ツイッターでは○○

昨日は首相辞任のニュースが駆け巡ったが、それに関する不思議な報道:

asahi.com(朝日新聞社):ツイッターも首相辞任一色「当然」「小沢さん道連れに」 – 政治

書き込みには、「当然」「賞味期限の書き換え」「どっちみち選挙は大敗しそう」「政治とカネの問題からいうと、本当は議員辞職だろ」「辞められてほっとしているのでは」などと、驚きよりも、当然だと受け止める冷静なコメントが多かった。一方で、「鳩山さんは小沢さんを道連れにしたなあ」「最後まで努力したんだろうけど、結果がついていかなかったな」「任期途中じゃ、できる仕事もできないだろうに」などと鳩山首相に同情する声もあった。

ツイッターの書き込みを大手新聞がニュースソースとして挙げるのはどうだろう。ツイッターでユーザーが目にするのは自分が選んでフォローした人たちの発言だ(TL=タイムラインと呼ばれる)。よって構造上ツイッターで目にするコメントは自分が聞きたい意見だったり、自分と同じ考え・レベルの人(しばしばクラスターと呼ばれる)の意見だったりする。

ツイッターでこんな発言が多かったというのはユーザーの代表的見解よりも、本人がどんな人達と絡んでいるか=どんなクラスターにいるかについてより多くの情報を与えてくれるのだ

もしツイッターの構造が分かっていない読者に自分の意見を一般的であるかのように装って報道しているのであれば悪質だし、そもそも自分が目にする内容は自分の選択の結果であることに気付いていないのであれば報道している本人がツイッターの構造を理解していないということになる。

Twitterで見る、鳩山首相辞任表明

Twitterでよく書かれている単語を拾う「buzztter」(ばずったー)も、「鳩山辞意表明」「小沢幹事長も辞任」といった関連語で埋め尽くされている。

それでもツイッターの一般的意見を採用したいというならこちらのITMediaの記事のように何らかのアグリゲーターの情報を利用する必要があるだろう。但しこの場合でもRTした場合など賛否が不明な発言も数多いので単にどんな言葉が多かっただけを見てもユーザーの意見を代表しているとは限らないことには注意する必要がある。

地域ブログ

地域をキーとした情報サイトが大きな注目を集めているそうだ。

「街興し」の切り札目指す 「地域ブログ」田舎に続々登場

「地域ブログ」を開設する目的はズバリ「街興し」だ。地元の人が自分達の持つ情報を交換しコミュニティー力を高めながら、全国、そして世界に情報発信しようという。

上の画像は最もアクセスが多いという沖縄のてぃーだブログだ。運営側が情報を提供するだけでなく、参加者がブログなどを通じて情報を発信できるようにもなっており、沖縄に関する情報のハブとして機能している。

運営しているのは1人から数人。それぞれ他に仕事を持っていて、いわばボランティア感覚でブログ運営に携わっている。「しーま」を運営するのは、奄美出身の30代の5人。それぞれ独自で奄美関係の情報を発信していたが、それを一箇所に集めることでパワーアップ、奄美の一大コミュニティーの場を作ろうと考えた。

こちらの奄美大島「しーま」の場合は仕事の傍ら五人で運営しているとのこと。ここでのポイントは地域での協力のありかただろう。こういった地域全体の振興というのは、自分が参加しなくても恩恵を受けられる。そのため地域振興は地方政府の仕事であることが多い。ウェブはそれを個人で行うことを可能にした。しかし、低コストゆえに一人で運営できても情報はある程度集まらないと価値がでないし、一人で運営していると話題を絞るのも難しい。

もちろんローカル情報へのシフトは日本だけではない。例えば上のサイトはBerkeleysideというバークレー市に特化したサイトだ。但し、これはごく典型的なブログで、読者の参加はコメントや、ポストのサブミッション程度だ。

このような地域ブログを組織化している企業もある。上はPatch.comというサイトで、地域レベルでの情報発信を行っている(@ayakomieさん就職おめでとうございます)。こちらの場合は地域振興というよりも、いかにローカルなジャーナリズムを維持していくかというのが主眼となっている。

地域レベルでの情報集約・発信への関心は高まっている。どのような目的・やり方ならうまくいくのか、地域といったときそのサイズはどの程度が望ましいのかなど、いろいろな課題はあるが地域という切り口で情報がより多く発信されより広範に広まるのであれば素晴らしいことだ。

