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レーティングを機能させる方法

TechCrunch Japanから(もともとのYouTubeのエントリー、TechCrunchの原文):

YouTubeが5つ星級の発見:評価システムは無意味だった

PMF of Ratings on Youtube

これは、YouTubeのビデオをユーザーがどう評価しているかを表したものだ。ご覧のとおり、1つ星が少しと大量の5つ星があって、2、3、4は事実上ゼロだ。

YouTubeが自ら認めた点とグラフまで出してくれた点が面白いが、単純なレーティングシステムがうまくいかないというのは広く知られている。大きな問題はユーザーが現在までの平均点が自分の評価より下の(上の)場合は最高点(最低点)をつけて自分の評価に近づけようとすることだ。例えば、あるユーザーが好みのタレントの動画を4点だと評価しているとする。ユーザーは4点をつけるべきだが、その動画に対する世間の評価が2点であれば、多くのユーザーは5点をつけることで評価を釣り上げようとする。

この問題への対策でパッと思いつくものを(互いに重なる部分も多いが)いくつか挙げる:

  • 得点操作を困難にする
  • ユーザーが配分できるポイントに制限を設ける
  • ユーザーに正確なレーティングを行うインセンティブを与える
  • レーティングを困難にする

得点操作を困難にする

統計値の操作を困難にする方法でまず浮かぶのはメジアン(中央値)やモード(最頻値)だろう。共に統計量として外れ値に対して頑強だ。同様に上のような得点分布を示してもよい。ここのユーザーが分布から評価を把握できる。

しかし、結局のところ上のような分布になってしまうのであればこれらの方法はあまり意味が無い。メジアンもモードも5点になることがほとんどだろう。分布もあまり参考にならない。

Digg

それに対し、Diggredditのようなソーシャルニュースサイトは各記事の評価について二種類の反応しか用意していない。ユーザーがあるストーリーが過小評価されているか、過大評価されているかだけを判断する。stackoverflowではVoteだけだ(しかもある程度の活動をしない限り行使することができない)。これらも得点操作を困難にする方法の一つだ。登録ユーザーは一つしか数値を動かすことができず、同じストーリーを何度も評価できないため総数に影響を及ぼすことはできない。点数方式のレーティングとは異なり数字が質を示すわけではないが、どれだけの人が興味を持ったかを知ることができる。ニュースが対象であればこれは妥当な指標だ。YouTubeにおいても閲覧数がこの機能を果たしていると思われる。

ユーザーが配分できるポイントに制限を設ける

Slashdot

レイティングにこだわるのであれば何らかの方法でポイントに制限を掛ける必要がある。Slashdotなどで採用されているモデレーションシステムだ。ユーザーのコメントは最初決まったポイントを持っているが、モデレーターによってそれが上がったり下がったりする。モデレーターはサイトでの活動によって割り振られ、さらにモデレーターをさらにメタモデレーターが評価することで質の維持を図っている。この方法はすでに多くの常連ユーザーがいない場合、運営者自身がモデレートを行う必要がある。

Amie Streetにおける推薦も同様な効果を持っている。推薦できる回数が限られている。この場合には推薦した曲がその後どの程度人気が出たかでクレジットの付与も行われるため、次のインセンティブとの合わせ技になっている。

ユーザーに正確なレーティングを行うインセンティブを与える

Yelp

インセンティブというとお金を支払うように聞こえるがそうとは限らない。ソーシャルネットワークを用いるのがいい例だ。例えばYelpでは個々のユーザーの得点の付け方に制限はない。しかし多くの利用者は正確なレーティングを行っている。これはYelp内にネットワークが形成されていて、個々のユーザーはその中で有意義な活動を行おうとしているためだ。例えば私が5と1ばかりをつけていたらそれが個人のページに表示される。それを見た他のユーザーは私のレーティングを信用しないだろうし、友達として登録することもない。YouTubeでもユーザー名は表示されるが単にIDとして機能しているに過ぎない。ユーザーはそのIDの評判を気にすることもないのでレーティングが機能しない。本人確認をするのも有効だろう。

