レピュテーションとプライバシー

実名・匿名の問題は、名前を売ってレピュテーションを上げることとプライバシーとの兼ね合いだ。実名利用が一般的なアメリカではどのようなバランスがとられているのだろう。

How people monitor their identity and search for others online

  • 57%のネットユーザーが、自分に関する情報を検索してモニターしている
  • 46%が、ソーシャルネットワークにプロフィールを持っている
  • 46%は昔の知り合いを、38%が友達について検索している

どの数字も上昇傾向にあり、ネット上で他人の情報を集めると同時に自分もまたその対象となっていることを認識されている様が見て取れる。

  • 18-29歳の44%はネットに公開する情報を制限している
  • 71%はソーシャルネットワークでのプライバシー設定を変更している

若い世代の話かと思えばそうでもない。18-29歳のの28%はFacebook, MySpace, LinkedInなどのソーシャルネットワークを全く信用しておらず、これは他の世代よりも高い数字だ。プライバシーは若者にも重視されており、情報をオンラインにすると同時にその管理に力を入れている。

  • 31%のネットユーザーは同僚や専門家、競争相手を検索している
  • 16%はデートの相手や交際相手を検索している

このような状況で、自分の情報がどうオンラインで流れているかに慎重になるのは自然なことだろう。ECサイトがSEOに労力を割くのと変わらない。

  • 27%の仕事を持っているユーザーは職場でオンラインでの活動についてルールがあると述べている
  • 12%は業務の一環としてオンライン上で自分を売り出す(market)する必要があると述べている(男性は15%、女性は7%)

さらにオンラインでのあり方が仕事にも繋がり始めている。多くの人は情報を限定的に公開し、その流れを自分でコントロールできるようなプラットフォームを求めているともいえ、Facebookが最大のソーシャルネットワークになったことも頷ける。

Twitterの曖昧な収益戦略

Twitterが収益源を探していることについては過去に触れたが、また新しい動きがあったようだ。

Fees Coming for Firms Earning Income From Twitter

TwitterのAPI TOSが5/25付けで更新された。その中の一節が問題だ。

In cases where Twitter content is the basis (in whole or in part) of the advertising sale, we require you to compensate us (recoupable against any fees payable to Twitter for data licensing).

Twitterのコンテンツをもとに広告収入を得ている場合にはTwitterに支払いをするという項目だ。しかし、実際にどのような形態で広告収入を分け合うのかについての規定は全くない。

“We’re not trying to prevent people from building businesses,” says Tony Wang, a Twitter business development executive who joined my call with Costolo today.

もちろん、Twitterエコシステム自体を壊してしまってはしょうがないことはTwitterも認識してはいるが、不透明なTOSは新しい試みを難しくする。事後的=成功した場合に、Twitterがその分け前を要求するインセンティブがあり、起業家はそれを見越して行動するからだ。

“We’re saying if there’s this thing you’re doing, and you’re selling ads against it, and it’s really big, we want to participate in that.”

例え収益が大きい場合と口約束したところで、埋没費用の大きなビジネスを展開するのは難しいだろう。

After a day of discussion, Twitter has tweaked its language in its terms of service, swapping out  “In cases where Twitter content is the basis (in whole or in part) of the advertising sale” with “In cases where Twitter content is the primary basis of the advertising sale”.

現在、Twitterが単に利用されているだけでなく、それが主要なコンテンツである場合という風に文言が変更されている。これで単にTwitterのウィジェットを利用しているブログなんかは除外された。しかし、その境界が曖昧なことは変わらない。Twitterの収益源の模索はどう続いていくだろうか。

スポーツリーグにも競争政策

NFLは反トラスト政策の対象になるとの判決が出たそうだ。

Supreme Court denies NFL’s request for broad antitrust protection

American Needle, Inc. sued, claiming the league violated antitrust law because all 32 teams worked together to freeze it out of the NFL-licensed hatmaking business and gave Reebok an exclusive 10-year license.

NFLの全チームがReebokに対する十年間の独占契約を結んだため、ビジネスを失った企業がNFLを訴えたケースだ。NFLの各チームが普通の企業であれば、これは半競争的な行動となる。

Major League Baseball is the only professional sports league with broad antitrust protection.

スポーツリーグではMLBだけが反トラストの適用除外を受けている。これはあるリーグのチーム同士は互いを補完する機能があるためだ(一般的に補完関係にある企業同士の協調行動は競争政策上の問題にはならない)。例えば、チームの実力差がありすぎれば試合がつまらなくなるため、それを防ぐような協調行動は許容される。しかし、チーム同士がファンを惹きつけるために競争しているのも事実で、それを妨げるような協定はファンの利益を損なう=競争政策の対象となる。

The argument that NFL teams also need each other to play an NFL season also doesn’t work, Stevens said. “A nut and a bolt can only operate together, but an agreement between nut and bolt manufacturers is still subject to” antitrust scrutiny, Stevens said.

