「実名・勤務先明記」へ

日本IBMのソーシャル・コンピューティングのガイドラインに関する記事から。

ブログ利用「実名・勤務先明記」を奨励 日本IBM

特に注目されているのは以下の部分だ。

「IBMでの業務に関連してブログ活動をする際には、実名を使い、身元を明らかにし、あなたがIBMに勤務していることを明示するように奨励します」
「一人称で語りましょう。自分自身の意見で、その個性を前面に打ち出し、思っていることを語りましょう」

実名・勤務先の公表を控える人が多い日本では異例の試みと言える(参考:アメリカは実名志向か)。しかし、このガイドラインは時代の流れに適ったものだ。

実名の利用を奨励することの利点は二つある。一つは、質の高い人材を惹きつけることだ。ネットは個人が自分の名前で活動する=レピュテーションを築くのを容易にした。狭いサークルの中で活動しているのであれば従来型の人脈作りで十分だろうが、多くの職業は自分とは全く違う分野の人間と繋がっている(他人が出来ないことを提供することで利益を上げる場合には当然そうだ)。ネットを活用してネットワーキングをしている人にとって、それが出来なくなるのは非常に都合が悪い

個人としてブランドを持っている社員は転職が簡単という意味で企業にとって都合が悪い面もあるが、そういうクリエイティブな人材を持たないで競争するのは難しくなっている。むしろ個人が個人として活動することを認めて、優秀な人材を揃える方が有利だと考えるのは自然だろう。

二つ目の利点は、その質の高い人材が持つブランドを逆に企業が利用することだ。個人がブランドを持たない時代には、企業がブランドとして存在し社員がそれを使って仕事をした。多くの戦略コンサルティング会社はそれに当たるだろう。個人としての技能に期待してるのではなく、会社の名前を元に仕事が発注される。会社はそのブランドを守るために社員を厳選し、社員にとってはその会社にいったことが履歴書上のメリットになる。

しかし、個人がブランドを持つようになればその関係は変わってくる。会社名ではなく個人に仕事が入る。そうなると会社と社員の力関係は逆に傾く。社員に個人としての活動を奨励することで優秀な人材を確保する一方で、その人材が持つブランドを企業が利用できる

「一人称で語る」というのはこの二番目の利点をうまく活かすための工夫だ。構成員が個人として発言し、会社のブランドを高める一方で、会社の意見とは切り離す。

この方法がうまくいくような業界ばかりではないだろうが、他の企業もソーシャルメディアの時代に合わせて社員の対外的な活動に対する認識を改めて行くことが必要だろう。

Twitterの模索

Twitterの収益源」で書き忘れたことがあったので追加。

Twitter Has a Business Model: ‘Promoted Tweets’

Twitterを収益化する上で、豊富な資金を背景に慎重に進めることが重要だが、もう一つキーポイントがある。それは、収益化方法を探る上でもプラットフォームとしての立場をうまく利用することだ。

Twitter is rolling out promoted tweets slowly over the course of the year; initially on Twitter.com, and then to Twitter clients, which can include the ads and get a cut of the revenue.

現在Promoted Tweetが導入されているのはTwitter.comでの検索だけだ。検索結果に若干の広告が含まれることは消費者にとってそれほど抵抗がない。どの検索エンジンも広告を主な収入源にしている。

次のTwitter.comへの広告表示に関しても大きな反発はないと思われる。GMailのようなサービスでもインターフェース上には広告が入っているし、サードパーティのクライアントを使えばいいだけだ。

しかし最後のクライアントへの広告Tweet挿入、つまりTLへの広告導入は大きなステップだ。メールに広告が入るようなものだろう。だが、ここでTwitterは賢い戦略を取っている。広告をクライアント開発者とシェアするというものだ。

この戦略を採用する一つの理由は必要性だろう。Twitterがこれだけ流行ったのには、APIを公開してクライアントを含めたエコシステムを構築したことにある。APIがオープンである以上、いくら広告を挟んでもクライアント上で表示しないようにすることは容易にできるだろう。ユーザーの反発を防ぐだめにPromoted Tweetは広告である旨明記されており単純にフィルターすればよい。

しかし、これは同時にうまい収益化方法をサードパーティに探らせるための仕組みともなる。クライアント開発者は最もユーザーにとって抵抗がない方法を見つけることでクライアント自体から収益を上げなくても利益を出すことができる。これはTwitterにとってはプラットフォーム全体に対する批判を避けつつ開発者にクライアント毎での実験をさせるようなものだ。非常に効果的な方法が見つかればその開発元企業を買収すればよい(おそらく知的財産権で守られるようなものではないので模倣も可能だろうが、プラットフォーム運営や人材確保の観点からして買収が望ましいだろう)。

Twitterの収益源

Twitter話題(ソーシャルメディアを使った予想)ついでに、Twitterがどこから収益を得ているのかについて(ht @gshibayama):

Twitter Has a Business Model: ‘Promoted Tweets’

The promoted tweet is one of three streams of revenue Twitter will have available, including a data fee from search engines indexing Twitter in real time, such as Google, Yahoo and Bing, and the coming “professional accounts.”

