脱オタを経済学的に考える

力を入れる箇所を間違えている『脱オタクファッションガイド改』を見たらちょっとネタっぽい記事を書こうと思い立った:

脱オタって何?

脱オタというのはオタクに見られない工夫のことだ。別におしゃれになることではない。もちろんおしゃれなオタクはいそうにないから、おしゃれなことはいいことだろう。しかし、それは別に必要でもない。どうしようもない恰好の非オタクなんて珍しくもなんともない。

ではどうするのが効率的か。単にオタクが絶対に取らない=オタクにとってはコストが高すぎる行動を取ればよい(考え方としては、「人種差別の現実」で紹介したまともな黒人がどう自分を差別化するかという話と同じだ)。基本的には:

  1. オタクは知らないもの=情報コストが高い
  2. 機能性が低いもの=使用コストが高い
  3. 値段が高いもの=金銭コストが高い
  4. (オタク的)常識でないもの=心理コストが高い

というあたりだ。ただし、いくつか注意点がある。まずオタクは情報収集能力が高いので1の効果には限界がある高収入オタクも多いので3も、特に社会人の場合は微妙だ4は2と比べて心の持ち様なので苦労もなく一番効果的だろう

もちろん、どれもやりすぎると効率が落ちるし(収穫逓減)、一つが突出していると不自然なので組み合わせる必要がある(そもそも四つは排他的な定義でもないが)。

ファッション編

流行

オタクはファッションに気を使わない故に知識がないので流行を知っているような恰好をするのは一つの手だろう(情報コスト)。これについてはよく議論されている。しかしこれは言うほど簡単ではないことには注意が必要だ。なぜならファッションの知識を身につけるのは単純な話、大変なことだからだ。ただ、オタクは情報収集自体は好きだろうから、ファッションについて調べるのが苦じゃないひとにはいい方法だ。

単にオタクに見られないだけなら最低限の常識を身につけ、まわりのオタクが愛用しているアイテムを避ければ十分だろう。やりすぎると単なるファッションオタクになる。むしろダサくてもぼろぼろのジーンズに超でかいシャツとか黒人風にすればオタクには見えない(心理コスト)。

コーディネーション

色彩感覚も必要ない。ある程度の常識の領域は知っているべきだろうが(情報コスト)、色彩感覚の欠如したファッション好きなんていくらでも歩いているからあまり気にすることはない。むしろオタクが着ているのを見たことがない色、大抵派手目な色とか白、を選べばいいだろう(心理コスト)。どんな色合わせだよと思われるかもしれないが、オタクだとは思われない。

金額

お金に余裕があればファッションにもっと使うというのもよい(金銭コスト)。オタクは当然ファッションにお金を注がないからいいシグナルになる。ただ、それなりの年齢になるとある程度のお金が自由になるのは当たり前なのでこの方法は効果が薄くなる。社会人が数万円服にかけたところで誰も驚かないし、他の部分と不整合があれば逆に疑われるだろう。あと、おかしなものにお金をかけるという危険性がある。

髪型

髪型も単純にオタがやらないものにすれば良い。やはり流行りのもの(情報コスト)かお金(金銭コスト)のかかるものであればいいが、上述の理由で効率的でないかもしれない。知識もいらず手間もかからないものとしてはモヒカンとかがいいかもしれない(心理コスト)。ファッション的にツッコミは入りそうだが、少なくともオタクには見えない。坊主も似合えばいいだろうが、場合によっては僧侶に見えたり、貧弱に見えるので注意。ヒゲの有無や体型と相談だろう。

バッグ

他のファッションと同じだがとりあえずデパートにでもいって機能性を捨てたものを選べばいいだろう(使用コスト)。オタクの機能性への愛情は異常なので、おしゃれで高いものなら多少機能性を追求してもよい、ないし重視して当然と思うだろうが徹底的に避けるほうが安全だろう。これは靴も同じだ。

アクセサリ

ネックレスや指輪などはセンスの問題があるだけでなく、買うだけでよくしかも安くすませられるのでオタクではないシグナルにはなりにくいだろう。アクセサリなら一押しはピアスだオタクは肉体的な脅威に弱いため、ピアスをすることは非常に考えにくい(心理コスト)。装着の煩わしさも軽微で、小さいものなら趣味も問われない。耳以外の場所のほうが非オタアピールは強いだろうが、社会的な弊害も凄いので見える場所ならどこでもいいだろう。同様にタトゥーも効果的だろうがセンスが問われるので難しいそうだ。