レーティングを困難にする

Rotten Tomatoes

レビューサイトなどでよく見られるのがレーティングと共にコメントを残すというものだ。これもレーティングを正確に保つのに効果的である。例えレーティングが高くてもコメントがなかったりコメントとレーティングの一貫性がなければそのレーティングにはあまり意味がないと判定できる。レーティングまでにある程度の活動が必要なパターンもこれに該当する。ショッピングサイトであれば実際に品物をそこで購入したかを示すことも含まれる。

その他

YouTubeの場合には単にどの動画が面白いかさえ判定できればよいが、AmazonやYelpのように評価される対象が得点操作を行う動機をもっている場合、有効なレーティングシステムはより困難になる。実際、これらのサイトは多くの方式を同時に採用している。

フランスがトービン税を支持

トービン税自体の是非よりも、大統領が自らその単語を利用していることが驚きだ。日本の政治家がトービン税を持ち出すなんて全く想像できない。

BBC NEWS | Business | Sarkozy to press for ‘Tobin Tax’

Mr Sarkozy wants a levy known as a Tobin Tax to be applied to every financial transaction.

The move is aimed at cutting excessively speculative trades and encouraging long-term decision-making.

サルコジ仏大統領が投機抑制のためにトービン税の導入を呼びかけている。

But senior EU officials told the BBC that the chances of getting a global agreement were “less than minimal”.

実際に世界的な導入がなされる可能性は低いとしているものの、政治の主流に取り上げられたのは大きな出来事だ。

トービン税とは国境を通貨取引に非常に小さな税金を掛けるという案だ。税率は元々1%が提案されているが0.005%まで様々だ。投機家以外にはほとんど影響を及ぼさない額だが、一日に大量の通貨を売り買いする投機家にとっては大きな障害となる。

Foreign Exchange Trade

元々の目的は為替市場の安定だが、通貨の取引高は一日3兆ドルを越えており僅かな税率であっても莫大な税収が見込める。そのため、主に途上国支援・貧困根絶・環境改善などを目指す多くの団体が税収目当てにトービン税の導入を訴えている。記事中でも

While it was originally supposed to be used for aid for developing countries, it could now be used to fund some of the bailouts in the financial industry or the multi-billion dollar stimulus packages under way to kick-start economies around the world.

そもそもの目的が途上国支援かのように扱われている。確かに世界規模の公共財の提供にはまたとない税金ではあるが、先の引用にあるよう多くの国々の協力が必要であり実際に導入される見込みはない。

天才賞

今年のマッカーサー・フェローが発表された。マッカーサー・アワードは俗にGenius Awardと呼ばれ、日本では全く馴染みがないが(Wikipediaにもない)、アメリカではよく知られている。

Quick Takes: Academics Win 2009 MacArthur ‘Genius’ Awards – Inside Higher Ed

  • Maneesh Agrawala, associate professor of electrical engineering and computer sciences at the University of California at Berkeley.
  • Timothy Barrett, research scientist and adjunct professor at the Center for the Book at the University of Iowa.
  • Esther Duflo, Abdul Latif Jameel Professor of Poverty Alleviation and Development Economics at the Massachusetts Institute of Technology.
  • Deborah Eisenberg, short story writer and professor of creative writing at the University of Virginia.
  • Lin He, assistant professor of molecular and cell biology at the University of California at Berkeley.
  • Peter Huybers, assistant professor of earth and planetary sciences at Harvard University.
  • L. Mahadevan, De Valpine Professor of Applied Mathematics at Harvard University.
  • Heather McHugh, Milliman Distinguished Writer-in-Residence at the University of Washington.
  • Richard Prum, William Robertson Coe Professor of Ornithology, Ecology and Evolutionary Biology at Yale University.
  • John A. Rogers, Lee J. Flory-Founder Chair Professor of Materials Science and Engineering at the University of Illinois at Urbana-Champaign.
  • Elyn Saks, Orrin B. Evans Professor of Law, Psychology, and Psychiatry and Behavioral Sciences at the University of Southern California.
  • Beth Shapiro, assistant professor of biology at Pennsylvania State University.
  • Daniel Sigman, Dusenbury Professor of Geological and Geophysical Sciences at Princeton University.
  • Mary Tinetti, Gladys Phillips Crofoot Professor of Medicine, Epidemiology and Public Health at Yale University.
  • Theodore Zoli, visiting lecturer in civil engineering at Princeton University and an adjunct professor of civil engineering and engineering mechanics at Columbia University.

