ファイナンスの教授の投資戦略

ファイナンスを教えている教授がどんな投資戦略を取っているかについて:

ScienceDirect – Journal of Financial Markets : Confidence, opinions of marketefficiency, and investment behavior of finance professors via Overcoming Bias

First, most professors believe the market is weak to semi-strong efficient. Second, twice as many professors passively invest than actively invest. Third, our respondents’ perceptions regarding market efficiency are almost entirely unrelated to their trading behavior. Fourth, the investment objectives of professors are, instead, largely driven by the same behavioral factor as for amateur investors–one’s confidence in his own abilities to beat the market, independent of his opinion of market efficiency.

アブストラクトからの引用だ。発見は四つ:

  1. ほとんどの教授は弱度ないし準強度市場効率仮説を支持している。
  2. 能動的な投資を行っている人はそうでないひとの半分。
  3. 投資行動と市場効率仮説への態度は相関がない。
  4. 投資目的は大抵素人と同じ要因で説明できる。

まあ妥当なところか。市場が基本的に効率的でも誰かが裁定取引をする。能動的に投資するかは自分の時間をどう扱っているかによる。投資が好きな人はファイナンスの教授にはならない(!)のでこちらも妥当だ。

アメリカの機会の平等

昨日、相対貧困率の問題について触れたが、アメリカにおける所得階層間の移動について:

National Journal Magazine – Is The American Dream A Myth? via Economist’s View

アメリカでは機会の平等さえあれば結果の平等は気にしなくてよい、ないし無視すべきだという主張が支配的だ。しかし、実際に所得階層を移動する人は少ないことが指摘されてきた。

A study of attitudes in 27 countries found that Americans, more than people elsewhere, tend to believe that intelligence, skill, and effort will be rewarded with success.

アメリカ人が、能力・技術・努力で成功をつかめると思っていることにはかわりないようだが、

Though we venerate the American Dream, studies show that children born to low-income parents in the United States are more likely to remain trapped near the bottom than their counterparts in Europe, the authors report.

実際に親の所得階層と異なる階層に移動する人の数は限定的で、貧しい家庭に生まれた子供が貧困層に止まる可能性はヨーロッパよりも高い。

These are deeply unhealthy, even destabilizing, patterns. If advanced education is the key to economic success, it’s dangerous to reserve it primarily for those who start out on top.

ここでは教育費用が問題となっている。大学卒業の賃金プレミアムは非常に高い水準になっており、これは当然といえる。

Although affordability remains a challenge, they say that enough financial aid is available for needy students that money is not the principal obstacle.

著者は大学による価格差別によりこの問題はそれなりに対処されていると考えている。

個人的にはこの問題は情報化社会の進展よりむしろ深刻になっていくように思う。大学教育を必要とする職業の数は減少しており、ネットワーキングの場としての側面が重要になりつつあるためだ。ネットワーキングは生まれ育った環境は両親のネットワークによる部分が非常に大きく、貧困層で育った子供が大学に入って突然社交的になることはほとんどない。むしろ在学中もアルバイトに励み周りに馴染めない傾向が強いだろう。

グリーンマーケティング

新著SuperFreakonomicsの温暖化に関する章が論争を巻き起こしているSteven Levittの環境保護と価格付けに関する記事:

Going “Green” to Increase Profits – Freakonomics Blog – NYTimes.com

環境にやさしいことをうたう商品はたくさんある。そんな商品がある理由の一つは環境にやさしいことが消費者の支払い意志額を上げることだ。しかしこれは価格差別にも使える。消費者の「環境にやさしい」ことに対する選好は人によって異なり、それが商品への総合的な支払い意志額と相関しているためだ。

ここでは(数日前にニュースで見かけた)ベルリンの(合法な)売春宿における割引が例として上げられている。

Customers who come by bus or bicycle are likely to have lower incomes and be more price sensitive than those who arrive by car. If that is the case, the brothel would like to charge such customers lower prices than the richer ones. The difficulty is that, without a justifiable rationale, the rich customers would be angry if the brothel tried to charge them more.

不景気のなか、バスや自転車で来た客には5ユーロの割引を提供しているという。もしそのような客の所得が他の客よりも少ないのであればこれは典型的な価格差別となる。単に車できた客に割増料金を請求するのは困難でもこれなら問題ないというわけだ。但し、まわりの同業者も同じ価格戦略を取らない限り車で来る乗客が他に逃げてしまう可能性があるのであまり大きな価格差はつけられないだろう。

同様の価格差別は観光地でも使えるだろう。観光協会などが公共交通機関で来た客には割引をするように取り決めればいい。うまく運営すれば、カルテルの隠れ蓑にも使える。公共交通機関の需要増にもなるので鉄道各社と連携することもできる。

似たような価格差別のためのデバイスとしてはベジタリアン料理が挙げられる。通常ベジタリアンの料理は原価に比して高めに設定してある。これはベジタリアンに高学歴で比較的高所得な層が多いためだ。ベジタリアン以外はほぼ確実に肉の入ったものを食べるので影響はない。

格付け機関の失敗

今回の金融危機において、格付け機関がいかに間違ったシグナルを送ったかについて:

How Moody’s sold its ratings – and sold out investors | McClatchy

A McClatchy investigation has found that Moody’s punished executives who questioned why the company was risking its reputation by putting its profits ahead of providing trustworthy ratings for investment offerings.

