

2001年を基準に政府と民間の給料の変動がグラフになっている。不景気になると相対的に政府セクターの給料が魅力的になるのは普通のことだが、次の簡単な計算がいい。

State and local governments pay more than $1 trillion in compensation annually. If compensation is 5% higher than it should be, that’s $50 billion in excess pay costs for the state.

州政府・地方政府が払っている人件費は1兆ドルにも達するという。これが5%多いだけで支出が500億ドル増える。

For example,  in February a survey found that the combined budget gap of all 50 states was $55 billion for the 2011 budget year and $62 billion for the 2012 budget year .

そして州の赤字は合わせて550億ドル程だ。もちろん不景気だから公務員の給料を減らせというわけではないが、こういう大まかな数字を見るのは大事だろう。ちなみに政府部門全体の収入は5兆ドルほどのようだ

GMの借金はどこに

トヨタの話がずっと話題になっていたが、GMの新しいテレビ広告が注目を集めている。

Fair Game – At G.M., Repaying Taxpayers With Their Own Cash


広告の中でCEOは、GMが政府からの借金を利子付きで本来の期限より大幅に早く返済したと宣言している。これによって、世間の批判を和らげ、新しく生まれ変わったイメージを打ち出している。問題は、その借金の返済が本当の返済とは呼べないことだ。

the money G.M. used to repay its bailout loan had come from a taxpayer-financed escrow account held for the automaker at the Treasury.

GMは確かにTARP (Troubled Asset Relief Program)からの借入金を返済したわけだが、なんとその原資はやはり税金が原資である財務省のエスクローアカウントだという。要するに政府にお金を返したのではなく、借り換えしただけなのだ。

It’s certainly understandable that G.M. would want to spin its repayment as proof of improving operations. But Mr. Grassley said he was troubled that the Treasury went along with the public relations campaign and didn’t spell out how the loan was retired.

特に問題視されているのはGMというよりも財務省だ。財務省はTARPの返済が順調に進んでいるというイメージを作るインセンティブがあり、GMが非常に誤解を招くキャンペーンを行うのを黙認しているためだ。

“Much of it will never be repaid,” Mr. Grassley added. “The Congressional Budget Office estimates that taxpayers will lose around $30 billion on G.M.”

実際には、納税者はGMで300億ドルを失うと予測されている。

無償インターンシップ

ヨーロッパのニュースで何回か目にした無償インターンシップの問題がNYTimesでも取り上げられている(ht@TheSyntaxError):

Growth of Unpaid Internships May Be Illegal, Officials Say – NYTimes.com

With job openings scarce for young people, the number of unpaid internships has climbed in recent years, leading federal and state regulators to worry that more employers are illegally using such internships for free labor.

若年層の雇用が細るにつれて無償インターンシップが増えているており、その合法性が取り沙汰されている。

Among those criteria are that the internship should be similar to the training given in a vocational school or academic institution, that the intern does not displace regular paid workers and that the employer “derives no immediate advantage” from the intern’s activities — in other words, it’s largely a benevolent contribution to the intern.

無償インターンシップが合法であるためには、インターンシップが職業学校のトレーニングに近く、かつ雇用を奪わず、雇用主が直接の利益を得ない必要があり、殆どの無償インターンシップはこの基準を満たさない。

In 2008, the National Association of Colleges and Employers found that 83 percent of graduating students had held internships, up from 9 percent in 1992. This means hundreds of thousands of students hold internships each year; some experts estimate that one-fourth to one-half are unpaid.

単なる経済環境の悪化だけでなく、インターンシップそのものの広がりも寄与している。1992年に僅か9%だったインターン経験は2008年には83%となっており、むしろインターンシップしない学生のほうが珍しい状況だ。そのうち1/4から1/2が無償ではないかと推測されているそうだ。

“Employers increasingly want experience for entry-level jobs, and many students see the only way to get that is through unpaid internships.”

雇用主がエントリーレベルにおいてもある程度のスキルを求めていることがその理由だ転職が盛んなため、新卒を雇用して教育しその後生産性に比べ低い賃金で働いてもらうということができない以上、企業は労働者の教育費用を払うインセンティブがない。スキルの低い労働者は教育費用を差し引いた給与しか出せないが、最低賃金を下回る金額では正規に雇用できず、無償インターンシップというグレーゾーンになるのだろう。

解雇が難しいが転職も困難なため、社内教育がメインとなる日本とは対照的な構図だ。労働市場の流動化が進めばこういった問題は日本でも生じるだろう。

Many employers say the Labor Department’s six criteria need updating because they are based on a Supreme Court decision from 1947, when many apprenticeships were for blue-collar production work.

このような不整合が生じているのは、先に上げた無償インターンシップに関する基準が六十年以上前に出されたものであることに由来する。ブルーカラーを念頭においており、所謂インターンシップというよりはアプレンティスシップに近い。当時であれば雇用主の力が相対的に強く、こういった規制も合理的だったかもしれないが、これが現在に当てはまるかは疑わしい

“One criterion that is hard to meet and needs updating is that the intern not perform any work to the immediate advantage of the employer. In my experience, many employers agreed to hire interns because there is very strong mutual advantage to both the worker and the employer. There should be a mutual benefit test.”