三つの収益源が示されている:

  1. Promoted Tweet
  2. Data Fee
  3. Professional Account

Promoted Tweet

まずは今回導入されたPromoted Tweetだ。

Twitter is expected an answer to both questions on Tuesday in the form of “promoted tweets,” which will put ads on Twitter, first in search results and later in user feeds both on Twitter.com and the myriad third-party clients […]

Promoted TweetはTwitterサイトの検索結果やタイムライン、そしてサードパーティークライアントへとTweetの形で広告を配信する。通常のTweet同様、RTしたりFavoriteにしたりできる。

Twitter is developing a performance model that could be the basis for pricing based on a metric called “resonance” — impact judged on how much a tweet is passed around, marked as a favorite or how often a user clicks through a posted link.

この特性を活かして、広告効果の指標を作る計画だ。ユーザーの行動自体だけでなく、ユーザーの特性も計算にいれればかなり的確な指標にすることもできそうだ。豊富なファンディングを背景にユーザーの反応を見ながら慎重に進める方針とのこと。特にユーザー個人のTLへの広告Tweet挿入は抵抗も予想される。ユーザー毎にマッチした広告にしたり、ある程度表示される広告にユーザーの意思を反映させるといった対策は必要なように思われる。

Data Fee

データフィーは前回のポスト(ソーシャルメディアを使った予想)のように、Twitterのもつ情報を検索エンジンに販売するものだ。Twitterの検索結果は既にGoogleなどでリアルタイムに表示されている。

Professional Account

Professional accounts will include the ability to have multiple users on one account — much like some of the clients such as CoTweet do today — plus a dashboard that shows what’s happening with a brand on Twitter and integration with promoted tweets.

一つのアカウントに複数のユーザーを登録したり、ブランド管理のためのダッシュボードを提供したりするプロアカウントも計画中とのこと。これは既にサードパーティーのクライアントやコーポレート向けのサービスでカバーされているが、Twitter本体が参入するということだろう。「Tweetie買収」同様のプラットフォーム企業としての微妙なバランス取りが要求される。

ソーシャルメディアを使った予想

Tweetの量・質を利用して将来予測ができるのではないかというストーリー。

Twitter predicts the future?

元ネタと鳴っているのはHP LabsのPredicting the Future With Social Mediaというペーパー(8枚と短いしテクニカルな部分も殆どないので読んでみてもいいかもしれない)。

Using the tweets referring to movies prior to their release, can we accurately predict the box-office revenue generated by the movie in its opening weekend?

テーマは映画が公開される前のTweetの数を使って一週間目のボックスオフィス売上を予測できるかというものだ。

上のグラフがその結果だ。縦軸が実際の売上、横軸が(線形関係から)予測された売上だ。軸の縮尺が違うので45°線にはなっていないが、予測値と実測値が近いのが分かる。青い線は売上について仮想の賭けをするHollywood Stock Exchange (HSX)での取引から推定したもので、ペーパーではTwitterを使った予測がHSXを用いた予測より正確であった主張されている。Tweetの内容がネガティブかポジティブかを分析に加えるとさらに正確になるとのことだ。アウトオブサンプルでどうなるのかなども気になるが、ソーシャルメディアが持つマーケティングへの影響力の大きさは疑いようがない。

「ツイッター7つの仮説」について

Twitterの話題で■グロービス堀義人ブログ: ■ツイッター7つの仮説とそれに対する堀さんがtwitterに関する面白い記事を書いてたので突っ込みなど|堀江貴文オフィシャルブログ「六本木で働いていた元社長のアメブロ」が面白かったのでここでも同じフォーマットでやってみよう。

仮説1:ITの進化に伴い、議論の質が下がる。

ニフティの時代から議論の質が下がったという話。私はニフティにあまりアクセスしたことがないので直接の比較はできないことを先に断っておく。質をどう定義するかにもよるが、平均的な「質」は下がるだろう。では堀さんが問題にされているであろうトップレベルでの質はどうか。

これは何についての議論かによるだろう。話題が明確に決まっている場合、その内容によって分けられている空間のほうが優位だ。極端な話、特定の狭い分野で質の高い議論が必要なら、その分野の研究者を集めて会議室にでも閉じ込めておけば良い。Twitterなどという誰が聞いてるかもわからない代物を使う必要はない。逆に話題が設定されていない場合、看板で仕切られた空間は大変都合が悪い。そのようなケースではTwitterが議論の質を上げる(例えばNPOの経営話はNPOの人だけが集まって議論するよりもいろいろな人が目にするTwitterでやったほうが効果的だろう)。