小物

アクセサリ以外の小物では流行りものを選べば良い(情報コスト)。音楽プレーヤーならiPodが無難だ。iPod以外のプレーヤーを持っていてもいいが、間違ってもどうして買ったかを聞かれたときに、「こっちのほうがバッテリーが長持ちで…」などと答えてはならない。「安かったから」と言っておけばいい。

その他ファッション

香水はオタクが使わないアイテムだ。買うだけでいいが、売っている場所がオタクには入りがたいためだろう(心理コスト)。そもそも香水の意義が見出せないのかもしれない(使用コスト)。選択については女に聞くのがいいだろうが、ピアス同様非オタシグナルが強いので別にどれでもいいだろう。脱オタとは関係ないが付けすぎにだけ注意。

行動編、ないし何故脱オタとモテが違うか

本当はこれが一番重要だろう。オタとそうでない人の最大の違いは見た目ではなく、対人経験の差であり、人間関係における自信だ(心理コスト)。恰好が典型的なオタクでなくても、ここが解決できなければ社会的に重要性の低い人間にみえる。モテないといってもいい(逆に大抵の芸人はファッショナブルではないがモテるだろう)。ではどんな行動を避けるべきか。

イベント

パーティーなどで端っこに立っている人間は人間関係で下にいる人間だ。イベントの中心になったり、自由にテーブルを回って知らない人間にしゃべりかける自信が必要だ(オタクはしない)。

対人関係

受身な人間は他人からの拒絶を恐れている弱者だ常に攻撃的でいるのを意識するぐらいがいいだろう。同じ理由で他人を褒めるのは程々にすべきだろう。異性に対して弱気なのは特に対人経験の欠如、社会的な評価の低さを表すので脱オタクをするなら改善する必要がある。

肉体面

ピアスのところでも述べたが、オタクは肉体的な脅威に弱い。これは立ち居振る舞いにも現れるし、肉体的接触を避けることにつながる。積極的に他人にタッチすることで改善できるが、迷いがあると逆効果になる恐れがある。立ち居振る舞いについては実際に筋トレでもするのがいいだろう。

グループ

は一番簡単にオタクに見えなくなる方法は、明らかにオタクでない人間と行動することだ。自分が集団のリーダーであればなおよい。どう考えてもオタクなはずがない異性(≠に)くっつているのが最も効果的だろうが、それができれば既に脱オタは終了しているという気もする。

おまけ

高学歴だったり社会的地位の高かったりするオタクは基本的にこぎれいでファッショナブルな恰好を目指すのではなくバカっぽい、ないしDQN(死語?)ぽい恰好をすれば良い。実際にバカではなくDQNでもないことは後で簡単に示せるからだ。

P.S. 下らないポストが大作になってしまった。。。

(心理コスト)

テニュアの経済学

最近、アメリカのアカデミックな労働市場についての「ポスドクとは アカデミアに仕事が少ない!編」を読んだ。当事者の目から説明されている良い記事だが、テニュア制度の存在意義についてはちょっと単純化しすぎなので補足したい:

The Economics of Tenure

まずテニュア(Tenure)というのは教授の終身雇用のことだ。ポスドクや助教授(Assistant Professor)は任期付きのポストで、研究実績がたまってきたらテニュアの審査を受ける。うまくいけば終身雇用が約束され、だめなら他の大学に移る。この制度は日本での導入も進んでいる。

元はといえばテニュア制は、学問的にメインストリームでなく、リスキーで過激な主張をする学者さんを、政治的な糾弾、弾劾から守り、学問の自由を保証するために存在した制度です。現在では、かなり形骸化し、雇用の安定を保証する以上あまり存在価値のない制度とも言えます。

ではこの制度はなぜ存在するのか。一つは学問の自由の保証だ。しかし、エコノミストの認識はそうでもない:

The economists who have analyzed tenure have seen it as a solution to the problems created by the special nature of academic employment instead of a protection for academic freedom.

テニュア制度は学問の自由というよりも特別な労働関係に対応するための仕組みだという。いくつかの問題が挙げられているが最も重要なのは以下だろう:

Carmichael (1988) argues that tenure exists within academic environments because worker-professors are called upon to select new members.