特に雇用主が直接の利益を得てはならないという基準は非常に時代遅れだ。昔ならある地域のある業種の就職先が限られているなどトレーニングの便益を正式に就職した後に回収できたかもしれない。しかし、今ではインターンで経験を積んだ学生が自分の会社に就職する保障は全くない。インターンを雇うのは企業にとってもインターンにとっても何らかの利益があるからであって、企業に慈善事業を期待するのは無理がある。企業に利益がないなどという意味不明な条件ではなく、双方に利益があるという条件にすべきというのはその通りだ。

“A serious problem surrounding unpaid interns is they are often not considered employees and therefore are not protected by employment discrimination laws,”

無償インターンシップが制度として運用されていないことはさらに大きな問題を引き起こしている。それは正規の雇用ではないがゆえに雇用に関する規制が適用されないことだ。性差別・人種差別などの法律がそれに当たる。無償、つまりお金の流れが無いゆえに無償インターンシップを規制するのは非常に困難だ。エンフォースメントの費用を考えれば強い規制をかけて取り締まるよりも、実態に近い制度を用意した上でそれなりのルールを守らせる方が効率的だろう

日本でもインターンシップが広がっており同じような問題が生じるだろうが、その時に過剰な規制をかけてそもそも若者が経験を得るチャンネルを塞いでしまわないことが望まれる

P.S. 特に大学関係者がこうしたインターンシップを批判するときは気を付ける必要があるだろう。大学はキャリア教育という市場でインターンシップとは競合関係にあり、中立的とは思えない。それどころか大学は授業料を取っているのだから(無償)インターンシップを非難するのはおかしいだろう。しかも大学は入ってしまえば切り替えるのが難しいがインターンはダメだと思ったらやめればよい。

起業家ビザ

逆頭脳流出」では、アメリカが外国から優秀な人材を惹きつける力が落ちているのではないかという懸念されていたが、その例が記事になっている。

Silicon Valley is losing foreign-born talent

Silicon Valley may be the cradle for tech start-ups, but some foreign-born executives, engineers and scientists are leaving because of better opportunities back home, strict immigration laws here and the dreary California economy with its high cost of living.

四つの原因が指摘されている:

  1. 祖国での機会が増えている
  2. 移民政策が厳しい
  3. カリフォルニアの経済が良くない
  4. 生活費が高い

1に関してはアメリカが出来ることはないし、4は都市が発展すれば自動的に起きることだ。それに対し、2,3は改善の余地がある。カリフォルニアが特別に調子が悪いのには莫大な財政赤字があり、これは新しい政策を始めるのが簡単なのに税金を導入するのが難しい制度に一端がある。また、アメリカの移民政策は実はかなり制限的だ。最も一般的な労働ビザは雇用主がスポンサーになるため、労働者にとっては雇用主への交渉力がなくなり非常に不利だ。

Foreign-born students earned 16.6% of the total degrees awarded in science and engineering programs from local colleges and universities in 2007, compared with 18.4% in 2003, the study says.

こういった状況の中、外国人の学位取得者も減少中という(これが統計的に有意なのか分からないが)。

“For the first time, immigrants have better opportunities outside the U.S.” Often, a lack of work visas blocks foreign talent from staying.

これが上に述べたビザの問題だ。アメリカは移民が過ごしやすい文化を持っているが、法的な面では永住権を取得するまでの(通常)六年間、悪く言えばこき使われる可能性が高い。だから母国の経済が発展していれば敢えて残ろうとはしないのは自然だ。

Feld’s organization has helped shape the StartUp Visa Act of 2010, introduced last month by Sens. John Kerry, D-Mass., and Richard Lugar, R-Ind. It would grant immigrant entrepreneurs a two-year visa if they have the support of a qualified U.S. investor for their start-up venture.

この問題に対して、現在起業家用のビザ制度を用意する動きが進んでいる。アメリカの投資家から投資を受けたベンチャー企業経営者をサポートするものだ。一体何がベンチャー投資と言えるのかが曖昧という問題はあるが、現状でもEB5などを使えば実質的にビザを買うこともできるわけで正確な定義を議論することに意味はないだろう。

逆頭脳流出

アメリカからの頭脳流出に警鐘を鳴らすRichard Floridaの記事:

Is the U.S. Facing a Brain Drain?

From the beginning, I’ve been worried about this talent shift. Two things are happening. Countries such as Canada, Australia, and New Zealand are going after our best and brightest. In China and India, the best and the brightest are staying.

近年、カナダ・オーストラリア・ニュージーランドなどが優秀な人材を取り組む努力をしているという。実際アメリカの移民政策はそのイメージよりも厳しい。他にもイギリスやシンガポールなど英語が公用語の多くの国が積極的な受け入れを行っている。また、同時に長く人材の供給元であった中国・インドにおいて流出の減少と帰国が目立っている。

もちろんネットでみればアメリカに流入する人材の方が遥かに多いだろうが、その傾向に変化が見られていることに対する懸念だ。

How to save Detroit, how to stimulate the mortgage industry. This flight of talent out of this country is actually a much more fundamental problem than anything talked about in Washington. Keeping top talent here as well as attracting top talent to our shores is a fundamental economic advantage.

国内問題がクローズアップされているが、人材の流出はそれらよりも遥かに十代な問題だと主張されている。これは日本にも当てはまるだろう。文化・言語の差によって人材の移動が制限されている面はあるが、これからもそれが続くとは限らない。

I think that the important core of American ingenuity is not American ingenuity. It’s the ability to attract the world’s best people.

アメリカの強さは最高の人材を惹きつける能力にあるというのは全面的に賛成だ(逆に言えば個々の政策レベルでアメリカを参考にするのは危険ということでもある)。

One of the biggest tools foreign companies have is our business schools. All these great companies are coming to recruit.

まあビジネススクールの人材がそれに当たるかどうかは分からない。むしろ理工系の人材供給を考えた方がいいとは思う。