追記

福岡には「よかよか」というブログサイトがあるそうです(ht @keitabo):

出版業界の矛盾

日本の出版業界で最近よく目にする矛盾が分かりやすく一枚に収まっている名作:

電子書籍:「元年」出版界に危機感 東京電機大出版局長・植村八潮さんに聞く

音楽業界のようにほぼ一手に握られることになれば、間違いなく日本の出版活動は続かなくなり、書店や流通の問題というより、日本の国策、出版文化として不幸だと思う。

まずは「文化」だ。文化として不幸かどうかより、消費者が不幸になっていないかを気にして欲しい。ところで日本の音楽業界が停滞しているのはiTunesのせいだという前提があるのだろうか。

アマゾンやアップル、グーグルなど「プラットフォーマー(基本的な仕組みを提供する企業)」の時代になるといわれている。

[…]

米国でプラットフォーマーに対抗できるのは、複数のメディアを傘下に収める巨大企業だけ。

アマゾン、アップル、グーグルが複数のメディアを傘下に収めているという話は聞かないが何か大型買収でもあったのだろうか(それとも日本企業がプラットフォームを作るというのは想定外なのだろうか??)。そもそもコンテンツを垂直統合していたらそれはもうプラットフォームではない(プレイステーションのゲームが全てソニー製だったらプレイステーションはプラットフォームとは呼べない)。

出版社4000社、書店数1万6000もある日本の出版業界が、このままで対抗できるわけがない。

[…]

日本人は紙質や装丁にこだわり、読み終えても取っておく人が多い。米国で成功したから日本でもというのは、分析が足りないと思う。

あれ?アメリカのプラットフォームが日本では成功しないなら、日本の出版業界は対抗できるのではないだろうか

iPadはそんな新しいメディアとしての可能性が高い。ただ、熱狂的なアップルファンは買うだろうけれど、広く日本人に支持されるかは分からない。

これも同じだ。日本の文化だから守る必要があるというために日本の特殊性を主張すればするほど、じゃあ保護の必要はないのでは?という矛盾に陥る

ジャーナリストに必要なスキル

ジャーナリストに必要なものは何なのか考えさせられる記事があった。

When public records are less than public: How governments try to use copyright to limit access to data

そもそもジャーナリストという職業が何を意味するのかよく分かっていない。是非ジャーナリストの方と話てみたいと思うが、ここではとりあえずWikipediaのエントリーを見てみる。

A journalist collects and disseminates information about current events, people, trends, and issues.

最近の事柄に関して情報を集めて広める人をジャーナリストというらしい。この定義によれば以下のような能力がジャーナリストには必要であるように思われる:

  • 需要のある情報を見極める
  • 必要な情報を収集する
  • 収集した情報を流通に適した形に加工する

こう考えるとITがジャーナリズムを変えるのは当然だろう。単に流通コストが下がったことで情報を売るのが難しくなったというだけでなく、ジャーナリストの仕事の全ての段階においてITが大きな影響を与えるはずだ。

需要のある情報を見極める能力や集めた情報をうまく流通させる能力はウェブ以前と以後では比べ物にならない。Googleのようにユーザーの行動を把握したり、Facebookのようにソーシャルネットワークを利用して興味を探ったりできる。個人レベルであっても、各種のソーシャルメディアを効果的に利用することでまわりの人、特に自分の観客が何を求めているのかを効果的に把握できる。今まで出来なかったことが出来るようになったゆえに必要となった能力だろう。

必要な情報の収集方法も変わった。調査報道だと例えば政府や企業の不正を暴くという機能がある。以前なら記者クラブに行くとか熱心に取材・聞き込みをすればよかったかもしれない。しかしこれからはそれでは足りない。

Will Columbia-Trained, Code-Savvy Journalists Bridge the Media/Tech Divide?