テニュア制度は既存の教授が新任の教授を選ぶという仕組みのためにあるという。どういうことか。

When the university has full information about the abilities and alternatives of incumbents and candidates, tenure is not part of the optimal solution. The least productive and most expensive professors will be fired and replaced by new candidates. However, when the university does not have full knowledge and incumbents have better information, the university will have problems getting incumbents to identify the best candidates if it plans to follow an optimal hiring and firing strategy. An incumbent cannot rule out the possibility that he or she will be fired in the future to make room for a candidate. Thus, if the university expects its incumbents to tell it who the good candidates are, the incumbent’s signals about candidates must not affect he incumbent’s probability of being retained.

根底にあるのは、研究者を採用することの難しさだ。例えば数学者を雇うとしてどの候補者を採用するか決めるのは数学者に任せるのが最適だろう。実際、大学教授は大学教授によって選任される。しかし、もし既存の教授の雇用が守られていなければ、彼らに公平な選出を期待するのは難しい優秀な若手を採用すれば自分の雇用が脅かされるからだ

同じことは高度に専門化された他の分野でも当てはまるだろう。例えば弁護士事務所であれば出世するとパートナーになる。弁護士事務所がパートナーシップを利用する理由は法律以外にもいろいろあるだろうが、ベテランに実質的な終身雇用を与えるという機能もあるだろう。

もちろん終身雇用を約束することは、働くインセンティブを失わせるが、そこはトレードオフだろう。インセンティブの低下には、学部全体を解散することでも対応できる。学部全体のパフォーマンスが低い場合に解雇されうることは、優秀な若手を避けることにはつながらない(むしろ採用するだろう)が、仕事をするインセンティブになる。

客は嘘をつく

以前にも取り上げた起業家のBen Casnochaのブログで、RedditのIamAシリーズが取り上げられている:

Ben Casnocha: The Blog: Your Customers Lie to You

Our customers want mediocre food cheap. Every time we release a higher priced but higher quality product, the people who said they would pay for it… never do.

You say you want more fruits, salads, organic, all natural, etc. well then start buying that stuff and stop buying double cheeseburgers. Our best selling stuff is always whatever we can make taste good, at rock bottom prices.

We’ve actually learned not to listen to our customers when it comes to a lot of things. Health nuts won’t come into McDonald’s to eat even when we give them what they want.

自分は○○だ名乗る人間が質問に答えるIamAシリーズの今回のお題はマクドナルドの重役だ。その中で彼がおもしろいと思ったのが上の一節だ。要約すると:

客は少し高くても健康なメニューを作れというが、実際に作ると誰も買わない。売れるのは何でできているかはともかく美味しくすることができてひたすらに安いものだ。もはや客の声に耳を傾けるなんてことはやめた。

といったところか。これは実際のビジネスでも重要な事実であると同時にエコノミストの考え方を端的に表している。

Instead of asking customers how much they would pay for a hypothetical product, ask them how much they’re currently paying for however it is they’re solving the problem that you are trying to solve.

いくら払うかを聞くのではなく今いくら払っているかを聞くべきだし、

it can work to ask a direct question but discount the words that come out of their mouth and pay attention to body language.

聞きたいことを直接尋ねるよりは体の動きに注意すべきだ。

この根底にあるのはいつも通りのインセンティブだ。ある人に特定の行動をとらせるためには適切なインセンティブを与える必要がある。それは「正直に答える」という行動についてもあてはまる。

「正直に答える」インセンティブを与える仕組みについて考えることもできるがもっと簡単な方法がある。それは実際の行動を見ることだ。健康なメニューの価値を知りたいならアンケートを配るよりも、客が健康なメニューにどれだけのプレミアムを払ってるかをみればよい。命の価値が知りたいなら、死の危険を避けるたにどれだけ払ってるかをみればよい。無限大と答えられるよりはよっぽど正確な値が計算できる(無限大はそもそも数ではないし、比較できないので使い道がない)。

体の動きを見るのは逆にインセンティブによって変化しない反応を見るという作戦だろう。解釈が難しく、特定の状況でしか利用できないし、対策しうるという弱点もあるが、これもしばしば有効な戦略だ。実際の行動を観察することと合わせて用いることで、日常の人間関係においてもよりよく情報を集めることができる。

説得力のある批評をする方法

消費者の心理に関する研究が紹介されている:

Drilling Down – Veteran Critics More Persuasive When Uncertain, Study Finds – NYTimes.com

Asked to evaluate the restaurant, the students who read the expert’s review liked it much better when he seemed tentative; the opposite was true of the novice.