詳細はマッカーサー財団のページにある。匿名の委員会により毎年20から40人程度に50万ドルの賞金が送られる。今年はうちの学校から二人選ばれたようなので宣伝してみた。また四年ぶりのエコノミストとしてMITのEsther Dufloが選ばれている。

ナショナリズムとリベラル

どっかで昔書いたことがが巡回先のブログで論じられていたので紹介:

Ben Casnocha: The Blog: The Nationalism of Liberals vs. Conservatives

Conservatives tend to be proud nationalists. They poll higher on questions that ask, “Are you proud to be an American?” There’s the image of conservatives with their big American flags and trucks. Conservatives’ nationalism, at its strongest, tends to manifest in hawkish foreign policy.

保守派はナショナリストだ。日本では保守主義の定義が難しいが、右派が国旗や国家に対する愛着と言う意味でナショナリスティックと言えるだろう(むしろそうであるかが右派・左派を分けれているとさえ言える)。

Yet at the same time, they believe strongly in American jobs and workers. Narratives around the “little guy” being screwed by big bad multinational corporations is very much part of the liberal imagination. So liberals’ nationalism, at its strongest, tends to manifest in economic nationalism. In particular, protectionism.

しかし、ここで指摘されているのはその左派=リベラルも実はナショナリスティックだという点である。これは保護主義に現れている。自国労働者を守ろうという意見は自国を他国に比べて優越するという考えにほかならない。

Bottom Line: Liberals make fun of conservatives’ patriotism, but in fact liberals’ preferred economic policies are more dangerously nationalistic, and full of contradictions.

最後に著者Ben Casnochaはリベラルが保守派の愛国主義を批判しながら、経済政策でナショナリスティックであるのは矛盾だとして指摘している。

全くその通りではあるがこれがリベラル(=米民主党)への批判になっているのかと言えば疑わしい。そもそもリベラルを何を持って定義するかにもよるが、ある国の中で議論する際に相手を説得するための唯一の(正しい)方法はある政策が相手にとっても得なんだと示すことである。ここで自国民の利得を優先するのは矛盾ではないし、愛国主義でもない(むしろ自国民の利得を超越した価値を愛国心に見出したときに愛国主義になるといってもよい)。ここでたまたま保守派が推す自由貿易が保護主義よりも望ましいのはナショナリズムとは関係なく単に経済理論によるものだ。

ただ、だからといってリベラルが保守派愛国主義をバカにすることもできない。そもそも国という概念が恣意的である以上、愛国心は必要な概念である。アメリカで愛国心が非常に持て囃されるのはこのせいだろう。移民が多い国では国という概念は希薄だ。ビザや市民権という意味では重要だが、社会の枠組みとしては弱い。別の言い方をすれば、社会ために何かしようという時に「アメリカ」という枠組みを採用する必然性がない。地元のためとか自分たちの民族的なコミュニティーを思い浮かべる人が多い。これだけ愛国心を祭り上げていても再配分政策が全くされないのもそうだ。

ネット中立性への反対

先週、連邦通信委員会(FCC)の議長がネット中立性の無線ネットワークへの拡張を示唆した。それについてコメントしようと思っていたが、すでにAT&Tは反対の意を表明していた。

AT&T Calls F.C.C. Neutrality Plan a ‘Bait and Switch’ – Bits Blog – NYTimes.com

Federal Communications Commission Logo

ネット中立性とは、ネットワーク上を流れるデータについてネットワーク事業者が中立的であることを意味する。例えば、インターネットでアマゾンを開くときだけ他の書店サイトよりも高速に表示されるよう、接続業者が設定していればこのネット中立性違反となる。