But even fluency in broadly defined “multimedia skills” isn’t enough, with coding becoming as crucial to the news business as knowing how to use a computer was a couple of generations ago.<

例えば、このWiredの記事はコロンビア大学がジャーナリズムとコンピューターサイエンスのジョイントプログラムを提供していることに際し、ジャーナリストは単にマルチメディアに強いだけではなく、プログラミングのスキルも必要だと指摘している。

これは政府が情報をデジタルデータとして公開する潮流を考えれば当然の流れだろう。情報がない時代にはそれをひたすら探すのが重要だが、逆に情報が溢れている時代には必要な情報をそこから探り当てることのほうが重要だ。そして莫大な情報をさばくにはコードを書くしかない。これには統計情報を、例えばRなどで、処理することも含まれる。

情報が少ないのか多いのか、それが情報を集めて広める職業に大きな影響を与えるのはごく自然なことだ

When public records are less than public: How governments try to use copyright to limit access to data

さらに今回の記事では、そのコーディング能力すら十分とは言えないという。

That’s all well and good, but having all those programmer journalists looking for access to public data brings to the forefront questions about who owns public records and who has the right to put limits on their use.

何故なら、政府が情報公開の流れに逆らおうとするためだ。情報処理能力があっても情報がなければ意味のある情報を得ることはできない。再び情報の少なさが問題となっているわけだ。

しかし、同じ情報の少なさでも対策は以前とは異なる。今回、情報が少ないのは政府が情報公開の規則を何らかの方法でねじ曲げてそれを拒んでいるためだ。

While Section 105 of the Copyright Act makes works of the federal government ineligible for copyright protection, this provision does not apply to state and local governments.

アメリカの様子が描かれている。著作権法は連邦政府の文章に保護を与えていないが、地方政府には適用されない。

In New York, for instance, state and local agencies may comply with their obligations under the state Freedom of Information Law while maintaining their copyright, and the public records law “does not prohibit a state agency from placing restrictions on how a record, if it were copyrighted, could be subsequently distributed.”

そこを利用して州政府が情報公開を拒むための法律を作っている。

Of course, even when a government entity claims copyright over public data, that protection is at best thin. In general, datasets are protectable as compilations, meaning only the original selection, coordination, or arrangement of facts is protected.

しかし、行政の情報というのはデータベースに該当することが多く、少なくともアメリカでは、実施的な保護はない。

In the case where a third party provides the government with information under a contract, the government agency may not be free to let you do anything you want with it.

そうすると行政は情報=データベースの作成を第三者に依頼する。それによって作成された情報の製作者が行政機関ではなくなるからだ。

記事中で明示されてはいないが、ここで必要な能力はリーガルなものだろう。行政が処理すべき情報の公開を法律・契約を使って阻んでいる以上、それを突破するには情報を収集する側の知識がかかせない

ITによってジャーナリズムが出来ることの範囲は大きく広がり、その結果としてジャーナリストに必要な能力も増えた。これ自体はよいことだが、ITは同時に紙媒体の収益性を奪い、単なる情報から利益を上げるのを難しくした。プログラムが書けて法律も分かるジャーナリストをこの業界がサポートできるかという話だ。

ITと情報公開の流れが可能にした、莫大な情報をコードを駆使して処理し得られた情報を低(限界)費用で配布するというモデルがビジネスとして成り立つのだろうか。

電子書籍統一規格

電子書籍に関する懇親会が開かれたそうだ:

電子書籍に統一規格、流通や著作権を官民で整備

政府は17日、本や雑誌をデジタル化した電子書籍の普及に向けた環境整備に着手した。[…]国が関与して国内ルールを整えることで、中小の 出版業者の保護を図る狙いがある。

しかし規格統一の狙いが中小の出版業者というのはどういうことだろう。

電子書籍の形式は各メーカーが定めており、共通のルール、規格がない。端末ごとに読める書籍が限定されるほか、「資本力で勝るメーカーに規格決定の主導権を握られると、出版関連業界は中抜きにされる恐れがある」(総務省幹部)との指摘がある。

日本だけでしか流通しない独自規格を官民で整備したとして、それが誰にメリットになるのだろう。Amazon, Apple, Googleなど先進的な企業が競争した結果生き残る規格に日本発の規格が競争できる訳はないので、国外展開は絶望的だ。当然、電子書籍の流通やリーダーなどに関しても取り残されるだろう。消費者にとっても海外で使われている優れた規格が日本では利用できないという結果になりはしないだろうか。

また、テクノロジーが進歩したときに流通の一部が「中抜き」されるのは当然のことだ。出版の場合だけ政府が心配するのは何故だろう。

ちなみに懇親会のメンバーは総務省で公開されている。現職以外のプロフィールぐらい載せて欲しいと思うが、生まれ年だけ簡単に調べてみた(Googleで検索してすぐに見える情報で正確性は保障できないので間違いがあればご指摘下さい)。