Twitterのハッシュタグはある意味いいとこ取りを狙った仕組みとも言えるが、管理者の不在は多人数での議論を困難にする。ニフティであればシスオペがフォーラムを適切に管理する(金銭を含めた)インセンティブを持っているが、ハッシュタグの場合は何のコントロールもない。通常のTwitter上のやり取りであれば、あくまで人間(アカウント)ベースなのでそこを押さえていれば生産的な議論が可能だが、ハッシュタグの場合はトピックベースなので難しいだろう。

結論としては、技術によってどのような議論が効率的に行えるかは異なるのであって、単純に上がる下がるという話ではないと考えられる。

仮説2:一方では、訴求力・リアルタイム性が抜群に上がる。ツイッター(SNS)、ブログ、動画などの組み合わせにより、よりパワフルな発信力を個人が持つようになる。

発言力は聞いてくれる人がいないと意味がない。大きな発言力を持ちうるようになれば、それを活用するために受け手を増やすインセンティブが増す(どんな頑張ったって10人しか聞いてくれないなら大した努力はしないが、1,000人なら努力するかもしれない)。受け手を増やす一番まっとうな方法は価値を提供することで、これは議論の質の向上につながる。Twitterは日本において実名の利用が広がっているという意味でIDにより個人が特定可能なパソコン通信と似ている。

仮説3:知のインプットの時間が減るので、人々は扇動されやすくなる。

これは間違っていると思う。まず、多くの人は時間を最大限に活用して知のインプットをしているわけではない。Twitterで30分使うとして、その代わりに削られるものが知のインプットとは限らない(そもそも一日30分知のインプットをしていない人なんて山ほどいるだろう)。

次に、Twitterを通じて普段目にしない分野の知識を得ることは多い。私はTwitterを始めるまでBI・BOP・社会起業とかいう言葉とは無縁だった(というと驚かれる)。そもそも聞いたことのない事柄に関してインプットするのは難しい。Twitterを含めたソーシャルメディアは検索エンジンやRSSを代替こそしないが、それに並ぶ新しい情報のアグリゲーターとなっている。これは知のインプットそのものだ。

最後に、知識をインプットだけで身につけるのは非効率的ということが挙げられる。アウトプットとインプットを繰り返すことでより効率的な学習が可能だろう。

普段から周りに多彩な興味を持った人がいて議論することができるのであれば(もしくは幅広い知識が不要なら)Twitterのメリットは少ないかもしれない。しかし、大抵の場合そんなことはないので、やはりTwitterは知のインプットにむしろ貢献するように思われる。

仮説4:パーソナルな情報がマスメディアを凌駕する。

凌駕するというよりも、マスメディアという概念が分解すると言った方がいいだろうか。

今後は、「日経新聞によると」よりも、「○○さんによると」の方が信憑性を持つ時代が来るであろう。

既にオンラインで記事を読むときには、どのサイトで読んでいるかよりも誰が書いているかを調べるようになっている。ちょっと検索すれば良いだけなので簡単だ。流通段階を押さえていない限り、旧来のビジネスモデルは維持出きない。

仮説5:コミュニケーション依存症(ジャンキー)が増え、物理的交流の機会が減る。

これは間違っている(タイガー・ウッズがセックス依存症というのと同じぐらい間違っている)。「Twitterでは「つぶやく」な」で述べたようにTwitterの特徴は新しいコネクションを作ることだ。物理的交流をすることの価値は、交流する相手が増えることで上がる(多くのネットや携帯を通じたコミュニケーションはそもそも物理的交流を増やすために存在している)。もちろん物理的交流なしに同等のコミュニケーションができるなら必要ないかもしれないが、現状ではそうではない。ましてや140文字のTwitterでは無理だ。私はTwitterでやり取りする人と会ってみたいと思う。Twitterがなければ会いようがないのでこれは物理的交流の増加だ。

仮説6:ツイッターのフォロワーは、共感、情報、知恵などの全人格的な面白み(エンターテインメント性)を求める。

YesでありNoだ。Twitterでどのような面白みを提供するかは本人の選択だ。特定のニュースを提供してくれる人は貴重だし、極端な話ボットだって面白いものは面白い。しかし、他のチャンネルに比べて全人格的な面白みを発信するのに向いている面はあり、そのような利用をする・期待する人が多いのも事実だろう。

仮説7:最終的には、ツイッターも駆逐される。

Twitterが本当に生き残るためには、完全にプラットフォーム化する必要があるだろうが、それでも永遠に続くことはない。問題はどのくらい存続するかと最終的に社会や後続の技術にどんな影響を残すかだ。