ネット中立性については多くの支持者が存在する。最右翼と呼べるのは(一部の)技術屋さんで、情報というものは自由になる性質を持っている、などと主張する。ウェブ上のビジネスをやっている企業は、自由なプラットフォームがイノベーションを育んできた、という点を強調する。

逆にネットワーク業者は一般にネット中立性に批判的な立場を取ることが多い。無線ネットワーク市場において特に顕著で、携帯上で動作するVOIPソフトウェアをブロックするのがよい例である。

しばしば、事業者側が消費者に不合理な規制を行っているとか、別料金を取るのは搾取だなどという批判が行われることもあるがそれほど単純な問題ではない。反対・賛成ともに根拠があるからだ。

中立性に反対する根拠のもっとも大きなものは混雑料金だ。ビデオをダウンロードするユーザーのスピードを下げたり、それに課金したりするのは遅い車両の有線順位を下げたり、トラックに割増料金を請求するのと同じという考えである。これだけでは先のアマゾンの例は正当化できないように思われるがそうでもない。ISPは上流のへの接続に変動費用を負担しているので自社ネットワーク内にあるコンテンツは実際に低費用で提供できる。YouTubeへの接続は遅くする代わり、効率のより自社ネットワーク内の(提携している)ビデオサイトは高速にするというわけだ。

ユーザーに異なる料金を請求すること自体も特に不思議なことではない。大抵の市場において行われている価格差別の一つだ。トラフィックが支払い意志と相関しているのならISPの利益になる。過疎地などにおいては採算を取るために必要だと考える人もいるだろう。

さらに、反対・賛成以前に政府が口を出す必要がないという考えもある。ISPはもしネットワークを中立に運営することが社会的に有益であるなら、中立にした上でその消費者余剰を接続費用を上げることで手にする方が(一定の条件のもとでは)効率的だからだ。

これらの問題の上にさらに、「使い放題」として提供しているサービスが規制を行っていいのかという消費者保護政策上の課題、利用規程に小さく書いてある項目の法的有効性を疑う向きなどが合わさって非常に分かりにくい状況になっている。

ちなみにこのネット中立性問題は日本では今のところ騒がれていない。これは大部分の人口が集中する都市部において、ISP同士の競争が激しいことによる。インターネット使い方を制限するようなISPは競争に生き残れない。

逆にアメリカにおいてはある地域にISPが一つしかないというのはよくあることだ。ベイエリアにあるバークレーですら選択肢は二つしかない(AT&TとComcast)。サービスの質も低く、料金に比して接続スピードは十年前というレベルだ。ネット中立性を議論するのもいいが、インターネット接続市場の規制緩和・新規参入促進・分割などを検討すべきともいえる(そもそもBaby Bellの合併を認めるべきではなかった)。

しかし日本もこの問題を避けて通ることはできない。このニュースで取り上げられているとおり政策の焦点は携帯市場に移っている。日本の携帯プラットフォームは非常に閉鎖的だ。つい最近も携帯上の音楽にDRMを導入するというニュースが流れ、音楽のDRMはもはや絶滅に瀕していると考えているアメリカ人を驚かせた。

The company’s harshest words focused on the F.C.C.’s auction of wireless spectrum last year. One block, purchased by Verizon Wireless, specifically required the winner to open the frequencies to any device and application. AT&T bought other blocks of spectrum that had no such explicit conditions. In its statement today, the company noted “that unencumbered spectrum was sold for many billions more” than the spectrum Verizon bought.

但し、ここでのAT&Tの批判はネット中立性そのものというよりもFCCのやりかたに向けられている(これは消費者を直接敵に回したくないということからだろう)。AT&Tは先のスペクトルオークションで他企業のデバイス・アプリケーションへの開放を義務付けらていないブロックを割高で落札している。オークション後に中立性を持ち出すのは卑怯だという批判だ。もちろん排除できるという条件でこそないが曖昧さは否めない。

追記:さらに詳しい記事がArs Technicaから出た。