電子書籍統一規格

電子書籍に関する懇親会が開かれたそうだ:

電子書籍に統一規格、流通や著作権を官民で整備

政府は17日、本や雑誌をデジタル化した電子書籍の普及に向けた環境整備に着手した。[…]国が関与して国内ルールを整えることで、中小の 出版業者の保護を図る狙いがある。

しかし規格統一の狙いが中小の出版業者というのはどういうことだろう。

電子書籍の形式は各メーカーが定めており、共通のルール、規格がない。端末ごとに読める書籍が限定されるほか、「資本力で勝るメーカーに規格決定の主導権を握られると、出版関連業界は中抜きにされる恐れがある」(総務省幹部)との指摘がある。

日本だけでしか流通しない独自規格を官民で整備したとして、それが誰にメリットになるのだろう。Amazon, Apple, Googleなど先進的な企業が競争した結果生き残る規格に日本発の規格が競争できる訳はないので、国外展開は絶望的だ。当然、電子書籍の流通やリーダーなどに関しても取り残されるだろう。消費者にとっても海外で使われている優れた規格が日本では利用できないという結果になりはしないだろうか。

また、テクノロジーが進歩したときに流通の一部が「中抜き」されるのは当然のことだ。出版の場合だけ政府が心配するのは何故だろう。

ちなみに懇親会のメンバーは総務省で公開されている。現職以外のプロフィールぐらい載せて欲しいと思うが、生まれ年だけ簡単に調べてみた(Googleで検索してすぐに見える情報で正確性は保障できないので間違いがあればご指摘下さい)。

  • 安達俊雄 シャープ株式会社代表取締役副社長:1948年
  • 足立 直樹 凸版印刷株式会社代表取締役社長:1935年
  • 阿刀田 高 作家・社団法人日本ペンクラブ会長:1935年
  • 内山 斉 社団法人日本新聞協会会長・株式会社読売新聞グループ本社代表取締役社長:1935年
  • 相賀昌宏 社団法人日本雑誌協会副理事長・株式会社小学館代表取締役社長:1951年
  • 大橋信夫 日本書店商業組合連合会代表理事・株式会社東京堂書店代表取締役:1943年
  • 小城武彦 丸善株式会社代表取締役社長:1961年
  • 金原優 社団法人日本書籍出版協会副理事長・株式会社医学書院代表取締役社長:調査中
  • 北島義俊 大日本印刷株式会社代表取締役社長:1933年
  • 喜多埜裕明 ヤフー株式会社取締役最高執行責任者:1962年
  • 佐藤隆信 社団法人日本書籍出版協会デジタル化対応特別委員会委員長・株式会社新潮社取締役社長:1942年
  • 里中満智子 マンガ家・デジタルマンガ協会副会長:1948年
  • 渋谷達紀 早稲田大学法学部教授:不明・一度大学から退職されています
  • 末松安晴 東京工業大学名誉教授・国立情報学研究所顧問:1932年
  • 杉本重雄 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科教授:不明・1977年に大学卒業
  • 鈴木正俊 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ代表取締役副社長:1951年
  • 高井昌史 株式会社紀伊國屋書店代表取締役社長:1947年
  • 高橋誠 KDDI株式会社取締役執行役員常務 コンシューマ商品統括本部長:1961年
  • 徳田英幸 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科委員長兼環境情報学部教授:1952年
  • 長尾真 国立国会図書館長:1936年
  • 楡周平 作家・社団法人日本推理作家協会常任理事:1957年
  • 野口不二夫 米国法人ソニーエレクトロ二クス上級副社長:不明・1982年ソニー入社
  • 野間省伸 株式会社講談社副社長:1937年
  • 三田誠広 作家・社団法人日本文藝家協会副理事長:1948年
  • 村上憲郎 グーグル株式会社名誉会長:1947年
  • 山口政廣 社団法人日本印刷産業連合会会長・共同印刷株式会社取締役会:1937年

生まれ年から類推するに70歳以上が7人、60-70歳が7人、50-60歳が4人、40-50歳が3人となっている(3人は不明だが50代、60代、70代一人ずつといったところか)。

年齢が高いことが一概に悪いとは言わないが、電子書籍という新しいメディアを論じるに当たってもう少し若い世代の意見を取り入れることはできないのだろうか。50歳以下だと産業再生機構から丸紅社長に就任した小城武彦氏、ヤフーの喜多埜裕明氏、KDDIの高橋誠氏となっている。