四種類のレストランのレビューを被験者(学生)に見せる実験を行ったそうだ。四つのレビューとは、

  • 専門家が完全にお勧め(positive certainty)
  • 専門家が一応お勧め(tentative praise)
  • 素人が完全にお勧め
  • 素人が一応お勧め

結果は専門家の場合は曖昧な評価の方が好まれたのに対し、素人の場合には確信を持って勧められている場合の方が評価されたそうだ。

これは常識とよく合致する。専門家の曖昧な意見はよく考えて評価が行われているように聞こえるが、素人の曖昧な意見は何も考えていないように聞こえる。

また専門家は自分の評判があるので100点満点を出すことはない。逆に満点を出していると専門家としての地位を疑われる。素人にはそのような制約はなく高得点を出しても問題はない。もちろん本当の専門家が満点評価をしているならば一番評価されるだろうが、実験であれば専門家とされているだけに過ぎないため、いわば「自称」専門家の満点は信用されないのだろう。逆にいえばこの実験の問題は本当に信頼されている専門家のケースを扱うことができない点にあるだろう(実際の研究がどうなっているのかは分からないが)。

これは大学院出願における推薦状にも当てはまる。無名の教授(ビジネススクールであれば上司含む)の推薦状は明らかに素晴らしいものでなければ意味がない。むしろ留保点があれば大きなマイナスになる。名の通った人の推薦状であれば二通り考えられる。大学院側が推薦人と個人的な関係を持っているないし過去の推薦に関する履歴を記録している場合にはやはり素晴らしい推薦状の方がよいだろう(例えばいつも学生を送り出している教授の推薦は極端な話お勧めか否かだけで十分だ)。しかし経歴や地位は素晴らしいが信用できる推薦人と確信をもっていない場合には長所短所詳しく書いてある推薦のほうが効果的なように思われる(例えば経済学部宛てに推薦状を書く数学の教授の場合褒めてばかりでは誰にでもそうなのかもと疑うだろう)。

P.S. 著者とジャーナルをキーに実際の論文を探してみたがどれか確定できなかった。ジャーナリストとしては明記すべきだろう。

グリーンマーケティング

新著SuperFreakonomicsの温暖化に関する章が論争を巻き起こしているSteven Levittの環境保護と価格付けに関する記事:

Going “Green” to Increase Profits – Freakonomics Blog – NYTimes.com

環境にやさしいことをうたう商品はたくさんある。そんな商品がある理由の一つは環境にやさしいことが消費者の支払い意志額を上げることだ。しかしこれは価格差別にも使える。消費者の「環境にやさしい」ことに対する選好は人によって異なり、それが商品への総合的な支払い意志額と相関しているためだ。

ここでは(数日前にニュースで見かけた)ベルリンの(合法な)売春宿における割引が例として上げられている。

Customers who come by bus or bicycle are likely to have lower incomes and be more price sensitive than those who arrive by car. If that is the case, the brothel would like to charge such customers lower prices than the richer ones. The difficulty is that, without a justifiable rationale, the rich customers would be angry if the brothel tried to charge them more.

不景気のなか、バスや自転車で来た客には5ユーロの割引を提供しているという。もしそのような客の所得が他の客よりも少ないのであればこれは典型的な価格差別となる。単に車できた客に割増料金を請求するのは困難でもこれなら問題ないというわけだ。但し、まわりの同業者も同じ価格戦略を取らない限り車で来る乗客が他に逃げてしまう可能性があるのであまり大きな価格差はつけられないだろう。

同様の価格差別は観光地でも使えるだろう。観光協会などが公共交通機関で来た客には割引をするように取り決めればいい。うまく運営すれば、カルテルの隠れ蓑にも使える。公共交通機関の需要増にもなるので鉄道各社と連携することもできる。

似たような価格差別のためのデバイスとしてはベジタリアン料理が挙げられる。通常ベジタリアンの料理は原価に比して高めに設定してある。これはベジタリアンに高学歴で比較的高所得な層が多いためだ。ベジタリアン以外はほぼ確実に肉の入ったものを食べるので影響はない。