NFLはこのチーム間の相互依存を反トラストの適用から逃れる口実としているが、判事はナットとボルトを作る企業の関係を挙げてそれを否定している。両者は互いを必要としているが、それだけで反トラストの対象とならないわけではないからだ。

“The fact that NFL teams share an interest in making the entire league successful and profitable, and that they must cooperate in the production and scheduling of games, provides a perfectly sensible justification for making a host of collective decisions,” he said.

それでは何でも反競争的になるという反論については、ゲームの運営などは協調行動をとる正当な理由になるから問題ないと撥ねのけている。これはスポーツリーグに対して、ケースバイケースで(反)競争性を経済的に判断する合理の原則(Rule of Reason)の適用を示唆するものだ

また、スポーツリーグが協調的行動を取っているのは観客に対してだけではない。スポーツ選手の採用においてもチーム同士が協力して行っている。これは選手のキャリアを大幅に制限する買い手独占であり、雇用主としてのスポーツチームに関する競争政策がどうなるかも興味深い

キャリア段位

また、政府が何かおかしな制度を作ろうとしているようだ。

「キャリア段位」導入へ=非正規の待遇底上げ-政府

会合では、会社を辞めても次の就職希望先が同一業界ならば、適正な待遇で見つけやすくなるよう、新たな職業能力制度「キャリア段位」の導入に向けた本格的検討に入ることを決定。

職業能力を認定する「キャリア段位」制度を検討しているそうだ。ネーミングはともかく、政府が職業を定義することが可能なのだろうか。

キャリア段位は、分野ごとの実践的な職業能力を客観的に評価する制度。企業で働きながら業界横断的な職業能力の「段位」を取得できるのが特徴で、政府は業界団体や教育機関と連携、介護や環境など成長分野でまず普及させたい考えだ。

特に成長分野において、キャリアを定義し、それに必要な段階的な能力をアイデンティファイし、かつそれを客観的に評価することがどう可能なのだろうか。五年間の導入計画を立てるというが、政府が五年後に必要となる能力を予測することはできない。もし政府ですらそれを予見できるのであればそれは既に成長分野ではないし、そんな誰もが気づいていることを仕事にしても儲かるとは思えない

唯一、政府が将来お金になる職業とそれに必要な能力を把握できるとするなら、それは政府自体が規制により無理やり仕事を作り出してしまった時だろう。「客観的に評価する」ための外郭団体が設立されて税金を無駄遣いしてしまうだけでなく、成長分野ではその内容も的外れで、肝心の成長を阻害してしまう公算が高い。

援助のループ

プロダクト(RED)のCEOがグッチやらエルメスやらを一押ししているFTの記事の紹介に引き続き、NGOにおける金の流れに関する記事:

Secret NGO Budgets: Publish what you spend

Out of twelve NGOs that it asked to publicize the budgets of their ongoing projects, only one (Oxfam GB) complied.

グルジアとロシアでの45億ドルにも及ぶ人道的・復興支援の行方を追跡しようとしたところ、予算の公開に応じたのは12のNGOのうちOxfamだけだったという。これはNPO/NGOがドナーの信頼によって成り立っていることを考えると不思議なことだ。顧客たるドナーは自分たちが対価を支払って依頼している事業が適正に行われているかを観察できない利益を配分しないというのも信頼を保持するための手段だ。信頼を得られない団体は支持=寄付を得られず存続できない。

In an unusual display of interagency coordination, ten NGOs convened a meeting and wrote a joint letter to TI Georgia, arguing that they were unable to share their budgets at short notice as “there are a number of legal and contractual implications involved with donors, head office and other stakeholders which will take time to resolve.”

その辺りはNGO側も認識しているようで、10のNGOは共同で予算を開示出来ない旨のレターを送ってきたという。普段見られないほどの協調行動がこんなところで現れるというのは皮肉なものだ。確かにみんなが開示できないのであればダメージは少ない。

USAID informed me that it needed the consent of the NGOs to release this data as it might contain “confidential commercial information,” thereby closing the opacity loop: first NGOs had blamed donors for not being able to release budgets, and now the biggest donor was passing the buck back to NGOs.

寄付の多くを負担する政府機関へ情報公開を迫っても、NGOの同意が必要だと言って断られる。NGOは政府の機関ではないので全ての情報を要求出来ないということだ(これは政府が外部委託を行うことで情報公開を阻むのと同じ構造だ)。NGOはドナーのせいにし、公的機関であるドナーはNGOのせいにする。よってどこからも情報が見えないループが完成する。NGOの資金の流れが分からないだけでなく、援助国での政府のお金の使い方まで不透明になる。

“We finally got the district government to post its budget in the mayor’s office, where everybody can see it,” he proudly told me. When I suggested that he post his own project’s budget in his office, he recoiled. “This is an experimental project, so the overheads are very high,” he replied. “So it would be very difficult to explain.”

文中のこのエピソードは面白い。援助先の地方政府に予算を開示させたのが最大の業績と語るNGOが自分たちの予算の開示を渋る。援助を行う側にとっても援助を受ける側にとってもこのような不透明性は是正しなければいけない課題だ。