ネットの利用に関しては喜多埜氏と高橋氏の二人についてTwitterのアカウントが確認できた(@kitano123@makjob)。あとは三田誠広がかなり古風な個人サイトを運営されている。しかしこれらも例外であり、参加者のテクノロジーの利用は進んでいないと見るべきだろう。。

業種別では、大学4、作家4、出版4、書店3、印刷3、ネット2、メーカー2、通信2、図書館1となっている(これに省庁関係者が加わる)。既存の出版の仕組みから利益を得ていると考えられる作家・出版・書店・印刷が14に対して、電子書籍を推進するであろうネット・メーカー・通信は6しかいない(作家は本来ニュートラルと考えられるが参加者はどなたも既に業界団体の上に立つ立場であるからして、既存の仕組みを支持していると考えるのが妥当だろう)。言うまでもなく経済学関係の人は見当たらない。

「中小の 出版業者の保護を図る狙い」とある割には中小出版業者の代表は少なく、むしろ大手出版社関係者が多い。金原氏が社長をつとめる医学書院が中小出版業と言えるが(訂正:年齢が違っている模様です)、医学書院の出版物の価格を考えると保護を図るという主張は消費者にとって受け入れがたいのではないだろうか

最後に、シャープの安達俊雄氏および丸紅の小城武彦氏は旧通商産業省出身だ。経済産業省が関わる懇親会なのだからこういった情報は公開するのが筋だろう

追記:金原氏の情報が違っているという情報を頂いたので注記しました。

逆頭脳流出

アメリカからの頭脳流出に警鐘を鳴らすRichard Floridaの記事:

Is the U.S. Facing a Brain Drain?

From the beginning, I’ve been worried about this talent shift. Two things are happening. Countries such as Canada, Australia, and New Zealand are going after our best and brightest. In China and India, the best and the brightest are staying.

近年、カナダ・オーストラリア・ニュージーランドなどが優秀な人材を取り組む努力をしているという。実際アメリカの移民政策はそのイメージよりも厳しい。他にもイギリスやシンガポールなど英語が公用語の多くの国が積極的な受け入れを行っている。また、同時に長く人材の供給元であった中国・インドにおいて流出の減少と帰国が目立っている。

もちろんネットでみればアメリカに流入する人材の方が遥かに多いだろうが、その傾向に変化が見られていることに対する懸念だ。

How to save Detroit, how to stimulate the mortgage industry. This flight of talent out of this country is actually a much more fundamental problem than anything talked about in Washington. Keeping top talent here as well as attracting top talent to our shores is a fundamental economic advantage.

国内問題がクローズアップされているが、人材の流出はそれらよりも遥かに十代な問題だと主張されている。これは日本にも当てはまるだろう。文化・言語の差によって人材の移動が制限されている面はあるが、これからもそれが続くとは限らない。

I think that the important core of American ingenuity is not American ingenuity. It’s the ability to attract the world’s best people.

アメリカの強さは最高の人材を惹きつける能力にあるというのは全面的に賛成だ(逆に言えば個々の政策レベルでアメリカを参考にするのは危険ということでもある)。

One of the biggest tools foreign companies have is our business schools. All these great companies are coming to recruit.

まあビジネススクールの人材がそれに当たるかどうかは分からない。むしろ理工系の人材供給を考えた方がいいとは思う。

ウェブ入社試験

ウェブ入社試験の替え玉受験が問題になているそうだ。

正直者はバカ!? ウェブ入社試験に“替え玉受験”横行

人気企業の多くが1次試験で実施する就職テス トで、「替え玉受験」が行われているというのだ。ネット受験をこれ幸いに、別人に問題を解かせて高得点をゲットしているという。

企業が応募者にオンラインの試験を実施しているそうだ。これに替え玉受験が発生するのは誰だって分かるだろう。個人情報が漏れるとマズイためマーケットが存在しないだけで、一方的に替え玉受験を行うサービスがあっても不思議ではない(というかないほうが不思議だ)。

この声に対し、実際にウェブテストを行っている大手メーカーの担当者は「会場を借りて一斉に行う従来の入社試験に比べて、ウェブテストは大変なコスト削減 になる。いまさら会場型には戻せません。替え玉受験があることは織り込み済み。その後の数回にわたる面接で、ダメな学生は必ず淘汰されます」と語る。