  • 安達俊雄 シャープ株式会社代表取締役副社長:1948年
  • 足立 直樹 凸版印刷株式会社代表取締役社長:1935年
  • 阿刀田 高 作家・社団法人日本ペンクラブ会長:1935年
  • 内山 斉 社団法人日本新聞協会会長・株式会社読売新聞グループ本社代表取締役社長:1935年
  • 相賀昌宏 社団法人日本雑誌協会副理事長・株式会社小学館代表取締役社長:1951年
  • 大橋信夫 日本書店商業組合連合会代表理事・株式会社東京堂書店代表取締役:1943年
  • 小城武彦 丸善株式会社代表取締役社長:1961年
  • 金原優 社団法人日本書籍出版協会副理事長・株式会社医学書院代表取締役社長:調査中
  • 北島義俊 大日本印刷株式会社代表取締役社長:1933年
  • 喜多埜裕明 ヤフー株式会社取締役最高執行責任者:1962年
  • 佐藤隆信 社団法人日本書籍出版協会デジタル化対応特別委員会委員長・株式会社新潮社取締役社長:1942年
  • 里中満智子 マンガ家・デジタルマンガ協会副会長:1948年
  • 渋谷達紀 早稲田大学法学部教授:不明・一度大学から退職されています
  • 末松安晴 東京工業大学名誉教授・国立情報学研究所顧問:1932年
  • 杉本重雄 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科教授:不明・1977年に大学卒業
  • 鈴木正俊 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ代表取締役副社長:1951年
  • 高井昌史 株式会社紀伊國屋書店代表取締役社長:1947年
  • 高橋誠 KDDI株式会社取締役執行役員常務 コンシューマ商品統括本部長:1961年
  • 徳田英幸 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科委員長兼環境情報学部教授:1952年
  • 長尾真 国立国会図書館長:1936年
  • 楡周平 作家・社団法人日本推理作家協会常任理事:1957年
  • 野口不二夫 米国法人ソニーエレクトロ二クス上級副社長:不明・1982年ソニー入社
  • 野間省伸 株式会社講談社副社長:1937年
  • 三田誠広 作家・社団法人日本文藝家協会副理事長:1948年
  • 村上憲郎 グーグル株式会社名誉会長:1947年
  • 山口政廣 社団法人日本印刷産業連合会会長・共同印刷株式会社取締役会:1937年

生まれ年から類推するに70歳以上が7人、60-70歳が7人、50-60歳が4人、40-50歳が3人となっている(3人は不明だが50代、60代、70代一人ずつといったところか)。

年齢が高いことが一概に悪いとは言わないが、電子書籍という新しいメディアを論じるに当たってもう少し若い世代の意見を取り入れることはできないのだろうか。50歳以下だと産業再生機構から丸紅社長に就任した小城武彦氏、ヤフーの喜多埜裕明氏、KDDIの高橋誠氏となっている。

ネットの利用に関しては喜多埜氏と高橋氏の二人についてTwitterのアカウントが確認できた(@kitano123@makjob)。あとは三田誠広がかなり古風な個人サイトを運営されている。しかしこれらも例外であり、参加者のテクノロジーの利用は進んでいないと見るべきだろう。。

業種別では、大学4、作家4、出版4、書店3、印刷3、ネット2、メーカー2、通信2、図書館1となっている(これに省庁関係者が加わる)。既存の出版の仕組みから利益を得ていると考えられる作家・出版・書店・印刷が14に対して、電子書籍を推進するであろうネット・メーカー・通信は6しかいない(作家は本来ニュートラルと考えられるが参加者はどなたも既に業界団体の上に立つ立場であるからして、既存の仕組みを支持していると考えるのが妥当だろう)。言うまでもなく経済学関係の人は見当たらない。

「中小の 出版業者の保護を図る狙い」とある割には中小出版業者の代表は少なく、むしろ大手出版社関係者が多い。金原氏が社長をつとめる医学書院が中小出版業と言えるが(訂正:年齢が違っている模様です)、医学書院の出版物の価格を考えると保護を図るという主張は消費者にとって受け入れがたいのではないだろうか

最後に、シャープの安達俊雄氏および丸紅の小城武彦氏は旧通商産業省出身だ。経済産業省が関わる懇親会なのだからこういった情報は公開するのが筋だろう

追記:金原氏の情報が違っているという情報を頂いたので注記しました。