Moody’sの例が挙げられている。格付けの信頼性と機関の評判を重視した社員が如何に追いやられていったかについて多くのインタビューを交え詳細に記されている。

原因の一つには格付け機関の収益構造がある。

To promote competition, in the 1970s ratings agencies were allowed to switch from having investors pay for ratings to having the issuers of debt pay for them.

格付け機関は投資家ではなく債権の発行者から収益を得るようになった。そのため格付け機関は利益を得るために格付けを発行者の意向に沿う形に歪めるインセンティブを持った。

Moody’s was spun off from Dun & Bradstreet in 2000, and the first company shares began trading on Oct. 31 that year at $12.57. Executives set out to erase a conservative corporate culture.

When Moody’s went public in 2000, mid-level executives were given stock options. That gave them an incentive to consider not just the accuracy of their ratings, but the effect they’d have on Moody’s — and their own — bottom lines.

さらにMoody’sは2000年に株式市場へ上場し、広範な社員にストックオプションの支給を始めた。これは社員に格付けの正確性ではなく、会社の利益をまず考えるインセンティブを与えた。

格付け機関が正しい格付けを行うインセンティブは基本的に評判を維持するためだ。しかし金融市場において格付けが正しかったかが判明するのは数年に一度、不景気になったときだけだ。景気のよいときにはほとんどの株は上昇するし、債権もデフォルトを起こすことはほぼない。レストランのように商品の質がすぐに判明する業種とは評判がプレーヤーに与える影響は大きく異なる。さらに格付け自体は単なる意見に過ぎないため法的責任は生じない。仮に生じたとしてもそれを確認する方法がない(注)。

しかし格付け機関のような組織がここの投資家の代わりに情報を集め処理することは社会的にプラスだろう。格付け機関を機能させるには、投資家が現在の格付け機関が問題のあるインセンティブ構造を持っていることを認識する必要がある。そうすれば、問題のある所有形態の機関は信用されず市場から排除されるだろう。

(注)リスキーな債権を特定のCDOに混ぜることで発行会社が利益をあげられること、それにより安全なトランシェでもデフォルトする可能性があること、投資家がそのようなCBOを発見できないこと、そしてデフォルトした場合でも債権の分布がランダムでないことを証明できないことを示した最近の論文についてこちら

相対貧困率

mixiで見かけたのでコメント:

貧困率:日本15.7% 先進国で際立つ高水準 – 毎日jp(毎日新聞)

長妻昭厚生労働相は20日、国民の貧困層の割合を示す指標である「相対的貧困率」が、06年時点で15.7%だったと発表した。日本政府として貧困率を算 出したのは初めて。経済協力開発機構(OECD)が報告した03年のデータで日本は加盟30カ国の中で、4番目に悪い27位の14.9%で、悪化してい る。日本の貧困が先進諸国で際立っていることが浮き彫りとなった。

日本の相対貧困率はOECDで27位だそうだ。相対貧困率は次のように定義されている。

相対的貧困率は、国民の年収分布の中央値と比較して、半分に満たない国民の割合。

メキシコ・トルコ・アメリカの次とのことだ。しかしこの指標にはどれだけ意味があるのだろうか。例えばアメリカと日本の給与構造を見ると日本では若年層の給料が低い。年功序列的な給与体系が支配的なためだ。ある時点で年収の中央値の半分に満たない年収の人がずっとそのままという可能性は低い(一流大学を出ても初任給は低い)。極端な話、世代毎の人口が同じで給料はみな年齢引く20の20万倍で労働人口は20才から60才だとすると給与の分布は0から800万円の一様分布で、中央値は400万円、相対的貧困率は25%になる。しかし給与体系は全員同じだ。

それに対しアメリカの貧困層は一生低い給与水準で働きつづける可能性が高い。もともと給与0から800万円の人が一様に分布していて変わらないようなものだ。この場合でも相対的貧困率は25%だがその意味合いはまったく違う。

このような代表値を持ち出して政策を議論するのは危険ではないだろうか。

追記:厚生労働省の公式発表資料はこちら。しかしなぜ新聞社のページではこの手のリンクがほとんど見当たらないのだろう。

追記:相対貧困率とジニ係数の国際比較