当然、企業はこんなことは分かっているわけで、コスト削減が目的だ。替え玉を用意できるのも「社会人」としては重要な能力なのもあるだろう。

しかし不思議なのは、明らかに不正確なことが分かっているウェブテストではなく、大学の成績を利用しないのかということだ。もちろん大学でも替え玉受験はあるだろうが、多くのクラスで替え玉するのはある一回のウェブテストで替え玉するのに比べて遥かに難しい。

どんな授業なのか・評価の方法が分からないという面はあるが、ある程度の規模の大学・学部であれば応募者の中での分布を見るだけでも良い。学校と平均成績だけ見て足切りをすればよい。勿論、社員が直接推している学生は別に分けておく。

大学の試験がある程度重視されるようになれば、真面目な学生は大学の試験の適正な実施を要求するし、大学側も成績の分布や試験の質に気を使うようになるはずだ。学生が誰も成績を気にしていない(=審査に使えない)ため企業も気にしない(=学生も気にする必要がない)という状況が、企業が気にするので学生も気にする(=審査に使える)という状況になればこんな無駄は排除できるはずだ。会場を借りるよりウェブが安いのなら試験をしないのはもっと安い。

追記

@Hirohyさんから以下のようなコメントを頂いた:

ちなみに昔の弁護士就職市場では成績より司試合格までに要した年数というシグナルの方が用いられてたから成績を気にしない学生が多かったが制度改革(増員)後は前者がシグナルとして機能しにくくなりLSの成績がシグナルとして使用され始めた。

学生と企業が成績を重視するかは相互に依存しているため複数均衡状態になっていて、均衡が移動するためには外生ショックが必要になる。弁護士業界においてはロースクールの全面的に導入がそのショックとなり、移動が起こったと考えられる。

サラダはビッグマックより高い

マクドナルドでサラダがビッグマックより高いのにはいろんな理由があるが、補助金政策もその一端だ。

Why A Salad Costs More Than A Big Mac – The Consumerist via FlowingData

右側が連邦政府の推奨する食品の配分、左側が政府が出している補助金の配分だ。如何に肉類・乳製品に大きな補助金が出ているかが分かる。砂糖やハイフルクトースコーンシロップの原料となるコーンへの補助金も莫大だ。この状況でファーストフードは身体に悪いから税金をかけようというのは何かおかしい。

日本の場合どうなっているかも興味があるが、関税や輸入割当を通じた補助金以外の保護が多いので数字を出すのが難しそうだ。

就活留年

内定がもらえなかった学生が卒業要件を満たしていても留年できる制度が広まっているそうだ。

就活留年制度:今年ダメでも「新卒」で再チャレンジ 大学公認、増える採用校

就職が決まらなかった学生が、翌年度も就職に有利な「新卒」で就職活動ができるように、卒業要件を満たしても在学させる「希望留年制度」を設ける大学が増 えている。あえて単位を落として就職浪人するケースは以前からあったが、大学公認の留年制度の広がりは厳しい就職戦線を映し出している。

公式な制度として存在しなかっただけで現実には就職浪人という人が以前からよくあったのはその通りだろう。自分のまわりでも結構いた。大学の就職する人が少なかったり、留学したりと「就活」に乗り遅れる話はよくあった。

卒業に必要な単位を取得した学生でも、希望すれば留年が可能で、授業料は基本的に半額。

卒論を出さずに前期休学すればいいので実質的な差はない。ちなみに留年に関してはアメリカは先進国(?)だ。

4-year colleges graduate 53% of students in 6 years – USATODAY.com

Nationally, four-year colleges graduated an average of just 53% of entering students within six years

四年制大学を六年以内で卒業する人は53%に過ぎない。そもそも六年卒業率を指標にしているところからして留年の多さが分かる。もちろん大学により数字は大きく異なり、

Harvard University boasts one of the highest rates, 97%. Southern University at New Orleans, which faced upheaval in 2005 with Hurricane Katrina, reported 8%.

学生の選別が厳しかったり、授業料が高かったりすれば当然六年卒業率は上がる。U.S. Newsには四年卒業率のランキングすらあるが、90%あればTop 10に入れる。日本の大学でも卒業にかかる年数は伸びて行くのだろうか。